9 / 11
第9話
しおりを挟む
火星、木星間アステロイドベルト(小惑星帯)宙域
───アルテミス級宇宙航空戦艦戦艦CB-03───
「まもなく、我がCB-03は、『斬首、ゼネコン作戦』を開始する!」
サーシャの声がCB-03のブリッジに響き渡った。
『ゼネコン』は誰も気にならないようだ。”慣れ”というのも恐ろしいものだ。
と、その時。
眩い閃光と衝撃波、少し遅れて轟音が響き渡った。
宇宙空間で轟音が聴こえるのは、ここアステロイドベルト宙域には視認出来ない程の小さな塵などが無数に浮遊しているためである。
「2号の爆発を確認、敵右翼残存艦数推定約500!」
「お!あちらさんもおっ始めたか。よし!それでは抜錨!」
「抜錨!」
サーシャの命令に、副長が復唱した。
『抜錨』とは、文字通り錨を上げて、船が出港することを言う。が、CB-03では作戦の開始を意味する。
もちろん『サーシャ語』であり、この艦だけに通用する言葉である。
「エンジン始動。微速前進」
「微速前進」
微速から始めるのは、やはり目立った行動をして敵にいち早く察知されないためである。
「艦載機隊の準備は?」
【こちらレーナ大尉。艦載機隊全機発進準備完了です】
「お、速いな」とサーシャは満足に微笑んだ。
「進路設定。目標敵旗艦。予測航路へ転進。各データリンク開始」
「航海長。自動航行システムに頼るな。半自動だ」
「了解」
宇宙航空戦艦CB-03の強みの一つである。自動航行システムに頼る、ということは、敵にも航路が読まれる、ということでもある。
予想出来ない動きをする事によって、敵にこちらの意図を悟らせないためだ。
「第1戦速から第2戦速へ」
「方位修正、270・98」
CB-03はランダムに進路を変えながら加速していった。
「速度、最大戦速へ」
「艦載機隊発進準備」
【艦長ぉ。いつでもいけまっせ!】
レーナの明るい声がブリッジに響き渡る。
「速度、現在最大戦速」
「艦載機隊発進!」
【アルファ01発進します!】
【ベータ01発進します!】
艦載機隊が各隊長機(01は各大隊の隊長機のNo.)を先頭に次々にCB-03より飛び立っていった。
敵反乱軍の旗艦に搭乗している敵司令官は混乱に陥っていた。
2度に渡る大爆発により、味方艦が一気に撃破されたのだ。更に後方で偵察任務だと思っていた宇宙航空戦艦がフラフラと接近して急加速し、よりにもよって最大戦速で艦載機が多数発艦したのである。
全く予想だにしない事が一気に起こり、どうしたらいいか分からなくなっているのだ。
「そろそろ敵射程圏内です」
「艦載機隊は?」
「アルファ、ベータ大隊共に接敵します。あと30」
「よし!全砲門開け、魚雷発射用意!艦載機隊が攻撃したあと、CB-03も攻撃を開始する。大丈夫だとは思うが、一応味方艦載機隊が射線に入らないように留意せよ」
「了解!全砲門発射用意。全魚雷発射管開け!目標、0・90」
「敵射程圏内に入りました。現在最大戦速。艦載機隊が攻撃を開始しました!」
「こちらも、射程に入り次第攻撃開始!」
「了解!」
「防御シールド展開します」
敵にはCB-03より、搭載している武装の射程距離が長い艦もある。そのタイムラグは仕方がない。
しかし。
「敵は撃ってきませんねぇ。艦載機隊にも何もしてこない」
「何が起こっているのか分からないのだろう。まぁ、そのうち早まった奴が撃ってくるさ。そうそう簡単には当たらないだろうが」
いくら艦の自動追尾システムの性能が良くても、最終的に判断するのは人間である。
予測不能な相手に的確な判断が即座にできるわけもなかった。
「射程内に入りました!攻撃を開始します!」
CB-03よりあらゆる兵装による攻撃が開始された。
敵反乱軍左翼艦隊はようやく迎撃を開始した。が、全く見当違いの方向への攻撃となってしまっている。
「敵の艦載機隊が発進しました。現在数250、更に増えています」
