燃えよ、想いを乗せ

ゆりえる

文字の大きさ
上 下
39 / 44
39.

予想外の正体

しおりを挟む
 何度となく思い出したところで、芹田のその言葉は、まだ信じるには至らないままであるが、それでも透子の心を熱く占めていた。

「慰めじゃなくて、芹田先生は、本気で言っているのだと思います! 僕もさっき、芹田先生から、思いがけず勇気をもらいました!」

 今までとは少し表情の違う透子に、芹田が言った通り、何か二人の会話で透子の関心を引く事が有ったのだろうと予想した颯天。

「芹田先生が、宇佐田君にも勇気を……?」

「はい、あの時は……いきなりサイレンがなって、僕らは研修中だったので……敵が侵入して来るというのは、頭では分かっていたつもりでしたが、それが、どんなに巨大なのか想像も出来なかったです。あんなビーストのような形状の巨大エイリアンを目の当たりにして、僕は怖気おじけづいて……その上、隊員達の龍体への変身に圧倒されて……僕のような偽物隊員なんて、ここにいる資格も無いと思ったのです! だから、僕は、この場から一刻も早く抜け出そうとして……」

 負け犬のような行動に出た事を透子に晒すのは恥ずかしかったが、透子も颯天に対して弱い面を何度も見せて来たのだから、さほど抵抗は無かった。

「宇佐田君、この実践中に抜け出そうとしたの?」

 透子は、驚いた表情をした後に笑い出した。

「だって、あんな風に隊員達が龍体に変身して、あんなエイリアンと戦っている姿なんて、僕には予想もつかなくて! 僕は不正をして、隊員に加わったと思っていたので、そんな僕なんかが、ここにいたって、龍体に変身できるわけが無いし、到底無理だと思ったんです!」

 颯天の必死の剣幕に、笑うのを止めた透子。

「そうよね……私も以前、宇佐田君のように、初めて龍体に変身する隊員達を目にした時、愕然となったわ! それからも、自分の後輩達までがどんどん変身して、エイリアン達と互角に戦っているのを目にする度に、自己嫌悪に陥っていたわ……それでも、半ばやけになりながらも、今日まで諦めずに、いつかは自分も変身出来て、一隊員として貢献出来るものだと信じ続けていた。これからも、例えゼロに近い可能性だったとしても、努力し続けようとしていた……」

(透子さんは、いつだって、裏で沢山絶え間ない努力を続けて来た人なんだ……それは、僕にだって分かっている! 分かっているからこそ、人事異動を間近に控えた彼女が、この先の自分の事のように感じられてしまって、尚更不憫ふびんでならない……)

「新見さんが、努力を惜しまない人だっていうのは、僕はもちろん、芹田先生も分かっていますし、期待しているのだと思います! 芹田先生は、今は、あんな風な冴えないただの古典教師ですけど、ちゃんと人を見る目が有るような気がします!」

 颯天が颯天なりの言い回し方で芹田を褒めていると、陰鬱いんうつそうに見えていた透子の表情がまた変化し、我慢できない様子で笑い出した。

「新見さん……?」

 そんな透子のコロコロ変わる顔面に、自分の思考が付いて行けない颯天。

「ごめんなさい、つい堪え切れなくて笑い出してしまって……だって……芹田先生を冴えない古典教師って……芹田先生は、ただの古典教師なだけじゃないわ!」

「えっ……?」

(ただの古典教師なだけではない……って? どういう事なんだ……?)

「芹田先生は、とても偉大な人なのよ! 古典の授業で、龍の件について習っていたでしょう? 芹田先生は、かつて孤軍奮闘していた、向かうところ無敵の黒龍だった人なの!」

「芹田先生が、黒龍……? それは、どう贔屓ひいき目に観ようとしても信じられないです……」

 透子の言葉があまりにも意外過ぎて、受け入れられない様子の颯天。

(あの芹田先生が……? 緑が現れる前に孤軍奮闘を続けていた伝説の黒龍……? ただ古典を教えているだけの存在では無かったとは……!) 

「芹田先生は、古典教師という立場だけではなく、かつては黒龍だった。そして、龍体についての古典の唯一の伝承者よ。彼は、龍体化した時にチャネリングする事が出来るようになるの。それだけではなく、芹田先生は、千里眼でもあるの。その能力が宿っているのぱ、芹田先生だけなのよ」

 その発言から、透子がいかに芹田を尊敬しているかが伝わって来た颯天。

(そうか……千里眼である芹田先生は、いつか僕や透子さんが覚醒する事をちゃんと分かっているんだ! だからこそ、芹田先生の言葉は深みが有るんだな……)

「芹田先生が、太鼓判を押してくれたら、不可能そうな事だって、実現出来そうな気がするの!」

 透子が悲観的になりつつも、明るさを失わずにいられる理由は、芹田に認められ励まされているという事によるものなのだと、やっと理解出来た颯天。

「そんな芹田先生に認められているのですから、新見さんは、これからも前進有るのみですね!」

「ええ! 宇佐田君に先を越されないように頑張るつもりよ! 例え、職場が移動するとしても!」

 張り切っている透子を見て安心した颯天。

「新見さんがいつものような感じに戻って良かったです! でも、僕だって、新見さんに負けないように頑張ります!」

 見つめ合って笑った颯天と透子。

(やっぱり透子さんには、笑顔が似合っている! 芹田先生は、彼女をこうして励ませただけでもスゴイのに、伝説の黒龍だったなんて……これからは、芹田先生を見る目を変えないと!)

 ……とその時
 耳をつんざくような音を間近に聞いた二人。

「今のは……?」

 二人は背筋がゾッとなる感覚を覚えながら、お互いの目を合わせ続けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

健太と美咲

廣瀬純一
ファンタジー
小学生の健太と美咲の体が入れ替わる話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

サディストの私がM男を多頭飼いした時のお話

トシコ
ファンタジー
素人の女王様である私がマゾの男性を飼うのはリスクもありますが、生活に余裕の出来た私には癒しの空間でした。結婚しないで管理職になった女性は周りから見る目も厳しく、私は自分だけの城を作りまあした。そこで私とM男の週末の生活を祖紹介します。半分はノンフィクション、そして半分はフィクションです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

入れ替わった恋人

廣瀬純一
ファンタジー
大学生の恋人同士の入れ替わりの話

【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》

小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です ◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ ◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます! ◆クレジット表記は任意です ※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください 【ご利用にあたっての注意事項】  ⭕️OK ・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用 ※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可 ✖️禁止事項 ・二次配布 ・自作発言 ・大幅なセリフ改変 ・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

処理中です...