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第4話
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───木星の公転軌道上の決戦から約2年が経過した。
火星、木星間アステロイドベルト(小惑星帯)宙域
───ガベイロス級宇宙戦艦ゴルバトフ───
「後方にワープアウト反応確認!」
火星軍主力艦隊の旗艦である宇宙戦艦ゴルバトフのブリッジ内に、レーダー、索敵担当のクルーの声が響き渡った。
ゴルバトフの艦長が、そのクルーに確認した。
「敵か?」
「分かりません。でもこちらに接近中です.........最大戦速です!」
「何!」
「あ、でも...味方です...あ...これ」
「早く報告せんか!」
「え、あ、はい...艦識別ナンバー...CB-03...宇宙航空戦艦です!」
「あの、戦艦空母かっ!」
「えっ」
「どうした?」
「ロックオンされています!エネルギー確認!撃ってきますっ!」
「緊急回避っ!急げぇぇぇっ!!」
味方であるはずの戦闘艦から強力なビームが発射された。
アルテミス級宇宙航空戦艦CB-03。
数十万隻製造された戦闘艦でたった9隻のみ造られた、文字通り宇宙空母と宇宙戦艦を合わせた性質をもつ艦の3番艦である。
宇宙空母並の艦載機を搭載し、宇宙戦艦並の火力と装甲を併せ持つ、と言えば聞こえは良いが、当然正規の宇宙空母や宇宙戦艦と同等ではない。単純計算で半分。よく言おうが悪く言おうが中途半端なのだ。
それに、この艦は戦闘艦として製造されたものではない。訓練艦として製造されたのだ。
宇宙空母と宇宙戦艦という2つの性質をもつ艦の運用はとても困難である。
命令系統や操艦系統を2つにするわけにもいかない。
どちらかだけ、では艦の意味がない。
とても実戦で扱えるシロモノではなかったのだ。
通常竣工し、軍に引き渡された戦闘艦には名前が付けられる。
例えば、このガベイロス級の宇宙戦艦は「ゴルバトフ」と名付けられ、艦識別No.はBS-042776である。
しかし、訓練艦として製造されたアルテミス級の宇宙航空戦艦には名前が無く、この艦の場合は「CB-03」という艦識別No.で呼ばれる。
製造されたのは9隻なので艦識別No.はCB-01からCB-09である。
(現代の日本では「船舶法」という法律で船の「名前」を登録する事になっているが、ここでの戦闘艦などは艦識別No.で登録する)
このような中途半端な艦が製造された理由には、軍にとってとても恥ずかしい歴史がある。
火星は太陽系内最大の工業国で、戦闘艦の生産数も1番多い。
そして、広大な軍の訓練施設があり、軍の訓練生は基本的に皆ここで訓練を受ける。
士官学校や軍大学もある。
そして、訓練専用の巨大な宇宙港。
戦闘艦及び艦載機の搭乗員は軍の、それぞれ専門の訓練学校を卒業しなければならない。
そこで問題となったのが、男女関係である。
訓練生同士でカップルになることはよくある。
それは別に問題ではない。節度を保てば。
困るのが、訓練中に逢引して、訓練がおろそかになる事だ。
非常呼集に遅刻したり、訓練をサボったり。
まあ、そういう類は厳重注意や謹慎処分、最悪退学処分とすれば良い。
「何をしに来ているんだ」というだけである。
最悪なのは、長距離航海訓練で妊娠して (させて)しまう事。
数カ月の訓練から帰ってきて妊娠して (させて)退学。
ある意味狭い艦内であれば、そういう事もあるだろう。
ある宇宙巡洋艦の長距離航海訓練で妊娠した (させた)者が複数人現れた。
これが大問題に発展した。
「いったい軍は何の訓練をしているのだ?」とご家族達が激怒。
マスコミが嗅ぎつけ社会問題へと発展した。
それはそうである。
ご家族からすれば、ただでさえ危険な仕事で反対したいのに、結果がこれとは。
軍に届けられたのは、多数の抗議文と莫大な慰謝料の請求書と訴状。
軍は、要求された慰謝料を支払うか、裁判で決着をつけるか、選択を迫られた。
マスコミからは、軍の機密事項の全開示要求。
女性にどんな訓練をさせているのか、全てを明らかにせよ、と。
そう。男性のお相手をさせている疑惑が浮上したのである。
軍は大ダメージを受けた。
結局裁判となり、監督者責任が不十分との判決が下され、敗訴した軍には多額の慰謝料の支払いが命じられた。それこそ軍の運営に支障を来すほどの額であった。
軍の機密の全開示、については棄却された。当然である。開示出来ないからこその機密なのだ。当然男性の…などということは無いと立証済みである。
さらに、この問題の再発防止策として決まった、いや、決めさせられたというべきか。
女性専用の訓練艦の製造である。
そして、訓練生同士の恋愛禁止である。守らなかった場合、これは逆に本人及びご家族が損害賠償を請求される側となる。軍の名誉毀損まで含まれるため、悪質な場合裁判となる。
軍は恋愛するところではない、という事を認識させるために、あらゆる事を徹底的に行ったのだ。
もちろんスパイも含めてあちこちに監視の目がある。
入隊時に誓約書も書かされ、そういう事になった人がどうなった、かも教育される。
訓練中に妊娠した者、させた者のその後は悲惨である。
まず、まともな就職先はない。
女性は世間から貞操観念を疑われ、産まれる子供にも影響が出る。
最終的にはこの国(星)を出ていくしかなくなる。
本人の家族の就職や婚姻にも影響が出る。
一家離散も珍しくない。
そういった過程で訓練用として、女性専用艦が製造される事となった。
始めは宇宙巡洋艦と宇宙空母の2種類で考えられた。
しかし、予算が莫大となる。
戦闘艦というのはたとえ小型の宇宙駆逐艦でも莫大な費用がかかる。
そこで考えられたのが、宇宙空母と宇宙巡洋艦を合わせた性質をもつ艦の構想である。
しかし、宇宙巡洋艦ではサイズ的にアンバランスであった。
そして、宇宙空母と宇宙戦艦を合わせた性質をもつ宇宙航空戦艦構想が発案され、決定した。
それは、ヘスティア級の正規宇宙空母とポセイドン級の宇宙戦艦が合体したものであった。
大きくなるのはやむを得ない。
2種類の艦種である。コンパクトに出来るわけがない。逆にコストがかかる。
ガベイロス級の宇宙戦艦が全長約320メートル。ポセイドン級の宇宙戦艦が全長約350メートル
そして、新しく製造されたアルテミス級の宇宙航空戦艦が全長約450メートルである。
あくまで訓練艦ではあるが、大きさは戦闘艦の中でも最大クラスであった。
アルテミス級の宇宙航空戦艦の搭載可能な艦載機は85機。正規の宇宙空母で120機である。
戦闘用の艦載機はツーマンセル2組4機で小隊。小隊3つ12機で中隊。中隊3つ36機で大隊。
つまりこの宇宙航空戦艦は2個大隊、72機の艦載機が搭載可能という事である。
正規宇宙空母は3大隊108機、つまり1個連隊が搭載可能である。
しかし、大きいというのは、実戦では不利になる。
ササクラーエンジンはパワーがあるので問題ないが、やはり小回りはきかない。
そして、実戦では格好の的になる。
大型艦は敵にとっても脅威で、先に潰すべき対象となるのだ。
実際、実戦に出撃したアルテミス級宇宙航空戦艦は、CB-03以外は全て撃破された。
それ以外の残存艦は訓練用に火星基地にある2隻のみである。
CB-03の搭乗員は当然女性のみである。
この艦はこの艦で訓練した者しか扱えないからだ。
そして、現在実戦配備されている唯一の宇宙航空戦艦が、アステロイドベルト宙域に現れたのだった。
火星、木星間アステロイドベルト(小惑星帯)宙域
───ガベイロス級宇宙戦艦ゴルバトフ───
「後方にワープアウト反応確認!」
火星軍主力艦隊の旗艦である宇宙戦艦ゴルバトフのブリッジ内に、レーダー、索敵担当のクルーの声が響き渡った。
ゴルバトフの艦長が、そのクルーに確認した。
「敵か?」
「分かりません。でもこちらに接近中です.........最大戦速です!」
「何!」
「あ、でも...味方です...あ...これ」
「早く報告せんか!」
「え、あ、はい...艦識別ナンバー...CB-03...宇宙航空戦艦です!」
「あの、戦艦空母かっ!」
「えっ」
「どうした?」
「ロックオンされています!エネルギー確認!撃ってきますっ!」
「緊急回避っ!急げぇぇぇっ!!」
味方であるはずの戦闘艦から強力なビームが発射された。
アルテミス級宇宙航空戦艦CB-03。
数十万隻製造された戦闘艦でたった9隻のみ造られた、文字通り宇宙空母と宇宙戦艦を合わせた性質をもつ艦の3番艦である。
宇宙空母並の艦載機を搭載し、宇宙戦艦並の火力と装甲を併せ持つ、と言えば聞こえは良いが、当然正規の宇宙空母や宇宙戦艦と同等ではない。単純計算で半分。よく言おうが悪く言おうが中途半端なのだ。
それに、この艦は戦闘艦として製造されたものではない。訓練艦として製造されたのだ。
宇宙空母と宇宙戦艦という2つの性質をもつ艦の運用はとても困難である。
命令系統や操艦系統を2つにするわけにもいかない。
どちらかだけ、では艦の意味がない。
とても実戦で扱えるシロモノではなかったのだ。
通常竣工し、軍に引き渡された戦闘艦には名前が付けられる。
例えば、このガベイロス級の宇宙戦艦は「ゴルバトフ」と名付けられ、艦識別No.はBS-042776である。
しかし、訓練艦として製造されたアルテミス級の宇宙航空戦艦には名前が無く、この艦の場合は「CB-03」という艦識別No.で呼ばれる。
製造されたのは9隻なので艦識別No.はCB-01からCB-09である。
(現代の日本では「船舶法」という法律で船の「名前」を登録する事になっているが、ここでの戦闘艦などは艦識別No.で登録する)
このような中途半端な艦が製造された理由には、軍にとってとても恥ずかしい歴史がある。
火星は太陽系内最大の工業国で、戦闘艦の生産数も1番多い。
そして、広大な軍の訓練施設があり、軍の訓練生は基本的に皆ここで訓練を受ける。
士官学校や軍大学もある。
そして、訓練専用の巨大な宇宙港。
戦闘艦及び艦載機の搭乗員は軍の、それぞれ専門の訓練学校を卒業しなければならない。
そこで問題となったのが、男女関係である。
訓練生同士でカップルになることはよくある。
それは別に問題ではない。節度を保てば。
困るのが、訓練中に逢引して、訓練がおろそかになる事だ。
非常呼集に遅刻したり、訓練をサボったり。
まあ、そういう類は厳重注意や謹慎処分、最悪退学処分とすれば良い。
「何をしに来ているんだ」というだけである。
最悪なのは、長距離航海訓練で妊娠して (させて)しまう事。
数カ月の訓練から帰ってきて妊娠して (させて)退学。
ある意味狭い艦内であれば、そういう事もあるだろう。
ある宇宙巡洋艦の長距離航海訓練で妊娠した (させた)者が複数人現れた。
これが大問題に発展した。
「いったい軍は何の訓練をしているのだ?」とご家族達が激怒。
マスコミが嗅ぎつけ社会問題へと発展した。
それはそうである。
ご家族からすれば、ただでさえ危険な仕事で反対したいのに、結果がこれとは。
軍に届けられたのは、多数の抗議文と莫大な慰謝料の請求書と訴状。
軍は、要求された慰謝料を支払うか、裁判で決着をつけるか、選択を迫られた。
マスコミからは、軍の機密事項の全開示要求。
女性にどんな訓練をさせているのか、全てを明らかにせよ、と。
そう。男性のお相手をさせている疑惑が浮上したのである。
軍は大ダメージを受けた。
結局裁判となり、監督者責任が不十分との判決が下され、敗訴した軍には多額の慰謝料の支払いが命じられた。それこそ軍の運営に支障を来すほどの額であった。
軍の機密の全開示、については棄却された。当然である。開示出来ないからこその機密なのだ。当然男性の…などということは無いと立証済みである。
さらに、この問題の再発防止策として決まった、いや、決めさせられたというべきか。
女性専用の訓練艦の製造である。
そして、訓練生同士の恋愛禁止である。守らなかった場合、これは逆に本人及びご家族が損害賠償を請求される側となる。軍の名誉毀損まで含まれるため、悪質な場合裁判となる。
軍は恋愛するところではない、という事を認識させるために、あらゆる事を徹底的に行ったのだ。
もちろんスパイも含めてあちこちに監視の目がある。
入隊時に誓約書も書かされ、そういう事になった人がどうなった、かも教育される。
訓練中に妊娠した者、させた者のその後は悲惨である。
まず、まともな就職先はない。
女性は世間から貞操観念を疑われ、産まれる子供にも影響が出る。
最終的にはこの国(星)を出ていくしかなくなる。
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一家離散も珍しくない。
そういった過程で訓練用として、女性専用艦が製造される事となった。
始めは宇宙巡洋艦と宇宙空母の2種類で考えられた。
しかし、予算が莫大となる。
戦闘艦というのはたとえ小型の宇宙駆逐艦でも莫大な費用がかかる。
そこで考えられたのが、宇宙空母と宇宙巡洋艦を合わせた性質をもつ艦の構想である。
しかし、宇宙巡洋艦ではサイズ的にアンバランスであった。
そして、宇宙空母と宇宙戦艦を合わせた性質をもつ宇宙航空戦艦構想が発案され、決定した。
それは、ヘスティア級の正規宇宙空母とポセイドン級の宇宙戦艦が合体したものであった。
大きくなるのはやむを得ない。
2種類の艦種である。コンパクトに出来るわけがない。逆にコストがかかる。
ガベイロス級の宇宙戦艦が全長約320メートル。ポセイドン級の宇宙戦艦が全長約350メートル
そして、新しく製造されたアルテミス級の宇宙航空戦艦が全長約450メートルである。
あくまで訓練艦ではあるが、大きさは戦闘艦の中でも最大クラスであった。
アルテミス級の宇宙航空戦艦の搭載可能な艦載機は85機。正規の宇宙空母で120機である。
戦闘用の艦載機はツーマンセル2組4機で小隊。小隊3つ12機で中隊。中隊3つ36機で大隊。
つまりこの宇宙航空戦艦は2個大隊、72機の艦載機が搭載可能という事である。
正規宇宙空母は3大隊108機、つまり1個連隊が搭載可能である。
しかし、大きいというのは、実戦では不利になる。
ササクラーエンジンはパワーがあるので問題ないが、やはり小回りはきかない。
そして、実戦では格好の的になる。
大型艦は敵にとっても脅威で、先に潰すべき対象となるのだ。
実際、実戦に出撃したアルテミス級宇宙航空戦艦は、CB-03以外は全て撃破された。
それ以外の残存艦は訓練用に火星基地にある2隻のみである。
CB-03の搭乗員は当然女性のみである。
この艦はこの艦で訓練した者しか扱えないからだ。
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