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憂慮の理由
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当初は透子への贈り物だったはずの指輪が、淡島花蓮の指に収まった事については、それほど堪えていないどころか、笑うほどの余裕を見せていた透子。
だとしたら、透子が哀しむ要因は、他に何が有るのだろうかと考える颯天。
透子の笑い声は、次第にボリュームが小さくなっていった。
「私ね、ついにAグループから追い出される事になったの……」
つい今しがたまで明るく笑っていたはずの透子が、再び失意のどん底に落とされたような表情を浮かべ、生気の無い声を発した。
「追い出されるという事は……」
「そう、地球防衛隊本部に左遷されるの……」
昨日の研修後、透子と話題にしていた地球防衛隊本部の配属という事は、透子の恐れていた事態が、間近に迫っているという事だった。
透子の今有る記憶の抹消。
(せっかく、ずっと憧れていた透子さんと、こうして会って話せる楽しみが出来たばかりだというのに、もうその楽しみを奪われてしまう! それどころか、僕とこうして会っていた記憶も、僕のいた事すら透子さんの記憶から消されてしまうんだ……)
「いつかは、そうなる事の覚悟はしていたつもりだったけど、それがこうも逼迫している状況に置かれると……すごくキツイ。やっぱり、私、記憶を失うのはイヤなの! 例え、私がグループに貢献出来てなかったとしても、私が今まで努力して歩んで来た道のりを、完全に消し去られてしまうなんて、耐えられないの!」
どれほど苦しいのかが颯天にも痛いくらいに伝わるような、幾筋もの大粒の涙で頬を濡らしている透子。
今までも透子の泣いている様子を目にしていたが、これほどまで激しい嗚咽状態の透子を見たのは初めてで、どう声をかけていいか分からず、動揺するしかなかった颯天。
「荒田さんが、淡島さんを選んでも、もう彼に未練なんて無いわ! 私生活で、どんなに見せつけられても、何も後悔しない! でも、仕事上は、荒田さんの事を尊敬しているし、このままずっと、彼のグループの一員として存在していたかった! それが叶わなくなった上、記憶を抜かれてしまうなんて……」
透子が何よりも恐れている、記憶の消去。
だからこそ、自分がいるのだと、颯天は今こそ感じた!
颯天は、透子の泣きながら震わせている肩に、両腕を回し抱き締めた。
(透子さん、こんな華奢な肩をしていたんだ……今まで活躍していた透子さんのイメージは、もっと強そうな身体つきをした女性だったけど、僕の前にいる透子さんは、こんなにもか細くて小柄な女性だったんだ……か弱い女性だと感じさせないように、いつもここで、トレーニングを繰り返して、努力を決して怠らなかったのに……)
「大丈夫ですよ、新見さん! 僕は、約束通り、機会が出来たら、あなたの記憶を戻す為に動きますから!」
「宇佐田君……」
透子は颯天の腕を振り払う事無く、泣き顔のまま見上げた。
「もしも失敗しても、新見さんの記憶が戻るまで、何度だって試みますから! 僕を信じて、そんなに嘆かないで下さい!」
「ありがとう……そうだったわね。私、ちゃんと約束していたのに……土壇場になると、こんなに弱気になってしまって、本当に先輩失格ね……」
まだ涙が残る顔で、無理して笑おうとした透子。
「そんな事無いです! 誰でも、そんな未知の領域に足を突っ込む時は、不安になっても当然ですから!」
「初めて会った時から、宇佐田君には助けられてばかりね。自分で情けなくなってくるくらい……」
「今までずっと、頑張って来たんですから、肩の力を抜ける時が有ってもいいんだと思いますよ」
憧れの透子に対し、少しでも役に立てているという満足感が颯天に広がった。
「私、宇佐田君のような人と、もっと早くに出逢っていたかった! でも、記憶が無くなる前に出逢えた事だけでも、感謝しないとね!」
「ありがとうございます! そんな風に言ってもらえるなんて......」
今度は、颯天の方が感極まって泣き出した。
「えっ、宇佐田君! ごめんなさい! 私のが移って、もらい泣きさせてしまっている?」
颯天が泣いている原因は自分に有ると思い、焦って謝る透子。
「違うんです! 僕、ずっと、新見さんに憧れていたので! そんな風に言われたら、感激してしまって、つい……」
記憶が無くなる前の透子から、そんな有頂天になるような言葉をかけてもらい、颯天も恥じらいを忘れ、素直な想いを伝えた。
思いがけない颯天の告白に、頬を赤らめ、言葉が出なくなった透子。
「新見さんにとって、逆境の時に困らせるような発言をしてしまって、スミマセン! 記憶を失う前に、どうしても、それだけは知っておいてもらいたくて......」
「宇佐田君……」
「僕が、こんな風に泣きながら恥ずかしい事を言った記憶も、新見さんの中には残らなくても仕方ないのだけど……でも、伝えたかったんです!」
強く言い切った颯天の想いに、揺るがされるような感覚を覚える透子。
「ありがとう……なんか、今日は色々有って、自分の事だけで、いっぱいになり過ぎていて、せっかく宇佐田君にそう言われても、どう返事を返していいのか分からない。だって、私、もうすぐ記憶が無くなるのだから……」
「思い出させます! 僕が意地でも、ここでずっと頑張って来た新見さんの事を!」
「うん、必ずね! 宇佐田君の気持ちも忘れたくないな」
「あ、ありがとうございます!」
悩んでいる透子を更に戸惑わせてしまう事態になるのは憚られたが、それでも、今の透子でいられるうちに、自分の気持ちを伝えられた事で、充足感を得られた颯天。
だとしたら、透子が哀しむ要因は、他に何が有るのだろうかと考える颯天。
透子の笑い声は、次第にボリュームが小さくなっていった。
「私ね、ついにAグループから追い出される事になったの……」
つい今しがたまで明るく笑っていたはずの透子が、再び失意のどん底に落とされたような表情を浮かべ、生気の無い声を発した。
「追い出されるという事は……」
「そう、地球防衛隊本部に左遷されるの……」
昨日の研修後、透子と話題にしていた地球防衛隊本部の配属という事は、透子の恐れていた事態が、間近に迫っているという事だった。
透子の今有る記憶の抹消。
(せっかく、ずっと憧れていた透子さんと、こうして会って話せる楽しみが出来たばかりだというのに、もうその楽しみを奪われてしまう! それどころか、僕とこうして会っていた記憶も、僕のいた事すら透子さんの記憶から消されてしまうんだ……)
「いつかは、そうなる事の覚悟はしていたつもりだったけど、それがこうも逼迫している状況に置かれると……すごくキツイ。やっぱり、私、記憶を失うのはイヤなの! 例え、私がグループに貢献出来てなかったとしても、私が今まで努力して歩んで来た道のりを、完全に消し去られてしまうなんて、耐えられないの!」
どれほど苦しいのかが颯天にも痛いくらいに伝わるような、幾筋もの大粒の涙で頬を濡らしている透子。
今までも透子の泣いている様子を目にしていたが、これほどまで激しい嗚咽状態の透子を見たのは初めてで、どう声をかけていいか分からず、動揺するしかなかった颯天。
「荒田さんが、淡島さんを選んでも、もう彼に未練なんて無いわ! 私生活で、どんなに見せつけられても、何も後悔しない! でも、仕事上は、荒田さんの事を尊敬しているし、このままずっと、彼のグループの一員として存在していたかった! それが叶わなくなった上、記憶を抜かれてしまうなんて……」
透子が何よりも恐れている、記憶の消去。
だからこそ、自分がいるのだと、颯天は今こそ感じた!
颯天は、透子の泣きながら震わせている肩に、両腕を回し抱き締めた。
(透子さん、こんな華奢な肩をしていたんだ……今まで活躍していた透子さんのイメージは、もっと強そうな身体つきをした女性だったけど、僕の前にいる透子さんは、こんなにもか細くて小柄な女性だったんだ……か弱い女性だと感じさせないように、いつもここで、トレーニングを繰り返して、努力を決して怠らなかったのに……)
「大丈夫ですよ、新見さん! 僕は、約束通り、機会が出来たら、あなたの記憶を戻す為に動きますから!」
「宇佐田君……」
透子は颯天の腕を振り払う事無く、泣き顔のまま見上げた。
「もしも失敗しても、新見さんの記憶が戻るまで、何度だって試みますから! 僕を信じて、そんなに嘆かないで下さい!」
「ありがとう……そうだったわね。私、ちゃんと約束していたのに……土壇場になると、こんなに弱気になってしまって、本当に先輩失格ね……」
まだ涙が残る顔で、無理して笑おうとした透子。
「そんな事無いです! 誰でも、そんな未知の領域に足を突っ込む時は、不安になっても当然ですから!」
「初めて会った時から、宇佐田君には助けられてばかりね。自分で情けなくなってくるくらい……」
「今までずっと、頑張って来たんですから、肩の力を抜ける時が有ってもいいんだと思いますよ」
憧れの透子に対し、少しでも役に立てているという満足感が颯天に広がった。
「私、宇佐田君のような人と、もっと早くに出逢っていたかった! でも、記憶が無くなる前に出逢えた事だけでも、感謝しないとね!」
「ありがとうございます! そんな風に言ってもらえるなんて......」
今度は、颯天の方が感極まって泣き出した。
「えっ、宇佐田君! ごめんなさい! 私のが移って、もらい泣きさせてしまっている?」
颯天が泣いている原因は自分に有ると思い、焦って謝る透子。
「違うんです! 僕、ずっと、新見さんに憧れていたので! そんな風に言われたら、感激してしまって、つい……」
記憶が無くなる前の透子から、そんな有頂天になるような言葉をかけてもらい、颯天も恥じらいを忘れ、素直な想いを伝えた。
思いがけない颯天の告白に、頬を赤らめ、言葉が出なくなった透子。
「新見さんにとって、逆境の時に困らせるような発言をしてしまって、スミマセン! 記憶を失う前に、どうしても、それだけは知っておいてもらいたくて......」
「宇佐田君……」
「僕が、こんな風に泣きながら恥ずかしい事を言った記憶も、新見さんの中には残らなくても仕方ないのだけど……でも、伝えたかったんです!」
強く言い切った颯天の想いに、揺るがされるような感覚を覚える透子。
「ありがとう……なんか、今日は色々有って、自分の事だけで、いっぱいになり過ぎていて、せっかく宇佐田君にそう言われても、どう返事を返していいのか分からない。だって、私、もうすぐ記憶が無くなるのだから……」
「思い出させます! 僕が意地でも、ここでずっと頑張って来た新見さんの事を!」
「うん、必ずね! 宇佐田君の気持ちも忘れたくないな」
「あ、ありがとうございます!」
悩んでいる透子を更に戸惑わせてしまう事態になるのは憚られたが、それでも、今の透子でいられるうちに、自分の気持ちを伝えられた事で、充足感を得られた颯天。
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