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金木犀に包まれながら
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数日後、満開になった金木犀の木にやってきたイネ。
鈴なりに咲いている、その小さな可愛らしい花々の様子を記憶に刻み、胸いっぱいに香りを嗅いでから、今までのお礼とお別れの挨拶をした。
「ありがとうね。今年はこんなにキレイに3度も花を咲かせて見せてくれて。私はもう十分だけど、お花さん達は、これからも頑張って咲いておくれ」
「今まで、ありがとう、おばあちゃん」
気のせいか、イネに向けてのお礼が一斉に耳に届いているような気がした。
甘い香りに全身包まれ夢見心地のような気持ちになりながら、ノンビリと歩き家に戻ったイネ。
テーブルの上の金木犀の枝も満開を迎えていた。
「おかえりなさい、おばあちゃん、見てみて!」
「家の中も満開で華やいでいるね。それならば、そろそろだね」
イネは旅立つ覚悟を決めていた。
「おばあちゃんに、金木犀の香りのお茶を用意したの。飲んでみて」
イネは、そのお茶に睡眠薬のようなものが仕込まれていると思い、楽に死なせてもらえると覚悟しながら飲んだ。
「香りも良くて、美味しいね。さすがは、金木犀のお嬢さんが入れてくれたお茶だね」
「そうでしょう、おばあちゃん。私、色々考えてみたけど、おばあちゃんが望む一番良い方法を聴いた方がいいと思ったの。それで、まずリラックスして考えられるように、この金木犀のお茶を用意したの」
「そうなのかい?私はてっきり、このお茶に何か混ぜられていると思っていたよ。だって、今、私は、とても眠いんだよ。可愛らしいお嬢さんが一緒にいてくれて、一番美しくてよく香る状態の金木犀を見ながら眠りに就けるって、こんな幸せな事は無いね」
「えっ、でも、まだ......」
「お嬢さんがここにいてくれているのが、一番の魔法なのかも知れないね。この香りのおかげで、いつもは痛くて苦しかった私の病気も、それを感じずに済んでいたからね」
「おばあちゃん、病気だったの?そんな風に見せないで、いつも、私達を見に来てくれていたのに......」
「病気の痛みを忘れて、こうして冥途に旅立てるというのは、幸せな事だね。ありがとう、お嬢さん」
予定より早く、永い眠りに就こうとするイネを抱き締めた女の子。
イネの身体が次第に冷たくなっていった。
「私の魔法、まだ使ってなかったのに......」
先立った大好きなイネに、女の子は、最後の魔法を使って、仲間達を呼び、イネの周りを沢山の可愛らしい金木犀の花々で飾った。
大好きな金木犀に身体ごと装われ、女の子より一足先に旅立ったイネ。
数日後、テーブルに残った枝の金木犀が散ったと同時に、いよいよ女の子も仲間達に別れを告げ、冥界へ向かおうとした。
そこで、暖かい笑顔で手を差し伸べてくれたのは、紛れも無く、あの大好きなイネだった。
女の子は、転生前からイネと再会の約束を果たす事ができ、心弾んだ。
イネは先に向かう事も出来たが、せっかく出来た女の子との御縁を大切に、女の子が来るまで待ち、2人揃ってから冥界へと旅立った。
それから三度目の秋のこと。
三度咲きの金木犀の香りが辺り一帯に漂う頃、庭に金木犀の大樹が有る家に、金木犀の花のように可愛らしい双子の女の子が誕生した。
【 了 】
鈴なりに咲いている、その小さな可愛らしい花々の様子を記憶に刻み、胸いっぱいに香りを嗅いでから、今までのお礼とお別れの挨拶をした。
「ありがとうね。今年はこんなにキレイに3度も花を咲かせて見せてくれて。私はもう十分だけど、お花さん達は、これからも頑張って咲いておくれ」
「今まで、ありがとう、おばあちゃん」
気のせいか、イネに向けてのお礼が一斉に耳に届いているような気がした。
甘い香りに全身包まれ夢見心地のような気持ちになりながら、ノンビリと歩き家に戻ったイネ。
テーブルの上の金木犀の枝も満開を迎えていた。
「おかえりなさい、おばあちゃん、見てみて!」
「家の中も満開で華やいでいるね。それならば、そろそろだね」
イネは旅立つ覚悟を決めていた。
「おばあちゃんに、金木犀の香りのお茶を用意したの。飲んでみて」
イネは、そのお茶に睡眠薬のようなものが仕込まれていると思い、楽に死なせてもらえると覚悟しながら飲んだ。
「香りも良くて、美味しいね。さすがは、金木犀のお嬢さんが入れてくれたお茶だね」
「そうでしょう、おばあちゃん。私、色々考えてみたけど、おばあちゃんが望む一番良い方法を聴いた方がいいと思ったの。それで、まずリラックスして考えられるように、この金木犀のお茶を用意したの」
「そうなのかい?私はてっきり、このお茶に何か混ぜられていると思っていたよ。だって、今、私は、とても眠いんだよ。可愛らしいお嬢さんが一緒にいてくれて、一番美しくてよく香る状態の金木犀を見ながら眠りに就けるって、こんな幸せな事は無いね」
「えっ、でも、まだ......」
「お嬢さんがここにいてくれているのが、一番の魔法なのかも知れないね。この香りのおかげで、いつもは痛くて苦しかった私の病気も、それを感じずに済んでいたからね」
「おばあちゃん、病気だったの?そんな風に見せないで、いつも、私達を見に来てくれていたのに......」
「病気の痛みを忘れて、こうして冥途に旅立てるというのは、幸せな事だね。ありがとう、お嬢さん」
予定より早く、永い眠りに就こうとするイネを抱き締めた女の子。
イネの身体が次第に冷たくなっていった。
「私の魔法、まだ使ってなかったのに......」
先立った大好きなイネに、女の子は、最後の魔法を使って、仲間達を呼び、イネの周りを沢山の可愛らしい金木犀の花々で飾った。
大好きな金木犀に身体ごと装われ、女の子より一足先に旅立ったイネ。
数日後、テーブルに残った枝の金木犀が散ったと同時に、いよいよ女の子も仲間達に別れを告げ、冥界へ向かおうとした。
そこで、暖かい笑顔で手を差し伸べてくれたのは、紛れも無く、あの大好きなイネだった。
女の子は、転生前からイネと再会の約束を果たす事ができ、心弾んだ。
イネは先に向かう事も出来たが、せっかく出来た女の子との御縁を大切に、女の子が来るまで待ち、2人揃ってから冥界へと旅立った。
それから三度目の秋のこと。
三度咲きの金木犀の香りが辺り一帯に漂う頃、庭に金木犀の大樹が有る家に、金木犀の花のように可愛らしい双子の女の子が誕生した。
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