「ようやく、か。対空射撃用意」
「対空射撃用意します!」
「味方艦載機隊は?」
「ベータ大隊が敵宇宙空母艦隊へと向かいました。敵宇宙空母ヘスティア級28その他宇宙護衛空母3、いや4です」
「敵空母艦隊の主力はヘスティア級28か。ま、大丈夫だろう」
宇宙護衛空母とは、主に正規宇宙空母を護衛することが主任務であり、積極的に敵戦闘艦を攻撃することはほとんどないため、搭載機数も少なく、攻撃力もヘスティア級に劣る小型宇宙空母である。ちなみに正式名称はアテーナー級宇宙護衛空母という。
艦載機といえども攻撃力は宇宙巡洋艦並みである。
撃破とまではいかなくても、戦闘不能にすることは難しい事ではない。
エンジンを破壊すれば、艦のできる事はかなり制限される。
どんな戦闘艦であってもウィークポイントは必ず存在するものだ。
「敵艦載機をロックオン次第順次対空砲を発射せよ」
「了解!ターゲットロック」
敵艦載機隊がCB-03に殺到するも、連携が取れておらず次々に撃破されていった。
「ふはは。一気に突っ込んでくるからこうなるのだ」
みるみるうちに撃破される敵艦載機を見て、サーシャは不敵に笑うのだった。
いくら艦載機が多くても、波状攻撃するなり、連携して全方位から攻撃するなりしなければ、たった1艦であっても撃破する事は出来ない。
ロックオンされた時点でアウトなのだ。
「しかし、なんであんなめちゃくちゃな攻撃してくるんだろう?敵の艦載機さん」
「もともと艦隊戦を予想していたんだろう。まさか1艦で、とは思うまい。それと1号や2号の爆発もあった。色々躊躇するお年頃なんだよ」
「お年頃って」
敵を恋する乙女のように言うサーシャに苦笑する副長であった。
「そろそろ敵艦隊に突入します」
「おおお!凄くデカいな」
航路上の敵艦隊は味方艦載機隊とCB-03の攻撃によって撃破、戦闘不能とされていた。
まるでパックリと空いた口の様に「道」が形成されていた。
CB-03は最大戦速のまま敵艦隊へと突入した。
「アルファ大隊05撃破されました。搭乗員は脱出したようです」
「多目的工作機出撃せよ」
【了解】
『多目的工作機』とは、艦外で修理や、小惑星などからサンプルを採取。また、材料があれば簡単な部品を製造したり、負傷者を回収、応急処置も可能な特殊艇である。
特筆すべきはその防御力だろう。宇宙戦艦の主砲の直撃でも一発なら防ぐ事が出来る強力なシールドを展開する事が可能である。流石に二発は耐えられないが。
しかし、その運動性能は艦載機と同等であり、ロックオンする事も簡単ではない。
回収時に隙ができるが、味方艦載機隊に守ってもらえば問題はない。
そのような訓練は徹底的に行っているので、いちいち命令を出さずとも各自の判断で、安全な回収作業を行う事が出来る。
「なぁ、砲術長」
「あ、はい。ちょっと待ってください──『右舷対空砲、敵艦載機だけを狙え!敵戦闘艦は無視しろ!【了解】』──はい、何でしょう、艦長」
通常は、艦長の方を優先すべきであるが、現在は戦闘中、更に周りに敵艦だらけ、という状況であり、ブリッジクルーに余裕がない。通常の戦闘艦であれば、だが。
もし、艦長やブリッジクルーが緊急で必要があって優先させたい場合は「緊急」や「優先」という言葉を先に使うのが常識となっている。このため、砲術長は自分の任務を優先した、ということなのだ。
「彼氏とのデートはカフェかレストラン、どっちがいいかなぁ」
「は?カフェ?レストラン?」
「だから、カフェかレストラン。どっちが好感度上がると思う?」
「な、何やってるんっすか?艦長!」
「ん?乙女ゲームだけど?悪い?」
「お、乙女ゲーム?こんな敵艦隊の真っ只中で?」
「だからだよ」
「え?」
「周りが敵艦だらけだからだよ。敵からすれば味方艦だらけって事だろ。簡単には敵も撃てないって事。まぁ、闇雲に撃ってくる馬鹿はどこにでもいるがな」
「…………」
いやいやいや!
おかしいことをしているのは艦長もです、と言いたい砲術長であった。
自由過ぎる、とも。
しかし、サーシャは何も遊んでいるわけではない。現在の状況や今後の行動について思考しているのである。サーシャなりの精神を集中させる方法なのだが誰も理解していない。遊んでいるように見られても自業自得なのである。
それに、実のところ、敵は全く撃って来ない。更に敵艦載機もどうすればいいか分からない様子で、積極的に攻撃して来ず、対空砲により次々に撃破されているのだった。
「そろそろ敵旗艦が射程内に入ります。あと120」
「味方主力艦隊は?」
「問題ないです。後は時間の問題ですね。味方の損害は一桁かと」
「味方艦載機隊は?」
「更に1機撃破されましたが、搭乗員は回収済みです」
「圧倒的じゃないか!我が軍は!」
出たぁ『サーシャ語』だ。
突っ込むクルーたち。よくわからないが、これも『サーシャ語』らしい。
なんともまぁ、不真面目な艦長とクルーたちであった。
「敵旗艦、射程内に入りました」
「主砲発射用意!目標敵旗艦!」
宇宙航空戦艦の主砲は強力である。直撃すれば、例え相手が重装甲の宇宙戦艦であっても一撃である。
「確実にロックオンするまで待て」
「了解!敵旗艦、回避運動を開始しました」
「レーナ大尉!敵旗艦の頭を押さえろ!」
【了解!『──02、03、04我に続け!』【了解!】】
味方艦載機4機が敵旗艦へと向かい、回避運動を阻止すべく牽制する。
「離脱ルートはどうなっている?」
「問題ありません!艦載機隊が上手くやったようです」
我が艦載機隊は優秀だ、とサーシャは微笑んだ。
「まだだ、まだ…」
CB-03は最大戦速のまま敵旗艦に接近した。
敵旗艦は何度も回避しようとするが、味方艦載機4機によって悉く阻止されている。
「敵旗艦、ロックオン!回避軌道予測。主砲発射準備完了!」
「主砲発射する……と見せかけて、空間魚雷発射準備!」
「空間魚雷発射管開きます!ターゲットロックオン」
「────空間魚雷発射準備完了!」
「空間魚雷発射!」
「空間魚雷発射します!」
12門の空間魚雷発射管から2回、計24発の空間魚雷が発射され、直に亜空間へ潜っていった。
「離脱ルートに移行する。急速航路変更用意!」
「離脱ルートに急速航路変更します!」
「エンジン停止!」
「エンジン停止します!」
「重力アンカー準備」
「重力アンカー準備。艦内重力安定化、動作正常を確認しました」
「重力アンカー作動!」
「重力アンカー作動します!」
CB-03は素早く離脱ルートに方向転換した。
「離脱ルートに方向転換完了しました!」
「よし!最大戦速にて離脱!」
「了解!エンジン始動、最大戦速!現宙域より離脱します!」
CB-03は再度急速発進し、現宙域より離脱を始めた。
「敵旗艦に空間魚雷3発命中!撃破しました!」
「よし!」
サーシャは『…クリーク君、敵はとったぞ…』と呟いた。
「味方艦載機の状況は?」
「アルファ大隊は戦闘宙域よりもうすぐ離脱。ベータ大隊は敵宇宙空母3隻撃破、6隻を戦闘不能とし、現在も無傷の敵宇宙空母を攻撃中です」
「損害は?」
「味方艦載機、その後2機、本作戦で合計4機撃破されました。搭乗員は全員回収済みです」
「よし!ベータ大隊は攻撃中止!現宙域より離脱せよ!そしてアルファ大隊と合流。修理、補給の必要な機体はCB-03にタイミングを見計らって順次帰投せよ!本艦は戦闘宙域より速やかに離脱する。アルファ、ベータ大隊ともに本艦と合流。その後は命令あるまで待機せよ!」
【アルファ大隊了解】
【ベータ大隊了解】
CB-03、艦載機隊共に戦闘宙域より離脱を開始した。
「味方主力艦隊の状況は?」
「敵右翼残存艦隊の7割を撃破、更に攻撃中です!」
「ロゴスキー閣下にデータ通信『敵右翼残存艦隊の殲滅戦後の掃討戦は艦載機隊に任せよ。これを以て第ニ次作戦は終了とする。そして速やかに敵左翼艦隊の攻撃に移行せよ』以上だ」
「了解しました」
そして遂に、戦いは最終段階を迎えた。
───アルテミス級宇宙航空戦艦戦艦CB-03───
「まもなく、我がCB-03は、『斬首、ゼネコン作戦』を開始する!」
サーシャの声がCB-03のブリッジに響き渡った。
『ゼネコン』は誰も気にならないようだ。”慣れ”というのも恐ろしいものだ。
と、その時。
眩い閃光と衝撃波、少し遅れて轟音が響き渡った。
宇宙空間で轟音が聴こえるのは、ここアステロイドベルト宙域には視認出来ない程の小さな塵などが無数に浮遊しているためである。
「2号の爆発を確認、敵右翼残存艦数推定約500!」
「お!あちらさんもおっ始めたか。よし!それでは抜錨!」
「抜錨!」
サーシャの命令に、副長が復唱した。
『抜錨』とは、文字通り錨を上げて、船が出港することを言う。が、CB-03では作戦の開始を意味する。
もちろん『サーシャ語』であり、この艦だけに通用する言葉である。
「エンジン始動。微速前進」
「微速前進」
微速から始めるのは、やはり目立った行動をして敵にいち早く察知されないためである。
「艦載機隊の準備は?」
【こちらレーナ大尉。艦載機隊全機発進準備完了です】
「お、速いな」とサーシャは満足に微笑んだ。
「進路設定。目標敵旗艦。予測航路へ転進。各データリンク開始」
「航海長。自動航行システムに頼るな。半自動だ」
「了解」
宇宙航空戦艦CB-03の強みの一つである。自動航行システムに頼る、ということは、敵にも航路が読まれる、ということでもある。
予想出来ない動きをする事によって、敵にこちらの意図を悟らせないためだ。
「第1戦速から第2戦速へ」
「方位修正、270・98」
CB-03はランダムに進路を変えながら加速していった。
「速度、最大戦速へ」
「艦載機隊発進準備」
【艦長ぉ。いつでもいけまっせ!】
レーナの明るい声がブリッジに響き渡る。
「速度、現在最大戦速」
「艦載機隊発進!」
【アルファ01発進します!】
【ベータ01発進します!】
艦載機隊が各隊長機(01は各大隊の隊長機のNo.)を先頭に次々にCB-03より飛び立っていった。
敵反乱軍の旗艦に搭乗している敵司令官は混乱に陥っていた。
2度に渡る大爆発により、味方艦が一気に撃破されたのだ。更に後方で偵察任務だと思っていた宇宙航空戦艦がフラフラと接近して急加速し、よりにもよって最大戦速で艦載機が多数発艦したのである。
全く予想だにしない事が一気に起こり、どうしたらいいか分からなくなっているのだ。
「そろそろ敵射程圏内です」
「艦載機隊は?」
「アルファ、ベータ大隊共に接敵します。あと30」
「よし!全砲門開け、魚雷発射用意!艦載機隊が攻撃したあと、CB-03も攻撃を開始する。大丈夫だとは思うが、一応味方艦載機隊が射線に入らないように留意せよ」
「了解!全砲門発射用意。全魚雷発射管開け!目標、0・90」
「敵射程圏内に入りました。現在最大戦速。艦載機隊が攻撃を開始しました!」
「こちらも、射程に入り次第攻撃開始!」
「了解!」
「防御シールド展開します」
敵にはCB-03より、搭載している武装の射程距離が長い艦もある。そのタイムラグは仕方がない。
しかし。
「敵は撃ってきませんねぇ。艦載機隊にも何もしてこない」
「何が起こっているのか分からないのだろう。まぁ、そのうち早まった奴が撃ってくるさ。そうそう簡単には当たらないだろうが」
いくら艦の自動追尾システムの性能が良くても、最終的に判断するのは人間である。
予測不能な相手に的確な判断が即座にできるわけもなかった。
「射程内に入りました!攻撃を開始します!」
CB-03よりあらゆる兵装による攻撃が開始された。
敵反乱軍左翼艦隊はようやく迎撃を開始した。が、全く見当違いの方向への攻撃となってしまっている。
「敵の艦載機隊が発進しました。現在数250、更に増えています」
「ようやく、か。対空射撃用意」
「対空射撃用意します!」
「味方艦載機隊は?」
「ベータ大隊が敵宇宙空母艦隊へと向かいました。敵宇宙空母ヘスティア級28その他宇宙護衛空母3、いや4です」
「敵空母艦隊の主力はヘスティア級28か。ま、大丈夫だろう」
宇宙護衛空母とは、主に正規宇宙空母を護衛することが主任務であり、積極的に敵戦闘艦を攻撃することはほとんどないため、搭載機数も少なく、攻撃力もヘスティア級に劣る小型宇宙空母である。ちなみに正式名称はアテーナー級宇宙護衛空母という。
艦載機といえども攻撃力は宇宙巡洋艦並みである。
撃破とまではいかなくても、戦闘不能にすることは難しい事ではない。
エンジンを破壊すれば、艦のできる事はかなり制限される。
どんな戦闘艦であってもウィークポイントは必ず存在するものだ。
「敵艦載機をロックオン次第順次対空砲を発射せよ」
「了解!ターゲットロック」
敵艦載機隊がCB-03に殺到するも、連携が取れておらず次々に撃破されていった。
「ふはは。一気に突っ込んでくるからこうなるのだ」
みるみるうちに撃破される敵艦載機を見て、サーシャは不敵に笑うのだった。
いくら艦載機が多くても、波状攻撃するなり、連携して全方位から攻撃するなりしなければ、たった1艦であっても撃破する事は出来ない。
ロックオンされた時点でアウトなのだ。
「しかし、なんであんなめちゃくちゃな攻撃してくるんだろう?敵の艦載機さん」
「もともと艦隊戦を予想していたんだろう。まさか1艦で、とは思うまい。それと1号や2号の爆発もあった。色々躊躇するお年頃なんだよ」
「お年頃って」
敵を恋する乙女のように言うサーシャに苦笑する副長であった。
「そろそろ敵艦隊に突入します」
「おおお!凄くデカいな」
航路上の敵艦隊は味方艦載機隊とCB-03の攻撃によって撃破、戦闘不能とされていた。
まるでパックリと空いた口の様に「道」が形成されていた。
CB-03は最大戦速のまま敵艦隊へと突入した。
「アルファ大隊05撃破されました。搭乗員は脱出したようです」
「多目的工作機出撃せよ」
【了解】
『多目的工作機』とは、艦外で修理や、小惑星などからサンプルを採取。また、材料があれば簡単な部品を製造したり、負傷者を回収、応急処置も可能な特殊艇である。
特筆すべきはその防御力だろう。宇宙戦艦の主砲の直撃でも一発なら防ぐ事が出来る強力なシールドを展開する事が可能である。流石に二発は耐えられないが。
しかし、その運動性能は艦載機と同等であり、ロックオンする事も簡単ではない。
回収時に隙ができるが、味方艦載機隊に守ってもらえば問題はない。
そのような訓練は徹底的に行っているので、いちいち命令を出さずとも各自の判断で、安全な回収作業を行う事が出来る。
「なぁ、砲術長」
「あ、はい。ちょっと待ってください──『右舷対空砲、敵艦載機だけを狙え!敵戦闘艦は無視しろ!【了解】』──はい、何でしょう、艦長」
通常は、艦長の方を優先すべきであるが、現在は戦闘中、更に周りに敵艦だらけ、という状況であり、ブリッジクルーに余裕がない。通常の戦闘艦であれば、だが。
もし、艦長やブリッジクルーが緊急で必要があって優先させたい場合は「緊急」や「優先」という言葉を先に使うのが常識となっている。このため、砲術長は自分の任務を優先した、ということなのだ。
「彼氏とのデートはカフェかレストラン、どっちがいいかなぁ」
「は?カフェ?レストラン?」
「だから、カフェかレストラン。どっちが好感度上がると思う?」
「な、何やってるんっすか?艦長!」
「ん?乙女ゲームだけど?悪い?」
「お、乙女ゲーム?こんな敵艦隊の真っ只中で?」
「だからだよ」
「え?」
「周りが敵艦だらけだからだよ。敵からすれば味方艦だらけって事だろ。簡単には敵も撃てないって事。まぁ、闇雲に撃ってくる馬鹿はどこにでもいるがな」
「…………」
いやいやいや!
