32 / 44
32.
対ビースト
しおりを挟む
残った研修生達は、千加子も含め、比較的しっかりした体格をしていたが、予期せぬ突風で、身体を真っ直ぐに支えている事すら困難になっている面々が多かった。
特殊フィールド内では、外とは重力感が全く違っているのをまざまざと感じさせられた 颯天。
気付いた時には、スモッグのような灰色の 靄が一帯に広がり、視界が不鮮明な状態になっていた。
(こんな風ぐらいで、身体がグラつくなんて! この重力が少ない状態では、地球人達に不利になるに決まっているのに! 隊員達は、どうやって、こんなハンデの有る状況下で戦っているんだ? 大体、この風は、特殊フィールド内にいるというのに、どうして発生しているんだ……?)
現況を把握していない颯天には、次々に疑問が湧き上がって来た。
「君達は、この重力にまだ慣れていないから、起立している事が難しいだろう。しかも、このままでは、靄があるとはいえ敵の視界に入りやすい。身体を下に伏せて、周りの様子を伺う事にしようか」
芹田に指示され、各自、身体を地面に伏せ 匍匐前進させようとしたが、千加子は、そうする事はプライドが許さないらしい。
「重心を保てない人が多いかも知れませんが、私は、この通り、起立したままでもいられます!」
強気な態度で、そう言い張った千加子。
(いやいや、芹田先生が、敵の視界にも入りやすいと言っているのに、どうして、浅谷さんは従おうとしないんだ? 格好悪いと思っているとか、さっき、芹田先生に叱られたせいで、ムキになって反抗しているのかな? それとも、雅人の目に付きやすいようにして、すぐに助けてもらえるように、わざと自分だけ目立つ状態でいたいのかな?)
芹田に従おうとしない千加子の気持ちを解せずにいた颯天。
「つまらない意地など張らずに、ここでは、私の言う事に従ってもらおう。それが無理だと言うなら、さっき退出した訓練生達と同様に、この場から出て行ってもらう事になるのだが、どうするかね?」
厳しい口調で芹田が言うと、嫌々ながら従い、やっと身体を地面に伏せさせた千加子。
「いいかね、ここから先は、本当に遊びではない! しっかり肝に銘じて臨むように! そして、ここにおいては、勝手な行動を慎む事! 命が惜しいのならば、私の言葉に従ってもらわねばならない!」
いつもトップの座を奪われ、千加子に対し敵意を抱いていた下川と益田が、嘲笑するような目付きをゴーグルの中から向けていたが、千加子は見て見ぬふりをした。
その時、また突風が襲って来た。
今回は、起立姿勢の時のような衝撃は殆ど無かった。
(この突風、外の気象が影響しているわけではなさそう。特殊フィールド内だけで起きている突風現象なのだろうけど、どういう周期で起こっているのだろう? ここでの重力を調整する為に、何分おきかで強風を起さないとならない装置が必要だという事なのかな……? これが何なのか、確認したい)
「芹田先生、この強風は、どうして、さっきから発生しているのですか?」
今までは、そういった発言は、千加子がいち早くしていたのだが、当の本人は今、ふて腐れ気味で、質問せずにいた。
「君達は、まだ気付いてないようだな。伏せているから違いが分かってないようだが、この状態で、さっきより強風になっているのだよ」
(さっきより、強風だって……? 弱風の言い間違えではないのだとしたら、これは、伏せていなかったら、身体ごと風に持って行かれていたのかも知れない)
「そんな強風だったら、隊員達は、どうやってこの状況で身体を支えてているのですか? そうした状態に際しての訓練を積み重ねていたのですか?」
千加子が意見しないのを待ち、今度は、益田が尋ねた。
「いや、隊員とて、君らと似たような体格で体力だから、この風が直撃するとシンドイ。このジャンプスーツの構造に、耐風効果も少しは有るが、それだけでは、相手に攻撃出来るほどのものにはならない」
「それなら、強風時には、どうやって攻撃するのですか? 強風が収まるまで、待つのですか?」
「この強風が何か分かっていないようだね、そんな事では敵の思うつぼじゃ!」
(この強風の正体は何なんだ……? さっきより、強くなっているという事は、もっと強くなる可能性も有るって事かも知れない。これ以上の強風が襲ってきたら、人間の身体は、台風で倒壊する家のような感じになりそうだ)
その時、過去二回の強風などは、物の数にも入らなかったような、伏せていてもそのままでいられないほどの強風と共に、重々しい振動が伝わって来た。
(まさか、この強風は、敵が起こしていたものだったのか! だとしたら、この状況で、隊員達はどうやって戦う? 大体、これでレベル3って!)
「芹田先生、ビーストが起こしている強風だったんですね! この状態で、隊員達はまともに戦う事なんて出来るんですか?」
下川が震える声で尋ねた。
灰色の靄に随分と目が慣れて来て、やっと目に入ったのは、全長が20mほどは有りそうなビーストの巨体だった。
「……デカい! こんな巨大ビーストを相手にするとは!」
間近でビーストの大きさを知った衝撃で、気丈な益田や下川や浅谷も、膝から下からガクガクしていたが、今にも気を失いそうな隊員も少なからずいた。
(ビーストがここまで大きいなんて! そんなの隊員が何人でかかっても、ムリそうじゃないか! そんな現場に、とっくに雅人はいたのか! よくこんな敵を相手に、所詮、人間でしかない隊員達が……)
「初めて自分達の目で見たビーストは、思ったよりずっと大きかったじゃろう? こんな巨体が相手だと分かって、到底、勝ち目は無さそうに思っても、そりゃあ無理は無い……」
武者震いしながら、芹田の言葉の後に何が続くのか、期待した颯天。
特殊フィールド内では、外とは重力感が全く違っているのをまざまざと感じさせられた 颯天。
気付いた時には、スモッグのような灰色の 靄が一帯に広がり、視界が不鮮明な状態になっていた。
(こんな風ぐらいで、身体がグラつくなんて! この重力が少ない状態では、地球人達に不利になるに決まっているのに! 隊員達は、どうやって、こんなハンデの有る状況下で戦っているんだ? 大体、この風は、特殊フィールド内にいるというのに、どうして発生しているんだ……?)
現況を把握していない颯天には、次々に疑問が湧き上がって来た。
「君達は、この重力にまだ慣れていないから、起立している事が難しいだろう。しかも、このままでは、靄があるとはいえ敵の視界に入りやすい。身体を下に伏せて、周りの様子を伺う事にしようか」
芹田に指示され、各自、身体を地面に伏せ 匍匐前進させようとしたが、千加子は、そうする事はプライドが許さないらしい。
「重心を保てない人が多いかも知れませんが、私は、この通り、起立したままでもいられます!」
強気な態度で、そう言い張った千加子。
(いやいや、芹田先生が、敵の視界にも入りやすいと言っているのに、どうして、浅谷さんは従おうとしないんだ? 格好悪いと思っているとか、さっき、芹田先生に叱られたせいで、ムキになって反抗しているのかな? それとも、雅人の目に付きやすいようにして、すぐに助けてもらえるように、わざと自分だけ目立つ状態でいたいのかな?)
芹田に従おうとしない千加子の気持ちを解せずにいた颯天。
「つまらない意地など張らずに、ここでは、私の言う事に従ってもらおう。それが無理だと言うなら、さっき退出した訓練生達と同様に、この場から出て行ってもらう事になるのだが、どうするかね?」
厳しい口調で芹田が言うと、嫌々ながら従い、やっと身体を地面に伏せさせた千加子。
「いいかね、ここから先は、本当に遊びではない! しっかり肝に銘じて臨むように! そして、ここにおいては、勝手な行動を慎む事! 命が惜しいのならば、私の言葉に従ってもらわねばならない!」
いつもトップの座を奪われ、千加子に対し敵意を抱いていた下川と益田が、嘲笑するような目付きをゴーグルの中から向けていたが、千加子は見て見ぬふりをした。
その時、また突風が襲って来た。
今回は、起立姿勢の時のような衝撃は殆ど無かった。
(この突風、外の気象が影響しているわけではなさそう。特殊フィールド内だけで起きている突風現象なのだろうけど、どういう周期で起こっているのだろう? ここでの重力を調整する為に、何分おきかで強風を起さないとならない装置が必要だという事なのかな……? これが何なのか、確認したい)
「芹田先生、この強風は、どうして、さっきから発生しているのですか?」
今までは、そういった発言は、千加子がいち早くしていたのだが、当の本人は今、ふて腐れ気味で、質問せずにいた。
「君達は、まだ気付いてないようだな。伏せているから違いが分かってないようだが、この状態で、さっきより強風になっているのだよ」
(さっきより、強風だって……? 弱風の言い間違えではないのだとしたら、これは、伏せていなかったら、身体ごと風に持って行かれていたのかも知れない)
「そんな強風だったら、隊員達は、どうやってこの状況で身体を支えてているのですか? そうした状態に際しての訓練を積み重ねていたのですか?」
千加子が意見しないのを待ち、今度は、益田が尋ねた。
「いや、隊員とて、君らと似たような体格で体力だから、この風が直撃するとシンドイ。このジャンプスーツの構造に、耐風効果も少しは有るが、それだけでは、相手に攻撃出来るほどのものにはならない」
「それなら、強風時には、どうやって攻撃するのですか? 強風が収まるまで、待つのですか?」
「この強風が何か分かっていないようだね、そんな事では敵の思うつぼじゃ!」
(この強風の正体は何なんだ……? さっきより、強くなっているという事は、もっと強くなる可能性も有るって事かも知れない。これ以上の強風が襲ってきたら、人間の身体は、台風で倒壊する家のような感じになりそうだ)
その時、過去二回の強風などは、物の数にも入らなかったような、伏せていてもそのままでいられないほどの強風と共に、重々しい振動が伝わって来た。
(まさか、この強風は、敵が起こしていたものだったのか! だとしたら、この状況で、隊員達はどうやって戦う? 大体、これでレベル3って!)
「芹田先生、ビーストが起こしている強風だったんですね! この状態で、隊員達はまともに戦う事なんて出来るんですか?」
下川が震える声で尋ねた。
灰色の靄に随分と目が慣れて来て、やっと目に入ったのは、全長が20mほどは有りそうなビーストの巨体だった。
「……デカい! こんな巨大ビーストを相手にするとは!」
間近でビーストの大きさを知った衝撃で、気丈な益田や下川や浅谷も、膝から下からガクガクしていたが、今にも気を失いそうな隊員も少なからずいた。
(ビーストがここまで大きいなんて! そんなの隊員が何人でかかっても、ムリそうじゃないか! そんな現場に、とっくに雅人はいたのか! よくこんな敵を相手に、所詮、人間でしかない隊員達が……)
「初めて自分達の目で見たビーストは、思ったよりずっと大きかったじゃろう? こんな巨体が相手だと分かって、到底、勝ち目は無さそうに思っても、そりゃあ無理は無い……」
武者震いしながら、芹田の言葉の後に何が続くのか、期待した颯天。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる