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言霊
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昨日の運動場での透子との出来事が、頭の中を何度も蘇り、やはり古典の授業に集中出来ずにいた颯天。
(雅人にも、聞いて欲しかったのに……昨日に限って、雅人は遅くなっても戻らなかったし。やっぱり、僕ら研修生と違って、現場の人間は忙しいんだな……)
いつもなら、眠くなるような授業だったが、今日の颯天には、胸につかえているものが大き過ぎて、睡魔さえも遠退かせていた。
「日本人は、古代から、言霊というものをとても大切に扱って使って来た」
その言霊を意識しているせいか、古典教師の芹田太郎の声が、いつもより饒舌な雰囲気で教室内に響き渡っていた。
珍しく睡魔に襲われずに授業を受けていられる颯天は、教室内を見渡した。
(みんな、しっかりと耳を傾けているんだな~、特に浅谷さん! いつだって自分が指名されてもいいように、常に身構えているようにも見える。自分がヒロインだと思い込めるような人は、やっぱり、どこか普通の人とは違うんだよな~)
「むろん、皆一人一人が持つ名前というのも、それぞれにとって、非常に大事な言霊なのだ! そして、それは、あたかも親が名付けたように思われているが、違っているんじゃ! 実は、生まれる前に、自分達がその名前を選んで、両親にお腹の中からテレパシーで、その名前を選ぶように仕向けているそうなのだよ! 何とも神秘的なものよのう! 皆は、自分達の名前の由来というものを知っているだろうか?」
待ってましたと言わんばかりに、一番先にサッと挙手した千加子。
その千加子を無視して、話を続けた芹田。
「わしの場合、太郎という名前じゃ。まあ、今時珍しいほど古風な名前じゃが、昔は、ありふれていた名前じゃったよ。自分が呼ばれたと勘違いするのがしょっちゅうなくらい、あちこちに太郎という名前の男が存在していたのじゃ。いや、人間ばかりか、犬の名前にも使われておったわい」
そう言いながら、豪快にワッハッハ笑いをした芹田。
挙手を続けている千加子をそこでも無視していた。
「太郎という名前は、そういう、今風ではなくて格好悪い感じの名前に思われるかも知れぬが、実は、その印象とは、非常にかけ離れた意味合いを持つ名前なのじゃよ」
ワッハッハ笑いを止めて、意味深な面持ちに変わった芹田。
じれったそうに、千加子の挙手された腕は、肘が曲がり出した。
「太郎という名付けられた男は、長男である事が多い。やはり、わしも長男だったがな。なぜなら、太郎というのは、最初とか、最も優れたものに対しての呼称でもあるからじゃ。『神の子』などという意味合いもあるのじゃよ」
千加子が乗り移ったか、日頃の千加子の態度への見せしめのように、得意気に語っていた芹田。
そんな大それた意味合いを持つ芹田の名前の後に、自分の名前の由来を伝える事の出来る人はいないと思いきや……
千加子の曲がりかけた肘がピンと伸びていた。
(諦めが悪いというか、後に引けないというか、とにかく、浅谷さんは自分の自慢話をしたいんだ……)
発言できるまでは、意地でも挙手し続ける態勢を崩さない千加子の方に、やっと視線を向けた芹田。
「是非、皆の名前の由来についても、聴かせて頂くとしようかな? 待たせたね、浅谷君」
千加子の挙手は、最初から芹田の視界に入っていたが、やはり、敢えて芹田は、自分の名前の由来を優先的に伝えたかったのだと分かった颯天。
「私の名前は、一十百千万の「千」に、加えるの「加」に、子供の「子」で、千加子です。この名前の由来は、私が加わると千人力という意味を込めて名付けたそうです。私自身、その名前に恥じないように、常に意識して生きています!」
(はぁ~! さすがは、浅谷さん! 親御さんも、こうなる事を願って、そんな強靭な名前を選んだんだな~)
「そうかそうか、立派な事だな~! 名前も力強いが、その心がけも素晴らしい! 他には、名前の由来を聴かせてくれる者はいないかのう? 益田君、どうじゃ?」
誰も挙手していなかったが、研修生の中でも、浅谷と並び際立っている益田を指名した芹田。
「はい、僕の名前は「知道」です。本来ならば、文武両道が願いでしたが、僕の両親は、どちらかというと、知性を優先させたかったようです。ですから、知力が増す道を選ぶようにと名付けられました」
益田と同様、研修生の中で優れている生徒の中に、下川がいるが、彼の方が武力が目立ち、益田は知性的な面で補っている面も見られた。
「そうか、なるほどな。では、下川君、君の名前の由来も教えてもらえないかね?」
芹田は、この古典の授業態度だけで、彼らが逸材と理解出来ている様子で、下川を指名した。
「僕の名前は、『整える』という漢字一文字で、『ひとし』と読みます。乱れた世の中を整える役目を担うようにという願いを込められました」
「ほうほう、良い名じゃな。あと一人くらい、聞いてみるか。宇佐田君、君の名前の由来を教えてもらえないかね?」
(僕……? ああ、そうか、優秀な人達と比較する対象が欲しかったんだ。まったく~、意地悪だな、芹田先生は……)
「僕の名前は、颯天です。颯爽の『颯』に、天井の『天』です。名前の由来は、親に確かめた事が無いから分からないですが、多分、僕の予想だと、風のように軽く、上を目指すような感じでしょうか?」
僕が発言すると、クラスメイト達が小馬鹿にしたように笑い出した。
「なかなかに清らかで神々しい名を持っているな、君は!」
名前負けだと言わんばかりの芹田と、クラスメイト達の反応だった。
「はい、完全に名前負けですが……」
その言葉により、心ならずも、ますます笑いを取っていた颯天。
(雅人にも、聞いて欲しかったのに……昨日に限って、雅人は遅くなっても戻らなかったし。やっぱり、僕ら研修生と違って、現場の人間は忙しいんだな……)
いつもなら、眠くなるような授業だったが、今日の颯天には、胸につかえているものが大き過ぎて、睡魔さえも遠退かせていた。
「日本人は、古代から、言霊というものをとても大切に扱って使って来た」
その言霊を意識しているせいか、古典教師の芹田太郎の声が、いつもより饒舌な雰囲気で教室内に響き渡っていた。
珍しく睡魔に襲われずに授業を受けていられる颯天は、教室内を見渡した。
(みんな、しっかりと耳を傾けているんだな~、特に浅谷さん! いつだって自分が指名されてもいいように、常に身構えているようにも見える。自分がヒロインだと思い込めるような人は、やっぱり、どこか普通の人とは違うんだよな~)
「むろん、皆一人一人が持つ名前というのも、それぞれにとって、非常に大事な言霊なのだ! そして、それは、あたかも親が名付けたように思われているが、違っているんじゃ! 実は、生まれる前に、自分達がその名前を選んで、両親にお腹の中からテレパシーで、その名前を選ぶように仕向けているそうなのだよ! 何とも神秘的なものよのう! 皆は、自分達の名前の由来というものを知っているだろうか?」
待ってましたと言わんばかりに、一番先にサッと挙手した千加子。
その千加子を無視して、話を続けた芹田。
「わしの場合、太郎という名前じゃ。まあ、今時珍しいほど古風な名前じゃが、昔は、ありふれていた名前じゃったよ。自分が呼ばれたと勘違いするのがしょっちゅうなくらい、あちこちに太郎という名前の男が存在していたのじゃ。いや、人間ばかりか、犬の名前にも使われておったわい」
そう言いながら、豪快にワッハッハ笑いをした芹田。
挙手を続けている千加子をそこでも無視していた。
「太郎という名前は、そういう、今風ではなくて格好悪い感じの名前に思われるかも知れぬが、実は、その印象とは、非常にかけ離れた意味合いを持つ名前なのじゃよ」
ワッハッハ笑いを止めて、意味深な面持ちに変わった芹田。
じれったそうに、千加子の挙手された腕は、肘が曲がり出した。
「太郎という名付けられた男は、長男である事が多い。やはり、わしも長男だったがな。なぜなら、太郎というのは、最初とか、最も優れたものに対しての呼称でもあるからじゃ。『神の子』などという意味合いもあるのじゃよ」
千加子が乗り移ったか、日頃の千加子の態度への見せしめのように、得意気に語っていた芹田。
そんな大それた意味合いを持つ芹田の名前の後に、自分の名前の由来を伝える事の出来る人はいないと思いきや……
千加子の曲がりかけた肘がピンと伸びていた。
(諦めが悪いというか、後に引けないというか、とにかく、浅谷さんは自分の自慢話をしたいんだ……)
発言できるまでは、意地でも挙手し続ける態勢を崩さない千加子の方に、やっと視線を向けた芹田。
「是非、皆の名前の由来についても、聴かせて頂くとしようかな? 待たせたね、浅谷君」
千加子の挙手は、最初から芹田の視界に入っていたが、やはり、敢えて芹田は、自分の名前の由来を優先的に伝えたかったのだと分かった颯天。
「私の名前は、一十百千万の「千」に、加えるの「加」に、子供の「子」で、千加子です。この名前の由来は、私が加わると千人力という意味を込めて名付けたそうです。私自身、その名前に恥じないように、常に意識して生きています!」
(はぁ~! さすがは、浅谷さん! 親御さんも、こうなる事を願って、そんな強靭な名前を選んだんだな~)
「そうかそうか、立派な事だな~! 名前も力強いが、その心がけも素晴らしい! 他には、名前の由来を聴かせてくれる者はいないかのう? 益田君、どうじゃ?」
誰も挙手していなかったが、研修生の中でも、浅谷と並び際立っている益田を指名した芹田。
「はい、僕の名前は「知道」です。本来ならば、文武両道が願いでしたが、僕の両親は、どちらかというと、知性を優先させたかったようです。ですから、知力が増す道を選ぶようにと名付けられました」
益田と同様、研修生の中で優れている生徒の中に、下川がいるが、彼の方が武力が目立ち、益田は知性的な面で補っている面も見られた。
「そうか、なるほどな。では、下川君、君の名前の由来も教えてもらえないかね?」
芹田は、この古典の授業態度だけで、彼らが逸材と理解出来ている様子で、下川を指名した。
「僕の名前は、『整える』という漢字一文字で、『ひとし』と読みます。乱れた世の中を整える役目を担うようにという願いを込められました」
「ほうほう、良い名じゃな。あと一人くらい、聞いてみるか。宇佐田君、君の名前の由来を教えてもらえないかね?」
(僕……? ああ、そうか、優秀な人達と比較する対象が欲しかったんだ。まったく~、意地悪だな、芹田先生は……)
「僕の名前は、颯天です。颯爽の『颯』に、天井の『天』です。名前の由来は、親に確かめた事が無いから分からないですが、多分、僕の予想だと、風のように軽く、上を目指すような感じでしょうか?」
僕が発言すると、クラスメイト達が小馬鹿にしたように笑い出した。
「なかなかに清らかで神々しい名を持っているな、君は!」
名前負けだと言わんばかりの芹田と、クラスメイト達の反応だった。
「はい、完全に名前負けですが……」
その言葉により、心ならずも、ますます笑いを取っていた颯天。
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