おかしいことをしているのは艦長もです、と言いたい砲術長であった。
自由過ぎる、とも。
しかし、サーシャは何も遊んでいるわけではない。現在の状況や今後の行動について思考しているのである。サーシャなりの精神を集中させる方法なのだが誰も理解していない。遊んでいるように見られても自業自得なのである。
それに、実のところ、敵は全く撃って来ない。更に敵艦載機もどうすればいいか分からない様子で、積極的に攻撃して来ず、対空砲により次々に撃破されているのだった。
「そろそろ敵旗艦が射程内に入ります。あと120」
「味方主力艦隊は?」
「問題ないです。後は時間の問題ですね。味方の損害は一桁かと」
「味方艦載機隊は?」
「更に1機撃破されましたが、搭乗員は回収済みです」
「圧倒的じゃないか!我が軍は!」
出たぁ『サーシャ語』だ。
突っ込むクルーたち。よくわからないが、これも『サーシャ語』らしい。
なんともまぁ、不真面目な艦長とクルーたちであった。
「敵旗艦、射程内に入りました」
「主砲発射用意!目標敵旗艦!」
宇宙航空戦艦の主砲は強力である。直撃すれば、例え相手が重装甲の宇宙戦艦であっても一撃である。
「確実にロックオンするまで待て」
「了解!敵旗艦、回避運動を開始しました」
「レーナ大尉!敵旗艦の頭を押さえろ!」
【了解!『──02、03、04我に続け!』【了解!】】
味方艦載機4機が敵旗艦へと向かい、回避運動を阻止すべく牽制する。
「離脱ルートはどうなっている?」
「問題ありません!艦載機隊が上手くやったようです」
我が艦載機隊は優秀だ、とサーシャは微笑んだ。
「まだだ、まだ…」
CB-03は最大戦速のまま敵旗艦に接近した。
敵旗艦は何度も回避しようとするが、味方艦載機4機によって悉く阻止されている。
「敵旗艦、ロックオン!回避軌道予測。主砲発射準備完了!」
「主砲発射する……と見せかけて、空間魚雷発射準備!」
「空間魚雷発射管開きます!ターゲットロックオン」
「────空間魚雷発射準備完了!」
「空間魚雷発射!」
「空間魚雷発射します!」
12門の空間魚雷発射管から2回、計24発の空間魚雷が発射され、直に亜空間へ潜っていった。
「離脱ルートに移行する。急速航路変更用意!」
「離脱ルートに急速航路変更します!」
「エンジン停止!」
「エンジン停止します!」
「重力アンカー準備」
「重力アンカー準備。艦内重力安定化、動作正常を確認しました」
「重力アンカー作動!」
「重力アンカー作動します!」
CB-03は素早く離脱ルートに方向転換した。
「離脱ルートに方向転換完了しました!」
「よし!最大戦速にて離脱!」
「了解!エンジン始動、最大戦速!現宙域より離脱します!」
CB-03は再度急速発進し、現宙域より離脱を始めた。
「敵旗艦に空間魚雷3発命中!撃破しました!」
「よし!」
サーシャは『…クリーク君、敵はとったぞ…』と呟いた。
「味方艦載機の状況は?」
「アルファ大隊は戦闘宙域よりもうすぐ離脱。ベータ大隊は敵宇宙空母3隻撃破、6隻を戦闘不能とし、現在も無傷の敵宇宙空母を攻撃中です」
「損害は?」
「味方艦載機、その後2機、本作戦で合計4機撃破されました。搭乗員は全員回収済みです」
「よし!ベータ大隊は攻撃中止!現宙域より離脱せよ!そしてアルファ大隊と合流。修理、補給の必要な機体はCB-03にタイミングを見計らって順次帰投せよ!本艦は戦闘宙域より速やかに離脱する。アルファ、ベータ大隊ともに本艦と合流。その後は命令あるまで待機せよ!」
【アルファ大隊了解】
【ベータ大隊了解】
CB-03、艦載機隊共に戦闘宙域より離脱を開始した。
「味方主力艦隊の状況は?」
「敵右翼残存艦隊の7割を撃破、更に攻撃中です!」
「ロゴスキー閣下にデータ通信『敵右翼残存艦隊の殲滅戦後の掃討戦は艦載機隊に任せよ。これを以て第ニ次作戦は終了とする。そして速やかに敵左翼艦隊の攻撃に移行せよ』以上だ」
「了解しました」
そして遂に、戦いは最終段階を迎えた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

ベル・エポック
しんたろう
SF
この作品は自然界でこれからの自分のいい進歩の理想を考えてみました。
これからこの理想、目指してほしいですね。これから個人的通してほしい法案とかもです。
21世紀でこれからにも負けていないよさのある時代を考えてみました。
負けたほうの仕事しかない人とか奥さんもいない人の人生の人もいるから、
そうゆう人でも幸せになれる社会を考えました。
力学や科学の進歩でもない、
人間的に素晴らしい文化の、障害者とかもいない、
僕の考える、人間の要項を満たしたこれからの時代をテーマに、
負の事がない、僕の考えた21世紀やこれからの個人的に目指したい素晴らしい時代の現実でできると思う想像の理想の日常です。
約束のグリーンランドは競争も格差もない人間の向いている世界の理想。
21世紀民主ルネサンス作品とか(笑)
もうありませんがおためし投稿版のサイトで小泉総理か福田総理の頃のだいぶん前に書いた作品ですが、修正でリメイク版です。保存もかねて載せました。

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる