燃えよ、想いを乗せ

ゆりえる

文字の大きさ
上 下
23 / 44
23.

伝言はしたものの

しおりを挟む
 トレーニングのつもりで向かった運動場では、千加子の暴走的な妄想に付き合わさせられ疲れたが、締め括りには、その疲れを一掃させるような透子の笑顔を見られ、ご機嫌状態で寮に戻った颯天。

 入浴後にいつも通り、今日の報告と千加子からの依頼を思い出しながら、雅人の部屋へと向かった。

「えっ、俺と浅谷さんが、魂の片割れ同士……? 浅谷さん、てっきり優秀な女性だと思ったのに、どうしたら、そんな発想に至ったんだ?」

 先刻、浅谷の発言を颯天が耳にした時と、同じような反応の雅人。

「やっぱり、驚くよな~? 浅谷さんは、女の勘なんて、胸張って言っていたけど。多分、自分の能力に釣り合う相手として周りを品定めしたら、雅人に白羽の矢が立ったんだろうな。僕なんか浅谷さんの足元にもおよばないだろうから、 しょっ ぱなから論外だろうけど。で、雅人、下手な男よりもよっぽど剛腕な浅谷さんに選ばれた感想は、どうなんだ?」
 
 浅谷に念押しされていた手前、一応、雅人にとって、それは喜ばしい事なのかを確認しようとした颯天。

「そもそも、感想も何も……なぁ? 颯天だって、分かるだろ? 確かに、浅谷さんのその独特な発想は、少しくらいは面白いとは思うよ。けどさ……そんな能力第一主義的な発想で、勝手に相手と決め付けられても、あまり嬉しくは感じられないよ。俺は、例えそれが、ずっと俺の横恋慕で終わるとしても、淡島さん以外は考えたくないから……」

 颯天と雅人は、共通点があまり無かったが、好きな相手に対しての一途さだけは同じだった。

「雅人だったら、そうだろうな。僕も、その事が分かっているから、何度も浅谷さんに断っておいたけど、浅谷さんは断固として認めたがらないんだ! 浅谷さんの頭の中は、魂の片割れとか、何て言ってたっけ……? ツインタワーでも無いし、なんか魂の片割れと同じようなニュアンスの言葉が、ちゃんと横文字でも有るみたいで、もうそれ一色に染まっているんだ! あんな風に、一方的に決め付けられて想い込まれたら、雅人に対して、同情したくなるくらい……だから、今の雅人の返答をそのまま伝えても、きっと、僕の説明が下手だったせいだって、浅谷さんに僕が恨まれそうだよ。とにかく、あれだけの能力者だからさ、圧倒されるほど自信過剰だし、意固地だし、僕の言葉なんかは、聴く耳持たないってさ」

 先刻の千加子の剣幕を思い出しながら、溜め息をついた颯天。

「分かったよ、颯天! そんな事にならないように、俺から直接、浅谷さんに伝えるから」

 自分が関係する事で、颯天に巻き添えを食らわせるのは忍びない雅人。

「えっ、大丈夫か、雅人? 僕は、何となく、浅谷さんの人柄に慣れたというか、さっきので随分、免疫付いたけど、雅人はあまり関わった事が無いだろ? トラウマになって、お前のせっかくの能力が右下がりになったらどうするんだ?」

「大丈夫だって! 女の子の扱いは、俺の方が……う~ん、慣れてないけど、まあ何とかなるさ!」

 有用な面ばかり見せていた雅人にしては、頼りないような声音に感じた颯天。

「ホントに、ああいうのは、まいるよな~! 事の発端は、今日の古典の授業内容だったんだけど……あっ、そうそう、雅人に聞きたかったんだ!」

「古典か~、俺も苦手だ~!」

(そんな言いつつ、雅人の苦手は、僕の得意よりも勝っているっていうのが、シャクに触るな~!)

 内心そう思いつつ、雅人をあてにして尋ねる颯天。

「古典の授業でさ、あのオリンピックと似たような5色の話が有るだろう? あれって、一体何の事なのか、雅人は分かったか?」

「ああ、あれね~、かなり重要な箇所なんだってな」

 颯天のあやふやな説明でも、即座に、古典のどの内容なのかという事が、ピンときた様子の雅人。

「僕は、あの授業は眠くてウトウトしていたから、余計、分からなくなっていたけどさ……それまでは、バシバシ発言しまくっていた浅谷さんでも、その時には思い付かなかったのに、さっき運動場で話した時に、白と黒というのは、陰陽の事だとか言い出したんだ」

 陰陽と聞いて、やはり太極図を連想させ、ポカンとなった雅人。

「陰陽って、あの白と黒の勾玉が円の中に納まっているやつか?」

「なんで、そんな事になるのか分からないけど、浅谷さんは、自信たっぷりに自分の推測を語り出したんだ。その白と黒の陰陽は、魂の片割れ同士の事だって言い出して……つまり、それが雅人と浅谷さんみたいで、これからは、緑から、白と黒である2人が統べる時代がやってくるって。あの古典は、その預言書だとか言ってた」

 千加子の発言を思い出しながら、雅人にそのニュアンスを伝えた颯天。

「そこまで妄想できるって、ある意味、スゴイな!」

 そこまで聞くと、さすがに呆れ顔の雅人。

「だろう? なんか、怖くならないか? あの古典から、そんな解釈が出来る浅谷さんも。もしも、その預言が本当なら、次の統率者が僕らの世代にいるかも知れないって事も。僕の隣で聞いていた透子さんも、浅谷さんの言葉に驚いていた」

 透子の名前が、颯天の口から出た途端、雅人の目の色が変わった。

「あれあれ~っ? 颯天君、どうして、新見さんが隣にいたのかな~? 俺は、浅谷さんの話よりも、その事の方が、よっぽど興味有るんだけどな~!」

 颯天の肩を手の平で何度か押し、冷やかしてきた雅人。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

入れ替わった恋人

廣瀬純一
ファンタジー
大学生の恋人同士の入れ替わりの話

【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》

小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です ◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ ◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます! ◆クレジット表記は任意です ※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください 【ご利用にあたっての注意事項】  ⭕️OK ・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用 ※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可 ✖️禁止事項 ・二次配布 ・自作発言 ・大幅なセリフ改変 ・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

令和の俺と昭和の私

廣瀬純一
ファンタジー
令和の男子と昭和の女子の体が入れ替わる話

処理中です...