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彼女も別次元の規格外

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 ジャガー諸々含め、銀虎族との死闘を繰り広げたあとの片付けをする必要があった。

 まず気絶させている彼らをかき集めなければならない。



「ジャガーとリナは一緒に行動して、散らばった人を探してくれ。俺はちょっとコイツに用がある。」

「そういえば、そのサキュバスは?」

「今回の事件の原因だ。」

「なっ!?」



 ジャガーが睨むようにリアベルを見る。

 そりゃそうだ、家族の敵である人物が目の前に居るのだから。



「お前の考えることはわかるけど、先に情報を搾ってからだ。そのあとは煮るなり、焼くなり好きにしろ。」

「分かりました。」



 思ったよりも聞き分けが良い。リナにも話したがそこまで気にした様子ではなかった。



(亀甲縛り、真っ赤になった臀部、間違いない。ボスの獲物だ。)

 ジャガーはジャガーでリアベルをボスの性奴隷かなにかと勘違いしています。



(陛下はハーレム狙い?)

 リナもリナでとんでもない勘違いをしています。



「では失礼します。リナ行くぞ。」

「ボスのプレイを観察したい。」



 無言でリナを抱えたジャガーはそのまま彼方に消えていった。







 まずはリアベルを起こさなければならない。

「おい、起きろ。」

「起きてます。」



 いつ目を覚ましていたんだ?



「貴方が銀虎族のジャガーという青年と合流したときからです。」



「もし安易に意識があれば、何をされていたか分かりませんから。」



 リアベルは既に自分の状況を理解していた。30分ほど前までは自分より年下の子供に尻を叩かれて嬌声を上げていた変態だが、彼女は優秀なのだ。

 意識を取り戻してからは入念な情報収集に努めていた。自分のスライムの有様、銀虎族の憎悪の状態、そして目の前にいるカイザーの規格外の力を。



 集団で襲ってきた銀虎族を蹂躙するこの鬼族の少年だけは油断ならない。

 しかし同時に、この少年を御すことが出来れば自分の生存率も高くなると。



 彼女の明晰な頭脳は常人の何十倍ものスピードで回り続けていた。



「取引をしませんか?」

「取引?」



 カイザーの力は規格外だが、頭脳面では私が勝っているという絶対の自信がある。リアベルは優秀であるとともに傲慢な女でもあった。

 天才的な頭脳に、絶世の美貌、そしてサキュバスの中でもその上位種族であるサキュバスクイーン。

 生まれながらの才能に血筋、全てを兼ね備えていると自負している。そう、自分は天才なのだ。(2回目)



 こんな子供に尻たたきをされたなど全く以て気に入らない。新たな世界を開きかけたのも全て過去にした。今度は私の頭脳でこの子供をコテンパンに泣きわめくまで、負かしてやる。



「そう取引よ、坊や。」

「カイザーだ、しばき回すぞ馬鹿が。」

「すいません、調子に乗りました。」



 早速無意識な上下関係が明らかになってしまった。尻たたきによる痛みで本能が屈服してしまっている。いや、勝負はこれからだ。

 足の部分まで下げきった頭を恐る恐る上げながら、カイザーの様子をうかがう。大丈夫だ、顔を見る限り温厚に見える。



「と、取引をさせていただけませんか?カイザー、様。」

「………話していいぞ。」



 よし、許可は取った。もうあとはこちらのものだ。



「私が作ったスライムをご覧に頂けたかと思います。私を生かしていただけるならば、貴方のためにその手腕を振るいます。」

「………。」



「貴方の行動を見る限り、戦力の拡大を目的に動いているようですが、その上でも私ならばお役に立てるのかと思うのですが。」

「………。」



「もちろん、夜の方でも活躍するかと。」



 体をカイザーに寄せながらささやくようにつたえるリアベル。

 それに対してカイザーは、







「万年処女が見栄を張るなよ。」







 空気が、いやリアベルのみがその場で凍り付いた。

 明晰な頭脳も時が止まったかのようだった。



「サキュバスクイーンとして生まれながら、男の精をとることが出来ないお前はただ逃げるように研究に没頭していただけだろ?」

「な、なんで。」

「精というエネルギーを効率よく奪おうとした結果、生まれたのがあのスライムだ。」



 カイザーの全てを見透かすかのような視線はリアベル自身に突き刺さるように見えた。私以外知らないこともこの少年は知っている。

 未知の恐怖だった。今まで抱え込んでいたものを暴かれる。



「その上で言うが、今お前を生かしておく理由があるかを教えてくれ。」



 そして選択を押しつけられる。先ほど話したメリットは彼にとって何の価値もないことは理解できた。その上でのメリット。

 戦力も臨んでいない。夜のお相手でもない。その上で導き出したリアベルの答えは、



「知識があります。」



 自分の最大の長所を生かすことだった。

 彼女は優秀だ、彼が何を求めているかをある程度予想する。



「見た限り、カイザー様はある一定の知識、答えを持っていても、見識が浅いように思えました。」



 今まで観察していたカイザーの情報を集めながら、再び思考を加速させた。私という人間を知っている。

 誰も知らないはずの未知の情報を得ていながらも、他の一般的な、常識に対しては詳しくないことが多かった。



 その僅かな矛盾に違和感を持った。



「確かに貴方は未知の情報を知り得ていますが、それだけです。私の過去という答えの情報をたまたま持っていて、それ以外の知識はないと思われます。」



 自分で言っているのに、意味が分からない。



 しかしコレが答えだ。少なくとも私の頭脳はこれが答えだと導き出した。ならば、それだけだ。仮に間違っていても、私がこの世で唯一信じているのは己の頭脳だけだ。



 間違いはない。



「私が貴方の傍に居れば、その知識を補えるかと思います。」



 もう最初持っていた傲慢さはない。しかしプライドはある。規格外の怪物に対して自分が出来る事は、同じく規格外であると自負しているこの頭脳を証明するのみ。







 僅かなお尻のうずきを隠しながら、そう考えるリアベルだった。



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