上 下
1 / 19

エロゲ界の神童

しおりを挟む
 転生した。

 しかも自分の大好きなエロゲ世界『エロスファンタジー』、略称エロジーっていう少しダサいネームの割に大人気だったRPG。

 多種多様のヒロインが存在しており、どのグラフィックもエロすぎるという話題で世の男どもが開店前の店に大殺到したというほどだ。前世、そこそこの会社に勤めていた俺は時間の合間に何度もプレイしていた。

 仕事の合間にエロゲ。

 それが俺の人生の大半だった。

 そんな俺の人生の最後がトラックで轢かれて、エロゲ世界に転生したというのは幸福だった。



 はずもなく、



 俺が転生したキャラは、エロゲの背景の一人のモブだったのだ。







 というわけで、転生した元サラリーマン、今世の名前はカイザー。かっこいい名前の割にはモブの一人という悲しい設定を持つキャラクターだ。

 どこかの集落の鬼族として生まれた俺はすくすくと10歳くらいまで育っていった。そこで自分がゲームでの所謂モブに属する存在だと言うことに気付いた。

 このゲームの世界、エロジーでは主要キャラクターに必ず表れるスキル、または体質のようなものが存在する。それがエロに属する者なのだ。

 主要キャラのステータスの項目には、一見馬鹿みたいなスキルに見えるがイベント時には強大な力を発揮してシーンを増やす機能も存在する。淫乱、TS、発情体質などなど。

 そして俺のステータスがこちら。







名前 カイザー 種族:鬼族Lv29



【スキル】体術、怪力、威圧

【体質】金剛(体が硬い)







 以上だ。



 RPG世界では強い。

 ゲームの後半の雑魚キャラくらいなら一蹴出来るレベルだ。だがしかし、この世界はエロゲである。イベントに必要なエロスキルがなければ、ただの背景モブと変わらない。主要キャラ達は他のキャラと仲良くしているのだろう。

 思わずため息をついてしまうが、別にエロがなくては生きていけないわけではない。父さんや母さんと一緒なのも楽しいし、村の皆と組み手をするのも日課になっている。ポジティブに言えば充実しているのだ。

 上がっていくステータスを見ていればわくわくする自分もいるので、元々レベル制のゲームが好きだった自分にとっては素晴らしい世界だ。最近ではエロへの情熱が全て鍛錬に注がれているほどだ。

 元々この鬼族の里では強い者に従うという風潮もあり、大人の戦士達にも勝ち越すほどには強い俺は次期族長候補筆頭とも言われている。族長くらいしか俺と渡り合える人が居ないので、一目置かれ、強くなること以外のことは全部やってくれる。

 俺が日頃するのは狩りと鍛錬くらいだ。

 今日もまた森の奥で狩りをするために出発する。







【一般鬼族】



 俺たちの村に新たな戦士が加わると聞いて、先輩としてかわいがってやるかと思っていた。

 鬼の戦士は、肉体に恵まれた強き者がなる職業と言われている。鬼の誇りの起源としての強さはこの村でも一目置かれる要素であり、今の族長も村で最も強かった者がなる風潮から選ばれたと言っていた。

 故に才ある荒くれ者が選ばれるのだが、入ってきた当初は調子に乗っている者も多い。そういう奴は俺たちがしつけてやる。上から下への洗礼って奴だ。

 そして新たな戦士が来たときは拍子抜けした。

 子供だった、それもまだ10歳ほどの。

 何を馬鹿なことをと、当初は思った。俺たち戦士という称号は別に名前だけではない。狩りをして村に利益をもたらしている面もある。故に子供を戦士に加えると知ったときにはもちろん反響があった。

 族長の推薦だと聞いていたので、どんな筋肉達磨が来るかと思えば、せいぜい少し筋肉がつき始めたくらいの子供。全員の予想外だった。

 しかし、ここでその子供が間に入って言う。



「俺から見れば、お前等の方が弱そうだけどな。」



 憤怒。

 僅か10歳の子に今まで村を支えてきたと自負する戦士達は大激怒した。思わず戦士でも若い衆の一人がそのガキめがけて拳を振るおうとした瞬間。



バコンッ



 地面に沈んだ。

 その場を沈黙が支配する。誰ひとり理解できなかった。族長だけは納得するように一人頷いているが。

 沈んだ地面に倒れ伏している若い戦士の頭の上には小さな手が添えられていた。

 その小さな手が、巨体を地面にめり込ませたことを理解しても、頭がそれを受け入れなかった。

 そして今度はこちらを挑発するように、もう片方の手で、



『かかってこい』



 そう言われた。







 そこからはまさに大乱闘。若い奴から古参までが、一人の子供に一斉に飛びかかっていった。山のようになりつつあるオーガの集団の中、確かに二本の足を支えに堂々と立つ子供は一人の戦士だった。

 そこからは話は早い。

 まとめてぶっ飛ばされた。周りに居たオーガ達は一人ずつ地面に堕とされていき、様子をうかがっていた周りの奴らも同様に沈められた。その中の一人は俺だった。

 なんと言えばいいか、頭を小さな手で掴まれた瞬間、圧倒的な力量を悟った。まるで巨人が小人をつまむように、圧倒的強者の慈悲というものをオーガの戦士達は学んだのだった。

 それから次の日には、小さな鬼、カイザーに逆らう者などいない。

 唯一、族長のみがカイザーと組み手をしているが、



『あの小僧、いっちょ前に手加減してやがるのさ。子供がおもちゃを壊れないように大切にするだろ?それと同じさ。』



 それは族長の長年の経験、技術を見たいが為に手加減しているのだ。いくらか族長が文句を言ったらしいが、カイザーは、



『うーん、爺さん、もう歳だからな。本気で殴ったら村長出来なくなるかもしれないだろ?』



 と、あくまで善意的に手加減をしているという。



 恐ろしい。前線を引いたとはいえ、元魔王軍四天王を務めていた鬼神を相手に手加減した上で互角の勝負を繰り広げているのは怪物でしかない。

 カイザーに逆らう鬼族は一人もいないだろう。今では狩りも一人の方がはかどるというので、森の奥での単独行動を許されている。

 子供って怖いなあ。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

召喚魔法使いの旅

ゴロヒロ
ファンタジー
転生する事になった俺は転生の時の役目である瘴気溢れる大陸にある大神殿を目指して頼れる仲間の召喚獣たちと共に旅をする カクヨムでも投稿してます

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

処理中です...