メイド侯爵令嬢

みこと

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1 メイド侯爵令嬢

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 メイドの朝は早い。

 まだ、陽が昇る前にムクっと起き、洗顔を済ますとパパっとメイド服に着替え、髪を纏め、トンッ!と足早に玄関から外へ出る。
 専用の箒とちりとりを持ち、それらを使いながら玄関脇の外を掃く。
 そして、玄関脇の外の壁、特に下側を丁寧に拭く。

 この部分というのは、高位貴族でもなかなか手入れが行き届かないのであるが、この部分が綺麗かどうかでかなり外観が違ってくる。

 そして扉、もちろんドアノッカーまでピカピカに仕上げる。

 次は玄関ホール。
 ここはかなり大変である。
 靴を脱ぐ習慣はないが、ここで部屋用の靴(スリッパの豪華なようなもの)やアンティークの下駄箱のようなものがあり、高価な調度品も飾られている。
 これらを磨くには、それなりの知識が必要であるが、当然のようにものすごいスピードで磨き上げる。
 玄関ホール下も勿論大理石のようなものが敷き詰められている。

 そして、各部屋への廊下。
 彼女特製のワックスでピカピカに磨き上げる。物凄い速さで。

 ここまでが、彼女のハウスメイドとしての役目である。
 出来栄えは王宮、いやそれ以上だ。

 そして、何故か寝衣に着替え、ベッドに...


「お嬢様、朝ですよ、起きて下さい」
「は~い」
「ああああああっ」
「どうしたの?リーナ」
「どうしたの、じゃありません。髪を結ったままじゃないですかぁ~」
「ああ、早朝のハウスメイドのままだった」
「ちゃんと解いて下さい」
「どうせまた結うのだからいいじゃない」
「そういう問題ではありません、私の仕事です」
「めんどくさ...」
「なんですか?」
「何でもありません」

 そう、彼女がメイド令嬢。ローズ・シュナイダー侯爵令嬢なのだ。

 ちなみにリーナはローズのレディースメイド。没落した元子爵家の次女である。


 どうしてローズがメイドをやっているのかといえば、彼女は転生者なのである。
 彼女の前世は、かの伝説のスーパーメイド!キャロル・ヴァネッサなのである。

 キャロル・ヴァネッサ。
 元々はある伯爵家のメイドであったが、その手腕でその家を侯爵位まで陞爵させた。
 それに目をつけた王家が王命で王宮メイドとし、あろうことか王妃付きレディースメイドとしたのである。そう、王妃の泊付けのためだけに。

 彼女の手腕は一般のメイドからスケジュール管理、財務、領地経営まで多岐に渡り関与することで発揮する。決して一つの専門職で満足するわけがないのだ。
 そして、ある日キャロルは姿を消した。

 同じくローズも王家だけには嫁ぎたくない。これはシュナイダー侯爵との絶対の約束なのだ。
 家格は問題ないのであるが。
 もし、そのようなことがあれば、キャロルと同じように姿を消すだろう。父親とも書簡で契約しているくらいなのだ。
 ローズは、できれば子爵家くらいに嫁ぎたいと思っている。誠実な相手なら。


 どうしてローズがこのようなメイドをしているのかというと...

 キャロルの記憶が蘇ったのが8歳の時。
 もちろん「メイドになりたい」と父親に願い出たが、却下された。

 しかし転機が訪れる。

 ローズが10歳の時、父親の執務室でメイドのマネごとをしていた時、偶然財務資料を見つけた。

「お父様」
「何だ?」
「領地の小麦の出荷量と売上高がおかしくない?」
「え?」
「ほんの少しだけど出荷量が減ってるのに 売上高が上がってる」
「そうだな」

 それは、ほんの少しの差異だった。ローズに指摘されないと気にも止めないような。
 小麦はこの国の主食で価格が変わる事はない。よほどの不作などの事態がない限り。
 シュナイダー侯爵が過去の状況を調べると、明らかにおかしいことが分かった。

「横領か...」

 こうして、小麦の担当をしているアーネル子爵の不正が明らかになったのである。

 シュナイダー侯爵家は、領地経営はもとより、シュナイダー商会を経営している。
 国内で最大のこの商会は国外でも大きな影響力がある。
 領地の売上高は、この商会に比べたら微々たるものではあるが、そういった背景もあり、不正にはとても厳しい。

 不正を行ったアーネル子爵には厳しい処分が下され、一時的に長男が後を継いだが、後に子爵家は没落した。通常この程度であれば、このような事態までにはならないのだが、シュナイダー侯爵領での不正は他の領地に比べ、そこに住まう者たちにとっては許されない事だったのである。
 ちなみにリーナはアーネル元子爵の次女である。

 このことで、ローズはシュナイダー侯爵に認められ、褒美としてメイドをすることを許されたのだった。
 当時シュナイダー侯爵は、ローズの一時的なワガママ程度に思っていたが、後に本気であったことが分かり、頭を抱えたという...

 こうして、メイド侯爵令嬢、ローズが誕生したのであった。
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