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2. 誕生日の贈り物 ⑵

このお迎えが最高の出逢いとなるように

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 ところが、ドアを開けて、恵梨奈を迎えたのは、恵梨奈が想像していたような可愛らしい風貌の犬ではなかった。

「どうして、こんなの......?」

 リボンを結んであげるような毛など全く無い、黒い短毛のフレンチブルドッグが毛との境界線が曖昧な黒い大きな瞳で、帰宅した恵梨奈を見上げていた。

「お帰りなさい、恵梨奈。この子、可愛いでしょう?」

「いやっ、全然可愛くない!恵梨奈、こんなの欲しくない!」

 予想外の恵梨奈の反応に、驚いて、どうしていいのか分からなくなる母。

「恵梨奈、小さい可愛い子が欲しいって言っていたから。この子は、手入れも楽だし、とてもお利口な良い子なのよ!人懐っこくて、あまり無駄吠えしなくて」

 母は、スッカリ気に入った様子で、犬を抱き上げた。

「恵梨奈の誕生日プレゼントのワンちゃんなんだから、恵梨奈の気に入った子じゃないとイヤ!この子は、違う!」

「でもね、恵梨奈が答えたアンケートからは、この子が一番相性良かったのよ!」

 母に言われて、その腕に抱かれている黒い子犬を見ても到底、自分と相性が良いとは思えない恵梨奈。

「そんなアンケートも、マッチングペットショップも適当に決まってる!だって、恵梨奈、そんな子の事、好きになれないもん!」

「取り敢えず、お試し期間の1週間、この子で様子見てみましょう」

「1週間経ってダメだったら、別の可愛いワンちゃんにしてくれる?」

「恵梨奈との相性が合わなかったら仕方ないわね」

 既に気に入っている母は、溜め息混じりに言った。

「それなら、1週間だけガマンしてあげる」

 乗り気ではなかったが、1週間待てば、今度こそ、自分好みの可愛い犬を飼ってもらえるなら引き下がった。

「良かった!まずは、この子の名前をつけましょう!恵梨奈、何が、いいと思う?」

「別に、この子は、私のプレゼントにならないから、何でもいいよ。ママがつけてあげて」

 無関心過ぎて、名前を付ける気にもなれなかった恵梨奈。

「そう、じゃあ、名前と姿が一致するようにクロスケにしましょうか?」

「うん、それでいいよ」

 1週間滞在予定の黒いフレンチブルドッグの名前はクロスケに決まった。

 クロスケは、家にいる時間の長い母によく懐いて、足元にいる事が多かった。
 それでも、恵梨奈が帰宅した時には、玄関まで迎えに来て、しばらく一緒に付いて来ようとするが、恵梨奈が「シッシッ」と手で追い払うと、すぐに母の方に戻って行った。
 素直に従ってくれるその様子は、恵梨奈には有難いような気持ちだったが、自分の誕生日プレゼントでありながら、母に懐いている様子は、少し癪に障った。

 母に促されて、クロスケの食事を用意すると、尻尾を振って、恵梨奈の方に駆け寄って来る姿を見ると、少し心弾むものを感じた。
  
 父もクロスケをすぐに気に入り、母がいないと、父を探すクロスケ。
 2人とも姿がいない時には、恵梨奈の方に寄って来る。
 それがうっとうしくも感じていたが、1人っ子で母親も週に数回パートに出ていて寂しい恵梨奈の心を少しずつ癒していた。
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