1 / 6
第1話
しおりを挟む「ディアナ、貴様との婚約は破棄する!」
「はぁっ?」
何故かフロントリラックスのポーズをとりながら、婚約破棄宣言をしたのはヴォルフ伯爵家嫡男、カールです。
残念ながら、彼は私、シュナイダー侯爵家次女、ディアナの婚約者です。
「だから婚約を破棄すると言ったのだ!」
2度言わなくてもわかるわ!というをグググッとこらえました。
ぶっちゃけめんどくさいからです。
「あのぉ~別に婚約破棄は良いのですが、お父様やヴォルフ伯爵はご存知なのでしょうか?」
「はああ?何を言ってるんだ!次期伯爵家当主の俺様が良いと言ったら良いのだ!」
「そうですか...」
というのは、この婚約は完全に政略的なものだからです。
シュナイダー家は国内で3本の指に入る大手、アルト商会を経営しています。
一実は私、元日本人の転生者なんです一
私が前世の記憶を思い出したのが10歳の時。それからはお父様に様々な日本のアイディアを提案して「それは画期的だ!」ということで、新商品を次々に開発し、元々中堅商会であったアルト商会は瞬く間に成長したのでした。
まぁ前世を思い出してから、この世界のものが非常に不便だった、というのが本音なのですが...
このアルト商会はいわゆる総合商社で、傘下の商会を束ね、様々な事業を手掛けています。
(子会社とならないのは、この世界には株という概念がないからです。しかし、傘下となった以上は庇護を受けるかわりに売上に応じた金銭の支払いが契約によって義務付けられます)
カールの実家であるヴォルフ伯爵家はナイス商会を経営しており、アルト商会の傘下でもあります。
ナイス商会は、領地に鉱山があり、アルト商会の鉄鋼部門です。
ヴォルフ伯爵の先々代が優秀で、元々子爵であったのが、様々な功績をあげ、一代で伯爵に陞爵したのでした。
しかし「三代目が会社を潰す」とはよく言ったもので、現当主であるザイトスに代替わりしてから、その無能ぶりによって業績はみるみる下がり、傘下としての支払いも滞り気味で、アルト商会としても看過出来ないものとなっていました。
しかし、いくら傘下で格下とはいえ、他の貴族家の細かい内政まで口を出すことはできません。
そこで私とカールの婚約が決定したのでした。その時ディアナ14歳、カール15歳。
お父様としては私に、ナイス商会を立て直してもらおう。という魂胆らしいです。
現在、ディアナ16歳。
カールは父親譲り、いやそれ以上の無能で、さらに傲岸不遜を絵に描いたような人物でした。
「貴様が侯爵令嬢だからといって偉そうにすんなよ!この国ではそういうのは禁止だ!」
「はぁ」
確かにこの国では、権力を振りかざすのは禁止されています。が、それはあくまで理不尽な要求であったり、非合法なことを強制することであって、決して格上の者に理由もなく逆らったり、暴言を吐いてもいい、というものではありません。このバ...カールはそこを履き違えているのでした。
「それで婚約破棄の理由は何でしょう?お父様にも報告しなければならないので教えてください」
ふん!と何故かフロントラットスプレットのポーズをするカール。なんだコイツ...
「それはお前の体が貧相だからだ!マッチョな俺様には相応しくない」
「え、ええっ」
思いもよらなかった理由に私は絶句してしまいました。
確かにカールは大きな体躯をしています。しかし鍛え上げられたというよりは、肥満というのがぴったりだと思うのですが...
「それに比べてヘレナはいい。素晴らしい体だ。俺は彼女と婚約する!」
カールがヘレナと親しくしているのは気づいていました。
ヘレナはシュバルツ子爵家の令嬢で、確かにふくよかな身体をしていました。
「それは私という婚約者がいながら、浮気をしたということでしょうか?」
ここは大事です。責任の有無をはっきりしなければいけません。
「浮気ではない、真実の愛に目覚めただけだ」
でたぁぁぁ~「真実の愛」マジ馬鹿かこいつ。
「いや、それを浮気というのですが...」
笑いをこらえるのが必死でしたが何とか話すことができました。
「うるさい!うるさい!うるさい!浮気ではない!」
これは何を言っても駄目そうです。
「分かりました」
「フン!分ればいいのだ。俺様は次の「マッチョ競技会」に出る。がはは...この体なら優勝間違いない。ヘレナは前回20位だったらしいからな。彼女こそ私に相応しい」
一マッチョ競技会一
これは20年ほど前から流行りだした競技会で、恐らく私と同じ転生者が提案したのでしょうね。
それまでは、「武術大会」が主流だったのですが、怪我人が続出するため、「野蛮な競技」としてその時の国王が禁止したのです。
提案した転生者は、もちろん「ボディビル」を提案したのでしょうが、この世界の人々が正しく理解出来るわけもなく、審査基準も現代とは異なるのでしょう。
娯楽の少ないこの世界なので、貴族社会で爆発的な人気となり、その競技会に出場することは一つのステータスとなっていました。それにより平民に参加する資格はありません。
さらに10年ほど前からは、女性も参加出来るようになりました。
当たり前ですが、男性と女性は別会場で実施され、異性の立入は禁止です。
「ヘレナさんは出ているのですね」
「そうだ、貴族の令嬢として当たり前だろう。まぁ貧素な貴様は出る資格もないだろうからな。ガッハハハ」
女性で競技会に出るのは、ほぼ下位貴族だけなんだけどなぁ~それも無理矢理。
そう、普通女性はそんな競技会には出たくない。しかし、下位貴族にとっては派閥の高位貴族からの要請であったり、商会を経営している家では宣伝になります。
恐らくヘレナさんも家のためにいやいや参加したのだろう。
カールはそれが分からない。だって自分は間違えるはずはないと思っているのだから...
「とりあえず、婚約破棄の件了承しました。そのように進めますがいいですね」
「だからいいって言ってるだろうが!早くしろ!」
「分かりました」
そして、カールは帰って行きました。
「私もあんなデブは嫌いだわ。やっぱ細マッチョの方がいいわね」と、ポツンと独り言。
「お前もマッチョに興味あるんかい!」と突っ込まれそうですが、そりゃあね、どうせなら...
24
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

通称偽聖女は便利屋を始めました ~ただし国家存亡の危機は謹んでお断りします~
フルーツパフェ
ファンタジー
エレスト神聖国の聖女、ミカディラが没した。
前聖女の転生者としてセシル=エレスティーノがその任を引き継ぐも、政治家達の陰謀により、偽聖女の濡れ衣を着せられて生前でありながら聖女の座を剥奪されてしまう。
死罪を免れたセシルは辺境の村で便利屋を開業することに。
先代より受け継がれた魔力と叡智を使って、治療から未来予知、技術指導まで何でこなす第二の人生が始まった。
弱い立場の人々を救いながらも、彼女は言う。
――基本は何でもしますが、国家存亡の危機だけはお断りします。それは後任(本物の聖女)に任せますから

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~
夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。
「聖女なんてやってられないわよ!」
勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。
そのまま意識を失う。
意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。
そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。
そしてさらには、チート級の力を手に入れる。
目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。
その言葉に、マリアは大歓喜。
(国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!)
そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。
外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。
一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜
ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。
護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。
がんばれ。
…テンプレ聖女モノです。

婚約破棄され森に捨てられました。探さないで下さい。
拓海のり
ファンタジー
属性魔法が使えず、役に立たない『自然魔法』だとバカにされていたステラは、婚約者の王太子から婚約破棄された。そして身に覚えのない罪で断罪され、修道院に行く途中で襲われる。他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる