燃えよ、想いを乗せ

ゆりえる

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対ビースト

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 残った研修生達は、千加子も含め、比較的しっかりした体格をしていたが、予期せぬ突風で、身体を真っ直ぐに支えている事すら困難になっている面々が多かった。
 特殊フィールド内では、外とは重力感が全く違っているのをまざまざと感じさせられた 颯天はやて
 気付いた時には、スモッグのような灰色の もやが一帯に広がり、視界が不鮮明な状態になっていた。

(こんな風ぐらいで、身体がグラつくなんて! この重力が少ない状態では、地球人達に不利になるに決まっているのに! 隊員達は、どうやって、こんなハンデの有る状況下で戦っているんだ? 大体、この風は、特殊フィールド内にいるというのに、どうして発生しているんだ……?)

 現況を把握していない颯天には、次々に疑問が湧き上がって来た。
 
「君達は、この重力にまだ慣れていないから、起立している事が難しいだろう。しかも、このままでは、靄があるとはいえ敵の視界に入りやすい。身体を下に伏せて、周りの様子を伺う事にしようか」

 芹田に指示され、各自、身体を地面に伏せ 匍匐ほふく前進させようとしたが、千加子は、そうする事はプライドが許さないらしい。

「重心を保てない人が多いかも知れませんが、私は、この通り、起立したままでもいられます!」

 強気な態度で、そう言い張った千加子。

(いやいや、芹田先生が、敵の視界にも入りやすいと言っているのに、どうして、浅谷さんは従おうとしないんだ? 格好悪いと思っているとか、さっき、芹田先生に叱られたせいで、ムキになって反抗しているのかな? それとも、雅人の目に付きやすいようにして、すぐに助けてもらえるように、わざと自分だけ目立つ状態でいたいのかな?)

 芹田に従おうとしない千加子の気持ちを解せずにいた颯天。

「つまらない意地など張らずに、ここでは、私の言う事に従ってもらおう。それが無理だと言うなら、さっき退出した訓練生達と同様に、この場から出て行ってもらう事になるのだが、どうするかね?」

 厳しい口調で芹田が言うと、嫌々ながら従い、やっと身体を地面に伏せさせた千加子。

「いいかね、ここから先は、本当に遊びではない! しっかり肝に銘じて臨むように! そして、ここにおいては、勝手な行動を慎む事! 命が惜しいのならば、私の言葉に従ってもらわねばならない!」

 いつもトップの座を奪われ、千加子に対し敵意を抱いていた下川と益田が、嘲笑するような目付きをゴーグルの中から向けていたが、千加子は見て見ぬふりをした。

 その時、また突風が襲って来た。
 今回は、起立姿勢の時のような衝撃は殆ど無かった。

(この突風、外の気象が影響しているわけではなさそう。特殊フィールド内だけで起きている突風現象なのだろうけど、どういう周期で起こっているのだろう? ここでの重力を調整する為に、何分おきかで強風を起さないとならない装置が必要だという事なのかな……? これが何なのか、確認したい)

「芹田先生、この強風は、どうして、さっきから発生しているのですか?」

 今までは、そういった発言は、千加子がいち早くしていたのだが、当の本人は今、ふて腐れ気味で、質問せずにいた。

「君達は、まだ気付いてないようだな。伏せているから違いが分かってないようだが、この状態で、さっきより強風になっているのだよ」

(さっきより、だって……? の言い間違えではないのだとしたら、これは、伏せていなかったら、身体ごと風に持って行かれていたのかも知れない)

「そんな強風だったら、隊員達は、どうやってこの状況で身体を支えてているのですか? そうした状態に際しての訓練を積み重ねていたのですか?」

 千加子が意見しないのを待ち、今度は、益田が尋ねた。

「いや、隊員とて、君らと似たような体格で体力だから、この風が直撃するとシンドイ。このジャンプスーツの構造に、耐風効果も少しは有るが、それだけでは、相手に攻撃出来るほどのものにはならない」

「それなら、強風時には、どうやって攻撃するのですか? 強風が収まるまで、待つのですか?」

「この強風が何か分かっていないようだね、そんな事では敵の思うつぼじゃ!」

(この強風の正体は何なんだ……? さっきより、強くなっているという事は、もっと強くなる可能性も有るって事かも知れない。これ以上の強風が襲ってきたら、人間の身体は、台風で倒壊する家のような感じになりそうだ)

 その時、過去二回の強風などは、物の数にも入らなかったような、伏せていてもそのままでいられないほどの強風と共に、重々しい振動が伝わって来た。

(まさか、この強風は、敵が起こしていたものだったのか! だとしたら、この状況で、隊員達はどうやって戦う? 大体、これでレベル3って!)

「芹田先生、ビーストが起こしている強風だったんですね! この状態で、隊員達はまともに戦う事なんて出来るんですか?」

 下川が震える声で尋ねた。
 灰色の靄に随分と目が慣れて来て、やっと目に入ったのは、全長が20mほどは有りそうなビーストの巨体だった。

「……デカい! こんな巨大ビーストを相手にするとは!」

 間近でビーストの大きさを知った衝撃で、気丈な益田や下川や浅谷も、膝から下からガクガクしていたが、今にも気を失いそうな隊員も少なからずいた。

(ビーストがここまで大きいなんて! そんなの隊員が何人でかかっても、ムリそうじゃないか! そんな現場に、とっくに雅人はいたのか! よくこんな敵を相手に、所詮、人間でしかない隊員達が……)

「初めて自分達の目で見たビーストは、思ったよりずっと大きかったじゃろう? こんな巨体が相手だと分かって、到底、勝ち目は無さそうに思っても、そりゃあ無理は無い……」

 武者震いしながら、芹田の言葉の後に何が続くのか、期待した颯天。
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