33 / 44
33.
変身
しおりを挟む
ビーストの巨体を前にしても、今後の成り行きの知っているらしい芹田は、訓練生達とは違い、動じる様子はなかった。
(こんな圧倒的に不利そうに思える状況で、隊員達は、 怯む事無く、敵を相手にしていたんだ! 芹田先生は、古典教師なのに、こんなに現場の事を知っている人だったとは! ここで、その巨体をどうやって倒すのか、芹田先生は全てお見通しなんだ!)
「ビーストの姿が、君らにとっては、この上も無く大きく感じられるだろう? だが、実際には、この程度のビーストなどは取るに足らない存在なのじゃ!」
笑い飛ばしそうな態度の芹田を見て、目と耳を疑った颯天。
(この巨体で取るに足らない? 僕ら人間の何十倍も有りそうな姿で、まともに戦っても、握り潰されそうな体格差が有るのに。芹田先生、久しぶりにビーストを見て、あまりの恐ろしさに、まさか、気が触れてしまったのでは……?)
芹田の言葉の真意が分からず、ここで、隊員達の力が及ばない様を見せつけられそうな気配に、どうしていいのか戸惑った颯天。
その時だった!
ビーストの巨体をも凌駕しそうな巨大な何かが、瞬くほどの速度で訓練生達の前を通り過ぎた。
(今のは、もしかして、もう一体のビースト? ビーストは一体だけではなく、二体もいたのか? しかも、さっきのより二回りくらい大きい! これはもう、隊員達には 為す術が無さそう!)
「芹田先生、今のもビーストですか?」
益田が目を見張りながら尋ねた。
「はっはっは、今のも、ビーストとはな! さては、君らの動体視力は、今、通り過ぎた姿をきちんと捉えられていなかったのかな?」
余裕を感じさせる態度で言い放った芹田。
(どういう事なんだろう? 僕は動体視力だけは、悪くないつもりだけど、今、通り過ぎたのは、ビーストではないとしても、少なくとも隊員の姿には全く見えなかった……)
「という事は……もしかして、隊員達なのですか?」
それまでは貝のように口を閉ざしていた浅谷が、妙に目を輝かせて尋ねた。
「諸君らは、わしの授業の時に、あれほどまでに重要だと教えていた龍体文字で書かれた古典の内容を覚えているかね?」
(浅谷さんの質問に対し、否定をする事無く、急に何を言い出すんだ、芹田先生は……? 龍体文字の古典とさっきの存在とは、どう関係が……?)
芹田が重要と何度も強調していた授業内容について、記憶を辿り、思い出そうとした颯天。
(確か、最初は色が出て来たんだ。黒とか青とか……)
色がオリンピックと似たように5色有った事くらいしか、漠然として思い出せずにいた颯天の横で、この時とばかりに、スラスラと暗唱する浅谷。
「遠き昔、黒が奮闘し、あまたの青補佐せり。
その間長く続けどその後、緑うちいで、黒の座を緑引き継ぐ事となりき。
それよりとばかりの間、緑の統率する世となりき。
やがて、赤のうちいづるがひまとなり、白や黒のうちいづる事となる。
白と黒は対に、その力は一足す一を遥かに凌駕す。
緑ばかりに統率せる世は終はり告げ、
圧倒的なる白と黒と、次に赤、かくて緑、青にうつろひ行く」
千加子は暗唱後、訓練生達の称賛の視線を一身に浴び、満足気な笑みを浮かべていた。
(えっ、全部暗唱出来ているのか! 合っているか、どうかなんて、僕にはよく分からなかったけど、あの自信たっぷりな浅谷さんの表情は、多分、一字一句間違えず覚えていたからこそ出来るものだ! 浅谷さんは、やっぱりスゴイ! 重要だと言われていた箇所を時間が経過しても、ちゃんと暗唱出来てるのも驚きだけど、こんな緊急時でも、 怖気付かずにスラスラと言えるなんて!)
「その通りじゃ! 浅谷君、よく覚えておったな! いや~、そんな優秀な教え子が例え一人だけでもいるとは、感心感心! さて、皆のもの、よく見るのじゃ! 今こそ、その意味を解き明かさん!」
千加子と同様、水を得た魚のような状態となり、訓練生達の目からも、張り切っている様子が伺える芹田。
その時、先刻に比べ、スピードが遅く小柄に見える存在が数体、隊員達の視界を横切った。
(わっ、何だ? まただ! しかも、今度は三体もいた! 数は増えたけど、体は小さいし、スピードがさっきよりずっと遅いから、僕の目でも、しっかり捉えられていた……そのしっかりと見て取れた状態でも、隊員が、こんなジャンプスーツ程度を装着したような感じにも、何かメカ的な物に乗り込んだようにも見えていなかった。それは、まるで、あの生き物……)
「あっ、またです! これも、隊員なんですか?」
浅谷に良い所ばかり持って行かれた下川が、自分も怯んでいない事を誇示しながら芹田に尋ねた。
訓練生達にとって違和感なく感じられたのは、先刻の巨体やビーストと比べ、明らかに小柄なせいかも知れない。
「大事な事だからな、よく心に留めよ! 今、通り過ぎた三体は青じゃ! その前の巨体は緑だったのじゃ! さあ、これで分かったかな?」
芹田の言葉にキョトンとした一同だったが、即座に浅谷が理解した様子になり、周囲を一瞥して優越感を味わった。
「これが、いわゆる変身ですね!」
(へ、変身だって……?)
確かに、後々習う予定である訓練生の講義の一つに変身という項目が有り、ずっと疑問だったのを思い出した颯天。
「その通りじゃ!」
(緑が……あの巨体で、青がその後の小柄な三体! あれは、つまり隊員達が大型のメカか何かを操縦していたと思っていたのに……そうではなく、各々が変身していたのか!)
あたかも自身が変身したように得意気な芹田に、愕然となった颯天。
(こんな圧倒的に不利そうに思える状況で、隊員達は、 怯む事無く、敵を相手にしていたんだ! 芹田先生は、古典教師なのに、こんなに現場の事を知っている人だったとは! ここで、その巨体をどうやって倒すのか、芹田先生は全てお見通しなんだ!)
「ビーストの姿が、君らにとっては、この上も無く大きく感じられるだろう? だが、実際には、この程度のビーストなどは取るに足らない存在なのじゃ!」
笑い飛ばしそうな態度の芹田を見て、目と耳を疑った颯天。
(この巨体で取るに足らない? 僕ら人間の何十倍も有りそうな姿で、まともに戦っても、握り潰されそうな体格差が有るのに。芹田先生、久しぶりにビーストを見て、あまりの恐ろしさに、まさか、気が触れてしまったのでは……?)
芹田の言葉の真意が分からず、ここで、隊員達の力が及ばない様を見せつけられそうな気配に、どうしていいのか戸惑った颯天。
その時だった!
ビーストの巨体をも凌駕しそうな巨大な何かが、瞬くほどの速度で訓練生達の前を通り過ぎた。
(今のは、もしかして、もう一体のビースト? ビーストは一体だけではなく、二体もいたのか? しかも、さっきのより二回りくらい大きい! これはもう、隊員達には 為す術が無さそう!)
「芹田先生、今のもビーストですか?」
益田が目を見張りながら尋ねた。
「はっはっは、今のも、ビーストとはな! さては、君らの動体視力は、今、通り過ぎた姿をきちんと捉えられていなかったのかな?」
余裕を感じさせる態度で言い放った芹田。
(どういう事なんだろう? 僕は動体視力だけは、悪くないつもりだけど、今、通り過ぎたのは、ビーストではないとしても、少なくとも隊員の姿には全く見えなかった……)
「という事は……もしかして、隊員達なのですか?」
それまでは貝のように口を閉ざしていた浅谷が、妙に目を輝かせて尋ねた。
「諸君らは、わしの授業の時に、あれほどまでに重要だと教えていた龍体文字で書かれた古典の内容を覚えているかね?」
(浅谷さんの質問に対し、否定をする事無く、急に何を言い出すんだ、芹田先生は……? 龍体文字の古典とさっきの存在とは、どう関係が……?)
芹田が重要と何度も強調していた授業内容について、記憶を辿り、思い出そうとした颯天。
(確か、最初は色が出て来たんだ。黒とか青とか……)
色がオリンピックと似たように5色有った事くらいしか、漠然として思い出せずにいた颯天の横で、この時とばかりに、スラスラと暗唱する浅谷。
「遠き昔、黒が奮闘し、あまたの青補佐せり。
その間長く続けどその後、緑うちいで、黒の座を緑引き継ぐ事となりき。
それよりとばかりの間、緑の統率する世となりき。
やがて、赤のうちいづるがひまとなり、白や黒のうちいづる事となる。
白と黒は対に、その力は一足す一を遥かに凌駕す。
緑ばかりに統率せる世は終はり告げ、
圧倒的なる白と黒と、次に赤、かくて緑、青にうつろひ行く」
千加子は暗唱後、訓練生達の称賛の視線を一身に浴び、満足気な笑みを浮かべていた。
(えっ、全部暗唱出来ているのか! 合っているか、どうかなんて、僕にはよく分からなかったけど、あの自信たっぷりな浅谷さんの表情は、多分、一字一句間違えず覚えていたからこそ出来るものだ! 浅谷さんは、やっぱりスゴイ! 重要だと言われていた箇所を時間が経過しても、ちゃんと暗唱出来てるのも驚きだけど、こんな緊急時でも、 怖気付かずにスラスラと言えるなんて!)
「その通りじゃ! 浅谷君、よく覚えておったな! いや~、そんな優秀な教え子が例え一人だけでもいるとは、感心感心! さて、皆のもの、よく見るのじゃ! 今こそ、その意味を解き明かさん!」
千加子と同様、水を得た魚のような状態となり、訓練生達の目からも、張り切っている様子が伺える芹田。
その時、先刻に比べ、スピードが遅く小柄に見える存在が数体、隊員達の視界を横切った。
(わっ、何だ? まただ! しかも、今度は三体もいた! 数は増えたけど、体は小さいし、スピードがさっきよりずっと遅いから、僕の目でも、しっかり捉えられていた……そのしっかりと見て取れた状態でも、隊員が、こんなジャンプスーツ程度を装着したような感じにも、何かメカ的な物に乗り込んだようにも見えていなかった。それは、まるで、あの生き物……)
「あっ、またです! これも、隊員なんですか?」
浅谷に良い所ばかり持って行かれた下川が、自分も怯んでいない事を誇示しながら芹田に尋ねた。
訓練生達にとって違和感なく感じられたのは、先刻の巨体やビーストと比べ、明らかに小柄なせいかも知れない。
「大事な事だからな、よく心に留めよ! 今、通り過ぎた三体は青じゃ! その前の巨体は緑だったのじゃ! さあ、これで分かったかな?」
芹田の言葉にキョトンとした一同だったが、即座に浅谷が理解した様子になり、周囲を一瞥して優越感を味わった。
「これが、いわゆる変身ですね!」
(へ、変身だって……?)
確かに、後々習う予定である訓練生の講義の一つに変身という項目が有り、ずっと疑問だったのを思い出した颯天。
「その通りじゃ!」
(緑が……あの巨体で、青がその後の小柄な三体! あれは、つまり隊員達が大型のメカか何かを操縦していたと思っていたのに……そうではなく、各々が変身していたのか!)
あたかも自身が変身したように得意気な芹田に、愕然となった颯天。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》
小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です
◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ
◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます!
◆クレジット表記は任意です
※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください
【ご利用にあたっての注意事項】
⭕️OK
・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用
※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可
✖️禁止事項
・二次配布
・自作発言
・大幅なセリフ改変
・こちらの台本を使用したボイスデータの販売
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる