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叶愛との記憶
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「それで、私が、その女子に対して何か危害を加えるかと思って、守りたかったわけだな! 殊勝な事だ」
冷やかすというわけでもなく、自分と同じ年頃の女の子が、こんなに想われている状態が羨ましく、それに比べ、今の自分の境遇が寂しく思えてきた叶愛。
「師匠だって……こんなにキレイなんだから、元の世界に戻れば、沢山の男子達から想われているんでしょう?」
当然の事の如く尋ねた昂佳。
「前に伝えていたはずだ! もう忘れたのか? 私には、想われ人など1人もいない! 私は周りから、不気味がられていたんだぞ!」
こんなに美しい外見をしている叶愛が、その瞳の色が周りと違う緋色というだけで、叶愛の時代には、誰からも受け入れてもらえないだけでなく、迫害されている。
腑に落ちないが、どこで価値観が歪められたのか、未来はそうなってしまっている事だけは分かった昂佳。
「僕なんかが言っても、説得力が無いかも知れないですけど……僕も、あの子達も、師匠の事は、本当にキレイだと思ってます! 師匠には、もっと堂々と前を向いて、人生を歩んでもらいたいです!」
「確かに、生きている時代が違う昂佳に言われても、全く納得行かぬが……時代を超えていたとしても、例えたった1人でも、自分の味方がどこかに存在しているというのは、何だか不思議だが、悪くない感覚だな……」
今までの猛々しい言葉しか発さないイメージの叶愛にしては、自分の感覚を顧みるだけでも、前進出来たと感じられた昂佳。
思わず、また叶愛を抱き締めたい衝動に駆られたが、再び千絵達に見られでもしたら、あらぬ疑いをかけられると思い、気持ちをグッと抑え込んだ。
「師匠、僕は、師匠が未来に戻っても、ずっと師匠の味方で有り続けますから! 忘れないで下さい!」
「何とも情けない響きだな! なんせ、私が去る時には、昂佳に部分的記憶喪失ビームを浴びせて去る事になるのだから。昂佳は、私の事など即座に忘れるというのに、私の方は、昂佳を覚えている事になるとは不条理だな!」
部分的記憶喪失装置の存在を忘れていた昂佳。
前回もその予定だったが、昂佳が運良く、叶愛が所持していたレーザー銃のビームで破壊させていた。
また叶愛が22世紀から部分的記憶喪失装置を持参しているとしたら、今度こそ、自分と叶愛との間に起きた事が全て忘れ去られてしまう事になる。
「師匠は、僕の記憶を消すつもりですか?」
「最終的にはそうなるな。そうせねば、我が身が危ういのだから」
部分的という名前が付いているものの、どこまで部分的の範疇に入るのか、昂佳には分からなかった。
「消去される記憶は、師匠と出逢ってから以降の記憶ですか?」
「そんな長い時間の記憶を空白になどせぬ。昂佳は、心配するな。消失するのは、私に関する記憶だけだ……」
そう言った時の叶愛には、今までの語気は無く、その表情にも陰りが見えているのを感じた。
「僕は、師匠と出逢ったこの記憶を失いたくない! 師匠の事は、絶対に他言しないから、残しておいて下さい!」
僅かな時間だったとしても、自分と過ごしたこの記憶を大事にしようとしている昂佳の言葉が、鬱陶しく感じると同時に、喜ばしく思える感情が芽生えていた叶愛。
それは、叶愛が今まで生きて来て、誰にも抱いた事の無い感情だった。
が、それ以前に、タイムトラベラーにとって遵守すべきは規則。
現地人と接触した場合、その記憶を抹消するという厳戒な鉄則が有った。
「私の気持ち次第で、規則を曲げる事が出来るものならば、そうしてもおいても良いが、それは無理だ! 第一、昂佳がそこまで、信用できる人物という確信も保障も無いのだからな!」
「僕は、師匠にとって、まだ信用に足らない人物なのですか? 仮にも、師匠の祖先なんですよ! それに、今の時点では、もしかしたら……多分、師匠の事を誰よりも強く想っている人間なんです!!」
叶愛の両手を力強く握り締めて、力説した昂佳。
冷やかすというわけでもなく、自分と同じ年頃の女の子が、こんなに想われている状態が羨ましく、それに比べ、今の自分の境遇が寂しく思えてきた叶愛。
「師匠だって……こんなにキレイなんだから、元の世界に戻れば、沢山の男子達から想われているんでしょう?」
当然の事の如く尋ねた昂佳。
「前に伝えていたはずだ! もう忘れたのか? 私には、想われ人など1人もいない! 私は周りから、不気味がられていたんだぞ!」
こんなに美しい外見をしている叶愛が、その瞳の色が周りと違う緋色というだけで、叶愛の時代には、誰からも受け入れてもらえないだけでなく、迫害されている。
腑に落ちないが、どこで価値観が歪められたのか、未来はそうなってしまっている事だけは分かった昂佳。
「僕なんかが言っても、説得力が無いかも知れないですけど……僕も、あの子達も、師匠の事は、本当にキレイだと思ってます! 師匠には、もっと堂々と前を向いて、人生を歩んでもらいたいです!」
「確かに、生きている時代が違う昂佳に言われても、全く納得行かぬが……時代を超えていたとしても、例えたった1人でも、自分の味方がどこかに存在しているというのは、何だか不思議だが、悪くない感覚だな……」
今までの猛々しい言葉しか発さないイメージの叶愛にしては、自分の感覚を顧みるだけでも、前進出来たと感じられた昂佳。
思わず、また叶愛を抱き締めたい衝動に駆られたが、再び千絵達に見られでもしたら、あらぬ疑いをかけられると思い、気持ちをグッと抑え込んだ。
「師匠、僕は、師匠が未来に戻っても、ずっと師匠の味方で有り続けますから! 忘れないで下さい!」
「何とも情けない響きだな! なんせ、私が去る時には、昂佳に部分的記憶喪失ビームを浴びせて去る事になるのだから。昂佳は、私の事など即座に忘れるというのに、私の方は、昂佳を覚えている事になるとは不条理だな!」
部分的記憶喪失装置の存在を忘れていた昂佳。
前回もその予定だったが、昂佳が運良く、叶愛が所持していたレーザー銃のビームで破壊させていた。
また叶愛が22世紀から部分的記憶喪失装置を持参しているとしたら、今度こそ、自分と叶愛との間に起きた事が全て忘れ去られてしまう事になる。
「師匠は、僕の記憶を消すつもりですか?」
「最終的にはそうなるな。そうせねば、我が身が危ういのだから」
部分的という名前が付いているものの、どこまで部分的の範疇に入るのか、昂佳には分からなかった。
「消去される記憶は、師匠と出逢ってから以降の記憶ですか?」
「そんな長い時間の記憶を空白になどせぬ。昂佳は、心配するな。消失するのは、私に関する記憶だけだ……」
そう言った時の叶愛には、今までの語気は無く、その表情にも陰りが見えているのを感じた。
「僕は、師匠と出逢ったこの記憶を失いたくない! 師匠の事は、絶対に他言しないから、残しておいて下さい!」
僅かな時間だったとしても、自分と過ごしたこの記憶を大事にしようとしている昂佳の言葉が、鬱陶しく感じると同時に、喜ばしく思える感情が芽生えていた叶愛。
それは、叶愛が今まで生きて来て、誰にも抱いた事の無い感情だった。
が、それ以前に、タイムトラベラーにとって遵守すべきは規則。
現地人と接触した場合、その記憶を抹消するという厳戒な鉄則が有った。
「私の気持ち次第で、規則を曲げる事が出来るものならば、そうしてもおいても良いが、それは無理だ! 第一、昂佳がそこまで、信用できる人物という確信も保障も無いのだからな!」
「僕は、師匠にとって、まだ信用に足らない人物なのですか? 仮にも、師匠の祖先なんですよ! それに、今の時点では、もしかしたら……多分、師匠の事を誰よりも強く想っている人間なんです!!」
叶愛の両手を力強く握り締めて、力説した昂佳。
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