自称マッチョな伯爵令息に婚約破棄された侯爵令嬢は、冒険者になります

みこと

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第5話

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 初心者らしく薬草採取の依頼を受けたディアナ達は草原を歩いていた。

「薬草採取なんて余裕ですね、お嬢様」

「いや、アルディア山脈に行くわよ」

「ええっ、どうしてですか?」

「私はポーション職人よ。もちろん素材の採取」

「でも、アルディア山脈まで行かなくても」

「だって、アルディア山脈にしか無いのよ「星の雫」がね」

「えええっ、あの伝説の薬草!」

「そう、私が作ったことのあるのが上級ポーションまでなの。「星の雫」があれば最上級。つまりエリクサーが作れるのよ」

「はぁぁ」

「どうしたの?」

「アルディア山脈までどれだけ距離があると思っているんですか?このペースだと今日中に帰れませんよ」

「あ、ホントだ。お泊りなんて絶対ダメよね」

「当たり前です!そんなことしたら旦那様に怒られるどころか、冒険者も辞めさせられますよ」

「むむむ、困った」

「んもぅ~仕方ないですね」

「何か方法あるの?」

「あります。でもお嬢様、をあげるかも」

「私を誰だと思ってるの?音なんてあげる訳ないでしょうが!」

「大丈夫ですか?」

「しつこいわね。大丈夫よ」

「じゃ、走って下さい」

「え?」

「だから、走るんです」

「どうして?」

「はぁ、時間が無いからです。それとも諦めますか?」

「むむ、分かったわよ」


 それから二人は走った。それはもう走った。気の遠くなるぐらい走った。

「はぁはぁ、休憩しない?」

「ダメです」

「ああ~もぅ。ひっ、ひっ、ふー。ひっ、ひっ、ふー」

「さぁ頑張ってきましょう」

「はぁはぁ。シノブは元気ね、大丈夫なの?」

「これくらい何でもないです」

「凄いわね」

「お嬢様も身体強化魔法を使えばいいじゃないですか?」

「馬鹿ね。あれは魔力の消費が激しいのよ。持って一分くらいかしら」

「使えねー」

「何か言った?」

「いえ、何でもありません」

 まだまだ走る。それでも走る。やっぱり走る。

「ひっ、ひっ、ふー。ひっ、ひっ、ふー」

「ひっ、ひっ、ふー。ひっ、ひっ、ふー」

「ひっ、ひっ、ふー。ひっ、ひっ、ふー」



「ストップです!」

「え?」

「あれ見て下さい」

「...............川」

 目の前には幅100メートルくらいの川があった。

「レーリナ川ですね」

「橋は無いの?」

「ありませんね」

「どうするの?」

「私は水遁すいとんの術がありますけど、お嬢様は泳ぐしかないですね」

「げっ、しかしこんな大きな川、どうして地図に載ってないの?」

「ここまで来る人がほとんどいないからですね」

「とほほ」

「諦めます?」

「諦めないわ!絶対!!」

「じゃ」と言って、シノブはどこからなのかスクール水着を取り出してディアナに渡した。

「スク水じゃん。てかどこから出したのよ!」

「そんなこと言ってる暇ないですよ、早く着替えてください」

「あ、はい」

 で、着替えたのはいいのだが...

「これ何?」

「何とは?」

「いや「2年3組 しのぶ」って胸に書いてある、白い布」

「気にしないでください。お約束ってやつです」

「はぁぁ、まぁいいわ。行きましょう」

 ざっぱぁーん

 トントントンと水の上を歩くシノブの横で...

 バシャバシャ、ハァッ、バシャバシャ

 バシャバシャ、ハァッ、バシャバシャ

 ディアナは泳ぐ。でも泳ぐ。やっぱり泳ぐ。

「キャ」

 ブクブクブク

「あっ、お嬢様ぁ」

 シノブは沈んでいくディアナを引き上げた。

「ぷはっ、足がつったわ、死ぬかと思った」

「はいはい、行きますよ」

「鬼か!」

 バシャバシャ、ハァッ、バシャバシャ

 バシャバシャ、ハァッ、バシャバシャ

 またまたディアナは泳ぐ。でも泳ぐ。やっぱり泳ぐ。

 ようやく対岸に着いた。

「ぜぇぜぇぜぇ」

「頑張りましたね!」

「貴女はトントンって歩いただけよね」

「お嬢様も忍術習いますか?」

「いや、遠慮するわ」

「そうですか」


「ここからは森ですね。魔物注意ですよ」

「貴女、よく分かりますね」

「はい!忍者ですから」

「あっそ」

 もうどうでもよくなったディアナであった。


「あ、お嬢様、マッチョゴブリンです」

「ファイヤーボール」

「あ、マッチョオークです」

「アイスジャベリン」

「あ、マッチョオーガです」

「マッチョファイヤーボール」

 どっかぁーん!!!

「ちょ、ちょっと待って」

「何なの?マッチョゴブリンとか、マッチョオークとか、マッチョオーガって?」

「何なの?と言われましても...そういう種族というか、魔物というか...」

「そういうものなの?」

「はい、そういうもの、としか...私が決めた訳でもないですし...」

「...じゃ、仕方ないわね」

 無理やり納得し...

「あれ?」

「どうしたのですか?お嬢様」

「えっとね、まぁ見てて」

「ファイヤーボール」

 ドンッ!

「マッチョファイヤーボール」

 どっかぁーん!!!

「.........これって」

「そう、マッチョって詠唱をつけると威力があがる、さらに消費魔力も少なくなる」

「すごいじゃないですか、お嬢様!必殺技です!マッチョです!」

「えへへ」

「って、そんな強力なのが必要なのかは疑問ですが...」

「あっそ」



「で、ここは?」

「いわゆる断崖絶壁ってやつですね」

「迂回ルートはないの?」

「あると思いますよ。3日くらいかかると思いますが」

「登らなきゃ、だよね...」

「はい、登らなきゃ、です。何故かというと、そこに崖があるから!です」

「はいはい、登ればいいんでしょ、登れば」

「さっきはお嬢様に魔法使ってもらいましたから、つぎは私が」

「忍法?」

「はい、「忍法木登りの術」の応用で「忍法崖登りの術」で先に上に登ってロープを降ろしますから、お嬢様はそれで登ってきてください」

「貴女、便利ね」

 シノブはトントントンと崖を登っていった。

「お嬢様ぁー!ロープ降ろしますよぉー!」

 ロープが降りてきた。

「はぁ、これを登るのね」

「んぎぎ」ギシギシ

「んぎぎ」ギシギシ

「んぎぎ」ギシギシ

「ふぅーしんどい」

「お嬢様ぁー頑張ってくださぁーい」

「くそぅ、鬼め!」

「んぎぎ」ギシギシ

「んぎぎ」ギシギシ

「んぎぎ」ギシギシ

「はぁはぁ~やっと...登った」


「はぁ~いドンドンいきますよぉ~」

「あああ、ちょ、ちょっと待ってぇ~」

 二人はずんずん歩いていった。



「ここは?熱っ」

「溶岩地帯ですね」

「げっ、熱っ、熱っ」



「ここは?」

「暴風地帯ですね」

 びゅぅぅ~



「ここは?」

「いわゆる砂漠です」

「水、みずぅ~」



「ここは?」

「豪雪地帯です」

 びゅぅぅ~

 うとうと...

「あーお嬢様ぁ寝ないでくださぁーい」




「はぁはぁ、ぜぇぜぇ...もう...ダメ...」

「お嬢様ぁ~頂上ですよ」

「はぁはぁ...あ、あれは...」

 ディアナは見た。頂上に...たった一株...

「見つけた...星の雫...」

 バタン!!

 ついに力尽きたディアナであった。

「お嬢様ぁぁ...さまぁ...まぁ...まぁ...ぁ...ぁ...」

 目の前に広がるアルディア山脈にシノブ声がこだました。
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