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10.
同情
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昂佳の単純過ぎる提案に、呆れ顔しか出来ない叶愛。
「昂佳は、お気楽な思考しか出来ないのだな。未来人の私が、そう簡単にタイムパトロール隊の目をくぐり抜けて、ここで生き続ける事が出来るとでも思っているのか?」
疑問を投げ付けながらも、そこに気を取られていると、目的果たせないまま連れ戻される可能性も高い事に気付いた叶愛。
「そんな事より、昂佳、急ぐぞ! 早く、そのガーネットとやらを見に行かねばな!」
叶愛の目的を知った昂佳にとっては、ここで時間稼ぎして、タイムパトロール隊に、叶愛が連れ戻される方が好都合だった。
だが、自分の子孫という未来から来た美少女が、自身の行いによって、存在を消したいと願うほどまでに悩み追い詰められている様子に、罪意識と同情を感じずにいられなかった昂佳。
「師匠、走ったりするのは得意ですか?」
未来人といえば、瞬時に移動出来る便利そうな乗り物に乗り、走ったりなどはしない先入観を抱いている昂佳。
「バカにしているのか! 走るくらい容易い事だ!」
昂佳に促され、叶愛は懸命に走り出した。
「でしたら、もっと全力で走ってもらう事は出来ますか、師匠?」
叶愛の足取りが、ほんの早歩き程度の速度ゆえに、手抜きしているようにしか思えなかった昂佳。
「私は、こうして全力疾走しているではないか! 大体、なんだ、その昂佳の動きは? どんな薬を服用すれば、そのような山猿の如く敏速に動けるようになれるのだ?」
叶愛の言葉から、やはり未来人は、便利過ぎる世の中に染まり過ぎて、身体能力が退化しているのだろうと睨んだ昂佳。
これなら、叶愛の所持している便利道具さえ無ければ逃れるのも、さほど難しくなさそうに思えてた。
「僕はこれでも、決して足はそんなに速い方ではないです。でも、師匠よりは、得意なのかも知れないです。きっとこれは、世代格差というか、時代格差なんでしょうね」
「御託など要らぬ。ほら!」
叶愛は右手を差し出して来た。
「この手は……?」
ワンピース姿を見せる為、妹の部屋に案内しようとした時には、拒絶されたのを思い出した昂佳。
「この時代はまだ、男性は、か弱き女性をエスコートするものではないのか? 歴史の序業で、そう習っておるぞ! 文明人の私は、既に疲れたのだ。それに、昂佳《こうか》には余力が有ると見受けた。この場合、手を引いてくれたら、もう少し早く走れるものなのではないのか?」
身体能力が劣っている事を自覚し悔しくなりつつも、まずはガーネットを目にする為に、都合の良い方に転換した叶愛
「師匠の時代には、もうレディファーストというマナーは無くなっているんですか?」
青白く見える叶愛の手を取りながら、確認しようとした昂佳。
「そんな慣習など必要とされていない! だが、この時代はまだその名残が有るようだから、それならば、せっかくだから試してみたかった」
叶愛の手は、思ったよりも小さく繊細で、態度が大きく出るわりには小刻みに震えているのを感じ取った昂佳。
この未来からやって来た少女は言動こそ突飛だが、中身は自分達と何ら変わりない年頃の1人の少女なのだと改めて認識出来た。
こんな過去に、単独でやって来るまで追い詰められた気の毒な少女。
そう思うと切なくて、次の瞬間、昂佳は手を引いて走っていた足を止め、叶愛を抱き締めた。
思いもよらなかった昂佳の抱擁により、驚きで身体が硬くこわばった叶愛。
「調子に乗るな、昂佳! 私は、昂佳の許婚《いいなずけ》でも何でもない!」
昂佳の腕を振り払おうとした叶愛。
「だって、何だか師匠が可哀想で……」
「昂佳の同情など要らぬから、離せ! それより、さっさとガーネットなるものを見るという目的を果たし、施術を済まさねば!」
予め企てていた計画を返上するつもりは皆無そうな叶愛。
「昂佳は、お気楽な思考しか出来ないのだな。未来人の私が、そう簡単にタイムパトロール隊の目をくぐり抜けて、ここで生き続ける事が出来るとでも思っているのか?」
疑問を投げ付けながらも、そこに気を取られていると、目的果たせないまま連れ戻される可能性も高い事に気付いた叶愛。
「そんな事より、昂佳、急ぐぞ! 早く、そのガーネットとやらを見に行かねばな!」
叶愛の目的を知った昂佳にとっては、ここで時間稼ぎして、タイムパトロール隊に、叶愛が連れ戻される方が好都合だった。
だが、自分の子孫という未来から来た美少女が、自身の行いによって、存在を消したいと願うほどまでに悩み追い詰められている様子に、罪意識と同情を感じずにいられなかった昂佳。
「師匠、走ったりするのは得意ですか?」
未来人といえば、瞬時に移動出来る便利そうな乗り物に乗り、走ったりなどはしない先入観を抱いている昂佳。
「バカにしているのか! 走るくらい容易い事だ!」
昂佳に促され、叶愛は懸命に走り出した。
「でしたら、もっと全力で走ってもらう事は出来ますか、師匠?」
叶愛の足取りが、ほんの早歩き程度の速度ゆえに、手抜きしているようにしか思えなかった昂佳。
「私は、こうして全力疾走しているではないか! 大体、なんだ、その昂佳の動きは? どんな薬を服用すれば、そのような山猿の如く敏速に動けるようになれるのだ?」
叶愛の言葉から、やはり未来人は、便利過ぎる世の中に染まり過ぎて、身体能力が退化しているのだろうと睨んだ昂佳。
これなら、叶愛の所持している便利道具さえ無ければ逃れるのも、さほど難しくなさそうに思えてた。
「僕はこれでも、決して足はそんなに速い方ではないです。でも、師匠よりは、得意なのかも知れないです。きっとこれは、世代格差というか、時代格差なんでしょうね」
「御託など要らぬ。ほら!」
叶愛は右手を差し出して来た。
「この手は……?」
ワンピース姿を見せる為、妹の部屋に案内しようとした時には、拒絶されたのを思い出した昂佳。
「この時代はまだ、男性は、か弱き女性をエスコートするものではないのか? 歴史の序業で、そう習っておるぞ! 文明人の私は、既に疲れたのだ。それに、昂佳《こうか》には余力が有ると見受けた。この場合、手を引いてくれたら、もう少し早く走れるものなのではないのか?」
身体能力が劣っている事を自覚し悔しくなりつつも、まずはガーネットを目にする為に、都合の良い方に転換した叶愛
「師匠の時代には、もうレディファーストというマナーは無くなっているんですか?」
青白く見える叶愛の手を取りながら、確認しようとした昂佳。
「そんな慣習など必要とされていない! だが、この時代はまだその名残が有るようだから、それならば、せっかくだから試してみたかった」
叶愛の手は、思ったよりも小さく繊細で、態度が大きく出るわりには小刻みに震えているのを感じ取った昂佳。
この未来からやって来た少女は言動こそ突飛だが、中身は自分達と何ら変わりない年頃の1人の少女なのだと改めて認識出来た。
こんな過去に、単独でやって来るまで追い詰められた気の毒な少女。
そう思うと切なくて、次の瞬間、昂佳は手を引いて走っていた足を止め、叶愛を抱き締めた。
思いもよらなかった昂佳の抱擁により、驚きで身体が硬くこわばった叶愛。
「調子に乗るな、昂佳! 私は、昂佳の許婚《いいなずけ》でも何でもない!」
昂佳の腕を振り払おうとした叶愛。
「だって、何だか師匠が可哀想で……」
「昂佳の同情など要らぬから、離せ! それより、さっさとガーネットなるものを見るという目的を果たし、施術を済まさねば!」
予め企てていた計画を返上するつもりは皆無そうな叶愛。
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