上 下
4 / 19

冤罪というのは周りの視点で決まる

しおりを挟む
 森の中から出ようとしていた。

 しかし、



「やっぱり森の中に籠もってたから匂いとかあるかな?」



 元現代人の俺としては、異世界になかなか対応できず、かつての現代を思い出すとどうしても気になってしまう。森から出る前に、近場にある川か、池を探すために森を彷徨っていた。

 思えば森に入ってからレベルを上げることと、食事を取る以外のことをしていない。いつから俺は半野生人になってしまったのだろうか。

 元の紳士的な(自称)オーガに戻るために水浴びをしたいが、もちろんそんなものは見つからない。水分も魔獣などから取っていたため、気にする必要も無かったがこんなことになるなら場所を把握しておけば良かったと後悔しつつも、足を進める。











【???Side】



 二体の魔人がオーガの村に向かっていた。

 ばれるはずがない、ゾルディスは確かに追っ手をまく際に、己の得意とする幻惑の魔法を辺りにばらまいた。確かにごまかすことは出来たが、それは雑兵のみ。

 魔王軍にいなかったはずの四天王はそれに気付いた。

 新たに魔王を襲名したランドが連れてきた二人はすぐに四天王に就任した。もちろん、一悶着あったがすぐに納得もした。

 ただ、強かった。

 魔族にとって、強さはほとんどにおいて優先される基準。特にランドが魔王になったことで其の風潮がより強くなっていた。



「それにしても、うちの馬鹿殿はどうにかならねぇのか?雑用も政治も全部部下に任せている割には、少しのミスで殺されてるんだが。」

「………馬鹿だから仕方ない。」

「あのでかい頭には何も詰まってねぇんだろうな。」



 一人は比較的一般より背の高い男性。しかしその肉体から見られる歴戦の痕、そして迸る魔力の大きさからただ者でないことは予想できる。

 もう片方、男の声に言葉少なに返事を返す、体をローブで覆った人物。

 顔は中性的であり、絶世の美男子にも見えるし、美しい美女にも見える。声は高いがどこか凜々しさも感じるので、なんとも言えない。ローブで体型を隠していることからもより謎が深まる。



「まあどうせ後で鞍替えすればいいだけの話だけどな。」

「………イエス。」



 なんであんな小物に俺たちが付き合わなければならないのか。

 強者とされる魔王を軽蔑しながら、二人は歩く。



「森を突っ切って行く方が早くないか?」

「………悩む。」



 目の前にある森、深淵の森。ここら一体に住む者なら誰でも知っている森、危険な魔獣が縄張りを維持しているので中々近づくことが出来ないとされる。

 しかし、



「まあ、急いで突っ切れば奥のにも気付かれないだろう。」

「………囲まれたら、面倒。」



 二人には関係なし。森の中で自分たちと渡り合えるものは限られている。それに突っ切るだけならスピードで押し切れる問題だ。深淵の森の主の怒りを買うようなことをしなければ問題は無い。



「………?兄さん、気配。」

「ん?魔獣じゃないのか?」

「人。」



 自分よりも索敵能力に関しては優れている妹が言うなら間違いないが、それが何者かという問題が出てくる。深淵の森、低位の魔人ならば逆に獲物として扱われる危険区域に指定されている。

 少なくともそこから生還できるだけの実力があるのは確かだ。敵か味方は分からないが。

 万が一に備えて、身構えだけはしておく。



「やっと出れた~。」



 森の中から出てきたのは、一人の少年だった。

 見た目からして鬼族。通称オーガ。ガタイは一般的なオーガと変わらない程度の大きさ。………危険視するほどではないか。

 相手もこちらに気付いたのか、声を掛けようとした。



「おい坊主。そこを動くな。」

「ん?」



 俺の声に反応して、とりあえず足を止める子供。鬼族からの偵察という可能性を捨てきれない。



「何で森の中にいた?」

「何で?って修行?」

「深淵の森の中でか?」

「うん、族長からも許可は取ってたし。」



 嘘を言ってる様子はない。族長というと、おそらく。



「鬼族の長、ガルドのことか?お前血縁者か何か?」

「ガルドさんは、俺の師匠だね。」

「なるほど………。」



 恵まれた人材という訳か。鬼族の中でもたまに強い奴は生まれてくる、そこでガルドに師事している期待の小僧と言ったところか。



「わかった。すまんな、いきなり不躾に。こちらも森の中から出てきた奴を警戒していたんだ。」

「こっちは別に大丈夫だけど。こっちからも質問いい?」

「あー、答えられることならな。」

「自分の村に戻りたいんだけど、今ここがどこか分かる?」



(厄介なことになったな。)



 別に教えてもいい内容だが、一応武力行使をする可能性もある村の奴に正直に道を教えるべきか。早めに仕事を終わらせたいこちらとしては、厄介な位の実力者が居ると面倒くさくなる。

 只でさえ、元四天王のガルドとゾルディアに対応しなければならないので、その上で+1となりうる戦力が加わる可能性は潰しておきたい。

 妹に視線で合図する。こちらから先に仕掛けようと、無言の意思疎通で切り出そうとする。それに対して返ってきた答えは、予想を反するものだった。



(ダメ。)



 否定。

 あまりに鬼気迫った顔で首を横に振るので、思わず漏れ出ていた殺気が霧散する。この経験は何度かある。妹のセンサーに引掛かった相手だという証拠。

 何かを測る、索敵能力や相手の解析において妹の右に出る者はいない。俺はそのことを身を以て知っている。確かにある、その感覚に何度も命を救われている。相手との実力差をきちんと見分けている。



 目の前の少年に手を出すのは不味い。



 そう妹が判断した。



「いや、すまんな。自分たちも今どこにいるかっていうのが分からないんだわ。」

「あぁ、そうなんですか。分かりました、自分で探してみます。」







「ちょっと待って。」







 そのまま別れようとしたら、女性の方が声を掛けてきた。中性的な美人さんだった。



「はい、なんでしょう?」

「………匂いを嗅いでも良い?」



 空気が凍った。

 いや、別段こちらは気にしていないが、男性の方がそういうリアクションをしている。何言ってんだコイツ、みたいな。



「何を言っているんだ、お前。」



 あっ、言うんだ。



「別に変な意図はない。嗅いでみたいから、嗅がせてといっただけ。」

「いや。ちょっと臭いと思うんで。」

「そういうスキルだから気にしないで。」

「おいぃっ!?」



 美人さんからもカミングアウトが。

 スキルだったらいいのだろうか?

 そんなことを疑問に思うも美人さんは俺に抱きついてきた。

 そして俺の首元に顔ごと近づけてきて、深呼吸するように大きく息を吸った。



「あぁぁっ♡」



 その後、とろけるような甘い声を出して地面に崩れ落ちた。

 様子を見ると、どうやら気絶しているみたいだ。



「すいません。お連れの方、倒れたみたいですがどうしま」

「てめぇっ!?俺の妹に何しやがった!?」

「えっ!?そうなります!?」



 その後VSお兄さんとの戦いが始まったわけだった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

処理中です...