緋色の瞳をした少女との約束

ゆりえる

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初めての鏡

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 叶愛のあんの口ぶりから、22世紀にはワンピースは存在してないように感じられた昂佳こうか
 慣れているはずのウェットスーツのような衣類を脱ぐのはともかく、初めてのワンピースを上手く着られるのか疑問に感じつつ、叶愛のあんの指示通り、廊下で待っていた。

昂佳こうか、私は着替え終えたから入ってよいぞ!」

 ドヤ顔で、両肘を曲げて両手を腰にポーズを決めていた叶愛のあん
 残念ながら、後ろ前に着ているのが一目瞭然で分かり、大爆笑した昂佳こうか

「ははは! そうなる予感がしていたんですよ~、師匠!」

「何を笑っている、この不届き者が!!」

 笑い続ける昂佳こうかに、怒りを顕わにした叶愛のあん

「師匠は、ワンピースを後ろ前に着ているんです」

「やはり、そうだったのか! 最初、正しい向きで着たのだ! ただ、そうすると、ファスナーが上げられなかった! 逆向きならば簡単にファスナーが上がったから、てっきりこうなのだと思ったのだ!」

 赤面しながら、罰が悪そうに言い訳した叶愛のあん

「そういう形のワンピースは、確かに、ファスナーを上げるのが大変そうですよね。僕は、もちろん、着た事無いから分からないですけど。最後だけ、僕が手伝いますから、また呼んでください、師匠」

 恥ずかし気に言い訳していた叶愛のあんが思いの外、可愛らしいと同時に可哀想に感じ、それ以上、笑うのを止めた昂佳こうか
 22世紀の衣類と勝手が違って、困っているところだけ手伝ってあげたい気持ちになった。

「悪いが、そう言ってもらえるとありがたい」

 恥をかいた後なだけに、いつもの血の気の多そうな口調ではなく、意気消沈気味になって言った叶愛のあん

 数分後、後ろ前だったのを直した叶愛のあんに呼ばれ、室内に戻った昂佳こうか
 妹が着ているのは見慣れていたが、正しい向きに着直したワンピースを着た叶愛のあんの姿は、妹が着ていた比ではないほど似合っていて、しばらくの間、思わず見惚れていた昂佳こうか

「なんだ? まだ何か、文句有り気な様子だな、昂佳こうか?」

 見惚れて棒立ちになっていた昂佳こうかが、ハッと我に返った。

「いえ、師匠が、あまりにキレイ過ぎて見惚れてました!」

 恥ずかしくなって、何か言い訳して誤魔化そうとしたが、よく分からない探知器が有るくらいだ。
 もしかしたら、叶愛のあんがウソ発見器なども持参している可能性も有ると思い、正直な気持ちを伝えた昂佳こうか

「何をぬかす、正気か? 何か裏が有るのでは有るまいな?」

「師匠は、本当に疑い深い人ですね~! あっ、そうか、僕の部屋は鏡が無いから、自分からは見えてないんですね。妹の部屋に等身大の鏡が有るから、来て下さい、師匠!」

 昂佳こうかは、叶愛のあんの細い手首を引っ張って、妹の部屋に連れて行こうとした。

「なんだ、この手は? 無礼者!」
 
 叶愛のあんに手を振り払われた昂佳こうか

「あっ、すみません。別に悪気は無いんです、ただ、案内しようと思って……」

 昂佳こうかがペコペコ謝ると、叶愛のあんは急に後ろめたい思いが湧いて来た。

「そんな風にしなくても、私は1人でも歩けるのだからな!」

「はい、確かにそうでした」

 昂佳こうかも自分の行動を恥ずかしく思い、叶愛のあんにあたらず触らずな態度で妹の部屋に案内した。
 等身大の鏡の前まで行き、叶愛のあんの全身が映るようにした。

「これは……!」

 鏡に映し出された等身大の自分の姿を見て、絶句した叶愛のあん

「なんか、師匠の驚き方、大袈裟なくらいですね! まるで、初めて見たみたいですけど……もちろん、師匠の時代にも鏡なんて、フツーに有りますよね?」

「これが、私なのか……?」

 まるで、自分の等身大の姿を見たのが初めてのような反応の叶愛のあん

「えっ! 22世紀には、鏡って無いんですか?」

「有るには有るのだが……こんなではない……こんな鮮明な……」

「22世紀の鏡って、どんななんですか?」

 興味深そうな昂佳こうか

「自分の姿だけではなくオーラや、周りのエネルギーも全て映し出してしまうから、自分の姿は色んなエネルギー越しに、ぼやけてしか見えてない」

 叶愛のあんの言葉に、鏡を見て驚いた様子も納得出来た。

「それじゃあ、今まで、師匠は、自分の美しい姿をハッキリと見た事が無かったのですか?」

「過去の鏡の方が、良いな。余分な物を映さずに済む……」

 叶愛のあんの言葉の中に、思い詰めてここまでやってきた重みが感じられた昂佳こうか

「師匠は、生まれて来る時代を間違えたみたいですね」

 昂佳こうかの言葉に声を出さずに頷いた叶愛のあん
 個性を尊ぶ今の時代か、緋色の瞳が増え出すであろう22世紀よりもっと未来なら、これほど悩む事など無く適応出来ていたはずと思えた。

「いっそ、未来に戻らず、ここで生活するのはどうですか、師匠?」
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