メイド侯爵令嬢

みこと

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6 4ヶ国同盟、国際親善パーティー

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 4ヶ国軍事同盟、軍事会議後の親善パーティーが、開催される。
 エルクラド王国の立場はとても低い。ここで全力で親交に努め、信頼を得なければならない。

 参加国はエルクラド王国はもとより、隣国オルレア王国、ルシランド王国、マロン王国である。
 中でも、現在緊張状態にあるオルレア王国とは絶対に関係を改善しなければならない。

 後は、現在国交がないマロン王国。シュナイダー商会も進出していない。
 その技術力は是非取り込みたいのだが、関係の深いルシランド王国に対して、抜け駆けのようなマネはできないからである。

 参加者は、王族、軍関係者、外交官とそれらの従者が主である。
 オルレア王国は、残念ながらエルクラド王国への信用がないためか、明らかに護衛が多い。



 開催国であるエルクラド王国国王の宣言で4ヶ国同盟、国際親善パーティーは開催された。

 とは言っても舞踏会ではないので、もちろんダンスなどはない。
 小規模の楽団が静かなBGMを流している程度である。

 当然国によって言語は異なるのだが、このような場合、共通語が使用される。
 もちろん貴族学園での外国語でも必須科目である。

 しかし、立場が低い場合は相手の言語に合わせるのが礼儀であろう。
 より信頼も得やすくなる。

 エルクラド王国とオルレア王国とはほとんど違いはないので問題はない。
 商人の国であるルシランド王国は言葉など壁にもならない。

 問題はマロン王国である。
 独自の言語で、他国でマスターしている人は殆ど居ない。

 ルシランド王国なら問題ないと思えるが、ホスト国が通訳をお願いするのもおかしな話だ。
 しかし、ここで無理をしても仕方がない。共通語でなんとかするしかない。




 シュナイダー侯爵はイライラしていた。

 お願いする立場であるエルクラド王国の王家は、自国のパーティーのように上座にふんぞりかえっているのである。

 外交官を除けば、動いて歓待しているのは宰相とその側近に連れられた軍関係者と通訳に志願したローズだけである。

「相手は王族も来て居るんだぞ!」と叫びそうになった。

 それに引き換えローズはよくやっている。

 オルレア王国の王族に、おなじみギード茶を振る舞っていた。完璧な淹れ方で。
 おかげで、オルレア王国の王族も少しは緊張感が溶けたようだ。

 気に入られたのか、オルレア王国の王妃陛下がニコニコとローズと話している。
 実はエルクラド王国の王族の悪口を延々と聞かされているのだが...

 宰相はルシアンド王国と歓談中である。
 ルシアンド王国は、シュナイダー商会との取引の安定化を仲介する事で、信頼が得られそうだ。

 マロン王国の王族は、食文化が異なるため、苦戦していた。
 ローズが、食べやすいように切り分け、食べ方も教えているようだ。

 マロン語で話しているのだろう。今まで動かなかった軍関係者までが色々な質問をしているようだ。
 これだけでも今日の成果がある、と言えるだろう。


 もし、ローズが居なければ、このパーティーは大失敗に終わっていたかもしれない。
 なんとローズはオルレア王国とマロン王国、両国からの信頼を獲得していたのである。

 複雑な気持ちではあるが、連れて来て良かったと本当に実感するシュナイダー侯爵であった。




 少し手が空いた時に、ローズはふと壁際を見ると、どこかの国の王女殿下であろう少女が一人で佇んでいた。
 ローズはどうしても放ってはおけず、そっと近づいていった。


「こんばんは」
「コンバンハ」

 共通語がぎこちない。

「ゴメンナサイ...コトバニガテ...ワタシ、ユミコ...マロンカラキタ」
「『こんばんは、私はローズと申します。ユミコ王女殿下、ようこそエルクラド王国へ』」
「『あら、マロン語がお上手ですね』」
「『マロン語は美しいので好きですよ』」
「『まあ!』」

 暗い顔をしていたのが嘘のように、パアっと明るくなった。

「『どうしてこのような所で一人で居たのですか?』」
「『実はお料理をこぼしてドレスが汚れてしまって...』」

 彼女も王族である。パーティーの食事中にそういった事がどれほどマナー違反なのか十分知っているのだ。
 自国ならまだしも、他国の王族もたくさん居る中での失態。
 恥ずかしくて逃げてきたのである。

「『あら大変ね、ちょっと待ってくださいね』」

 一応確認しておくが、ローズも今は完璧な令嬢のドレス姿である。
 どこから出したのか、シミ抜きセット。メイドは準備を怠らないのだ。

「『動かないでくださいね』」

 ドレスについたソースを綺麗に拭き取って、汚れた箇所をクリップのようなもので張り、霧吹きのようなスプレーでシュッ、シュッ。
 パンパンと叩いて、もう一度シュッ、シュッ。
 コットンにシュッと吹きかけて、トントントントントントン。

 ユミコ王女はまるで魔法を見ているようだった。
 着替えるしかないほどの汚れが、嘘のように綺麗になっていくのをポカンと見ていた。

「『よし!』」

 ドレスはまるで何事もなかったように綺麗になっていた。

「『あ...ありがとう...ございます』」
「『さ、早く戻りましょ。ご家族が心配しているわ』」
「『何かお礼を...』」
「『メイドにお礼なんて必要ありませんよ』」
「『え?ローズさんってメイドなんですか?』」
「『そうですよ。侯爵令嬢は...まぁ副業ですね』」

 いやいや、侯爵令嬢が本業だから!
 思わず突っ込んでしまった。

 そして、会場へ戻ろうとして、ユミコ王女の手を取ると...

「『あれ?』」

 ガサガサなのである。王女が肌の手入れを怠るとは思えない。

「『あっ!すみません。私、肌が弱くて...その』」
「『なるほど』」

 何度も確認するが、ローズも完璧な令嬢のドレス姿である。
 手にしたのが...

 ローズが開発したハンドクリーム!

 貴族令嬢とメイドでは、その肌質には決定的に差がでる。当たり前だ!
 その正反対の無茶を両立するために、キャロルの頭脳で製薬の知識も引きずり出して完成させた奇跡のハンドクリームを、どこからともなく取り出して...

「『ユミコ王女殿下、手を貸してください』」

 ユミコ王女が恐る恐る手をだすと、クリームをひょいと指に絡め...

 ぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬり

 指と指の間も丁寧に。

 ぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬり

 腕の見えているところまで。

 ぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬりぬり

「『さぁ、どうです?』」
「『わあぁぁ』」

 流石にご令嬢の手、とまではならないが、少なくともじっくり見ないと分からないほどスベスベに。
 保湿成分によってキラキラしている。

「『このハンドクリームはこの国で売っているのですか?』」
「『あ、これは私が作ったものです』」
「『えっローズさんが...』」

 また魔法だ。ユミコ王女は本当にそう思った。

「『今作ってあるものを、おみやげにお渡ししますね』」

 在庫も全て持参している。流石にドレスの中ではないが。それがローズクォリティー。

「『ありがとうございます』」
「『後でレシピを差し上げます。マロン語で書きますね。マロン王国の技術力なら作れると思いますよ』」
「『本当にありがとうございます』」
「『あ、でもレシピは売ってはいけません。マロン王国の特許とかは分かりませんが、もし売れたらレシピごと持っていかれていしまいます。
 他国に売られたらもうユミコ王女殿下の手に入らなくなったり、法外な価格で売りつけられるかもしれません。それが商人なのです。
 だから信用できる商会と相談して、レシピの権利は必ずユミコ王女殿下のものにして下さい。
 そして、売上げの何割かをユミコ王女殿下に支払うようにするのです。私の国ではライセンス契約といいます。うふふ、ガッポリ儲けちゃってください』」
「『うふふ』」

 まるで、「お主も悪よのぉ」「ユミコ王女殿下こそ」というセリフが聞こえそうな、二人の笑みであった。

 ユミコ王女が帰国時に、約束通り在庫のハンドクリームとレシピを渡し、もし肌に合わなければ即中止するよう念を押して、化粧水と乳液(ローズ製)も渡しておいた。
 このハンドクリーム、化粧水と乳液が、技術王国であるマロン王国の化粧品業界を震撼させることになるのだが、それはまだ少し後のお話。

 このおみやげが、今回の国際会議で最高の物であったのは言うまでもない。



 こうして、なんとか第1回の国際会議は無事に終了した。

 この国際会議中、ニヤニヤした気持ちの悪い目で、ローズを見ていた、エルクラド王国、エリック王太子の視線をずっと不快に感じていたローズであった。
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