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ガーネットのような瞳

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 叶愛のあんの反応の違いに違和感を感じつつも、喜んで受け取ってもらえる事を望んでいる昂佳こうか

「そうです! あの……師匠が欲しがってそうに見えたので」

「私は……決して、そんな事を要求したわけではないぞ!」

 一度は受け取ろうとしたものの、慌てふためきながら、ガーネットを昂佳こうかに突き返そうとした叶愛のあん

「どうしてですか? 過去の物を未来に持ち帰る事を禁じられているんですか?」

 叶愛のあんにとって、ガーネットのプレゼントは嬉しいはずと思い込んでいた昂佳こうかにとって、そこまで大袈裟に拒絶されるとは心外だった。

「原則としては禁忌であるが、見付からねば良い事を私は何度か体験済みだ! だから、それ自体は、大した問題ではない」

「良かった~! それなら、是非、受け取って下さい、師匠!」

 昂佳こうかが再度手渡そうとすると、叶愛のあんは上半身をのけ反らせた。

「未来に持ち帰るとか、問題は、そこではない! ガーネットなどを贈られても、私は、昂佳こうか夫婦めおとになるつもりは無いからな!」

 叶愛のあんの言葉により、ガーネットを受け取る事を頑なに拒んでいた意味をやっと理解出来た昂佳こうか

 未来では、異性に宝石を贈るというのは、求婚の意味合いが有るのだろう。

「師匠、誤解です! 僕はプロポーズなんて……そういうつもりで、ガーネットを師匠に贈りたかったわけではないんです!」

「そういうつもりではないだと……? 美しい宝石を手にしておきながら? ならば、どのようなつもりだ?」

「こんなに美しい宝石が、師匠の瞳と同じって事で、師匠には自信を持って前を向いて生きて欲しいからです! 手元にガーネットが有ると、未来に戻っても、それが、お守りのように、師匠をいつでも元気付けて、師匠を守ってくれると信じていたいので……」

 昂佳こうかが求婚について否定し、贈ろうとした真意を説明すると、勝手に自分が勘違いしていた事に気付き、赤面した叶愛のあん

「そのような意図なら、有難く頂いておこう!」

 ばつが悪そうな表情をしながら、サッと小袋に入ったガーネットを受け取った叶愛のあん
 店から出ると、早速、小袋の中のガーネットが入っているのを確認し、安堵した様子で見入っていた。

「そんな確認しなくても、お金払ったんですから、ちゃんと入ってますよ、師匠」

 そんな叶愛のあんの様子を含み笑いをしながら見ていた昂佳こうか

「昔は、別物を入れたり、誤魔化される事が有ると習っていた」

 自分の振る舞いが笑われている事にカチンとした様子で、叶愛のあんが言い訳をした。

「外国はともかく、日本は、あまりそういう事は無いと思います。それに、パワーストーン店で手に入るような石は、それほど高価じゃないので、大丈夫です!」

 叶愛のあんは、よほどガーネットが気に入ったようで、落とさないように左手の平に乗せながら、右手で触れたり見入っていた。
 そんな叶愛のあんを満足気に見ていた昂佳こうか

「そうか、この時代の日本では、こんなに容易くガーネットが手に入るのだな」

「こんなにキレイな石なのに、未来の日本では手に入らないガーネット。こうして師匠に見せる事が出来て、気に入ってもらえて、本当に良かったです!」

 叶愛のあんがこれほどガーネットを気に入ったなら、その石と同じ色の美しい瞳をしている自分の存在を無くすなどという物騒な考えを改めていて欲しいと願う昂佳こうか

「私の時代の人々が知らずとも、私自身が、ガーネットの美しさを知っているのだから、それでいいのだ! もはや、自分を卑下する事は無いのだな!」

「そうです! 師匠は、ガーネットと同じ、こんな美しい色の自分の瞳に自信を持って生きて下さい!!」

 またつい勢いで、叶愛のあんの両手を握っていた昂佳こうかだったが、叶愛のあんに睨まれ、慌てて手を離した。
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