燃えよ、想いを乗せ

ゆりえる

文字の大きさ
上 下
24 / 44
24.

その話題を避けるように

しおりを挟む
 千加子から透子の話に逸れて、先刻の成り行きを思い出しながら、急に赤面し出した颯天。

「なんで、そんな急に真っ赤になるんだろう、颯天君~? 怪しいな~!」

 颯天の露骨な顔色の変化が面白くて、更にツッコミを入れた雅人。

「別に、雅人が期待するような事なんか、何も無かったって~。それよりも、さっきの話に戻るけど、あの古典の意味、雅人はどう思うんだ?」

「あれは、大先輩の新見さんでも、どういう意味か分からなかったんだろ? そもそも、俺みたいな新人に分かるわけないじゃん!」

 そう言いながらも、雅人からは、話をはぐらかしているような気配も感じられていた颯天。

「けどさ、僕と違って賢くて、現場での研修もしている雅人ならさ、多分、何かに気付いたり、何らかの読みが有るんじゃないかと思って……あっ、だからといって、浅谷さんみたいに、色の件については、人のオーラの色だとかなんて、疑わしいような事は言わなくてもいいけど!」

「オーラの色……? そんな事を浅谷さんが言っていたのか? やっぱり、面白いな~、彼女は! 今度、ゆっくり、そういう話を聞いてみるのも良いかもな」

 苦しそうに笑いながら、本気かどうか、颯天には分からないような発言をした雅人。

「え~っ、いや、いくら面白い発想だからって、それは良くないと思うな~。だって、そんな事を話して、浅谷さんに期待を持たせたりしたら、後々面倒な事になると思うから、止した方がいい!」

 友人として、そこはアドバイスせずにいられなかった颯天。

「颯天がそう言うなら、それに従うべきかもな。確かに、思わせぶりな発言をするのは、大きな誤解を生み兼ねない」

「で、さっきの件! 雅人は、どう思うんだ?」

 雅人がはぐらかそうとしても、颯天はとことん向き直り、その話題に戻った。

「はいはい、その件か……正直な話、俺は薄々勘付きつつあるんだ。ただ、ただの俺の憶測とはいえ、やっぱり、この件に関しては、門外不出というか、トップシークレットだから。悪いが、俺の口からは、これ以上、言う事が出来ない」

「色の話も……この前の『変身』と同じく、機密事項なんだな。だったら、仕方ないな。僕も現場の研修時に、それに勘付けるくらいの頭になれるといいな~」

「大丈夫だよ。もし気付けなかったとしても、その段階まで来たら、俺が伝えられるようになっているだろうから!」

 その雅人の言葉で、やっと安堵した颯天。

「そうか、現場研修まで行けたら、雅人と情報を共有出来るんだな! よ~し、それまでは、まだまだトレーニング頑張るか~!」

 そのトレーニングと言った時の颯天の顔に、いつもよりも意気込みを感じられた雅人。

「なるほど~! 昨日も、トレーニングの時に、新見さんと遭遇したって言っていたし。さては、今日もですかね~、颯天君?」

 再び、颯天の肘を小突いて来た雅人。

「あっ、実は、そうなんだ! 2日連続で透子さんに逢えてしまうなんて、これは、もう運命を感じさせられないか、雅人~?」

  惚気のろけ口調で雅人に確認した。

「そんな風に言ったりしていると、何だか、浅谷さんの男版みたいだぞ~、颯天」

 お腹を抱えて笑い出した雅人。

「なんか、一気に へこんだ~! 僕は、せっかく、透子さんの隣で過ごした時間の余韻に、ずっと浸っていたかったのに~!」

「ほうほう、どんな風に一緒に過ごしたのか、是非とも、お聞かせ願いたいものだな~、颯天君」

 茶々を入れる時には、いちいち颯天を君呼びしてくる雅人。

「いや、だから、別に、そんな変な想像をしないでくれよ~、雅人~! 2人っきりってわけではなく、ほとんどの時間、浅谷さんも一緒だったんだからな~!」

 千加子も一緒だったのは、雅人の責任も有ると言いたげな颯天。

「けど、さっき言っていたけど、新見さんは、お前の隣にいたんだろ~? 十分過ぎるくらい大接近してるんじゃん! 俺なんて、憧れの淡島さんとは、相変わらず距離が開いたままなんだけどな~!」

「それだけじゃなくて、僕にとっては、すごい朗報が舞い込んだんだ~! どうやら、透子さんは荒田さんと別れたらしい!」

 万歳と声にまでは出さなかったが、両手を上に上げ、喜びの気持ちを大袈裟に示した颯天。
 その言動には、記憶を消された場合、教え合うという願ってもみないような約束を出来た嬉しさも含まれていたが、その事は透子と2人だけの秘密であり、親友の雅人にも黙っていなくてはならなかった。

「それは、マジでラッキーじゃん、颯天! 自分の願っている方向に、勝手に向こうからなってくれてるとは! しかも、大接近が続いているし」

「そうなんだよ、信じられないくらいに! だから、つい僕だって、その先の明るい未来を期待しても、不思議は無いだろう?」

「俺なんか、想う相手からは想われず、想わぬ相手からは熱烈アピールされているというのに……お前だけが、望みに着実に近付いて、ズルイな~!」

 今までは、颯天が雅人に嫉妬する事が有っても、逆の事は殆ど無かったが、今回ばかりは、颯天に嫉妬せずにいられなかった雅人。

「まあ、僕だって、たまにはこういう状況になって、雅人に羨ましく思われるような事が有っても、罰があたらないだろう? ただ、ここまではとんとん拍子だけど、コワイというか、この後からが、詰まりそうだけどな……」

「そう焦るなよ、颯天。俺らまだ訓練生なんだし! 元カレの荒田さんとは、レベルがあまりにも違い過ぎるんだから。荒田さんのように、すぐにでもプロポーズ出来るような立場じゃないし。トレーニング中に、そうやって、新見さんと会う事が出来るなら、ゆっくりと愛を育んでいけばいいじゃん」

 雅人にはそう言われたが、颯天には時間がたっぷり有っても、透子自身にはそれほどの猶予は残されていないのが、何よりも気がかりだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

健太と美咲

廣瀬純一
ファンタジー
小学生の健太と美咲の体が入れ替わる話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

入れ替わった恋人

廣瀬純一
ファンタジー
大学生の恋人同士の入れ替わりの話

【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》

小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です ◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ ◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます! ◆クレジット表記は任意です ※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください 【ご利用にあたっての注意事項】  ⭕️OK ・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用 ※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可 ✖️禁止事項 ・二次配布 ・自作発言 ・大幅なセリフ改変 ・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

処理中です...