31 / 44
31.
特殊フィールドへ
しおりを挟む
今まで自分達が居た場所と違う、亜空間へ足を踏み入れた時、ジャンプスーツに身を包んでいるとはいえ、強烈な圧を感じ、両耳の奥が痛くなった。
手足を動かしてみると、重力の違いも感じる颯天。
(こんなに普段とは条件の違う中で、隊員達はエイリアンと戦う事になるのか! 隊員の間で、合図や指令を出したりする時に、ちゃんと声は聴こえるのかな?)
そんな颯天の疑問を察したかのように、芹田が普通のボリュームで語り出した。
「ヘルメットをしていても、まだ耳の圧が強いじゃろうが、聴覚自体には支障が無いから安心せい。このヘルメットには、妨害する音波が生じても隊員間の声を拾えるようレシーバーが内蔵されている。皆、わしの声が聴こえているか?」
研修生達は、一同で頷いた。
「大和隊員の方々は、どちらにいるのですか?」
芹田の話より、雅人の所在を確かめようと、あちこち見回している千加子。
(浅谷さん、いつもの落ち着きはどこにいったのだろう? 雅人の事で頭がいっぱいになっている感じで、ソワソワし過ぎじゃないか。そりゃあ僕だって、隊員として働いている時の透子さんを探したい気持ちは強いけど……)
千加子のように、あからさまに探すような事をすると、透子の方にも迷惑が及びそうで、高鳴る気持ちを抑えた。
「大和撫子隊も含めて、彼らは、各自の持ち場についている。今回の敵は、レベル3と見なされているようだから、全体の7割強の隊員が集まっている事だろう」
「レベル3というのは、敵のレベルとしては中間レベルという事ですか?」
やっと雅人を探すのを中断し、芹田に疑問を返した千加子。
「そうじゃ、対ビーストの戦闘レベルというのは5段階有ってだな、容易く撃退できる場合はレベル1や2で、隊員の半数以下が召喚される事が多いが、今回はやや手こずりそうだからレベルは3だ。ここずっと、レベル4までの敵しか現れていないが、かつては、総勢でかかっても、かなりの隊員達が殉死する事も有ったレベル5という強敵も現れていた事も有ったのじゃよ。今後だって、いつ現れるかは我々に予想つかぬ」
芹田の声は、レベル5の敵が出現した当時の事を回顧していた様子で、今までにないほど暗く沈んでいた。
(芹田先生のように、現場で活躍していたわけではなくても、同年代の隊員の訃報は身に染みるのだろうな。ましてや、前線で活躍中の現役隊員だったら、同僚を亡くすのは、よっぽど堪える事に違いない。もしも、透子さんがそんな風になったら、僕は、どうしていいか分からなくなる! そんな不幸が襲う危険性が有るくらいだったら、透子さんには、大和撫子隊から退いてもらった方が、ずっと安心かも知れない。でも、そんな僕の願望を透子さんに言ったら、軽蔑されそうだけど……)
「隊員達が殉死なんて事も有るんですか? 彼らのような無敵の存在でも?」
殉死について、颯天や千加子のような訓練生達が知り得ている情報の中では、全く明示されていなかった。
「地球防衛隊といえども、決して完全無敵ではない! 我々が束になってかかって、何とか勝ち得たほどの強敵もいたんじゃ! 今後も、それ以上の攻撃力を持つような敵が現れないとは限らないからな! 君達も、大和隊員や大和撫子隊員を志す以上は、最悪の事態も覚悟してもらわないとならない!」
今までにないほどの厳しさを芹田の語気から強く感じ取れた。
「最悪の事態……」
よほど衝撃的だったらしく、その部分だけ、オウム返しした千加子。
「私は、そんなのはイヤです! 私は、大和撫子隊を目指すのは止めます!」
きっぱりと言い切り、早々に特殊フィールドから抜け出そうとする寧子。
そんな寧子を見て、鼻で笑った千加子。
千加子は、透子に対しても容赦ない口調で責めたように、寧子のような腰かけ感覚丸出しの女性を蔑視し、彼女が退こうとしているのは、ちょうど願ったり叶ったりと思っているようだった。
「そうだな、女性に限らず男性諸君でも覚悟が無い者達は、これ以上、奥に踏み込むのは止めた方が良い。他には、躊躇っている者はいないかな?」
訓練生達は、不安を感じているような態度で、お互い顔を見合わせた。
寧子の他に三名の男子訓練生が脱落し、芹田と同じ仕様のジャンプスーツを着ている男性に誘導され、特殊フィールドから早々に出て行った。
「情けないわね~! 今まで一緒に学んだ訓練生の中に、あんなに不純な動機の生徒達が混じっていたなんて!」
溜め息混じりに、芹田に向かって言った千加子だったが、ふと、颯天が残っている事に気付いたようだった。
「あらっ、宇佐田君じゃない! まさか、宇佐田君は、このまま同行するつもりなの? まだsup遺伝子すら覚醒してないというのに? 絶対、危険だから、ここで抜けておいた方が、あなたの為かも知れないわよ!」
「いや、僕は、隊員達の活躍を目にする機会を無駄にしたくない!」
「そんな好奇心だけでいられるのは、今のうちよ! 今は、隊員達が戦っているのを客観的に見る立場だからいいかも知れないけど、これから先は、自分達が当事者になるのかも知れないのだから! そんな意気込みだけ有っても、実力が全くというほど伴わない人間なんて、ここに残っていても無駄でしかないし、私達のような覚醒組とっても迷惑よ!」
(浅谷さんは、僕のような無能者は足を引っ張ると思って、さっさと、この場から消えて欲しいような気持ちでいる。僕が、ここにいるには似つかわしくない事くらい、何も浅谷さんだけじゃなく、僕自身だって、イヤというほど自覚している! だからって、本人の気持ちを無視して、退散させようとするのは……)
侮蔑されっばなしで憤慨した颯天だったが、言い返そうにも、千加子が相手では、何を言っても丸め込まれそうで、自分が優位に立てそうな事は何一つ思い付かなかった。
「黙りなさい! 同期の訓練生を侮る権限など、浅谷君には無いのじゃから!」
厳しい口調で、千加子の言葉を制した芹田。
(芹田先生が庇ってくれるとは……実戦経験が無いのがウィークポイントだけど、思っていたより、芹田先生は、良い人なのかも知れない)
古典の授業は、実戦向きではなく、ひたすら睡魔との戦いが多かったが、こうして、緊急時の対応から、芹田を少しずつ見直す気持ちになれた颯天。
手足を動かしてみると、重力の違いも感じる颯天。
(こんなに普段とは条件の違う中で、隊員達はエイリアンと戦う事になるのか! 隊員の間で、合図や指令を出したりする時に、ちゃんと声は聴こえるのかな?)
そんな颯天の疑問を察したかのように、芹田が普通のボリュームで語り出した。
「ヘルメットをしていても、まだ耳の圧が強いじゃろうが、聴覚自体には支障が無いから安心せい。このヘルメットには、妨害する音波が生じても隊員間の声を拾えるようレシーバーが内蔵されている。皆、わしの声が聴こえているか?」
研修生達は、一同で頷いた。
「大和隊員の方々は、どちらにいるのですか?」
芹田の話より、雅人の所在を確かめようと、あちこち見回している千加子。
(浅谷さん、いつもの落ち着きはどこにいったのだろう? 雅人の事で頭がいっぱいになっている感じで、ソワソワし過ぎじゃないか。そりゃあ僕だって、隊員として働いている時の透子さんを探したい気持ちは強いけど……)
千加子のように、あからさまに探すような事をすると、透子の方にも迷惑が及びそうで、高鳴る気持ちを抑えた。
「大和撫子隊も含めて、彼らは、各自の持ち場についている。今回の敵は、レベル3と見なされているようだから、全体の7割強の隊員が集まっている事だろう」
「レベル3というのは、敵のレベルとしては中間レベルという事ですか?」
やっと雅人を探すのを中断し、芹田に疑問を返した千加子。
「そうじゃ、対ビーストの戦闘レベルというのは5段階有ってだな、容易く撃退できる場合はレベル1や2で、隊員の半数以下が召喚される事が多いが、今回はやや手こずりそうだからレベルは3だ。ここずっと、レベル4までの敵しか現れていないが、かつては、総勢でかかっても、かなりの隊員達が殉死する事も有ったレベル5という強敵も現れていた事も有ったのじゃよ。今後だって、いつ現れるかは我々に予想つかぬ」
芹田の声は、レベル5の敵が出現した当時の事を回顧していた様子で、今までにないほど暗く沈んでいた。
(芹田先生のように、現場で活躍していたわけではなくても、同年代の隊員の訃報は身に染みるのだろうな。ましてや、前線で活躍中の現役隊員だったら、同僚を亡くすのは、よっぽど堪える事に違いない。もしも、透子さんがそんな風になったら、僕は、どうしていいか分からなくなる! そんな不幸が襲う危険性が有るくらいだったら、透子さんには、大和撫子隊から退いてもらった方が、ずっと安心かも知れない。でも、そんな僕の願望を透子さんに言ったら、軽蔑されそうだけど……)
「隊員達が殉死なんて事も有るんですか? 彼らのような無敵の存在でも?」
殉死について、颯天や千加子のような訓練生達が知り得ている情報の中では、全く明示されていなかった。
「地球防衛隊といえども、決して完全無敵ではない! 我々が束になってかかって、何とか勝ち得たほどの強敵もいたんじゃ! 今後も、それ以上の攻撃力を持つような敵が現れないとは限らないからな! 君達も、大和隊員や大和撫子隊員を志す以上は、最悪の事態も覚悟してもらわないとならない!」
今までにないほどの厳しさを芹田の語気から強く感じ取れた。
「最悪の事態……」
よほど衝撃的だったらしく、その部分だけ、オウム返しした千加子。
「私は、そんなのはイヤです! 私は、大和撫子隊を目指すのは止めます!」
きっぱりと言い切り、早々に特殊フィールドから抜け出そうとする寧子。
そんな寧子を見て、鼻で笑った千加子。
千加子は、透子に対しても容赦ない口調で責めたように、寧子のような腰かけ感覚丸出しの女性を蔑視し、彼女が退こうとしているのは、ちょうど願ったり叶ったりと思っているようだった。
「そうだな、女性に限らず男性諸君でも覚悟が無い者達は、これ以上、奥に踏み込むのは止めた方が良い。他には、躊躇っている者はいないかな?」
訓練生達は、不安を感じているような態度で、お互い顔を見合わせた。
寧子の他に三名の男子訓練生が脱落し、芹田と同じ仕様のジャンプスーツを着ている男性に誘導され、特殊フィールドから早々に出て行った。
「情けないわね~! 今まで一緒に学んだ訓練生の中に、あんなに不純な動機の生徒達が混じっていたなんて!」
溜め息混じりに、芹田に向かって言った千加子だったが、ふと、颯天が残っている事に気付いたようだった。
「あらっ、宇佐田君じゃない! まさか、宇佐田君は、このまま同行するつもりなの? まだsup遺伝子すら覚醒してないというのに? 絶対、危険だから、ここで抜けておいた方が、あなたの為かも知れないわよ!」
「いや、僕は、隊員達の活躍を目にする機会を無駄にしたくない!」
「そんな好奇心だけでいられるのは、今のうちよ! 今は、隊員達が戦っているのを客観的に見る立場だからいいかも知れないけど、これから先は、自分達が当事者になるのかも知れないのだから! そんな意気込みだけ有っても、実力が全くというほど伴わない人間なんて、ここに残っていても無駄でしかないし、私達のような覚醒組とっても迷惑よ!」
(浅谷さんは、僕のような無能者は足を引っ張ると思って、さっさと、この場から消えて欲しいような気持ちでいる。僕が、ここにいるには似つかわしくない事くらい、何も浅谷さんだけじゃなく、僕自身だって、イヤというほど自覚している! だからって、本人の気持ちを無視して、退散させようとするのは……)
侮蔑されっばなしで憤慨した颯天だったが、言い返そうにも、千加子が相手では、何を言っても丸め込まれそうで、自分が優位に立てそうな事は何一つ思い付かなかった。
「黙りなさい! 同期の訓練生を侮る権限など、浅谷君には無いのじゃから!」
厳しい口調で、千加子の言葉を制した芹田。
(芹田先生が庇ってくれるとは……実戦経験が無いのがウィークポイントだけど、思っていたより、芹田先生は、良い人なのかも知れない)
古典の授業は、実戦向きではなく、ひたすら睡魔との戦いが多かったが、こうして、緊急時の対応から、芹田を少しずつ見直す気持ちになれた颯天。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》
小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です
◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ
◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます!
◆クレジット表記は任意です
※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください
【ご利用にあたっての注意事項】
⭕️OK
・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用
※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可
✖️禁止事項
・二次配布
・自作発言
・大幅なセリフ改変
・こちらの台本を使用したボイスデータの販売
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる