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第11話(最終話)
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火星、木星間アステロイドベルト(小惑星帯)宙域
───ガベイロス級宇宙戦艦ゴルバトフ───
「艦長!敵宇宙突撃駆逐艦が突っ込んできます!あと90」
「何!すり抜けたか!緊急回避!急げっ!」
通常、接近してくる物体があれば、予想進路を算出し、回避可能な距離で警告されるのだが、状況によっては、どうしようもない場合がある。
1、2、3号は想定外の行動ではあるが、フルパワー航行であっても追跡や予想進路は算出されるので、警告は発せられたが、この場合は後者。つまり分かっていてもどうしようもない場合、である。
宇宙空間には、戦闘艦に損害を与える物体が浮かんでいたり、飛翔している物体もある。
そういうものは常に監視対象となっており、衝突の恐れがあれば警告を発するのであるが、戦闘艦などはそういった物体とはまた異なる探知方法で監視される。自在に動き、更には攻撃してくるからである。
まず、大群の中に単鑑で接近してくる、というのは想定外であり、接近した場合警告は発せられるが、次の行動が予測出来ない。
またその逆もしかりで、大群の中から単艦で接近してくるというのも同様である。
今回の宇宙突撃駆逐艦の行動は、予測出来ないものであり、且つフルパワーでの接近、付近で多数の艦隊戦が行われている、などの状況によって、予想進路の算出が通常より遅れ、警告が発せられた時には回避出来るかどうか、という際どいタイミングであった。
今回のケースは「起こり得ない(であろう)」というものであり、もし、このケースを想定していたなら、もっと早くに警告が発せられたであろう。
まさに奇跡的なタイミングであるが、実際に起こってしまえば確率は100%である。
「回避可能か!?」
「…敵の進路が変わらなければギリギリってところです!」
フルパワーでの航行で、的確な艦のコントロールが可能だとは思えないが、こちらは重力アンカーを作動させて反転する、という想定外の行動をしている。敵の宇宙突撃駆逐艦が何らかの方法で進路を変更する事はない、とは限らない。
「敵、未だ急速接近中!あと70」
「あれ?」
「どうした!」
「……て、敵……宇宙突撃駆逐艦……撃破されました」
「どうしてだ!」
「…か、艦載機です!味方艦載機が敵を撃破しました!」
「味方艦載機だと!」
「………その味方艦載機から入電です!」
「繋げ!」
【オープンで失礼します。こちらCB-03艦載機隊隊長、レーナ・パステナーク大尉であります。サーシャかん…司令官の命により火星軍主力艦隊の支援に参りました【全く人使いの荒い艦長ですわ~】うるさい!──こほん…失礼しました】
「あ、私は火星軍主力艦隊旗艦、艦長ガルン・ロゴスキー中将だ。支援感謝する。先ほどは危なかった、助かった。しかし、あんなのよく当てたな」
【ウチの艦長の口ぐせです『システムを信用するな』と】
「ならどうするのだ?」
【『目』です】
「『め』?」
【はい。システムはあくまで参考で、最終的には目で見て判断せよ、と言う事です】
「では、手動なのか?」
【いえ、目で見て、今回の場合は敵の進路を乱数回避予想というプログラムで複数算出して4発の宇宙魚雷にそれぞれターゲットロックして発射しました【でも2発も当てるとはレーナ隊長すげー】だからうるさいって!──し、失礼しました。全くウチの者は…申し訳ありません】
「いや、かまわん。愉快な仲間だな」
【あ、ありがとうございます】
皮肉なのか、褒められたのか分からなかったが、とりあえず感謝の言葉で返答したレーナであった。
「こちらも艦載機を出そうか?」
【ありがたいご提案ですが、連携が取れない恐れがありますのでお気持ちだけで【邪魔なの?】…ち、違うわ!って度々失礼しました。これより、残存している敵空母艦隊及び敵艦載機隊の殲滅戦をCB-03と共に実施します】
「それではよろしく頼む」
【はっ!了解しました!】
ロゴスキー中将は「はぁ」と溜め息を吐いた。
「なんともフザけた奴らですね」
「いや、違うぞ副長」
「は?」
「CB-03の艦載機隊といえばネームドだらけだ」
「た、確かに」
『ネームド』とは、普通は物語などで大きな影響を与えるキャラクターや名前を付けられた〇〇、という意味だが、ここでは複数の武勲を立てた者の事を言う。
戦闘中の通信は、基本的にデータ通信で行うのだが、今回のCB-03艦載機隊の行動は、サーシャからの命令であり、ロゴスキー中将には知らされていない。
そこで、状況などを正確に伝え、また、お互いに次の行動などの報告や相談をリアルタイムで行う必要があったため、オープン回線を使用した。こういったイレギュラーな状況の場合にオープン回線を使用する事は、状況を考慮して、という前提はあるが許可されている。
「それにあのレーナ大尉」
「はい。知っております。なんでも訓練学校をぶっちぎりの首席で卒業した、とか」
「そうだ。それに実際に『魔女』という二つ名もついているしな」
「『魔女』?」
「ああ。まるで魔法の様に機体や武装を操って、全く予想が出来ない事をするらしい。ロックオンされてからでも回避するのだとか。まるで信じられんが事実だそうだ」
「なんと!まぁ、そうですね。あの宇宙突撃駆逐艦を一回の攻撃で撃破するって、おそらくこちらの艦載機隊では無理ですね」
たとえ最大戦速であっても、戦闘艦の動き、というのは直線ではない。フルパワーならかなり蛇行しながら航行している。そのために『乱数回避予想』というプログラムで敵の動きを複数予想して、1発当てれば撃破可能なところ、4発発射し、結果的に2発命中した、という事だ。
「敵の反乱軍内でも有名らしい」
「なんとも。味方で良かったですね」
「全くだ。CB-03といい、艦載機隊といい。まぁ、任せて大丈夫だろう」
「はい。CB-03艦載機隊の動きを見ると、あの女性パイロットも言っていましたが、邪魔になるだけ、かと」
CB-03艦載機隊はアルファ、べータ大隊に分かれて綺麗なフォーメーションで残存している敵空母艦隊、敵艦載機隊へと向かって行った。
「しかし全く手応えがないですね」
「そうだな」
「こちらの損害は、先の第二次作戦の時の敵右翼艦隊戦での撃破、戦闘不能となった8隻だけですね」
「あれはあの部隊の行動が悪かった。警告はしたのだが…」
「そうですね」
『あの部隊』
先の敵右翼残存艦隊戦に於いて、功を焦った部隊が突出したため、敵の攻撃が一気にその部隊に集中したのである。
現在は適度な距離を保ち、じわじわと攻め込んでいるために、こちらの損害は全くなく、 敵の数は減り続けているのだった。
「CB-03艦載機隊隊長レーナ大尉より入電」
「繋げ」
【ロゴスキー閣下!レーナ大尉です。敵宇宙空母艦隊、敵艦載機隊殲滅しました!】
「ご苦労。敵宇宙空母艦隊、敵艦載機隊への掃討戦に移行するか?」
敵の宇宙空母艦隊や敵の艦載機隊は、CB-03や、その艦載機隊の攻撃によって敵左翼残存艦隊より離れた宙域に追いやられていたため、個別(敵左翼残存艦隊とは別に)に掃討する必要があった。
【いえ、それはサーシャ司令官がCB-03で行っています】
「え?CB-03が?」
【はい。えっと…『暇だから』だそうです【違うでしょ!ちくちく残存している敵宇宙空母や敵艦載機を潰しながら、他の残存戦闘艦のエンジンとかブリッジとか態々対空砲で微妙に破壊して『嫌がらせたのしー』って言ってたじゃない。それも主力艦隊にバレたらマズイって専用回線で】あああっ!うるさい!【『こういうのは真面目にやるもんじゃないわよ』って言ってたじゃないの】はぁ──閣下!申し訳ありません!】
「ハッハッハッ!構わん構わん!」
「艦長!」
「まぁ、硬いことを言うな副長」
「しかし!」
「戦果が出てないなら問題だが、やることはちゃんとやっている。適度に気を抜く事も大事な事だと思うぞ」
「それは分かりますが…」
「まぁ、彼女らに助けられたのは事実だ。大目に見てやれ」
「分かりました」
【では我々は、敵残存艦の周囲警戒に移ります】
「了解した。ご苦労であった」
副長やブリッジクルーたちは「やれやれ」と呆れていたが、ロゴスキー中将は何故か満面の笑みであった。
「艦長。敵右翼残存艦隊の掃討戦の任務に就いた艦載機隊の隊長より、データ通信です」
「読め」
「『我、敵右翼残存艦隊の掃討完了。こちらの損害はなし』以上です」
「うむ。返信『ご苦労であった。貴隊の母艦であるヘスティア級宇宙空母リトヴァクを現戦闘宙域より離脱させる。速やかに帰投せよ』以上だ」
「了解しました」
宇宙空母リトヴァクは数隻の護衛艦を伴い、現戦闘宙域より離脱した。
「艦長。もう敵左翼残存艦も少ないですね。抵抗してくる敵も一気に減りました。」
「そうだな副長。おそらくあの女性パイロットが言っていたサーシャ司令官の『嫌がらせ』が効いているのだろう」
「そうですね。『真面目にしない』などと言っていましたが、効率が良いですね」
「そうだ。どのみち我々主力艦隊が撃破しなければならないのだ。艦載機を掃討しながら、戦闘艦まで撃破するというは無理がある。それならついでに戦闘艦に適度にダメージを与えれば、手間もかからない上後の戦闘が楽になる。一石二鳥だ。まったく。サーシャ司令官は相当に頭が切れるようだ」
ロゴスキー中将が言うようにサーシャの『嫌がらせ』は計算されたものである。
ちなみにレーナ大尉が言った『暇つぶし』というのもその場しのぎではなく事実である。
掃討戦は索敵班を除けば暇である。かといって他に集中することも出来ないので、片手間で射程内の敵戦闘艦にちょくちょくダメージを与えていたのである。
その後、殲滅戦は一気に進んだ。
「掃討戦に移行する!」
「艦長!サーシャ司令官より入電です」
「繋げ」
【ロゴスキー閣下!サーシャ大佐だ。掃討戦は終わったぞ】
「は?」
【だから、敵は完全に掃討した】
「なっ!いつの間に」
【なんだ?気づいていなかったのか?主力艦隊の後方でCB-03と我の艦載機隊がうろちょろしてただろう】
「ん?そうなのか?クリーク中尉」
「あ、はい」
「なぜ報告しなかった?」
「いえ…その…」
「かまわん。正直に、そして正確に報告しろ」
「…えっと…その…女性パイロットが『嫌がらせたのしー』と言っていたので…その…遊んでいるの…かと…申し訳ありません」
「バカもんがっ!」
【まぁ、許してやってくれ、閣下。それでクリーク中尉】
「はっ!何でありますか?」
【君の敵はとったぞ】
「え?」
【敵旗艦は空間魚雷で撃破した。『3発当たりましたからねぇ、木っ端微塵だよー』───……という事だ】
「あ、ありがとうございます」
【構わない。空間魚雷なんて滅多に使わないからな。倍返ししてやった『10倍だと思うなー』……こちらも良い経験となった。感謝する】
「感謝なんて…そんな…」
「クリーク中尉。礼は素直に受けるものだぞ」
「はいっ!ありがとうございました」
【それではロゴスキー閣下。戦闘後の後始末をせよ】
「了解した」
戦闘が行われた宙域には、戦闘艦や輸送艦などの艦艇、艦載機の残骸、遺体など様々なものが残る。
戦闘艦などの残骸は回収して再利用、遺体は然るべき場所へ、その他宇宙ゴミとして処理するなど、するべき事は多い。
これも軍規に基づく立派な任務なのだ。
そして、その任務は終了した。
「サーシャ司令官より入電です」
「繋げ」
【ロゴスキー閣下。サーシャ大佐だ。全艦に回線を繋いでもらえるか】
「了解した。──繋げ」
【火星軍主力艦隊の諸君。サーシャ大佐だ。これにて作戦計画P-4Sの終了を宣言する。我々の勝利だ!】
全艦から歓声が上がった。
【この作戦の成功はロゴスキー中将閣下、また諸君ら火星軍主力艦隊によるものだ!貴官たちと共に戦えたことを誇りに思う。しかし、少なくない犠牲が出たことも事実であり、彼らも我々の戦友であり、英雄でもある。それらを心に刻み、決して忘れないことを切に願う。────
それでは司令官の任はロゴスキー中将閣下にお返しする】
「サーシャ大佐。司令官の任、ご苦労であった。我々、も貴官、CB-03の諸君らと共に戦えたこと、光栄に思う。火星軍主力艦隊を代表して感謝の意を表す」
【さて、我々の主任務は偵察だ。あまりサボると怒られるから、そろそろ仕事に戻る。それでは諸君。また、どこかで!】
まるで休憩していたように言うサーシャにロゴスキー中将も含む火星軍主力艦隊のクルーたちは苦笑した。
「まるで嵐のような艦だったな…」
去りゆくCB-03の艦影を見ながらロゴスキー中将はポツリと呟いた。
「艦長!サーシャ大佐からデータ通信です」
「読め」
「はっ!『戦争はもっと真面目にやれ』以上です」
ワハハと大笑いしたロゴスキー中将は『貴官が一番不真面目だろう』と心の中で返信した。他のブリッジクルーたちも大笑いし、各々様々に突っ込むのだった。
ロゴスキー中将を含め、火星星軍主力艦隊のクルー全員がCB-03を敬礼で見送った事は、サーシャたちは知る由もなかった。
こうして、アステロイドベルト宙域での戦闘は終了した。
◆
このアステロイドベルト宙域戦の報告を受けた連邦軍総司令部は驚愕した。
まず、5000隻もの敵反乱軍艦が集結した事。
その反乱軍艦隊が見事な作戦と艦隊機動で火星軍主力艦隊の半数を壊滅させた事。
そして、アルテミス級宇宙航空戦艦CB-03の奇策により敵反乱軍艦隊を殲滅した事である。
連邦軍総司令部はこの事を重大事案とし、対策を実施した。
今回はアステロイドベルトを隠れ蓑とし、少しずつ敵反乱軍艦が集結した。と想定し、アステロイドベルト全域に探索装置を設置。監視体制を整えた。
更に、他にもそういった宙域がある可能性を考慮し、その探索も索敵任務に追加した。
そして、この未曾有の危機を救った宇宙航空戦艦CB-03と火星軍主力艦隊の艦長も含め、クルー全員に勲章が授与される事となった。
多くの犠牲を出したこの戦いの戦没者の追悼式で、サーシャは「これはあなたたちのもの」と言って、慰霊碑に花と共に勲章も捧げた。それはサーシャだけにとどまらず、授与された者全員が同様に捧げた。
ロゴスキー中将よりアステロイドベルト宙域戦の詳細の報告と提出された戦闘記録により、その功績を称え、連邦軍総司令部はCB-03艦長サーシャ・ペトリャコーフ大佐の将官への昇進を推薦。ほぼ決定しかけたが、サーシャはこれを辞退した。『自分の居場所は艦である』と。
確かに、現在、宇宙航空戦艦を指揮出来る者は限られており、サーシャ以上の適任者はいないと判断された。
そこで、現在まで、訓練艦であったため、艦名がなかった宇宙航空戦艦CB-03に、連邦軍の歴史上初めての人名、それも現役艦長の名前が付けられた。
そう。
『宇宙航空戦艦サーシャ』と。
おわり
───ガベイロス級宇宙戦艦ゴルバトフ───
「艦長!敵宇宙突撃駆逐艦が突っ込んできます!あと90」
「何!すり抜けたか!緊急回避!急げっ!」
通常、接近してくる物体があれば、予想進路を算出し、回避可能な距離で警告されるのだが、状況によっては、どうしようもない場合がある。
1、2、3号は想定外の行動ではあるが、フルパワー航行であっても追跡や予想進路は算出されるので、警告は発せられたが、この場合は後者。つまり分かっていてもどうしようもない場合、である。
宇宙空間には、戦闘艦に損害を与える物体が浮かんでいたり、飛翔している物体もある。
そういうものは常に監視対象となっており、衝突の恐れがあれば警告を発するのであるが、戦闘艦などはそういった物体とはまた異なる探知方法で監視される。自在に動き、更には攻撃してくるからである。
まず、大群の中に単鑑で接近してくる、というのは想定外であり、接近した場合警告は発せられるが、次の行動が予測出来ない。
またその逆もしかりで、大群の中から単艦で接近してくるというのも同様である。
今回の宇宙突撃駆逐艦の行動は、予測出来ないものであり、且つフルパワーでの接近、付近で多数の艦隊戦が行われている、などの状況によって、予想進路の算出が通常より遅れ、警告が発せられた時には回避出来るかどうか、という際どいタイミングであった。
今回のケースは「起こり得ない(であろう)」というものであり、もし、このケースを想定していたなら、もっと早くに警告が発せられたであろう。
まさに奇跡的なタイミングであるが、実際に起こってしまえば確率は100%である。
「回避可能か!?」
「…敵の進路が変わらなければギリギリってところです!」
フルパワーでの航行で、的確な艦のコントロールが可能だとは思えないが、こちらは重力アンカーを作動させて反転する、という想定外の行動をしている。敵の宇宙突撃駆逐艦が何らかの方法で進路を変更する事はない、とは限らない。
「敵、未だ急速接近中!あと70」
「あれ?」
「どうした!」
「……て、敵……宇宙突撃駆逐艦……撃破されました」
「どうしてだ!」
「…か、艦載機です!味方艦載機が敵を撃破しました!」
「味方艦載機だと!」
「………その味方艦載機から入電です!」
「繋げ!」
【オープンで失礼します。こちらCB-03艦載機隊隊長、レーナ・パステナーク大尉であります。サーシャかん…司令官の命により火星軍主力艦隊の支援に参りました【全く人使いの荒い艦長ですわ~】うるさい!──こほん…失礼しました】
「あ、私は火星軍主力艦隊旗艦、艦長ガルン・ロゴスキー中将だ。支援感謝する。先ほどは危なかった、助かった。しかし、あんなのよく当てたな」
【ウチの艦長の口ぐせです『システムを信用するな』と】
「ならどうするのだ?」
【『目』です】
「『め』?」
【はい。システムはあくまで参考で、最終的には目で見て判断せよ、と言う事です】
「では、手動なのか?」
【いえ、目で見て、今回の場合は敵の進路を乱数回避予想というプログラムで複数算出して4発の宇宙魚雷にそれぞれターゲットロックして発射しました【でも2発も当てるとはレーナ隊長すげー】だからうるさいって!──し、失礼しました。全くウチの者は…申し訳ありません】
「いや、かまわん。愉快な仲間だな」
【あ、ありがとうございます】
皮肉なのか、褒められたのか分からなかったが、とりあえず感謝の言葉で返答したレーナであった。
「こちらも艦載機を出そうか?」
【ありがたいご提案ですが、連携が取れない恐れがありますのでお気持ちだけで【邪魔なの?】…ち、違うわ!って度々失礼しました。これより、残存している敵空母艦隊及び敵艦載機隊の殲滅戦をCB-03と共に実施します】
「それではよろしく頼む」
【はっ!了解しました!】
ロゴスキー中将は「はぁ」と溜め息を吐いた。
「なんともフザけた奴らですね」
「いや、違うぞ副長」
「は?」
「CB-03の艦載機隊といえばネームドだらけだ」
「た、確かに」
『ネームド』とは、普通は物語などで大きな影響を与えるキャラクターや名前を付けられた〇〇、という意味だが、ここでは複数の武勲を立てた者の事を言う。
戦闘中の通信は、基本的にデータ通信で行うのだが、今回のCB-03艦載機隊の行動は、サーシャからの命令であり、ロゴスキー中将には知らされていない。
そこで、状況などを正確に伝え、また、お互いに次の行動などの報告や相談をリアルタイムで行う必要があったため、オープン回線を使用した。こういったイレギュラーな状況の場合にオープン回線を使用する事は、状況を考慮して、という前提はあるが許可されている。
「それにあのレーナ大尉」
「はい。知っております。なんでも訓練学校をぶっちぎりの首席で卒業した、とか」
「そうだ。それに実際に『魔女』という二つ名もついているしな」
「『魔女』?」
「ああ。まるで魔法の様に機体や武装を操って、全く予想が出来ない事をするらしい。ロックオンされてからでも回避するのだとか。まるで信じられんが事実だそうだ」
「なんと!まぁ、そうですね。あの宇宙突撃駆逐艦を一回の攻撃で撃破するって、おそらくこちらの艦載機隊では無理ですね」
たとえ最大戦速であっても、戦闘艦の動き、というのは直線ではない。フルパワーならかなり蛇行しながら航行している。そのために『乱数回避予想』というプログラムで敵の動きを複数予想して、1発当てれば撃破可能なところ、4発発射し、結果的に2発命中した、という事だ。
「敵の反乱軍内でも有名らしい」
「なんとも。味方で良かったですね」
「全くだ。CB-03といい、艦載機隊といい。まぁ、任せて大丈夫だろう」
「はい。CB-03艦載機隊の動きを見ると、あの女性パイロットも言っていましたが、邪魔になるだけ、かと」
CB-03艦載機隊はアルファ、べータ大隊に分かれて綺麗なフォーメーションで残存している敵空母艦隊、敵艦載機隊へと向かって行った。
「しかし全く手応えがないですね」
「そうだな」
「こちらの損害は、先の第二次作戦の時の敵右翼艦隊戦での撃破、戦闘不能となった8隻だけですね」
「あれはあの部隊の行動が悪かった。警告はしたのだが…」
「そうですね」
『あの部隊』
先の敵右翼残存艦隊戦に於いて、功を焦った部隊が突出したため、敵の攻撃が一気にその部隊に集中したのである。
現在は適度な距離を保ち、じわじわと攻め込んでいるために、こちらの損害は全くなく、 敵の数は減り続けているのだった。
「CB-03艦載機隊隊長レーナ大尉より入電」
「繋げ」
【ロゴスキー閣下!レーナ大尉です。敵宇宙空母艦隊、敵艦載機隊殲滅しました!】
「ご苦労。敵宇宙空母艦隊、敵艦載機隊への掃討戦に移行するか?」
敵の宇宙空母艦隊や敵の艦載機隊は、CB-03や、その艦載機隊の攻撃によって敵左翼残存艦隊より離れた宙域に追いやられていたため、個別(敵左翼残存艦隊とは別に)に掃討する必要があった。
【いえ、それはサーシャ司令官がCB-03で行っています】
「え?CB-03が?」
【はい。えっと…『暇だから』だそうです【違うでしょ!ちくちく残存している敵宇宙空母や敵艦載機を潰しながら、他の残存戦闘艦のエンジンとかブリッジとか態々対空砲で微妙に破壊して『嫌がらせたのしー』って言ってたじゃない。それも主力艦隊にバレたらマズイって専用回線で】あああっ!うるさい!【『こういうのは真面目にやるもんじゃないわよ』って言ってたじゃないの】はぁ──閣下!申し訳ありません!】
「ハッハッハッ!構わん構わん!」
「艦長!」
「まぁ、硬いことを言うな副長」
「しかし!」
「戦果が出てないなら問題だが、やることはちゃんとやっている。適度に気を抜く事も大事な事だと思うぞ」
「それは分かりますが…」
「まぁ、彼女らに助けられたのは事実だ。大目に見てやれ」
「分かりました」
【では我々は、敵残存艦の周囲警戒に移ります】
「了解した。ご苦労であった」
副長やブリッジクルーたちは「やれやれ」と呆れていたが、ロゴスキー中将は何故か満面の笑みであった。
「艦長。敵右翼残存艦隊の掃討戦の任務に就いた艦載機隊の隊長より、データ通信です」
「読め」
「『我、敵右翼残存艦隊の掃討完了。こちらの損害はなし』以上です」
「うむ。返信『ご苦労であった。貴隊の母艦であるヘスティア級宇宙空母リトヴァクを現戦闘宙域より離脱させる。速やかに帰投せよ』以上だ」
「了解しました」
宇宙空母リトヴァクは数隻の護衛艦を伴い、現戦闘宙域より離脱した。
「艦長。もう敵左翼残存艦も少ないですね。抵抗してくる敵も一気に減りました。」
「そうだな副長。おそらくあの女性パイロットが言っていたサーシャ司令官の『嫌がらせ』が効いているのだろう」
「そうですね。『真面目にしない』などと言っていましたが、効率が良いですね」
「そうだ。どのみち我々主力艦隊が撃破しなければならないのだ。艦載機を掃討しながら、戦闘艦まで撃破するというは無理がある。それならついでに戦闘艦に適度にダメージを与えれば、手間もかからない上後の戦闘が楽になる。一石二鳥だ。まったく。サーシャ司令官は相当に頭が切れるようだ」
ロゴスキー中将が言うようにサーシャの『嫌がらせ』は計算されたものである。
ちなみにレーナ大尉が言った『暇つぶし』というのもその場しのぎではなく事実である。
掃討戦は索敵班を除けば暇である。かといって他に集中することも出来ないので、片手間で射程内の敵戦闘艦にちょくちょくダメージを与えていたのである。
その後、殲滅戦は一気に進んだ。
「掃討戦に移行する!」
「艦長!サーシャ司令官より入電です」
「繋げ」
【ロゴスキー閣下!サーシャ大佐だ。掃討戦は終わったぞ】
「は?」
【だから、敵は完全に掃討した】
「なっ!いつの間に」
【なんだ?気づいていなかったのか?主力艦隊の後方でCB-03と我の艦載機隊がうろちょろしてただろう】
「ん?そうなのか?クリーク中尉」
「あ、はい」
「なぜ報告しなかった?」
「いえ…その…」
「かまわん。正直に、そして正確に報告しろ」
「…えっと…その…女性パイロットが『嫌がらせたのしー』と言っていたので…その…遊んでいるの…かと…申し訳ありません」
「バカもんがっ!」
【まぁ、許してやってくれ、閣下。それでクリーク中尉】
「はっ!何でありますか?」
【君の敵はとったぞ】
「え?」
【敵旗艦は空間魚雷で撃破した。『3発当たりましたからねぇ、木っ端微塵だよー』───……という事だ】
「あ、ありがとうございます」
【構わない。空間魚雷なんて滅多に使わないからな。倍返ししてやった『10倍だと思うなー』……こちらも良い経験となった。感謝する】
「感謝なんて…そんな…」
「クリーク中尉。礼は素直に受けるものだぞ」
「はいっ!ありがとうございました」
【それではロゴスキー閣下。戦闘後の後始末をせよ】
「了解した」
戦闘が行われた宙域には、戦闘艦や輸送艦などの艦艇、艦載機の残骸、遺体など様々なものが残る。
戦闘艦などの残骸は回収して再利用、遺体は然るべき場所へ、その他宇宙ゴミとして処理するなど、するべき事は多い。
これも軍規に基づく立派な任務なのだ。
そして、その任務は終了した。
「サーシャ司令官より入電です」
「繋げ」
【ロゴスキー閣下。サーシャ大佐だ。全艦に回線を繋いでもらえるか】
「了解した。──繋げ」
【火星軍主力艦隊の諸君。サーシャ大佐だ。これにて作戦計画P-4Sの終了を宣言する。我々の勝利だ!】
全艦から歓声が上がった。
【この作戦の成功はロゴスキー中将閣下、また諸君ら火星軍主力艦隊によるものだ!貴官たちと共に戦えたことを誇りに思う。しかし、少なくない犠牲が出たことも事実であり、彼らも我々の戦友であり、英雄でもある。それらを心に刻み、決して忘れないことを切に願う。────
それでは司令官の任はロゴスキー中将閣下にお返しする】
「サーシャ大佐。司令官の任、ご苦労であった。我々、も貴官、CB-03の諸君らと共に戦えたこと、光栄に思う。火星軍主力艦隊を代表して感謝の意を表す」
【さて、我々の主任務は偵察だ。あまりサボると怒られるから、そろそろ仕事に戻る。それでは諸君。また、どこかで!】
まるで休憩していたように言うサーシャにロゴスキー中将も含む火星軍主力艦隊のクルーたちは苦笑した。
「まるで嵐のような艦だったな…」
去りゆくCB-03の艦影を見ながらロゴスキー中将はポツリと呟いた。
「艦長!サーシャ大佐からデータ通信です」
「読め」
「はっ!『戦争はもっと真面目にやれ』以上です」
ワハハと大笑いしたロゴスキー中将は『貴官が一番不真面目だろう』と心の中で返信した。他のブリッジクルーたちも大笑いし、各々様々に突っ込むのだった。
ロゴスキー中将を含め、火星星軍主力艦隊のクルー全員がCB-03を敬礼で見送った事は、サーシャたちは知る由もなかった。
こうして、アステロイドベルト宙域での戦闘は終了した。
◆
このアステロイドベルト宙域戦の報告を受けた連邦軍総司令部は驚愕した。
まず、5000隻もの敵反乱軍艦が集結した事。
その反乱軍艦隊が見事な作戦と艦隊機動で火星軍主力艦隊の半数を壊滅させた事。
そして、アルテミス級宇宙航空戦艦CB-03の奇策により敵反乱軍艦隊を殲滅した事である。
連邦軍総司令部はこの事を重大事案とし、対策を実施した。
今回はアステロイドベルトを隠れ蓑とし、少しずつ敵反乱軍艦が集結した。と想定し、アステロイドベルト全域に探索装置を設置。監視体制を整えた。
更に、他にもそういった宙域がある可能性を考慮し、その探索も索敵任務に追加した。
そして、この未曾有の危機を救った宇宙航空戦艦CB-03と火星軍主力艦隊の艦長も含め、クルー全員に勲章が授与される事となった。
多くの犠牲を出したこの戦いの戦没者の追悼式で、サーシャは「これはあなたたちのもの」と言って、慰霊碑に花と共に勲章も捧げた。それはサーシャだけにとどまらず、授与された者全員が同様に捧げた。
ロゴスキー中将よりアステロイドベルト宙域戦の詳細の報告と提出された戦闘記録により、その功績を称え、連邦軍総司令部はCB-03艦長サーシャ・ペトリャコーフ大佐の将官への昇進を推薦。ほぼ決定しかけたが、サーシャはこれを辞退した。『自分の居場所は艦である』と。
確かに、現在、宇宙航空戦艦を指揮出来る者は限られており、サーシャ以上の適任者はいないと判断された。
そこで、現在まで、訓練艦であったため、艦名がなかった宇宙航空戦艦CB-03に、連邦軍の歴史上初めての人名、それも現役艦長の名前が付けられた。
そう。
『宇宙航空戦艦サーシャ』と。
おわり
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しんたろう
SF
この作品は自然界でこれからの自分のいい進歩の理想を考えてみました。
これからこの理想、目指してほしいですね。これから個人的通してほしい法案とかもです。
21世紀でこれからにも負けていないよさのある時代を考えてみました。
負けたほうの仕事しかない人とか奥さんもいない人の人生の人もいるから、
そうゆう人でも幸せになれる社会を考えました。
力学や科学の進歩でもない、
人間的に素晴らしい文化の、障害者とかもいない、
僕の考える、人間の要項を満たしたこれからの時代をテーマに、
負の事がない、僕の考えた21世紀やこれからの個人的に目指したい素晴らしい時代の現実でできると思う想像の理想の日常です。
約束のグリーンランドは競争も格差もない人間の向いている世界の理想。
21世紀民主ルネサンス作品とか(笑)
もうありませんがおためし投稿版のサイトで小泉総理か福田総理の頃のだいぶん前に書いた作品ですが、修正でリメイク版です。保存もかねて載せました。
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