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第7話
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火星、木星間アステロイドベルト(小惑星帯)宙域
───ガベイロス級宇宙戦艦ゴルバトフ───
【それでは諸君!パーティーの準備だ!】
2.5倍の敵に包囲されようとしている絶望的な状況にもかかわらず、明るいサーシャの声に、ゴルバトフのブリッジクルーの緊張感が緩和された。
「寡兵で大軍を撃破する」というのは物語ではよくある話だが、現実にはほとんど無い。
余程の技量や武装の差がない限り、戦いというのは「量」が物を言う。
更に、大軍対大軍というのは双方に甚大な被害が出るものである。
「引き際」が難しく、また撤退戦というのは、撤退する方が不利で被害が大きくなる場合が多いからだ。
【ロゴスキー閣下。本作戦に不満や疑問のある艦は参加しなくていい】
「どういう事だ?」
【この作戦は、敵に考える時間を与えずに実施する必要がある。躊躇したり、途中で離脱などされると作戦が破綻する恐れがある。そんな味方は不要だ。昔の言葉にある「真に恐れるべきは──無能な味方である」というやつだ】
「ハハハ、それなら大丈夫だ。そのような奴は、この宙域に集結しないでとっとと逃げている」
【なるほど安心した。しかし、一時的とはいえ権限が譲渡された以上私の命令には絶対に従ってもらうぞ。命令違反した者は軍法会議送りだ】
「分かっておる。サーシャ司令官殿」
【理解が早くて助かる。作戦開始は、敵の包囲陣が形成される前に行う。そして、作戦中の命令や伝達は、基本的にデータ通信にて行う。お喋りしている暇はないからな。それと、全艦への指示はゴルバトフから行ってくれ。私の艦の旗艦としてのシステムは、あまり良いものではないからな】
「分かった」
【その代わり、戦況の監視はこちらで行う。本艦は偵察艦だからな。レーダーや敵味方の動向確認、予測システムは最高レベルのものを搭載している。貴艦は艦隊機動のみに集中してくれれば良い】
「それはありがたい、了解した」
【それと、レーダー担当の…クリーク中尉】
「はっ!何でありましょうか?サーシャ司令官」
【君の敵はとってやる。敵旗艦のレーダー担当にな】
「どういう事でしょうか?」
【こちらも同じ事をしてやるのさ。倍にしてな。これで君の責任はチャラだ】
「はっ!ありがとうございます」
【あ、それとロゴスキー閣下】
「何かな」
【敵は殲滅だ!一隻たりとも逃がすな!降伏も認めん!捕虜はいらん!】
「分かっておる」
【では作戦開始の準備を】
「了解した」
敵反乱軍は、降伏と見せかけて攻撃してきたり、最悪なのは惑星内部に潜伏している反乱軍と合流して暴動を誘発したり、と捕虜としてもロクなことが無かった。
思想的な事もまちまちで、情報もまともに得ることが出来ない。更には偽情報により被害が出るなど、捕虜とすることでのデメリットが多すぎるのだ。
リーダー的存在も複数居て、各々主義主張も異なるため、捕虜としても有益な情報を得ることは不可能であった。
結局分かった事は、反乱軍の目的は「地球を含めた天王星より内惑星を守る義務はない」という事のみが共通している、というだけであった。
最初の声明にも様々な疑問点がある。「地球に権限が集中している」との事だが、それではただの侵略である。
それに、仮にその権限があったとして、何をするのだろう?
そもそも主な地球の権限、というのは各ゲートの制御システムや、軍の総司令部があるくらいで、なんでもかんでも自由に出来る、というわけではない。
確かにゲートが自由に出来たら、様々な事に利用できるだろうが、そのような事をすれば、経済が悪化するだけで何のメリットもない。
しかし、考えられるのはそれくらいである。
それならそれで、対話など平和的な方法があるにも関わらず、武力行使をしてくるとは反乱軍の真の目的は結局分からなないままであった。
そして、降伏を装った反乱軍によって、軍の高官や政府要人に少なくない被害者も出たことにより「降伏は認めない」との結論に達し、この事は暗号化せず、平文で太陽系全域に通達された。
これにより「降伏を認めない」という事は、反乱軍も含め太陽系全域に周知されることとなった。
更に敵を逃せば、実戦経験を積んだやっかいな敵となるだけでなく、この戦いなどの情報を他の敵にも知られる。それは防がなければならない。
そのため、残らず殲滅する必要があるのだ。
普通、部隊(艦隊)の3分の1が損耗すれば、再編成しない限り『ひとつの戦闘集団』としての機能の維持ができなくなる。これを『全滅』という。
部隊(艦隊)の半分が損耗した場合、再編成すら不可能な状態となる。これが『壊滅』である。
そして100パーセントが損耗、つまり戦闘能力があるものがひとつも残っていない状態が『殲滅』である。
──数時間後
「亜空間レーダーに反応!空間魚雷です!数50。着弾まで600」
クリーク中尉が接近する空間魚雷をレーダーにて捉えた。
「全艦へ空間魚雷の進路通達、回避用意」
「あっ!」
「どうした」
「CB-03より空間機雷が発射されました」
しばらくして、前方の宙域が光った。
「────全空間魚雷爆発。壊滅しました」
「うむ」
ロゴスキー中将はCB-03の対応の速さに驚いていた。もちろん他のクルー達も。
「艦長!凄いですねCB-03!」
「ああ、噂以上だ」
「こちらも何かしますか?」
「いや、放っておこう。弾の無駄だ」
「了解しました」
「それより1号から3号の準備急げ!」
「了解!」
敵反乱軍艦隊は、サーシャの予想通り再集結を完了後、直ぐに火星軍主力艦隊を包囲すべく左右に展開し始めた。
「立体的な鶴翼の陣」というべきか。そのような陣形に展開するようだ。
「サーシャ司令官より入電です」
「繋げ」
【ロゴスキー閣下、そろそろ時間だ。準備はどうだ?】
「準備は完了した」
【全艦隊に繋いでくれ。オープンで】
「了解しました」
もちろん通信は暗号化によって敵に内容が知られることは無い。しかし、何かしら通信している事。通信の発信源などは判る。
「繋ぎました」
【火星軍主力艦隊の諸君!私はしばらく指揮を任された宇宙航空戦艦CB-03艦長サーシャ大佐だ。これより作戦計画P-4Sを発動する。
この宙域に集結する前の戦闘の事は聞いている。それに現在前方の敵艦隊を見てみろ、見事な艦隊機動だ。敵は強い。
しかし、艦隊機動についてはロゴスキー閣下は全連邦軍で右に出るものはいない。つまり、我々の方が強い!
なあに、敵は多いが恐れることはない。
くだらん理由で宣戦布告も無しに攻めてきた野蛮人だ。そんなことで多くの仲間が犠牲になってしまった。
敵はもはや軍でも宇宙海賊でもない!排除すべき害虫だ!そんな奴らと正々堂々と真面目に戦う必要はない!
でっかい花火も用意した。
敵に考える時間を与えず動き、敵のケツを蹴り上げてやれ!
害虫は駆除しなければならない。殲滅せよ!
さあ諸君!パーティーを始めよう!!
───ロゴスキー閣下。敵旗艦は予想通り左翼の端にいる。作戦に変更はない。それでは後はよろしく頼む】
「了解だ!──全艦隊への回線をこちらに繋げ」
「繋ぎました」
「諸君!ロゴスキー中将だ。これよりサーシャ司令官の命令通り作戦計画P-4Sを開始する。全艦作戦フォーメーションに展開せよ」
火星軍主力艦隊約2000隻は約500隻の4つのグループに別れ、例えるなら「立体的な鋒矢陣」のような陣形になるように移動した。外側に高火力、重装甲の宇宙戦艦を配置している。
ちなみに「鋒矢陣」は正面突破に特に有効な陣形である。
「1号発射準備」
「1号発射準備」
ロゴスキー中将の命令にクルーが復唱した。
1号。
無人となったタルタロス級宇宙突撃駆逐艦をゴルバトフより遠隔操作によって発射するため、クルー達が準備を開始した。
「1号との通信状態良好。データリンク完了」
「エンジンへの回路オープン。エネルギー充填」
「自動航行システム作動。目標敵艦隊中央。自動追尾システムON。ターゲットロック」
敵艦隊は、まだ包囲陣形が形成されていないので、中央部には未だ敵艦が多い。精密にターゲットを絞らずとも問題はない状態であるが、念の為自動航行システムは精密な設定にしている。
「エンジン内圧力上昇中。安全弁全閉鎖。リミッター全解除」
「エンジン内エネルギー充填完了。各セーフティロック解除」
「────最終セーフティロック解除」
「艦長。発射準備完了しました」
「1号発射!」
「エンジン始動!1号発射!」
1号は静かに発進した。
宇宙魚雷として使用するが、現在地から緊急発進する必要はない。
敵艦隊は包囲陣形に展開中で、常に火星軍主力艦隊を監視している。
今から目立つことをして、態々敵にこちらの動きを教える必要はない。
「現在、1号は最大戦速。さらに加速中。フルパワーに移行する」
リミッターを解除し、フルパワー設定での航行のため、通常より加速は速い。
「現在フルパワー。まもなく敵の射程圏内に到達します」
「防御シールド展開!最大出力!」
敵艦隊は、1号が射程圏内に入ってから慌てて迎撃してきた。
宇宙突撃駆逐艦がこの大群の中で一隻でフラフラと行動していたため、偵察程度だと思っていたようだ。
撃破するため、攻撃を開始したが、もともと戦闘艦の射撃システムは、戦闘艦の最大戦速や、艦載機の最大速度を想定しているため、それを遥かに超えた速度(リミッターを解除したフルパワー)で航行する1号を捕捉することができず、撃破どころか、(砲撃などの攻撃を)当てることすら出来なかった。
「1号ターゲットに到達します」
「カウントダウン開始。3、2、1、スーパーチャージャー点火!」
眩い閃光の後、凄まじい衝撃波。そして轟音が響き渡った。
1号は敵反乱軍艦隊の中央で大爆発した。
ロゴスキー中将はもとより、ゴルバトフのクルー達もその威力に驚いた。
「1号の爆発を確認。敵中央部艦隊撃破。敵中央部残存艦、推定約300!」
「全艦突撃!最大戦速」
火星軍主力艦隊は最大戦速で敵艦隊中央部へ突撃を開始した。
「射程圏内に入りました」
「全艦、敵残存艦に攻撃開始!」
敵艦隊は爆発の混乱によって、もはや組織的行動はしておらず、反撃してこなかった。
4つに別れた火星軍主力艦隊によって、敵残存艦は次々と撃破されていった。
「敵艦隊の中央部を突破しました!」
「全艦、重力アンカー作動用意!」
「全艦エンジン停止!」
「艦内重力安定化、動作正常」
「耐衝撃防御」
全艦隊が一斉に重力アンカーを作動させて反転するわけだが、そのタイミングは、ゴルバトフが作動させるとデータリンクによって全艦が同時に作動するようになっている。もちろん作戦計画P-4Sによるプログラムてある。
「全艦、重力アンカー作動!」
全艦が急ブレーキがかかったように停止し、その慣性を利用して艦体を反転させた。
ゴルバトフのクルー達は、重力アンカー作動時が思ったより衝撃が無いことに驚いていた。もちろん他の艦のクルー達も。
これは、艦内が重力安定化によって重力の方向が常に同じで、慣性による衝撃が無効化されたことによるものだ。
むしろ、重力アンカー作動時より姿勢制御時の衝撃の方が少し大きく感じた。
だが、艦体にはかなりの負担がかかっている。しかし、空間跳躍もする艦である。それに比べれば軽微なものだ。
「敵中央部艦隊はほぼ壊滅!右翼残存艦、約1600。左翼約1400。こちらの損害はありません!」
驚くべきことに、この中央突破によって敵約2000隻を撃破したのであった。
「サーシャ司令官よりデータ通信」
「読め」
「『第一次作戦は成功。CB-03は左翼残存艦隊を引き付けておく。速やかに右翼残存艦隊を殲滅して左翼艦隊への攻撃に移行せよ』との事です」
「了解した、と伝えよ」
「了解しました」
「では、右翼残存艦隊を攻撃する。2号発射準備」
「2号発射準備します。目標、敵右翼残存艦隊中央部」
そして、1号と同じプロセスで、2号の発射準備が開始された。
「2号発射準備完了!」
「2号発射!」
2号は1号のようなゆっくりとした発射ではなく、最初から全速で発射し、即フルパワーに移行する。
そして、敵右翼残存艦隊の中央部で大爆破した。
「敵右翼残存艦、約500」
「よし、全艦攻撃準備!敵を包囲殲滅する。宇宙空母の艦載機は全機発艦。敵を包囲。逃走する艦があれば、直ちに撃破せよ!」
こうして、火星軍主力艦隊は敵右翼の残存艦隊の攻撃を開始した。
───ガベイロス級宇宙戦艦ゴルバトフ───
【それでは諸君!パーティーの準備だ!】
2.5倍の敵に包囲されようとしている絶望的な状況にもかかわらず、明るいサーシャの声に、ゴルバトフのブリッジクルーの緊張感が緩和された。
「寡兵で大軍を撃破する」というのは物語ではよくある話だが、現実にはほとんど無い。
余程の技量や武装の差がない限り、戦いというのは「量」が物を言う。
更に、大軍対大軍というのは双方に甚大な被害が出るものである。
「引き際」が難しく、また撤退戦というのは、撤退する方が不利で被害が大きくなる場合が多いからだ。
【ロゴスキー閣下。本作戦に不満や疑問のある艦は参加しなくていい】
「どういう事だ?」
【この作戦は、敵に考える時間を与えずに実施する必要がある。躊躇したり、途中で離脱などされると作戦が破綻する恐れがある。そんな味方は不要だ。昔の言葉にある「真に恐れるべきは──無能な味方である」というやつだ】
「ハハハ、それなら大丈夫だ。そのような奴は、この宙域に集結しないでとっとと逃げている」
【なるほど安心した。しかし、一時的とはいえ権限が譲渡された以上私の命令には絶対に従ってもらうぞ。命令違反した者は軍法会議送りだ】
「分かっておる。サーシャ司令官殿」
【理解が早くて助かる。作戦開始は、敵の包囲陣が形成される前に行う。そして、作戦中の命令や伝達は、基本的にデータ通信にて行う。お喋りしている暇はないからな。それと、全艦への指示はゴルバトフから行ってくれ。私の艦の旗艦としてのシステムは、あまり良いものではないからな】
「分かった」
【その代わり、戦況の監視はこちらで行う。本艦は偵察艦だからな。レーダーや敵味方の動向確認、予測システムは最高レベルのものを搭載している。貴艦は艦隊機動のみに集中してくれれば良い】
「それはありがたい、了解した」
【それと、レーダー担当の…クリーク中尉】
「はっ!何でありましょうか?サーシャ司令官」
【君の敵はとってやる。敵旗艦のレーダー担当にな】
「どういう事でしょうか?」
【こちらも同じ事をしてやるのさ。倍にしてな。これで君の責任はチャラだ】
「はっ!ありがとうございます」
【あ、それとロゴスキー閣下】
「何かな」
【敵は殲滅だ!一隻たりとも逃がすな!降伏も認めん!捕虜はいらん!】
「分かっておる」
【では作戦開始の準備を】
「了解した」
敵反乱軍は、降伏と見せかけて攻撃してきたり、最悪なのは惑星内部に潜伏している反乱軍と合流して暴動を誘発したり、と捕虜としてもロクなことが無かった。
思想的な事もまちまちで、情報もまともに得ることが出来ない。更には偽情報により被害が出るなど、捕虜とすることでのデメリットが多すぎるのだ。
リーダー的存在も複数居て、各々主義主張も異なるため、捕虜としても有益な情報を得ることは不可能であった。
結局分かった事は、反乱軍の目的は「地球を含めた天王星より内惑星を守る義務はない」という事のみが共通している、というだけであった。
最初の声明にも様々な疑問点がある。「地球に権限が集中している」との事だが、それではただの侵略である。
それに、仮にその権限があったとして、何をするのだろう?
そもそも主な地球の権限、というのは各ゲートの制御システムや、軍の総司令部があるくらいで、なんでもかんでも自由に出来る、というわけではない。
確かにゲートが自由に出来たら、様々な事に利用できるだろうが、そのような事をすれば、経済が悪化するだけで何のメリットもない。
しかし、考えられるのはそれくらいである。
それならそれで、対話など平和的な方法があるにも関わらず、武力行使をしてくるとは反乱軍の真の目的は結局分からなないままであった。
そして、降伏を装った反乱軍によって、軍の高官や政府要人に少なくない被害者も出たことにより「降伏は認めない」との結論に達し、この事は暗号化せず、平文で太陽系全域に通達された。
これにより「降伏を認めない」という事は、反乱軍も含め太陽系全域に周知されることとなった。
更に敵を逃せば、実戦経験を積んだやっかいな敵となるだけでなく、この戦いなどの情報を他の敵にも知られる。それは防がなければならない。
そのため、残らず殲滅する必要があるのだ。
普通、部隊(艦隊)の3分の1が損耗すれば、再編成しない限り『ひとつの戦闘集団』としての機能の維持ができなくなる。これを『全滅』という。
部隊(艦隊)の半分が損耗した場合、再編成すら不可能な状態となる。これが『壊滅』である。
そして100パーセントが損耗、つまり戦闘能力があるものがひとつも残っていない状態が『殲滅』である。
──数時間後
「亜空間レーダーに反応!空間魚雷です!数50。着弾まで600」
クリーク中尉が接近する空間魚雷をレーダーにて捉えた。
「全艦へ空間魚雷の進路通達、回避用意」
「あっ!」
「どうした」
「CB-03より空間機雷が発射されました」
しばらくして、前方の宙域が光った。
「────全空間魚雷爆発。壊滅しました」
「うむ」
ロゴスキー中将はCB-03の対応の速さに驚いていた。もちろん他のクルー達も。
「艦長!凄いですねCB-03!」
「ああ、噂以上だ」
「こちらも何かしますか?」
「いや、放っておこう。弾の無駄だ」
「了解しました」
「それより1号から3号の準備急げ!」
「了解!」
敵反乱軍艦隊は、サーシャの予想通り再集結を完了後、直ぐに火星軍主力艦隊を包囲すべく左右に展開し始めた。
「立体的な鶴翼の陣」というべきか。そのような陣形に展開するようだ。
「サーシャ司令官より入電です」
「繋げ」
【ロゴスキー閣下、そろそろ時間だ。準備はどうだ?】
「準備は完了した」
【全艦隊に繋いでくれ。オープンで】
「了解しました」
もちろん通信は暗号化によって敵に内容が知られることは無い。しかし、何かしら通信している事。通信の発信源などは判る。
「繋ぎました」
【火星軍主力艦隊の諸君!私はしばらく指揮を任された宇宙航空戦艦CB-03艦長サーシャ大佐だ。これより作戦計画P-4Sを発動する。
この宙域に集結する前の戦闘の事は聞いている。それに現在前方の敵艦隊を見てみろ、見事な艦隊機動だ。敵は強い。
しかし、艦隊機動についてはロゴスキー閣下は全連邦軍で右に出るものはいない。つまり、我々の方が強い!
なあに、敵は多いが恐れることはない。
くだらん理由で宣戦布告も無しに攻めてきた野蛮人だ。そんなことで多くの仲間が犠牲になってしまった。
敵はもはや軍でも宇宙海賊でもない!排除すべき害虫だ!そんな奴らと正々堂々と真面目に戦う必要はない!
でっかい花火も用意した。
敵に考える時間を与えず動き、敵のケツを蹴り上げてやれ!
害虫は駆除しなければならない。殲滅せよ!
さあ諸君!パーティーを始めよう!!
───ロゴスキー閣下。敵旗艦は予想通り左翼の端にいる。作戦に変更はない。それでは後はよろしく頼む】
「了解だ!──全艦隊への回線をこちらに繋げ」
「繋ぎました」
「諸君!ロゴスキー中将だ。これよりサーシャ司令官の命令通り作戦計画P-4Sを開始する。全艦作戦フォーメーションに展開せよ」
火星軍主力艦隊約2000隻は約500隻の4つのグループに別れ、例えるなら「立体的な鋒矢陣」のような陣形になるように移動した。外側に高火力、重装甲の宇宙戦艦を配置している。
ちなみに「鋒矢陣」は正面突破に特に有効な陣形である。
「1号発射準備」
「1号発射準備」
ロゴスキー中将の命令にクルーが復唱した。
1号。
無人となったタルタロス級宇宙突撃駆逐艦をゴルバトフより遠隔操作によって発射するため、クルー達が準備を開始した。
「1号との通信状態良好。データリンク完了」
「エンジンへの回路オープン。エネルギー充填」
「自動航行システム作動。目標敵艦隊中央。自動追尾システムON。ターゲットロック」
敵艦隊は、まだ包囲陣形が形成されていないので、中央部には未だ敵艦が多い。精密にターゲットを絞らずとも問題はない状態であるが、念の為自動航行システムは精密な設定にしている。
「エンジン内圧力上昇中。安全弁全閉鎖。リミッター全解除」
「エンジン内エネルギー充填完了。各セーフティロック解除」
「────最終セーフティロック解除」
「艦長。発射準備完了しました」
「1号発射!」
「エンジン始動!1号発射!」
1号は静かに発進した。
宇宙魚雷として使用するが、現在地から緊急発進する必要はない。
敵艦隊は包囲陣形に展開中で、常に火星軍主力艦隊を監視している。
今から目立つことをして、態々敵にこちらの動きを教える必要はない。
「現在、1号は最大戦速。さらに加速中。フルパワーに移行する」
リミッターを解除し、フルパワー設定での航行のため、通常より加速は速い。
「現在フルパワー。まもなく敵の射程圏内に到達します」
「防御シールド展開!最大出力!」
敵艦隊は、1号が射程圏内に入ってから慌てて迎撃してきた。
宇宙突撃駆逐艦がこの大群の中で一隻でフラフラと行動していたため、偵察程度だと思っていたようだ。
撃破するため、攻撃を開始したが、もともと戦闘艦の射撃システムは、戦闘艦の最大戦速や、艦載機の最大速度を想定しているため、それを遥かに超えた速度(リミッターを解除したフルパワー)で航行する1号を捕捉することができず、撃破どころか、(砲撃などの攻撃を)当てることすら出来なかった。
「1号ターゲットに到達します」
「カウントダウン開始。3、2、1、スーパーチャージャー点火!」
眩い閃光の後、凄まじい衝撃波。そして轟音が響き渡った。
1号は敵反乱軍艦隊の中央で大爆発した。
ロゴスキー中将はもとより、ゴルバトフのクルー達もその威力に驚いた。
「1号の爆発を確認。敵中央部艦隊撃破。敵中央部残存艦、推定約300!」
「全艦突撃!最大戦速」
火星軍主力艦隊は最大戦速で敵艦隊中央部へ突撃を開始した。
「射程圏内に入りました」
「全艦、敵残存艦に攻撃開始!」
敵艦隊は爆発の混乱によって、もはや組織的行動はしておらず、反撃してこなかった。
4つに別れた火星軍主力艦隊によって、敵残存艦は次々と撃破されていった。
「敵艦隊の中央部を突破しました!」
「全艦、重力アンカー作動用意!」
「全艦エンジン停止!」
「艦内重力安定化、動作正常」
「耐衝撃防御」
全艦隊が一斉に重力アンカーを作動させて反転するわけだが、そのタイミングは、ゴルバトフが作動させるとデータリンクによって全艦が同時に作動するようになっている。もちろん作戦計画P-4Sによるプログラムてある。
「全艦、重力アンカー作動!」
全艦が急ブレーキがかかったように停止し、その慣性を利用して艦体を反転させた。
ゴルバトフのクルー達は、重力アンカー作動時が思ったより衝撃が無いことに驚いていた。もちろん他の艦のクルー達も。
これは、艦内が重力安定化によって重力の方向が常に同じで、慣性による衝撃が無効化されたことによるものだ。
むしろ、重力アンカー作動時より姿勢制御時の衝撃の方が少し大きく感じた。
だが、艦体にはかなりの負担がかかっている。しかし、空間跳躍もする艦である。それに比べれば軽微なものだ。
「敵中央部艦隊はほぼ壊滅!右翼残存艦、約1600。左翼約1400。こちらの損害はありません!」
驚くべきことに、この中央突破によって敵約2000隻を撃破したのであった。
「サーシャ司令官よりデータ通信」
「読め」
「『第一次作戦は成功。CB-03は左翼残存艦隊を引き付けておく。速やかに右翼残存艦隊を殲滅して左翼艦隊への攻撃に移行せよ』との事です」
「了解した、と伝えよ」
「了解しました」
「では、右翼残存艦隊を攻撃する。2号発射準備」
「2号発射準備します。目標、敵右翼残存艦隊中央部」
そして、1号と同じプロセスで、2号の発射準備が開始された。
「2号発射準備完了!」
「2号発射!」
2号は1号のようなゆっくりとした発射ではなく、最初から全速で発射し、即フルパワーに移行する。
そして、敵右翼残存艦隊の中央部で大爆破した。
「敵右翼残存艦、約500」
「よし、全艦攻撃準備!敵を包囲殲滅する。宇宙空母の艦載機は全機発艦。敵を包囲。逃走する艦があれば、直ちに撃破せよ!」
こうして、火星軍主力艦隊は敵右翼の残存艦隊の攻撃を開始した。
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