燃えよ、想いを乗せ

ゆりえる

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不安の乗り越え方

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 颯天はやてと透子は、周りを見回し、誰もいないのを確認してから、運動場の片隅に設置されているベンチに腰掛けた。

「こんな事を話したら、僕が臆病者だからだって、新見さんに笑われてしまうような悩みかも知れないですが……」

 透子に話す事で蔑視されるのではと、内心ヒヤヒヤしていた颯天だったが、そんな彼を覗き込む透子の心配そうな表情に気付き、自分の不安をさらけ出す事にした。

「今日の現場研修は、地球防衛隊G~Jグループでした。僕は、もしかしたら4年後、そこにいる可能性が有るので、けっこう真剣に彼らの様子を観察していました。質疑応答の時に、他の仲間達は無関心そうにスルーしましたが、僕は気になって、訓練生から配属された隊員がどれくらいいるのか尋ねました」

 深刻そうに耳を傾けていた透子が、突然、笑い出し、面食らった颯天。

(えっ、何だ? そんなおかしい事を言ったのか? いや、まだそんな笑われるような事は言ってなかったはず……)

「ごめんなさい、つい笑ってしまって……だって、私も3年前、その事を質問していたから、何だか、その時の自分と重なってしまったの……」

(透子さんも、僕と同じ質問をしていたんだ……やっぱり、当時から僕と同じ劣等感や不安を抱えていたんだな……)

 透子が笑い出した意味を納得出来た颯天は、話を続けた。

「僕の質問の答えは、そこに従事する元訓練生達は、ほとんどいないという現実だったんです! 地球防衛隊G~Jグループの業務よりも更に、下請け作業や雑務に追われるという事を知った段階で、プライドを傷付けられ辞める人が多いようです」

「そうでしょうね。訓練生達って、傍目からは、ずっと将来のエリート候補のように決め付けられているから。それがいきなり左遷のような扱いされたら、耐えられなくなりそうな気持ちも分かるわ」

(透子さんは、3年前に質問して、その説明を受けていた。でも、そうなる前に、大和撫子隊に引き抜かれたから、もうそんな心配とは無縁なんだ……)

「今さら、こんな事を聞いても関係無い話になりますが、新見さんは、もしも、そのまま訓練生として4年が経過しようとしていたら、地球防衛隊に移動するつもりでいましたか?」

 透子ほどの美貌なら、寧子が計画しているように、さっさとエリートを捕まえて引退するのも楽勝だろう。
 が、彼女自身は、そんな事を望まず、ギリギリまでsup遺伝子が覚醒するのを待ち望み、その結果、無駄だったとしても、結婚を手段には用いないように思えた颯天。

「私は、運良く大和撫子隊員になれたけど、今でも左遷とは無縁ってわけでもないの。ある程度の業績を残せているなら、そのまま大和撫子隊員でいられるけど、役に立てない状態がしばらく続くと、私のようなsup遺伝子未覚醒者は、切り捨てられる運命なのよ」

「切り捨てられる……?」

 大和撫子隊として、これからも透子は安泰だと信じていた想像を裏切られた颯天。

「つまり、sup遺伝子未覚醒の訓練生が4年が経過した場合と同じ末路になるわ。ここから退くか、残るとしたら地球防衛隊G~Jの雑用係ね」

 透子が、今もなお、その瀬戸際を彷徨っている事をやっと把握出来た颯天。

「あの、ごめんなさい、縁起でも無い事を聞きます……もし、そうなったら、新見さんは、どうするつもりでいるんですか?」

 躊躇いながら尋ねた颯天。

「私は、もちろん、ここに残るわ! 雑用であれ、それが、地球防衛隊の人達の役に立ち、外の人々の為になるなら!」

 颯天とは正反対に、何の躊躇いも見せず強く言い切った透子。
 左遷したとしても、気高い志しのまま、どんな職務でも文句を言わず臨もうとしている透子が、眩しく感じられた颯天。

(透子さん、さすがだ! 下らないプライドなんかでブレないところも、僕は憧れている! 透子さんがそういう心づもりなんだから、僕なんかが、そんな事でビクビク過ごすのはおかしい!)

「その新見さんの言葉を聞いて、僕もすごく勇気が出ました! なんか、あんなに気にしていたのが、嘘みたいに、今、気持ちがパァーッと晴れてます! ありがとうございます!」

「あっ、なんか、私、後輩を前にして、一生懸命、虚勢を張ったような感じになっていたかも知れない! ごめんなさい、偉そうにこんな事を言ってしまったけど、その場になってみないと、私だって分からないわ……」

 感激したような颯天から礼を言われて、戸惑う透子。

「いえ、そんな事無いと思います! 新見さんは、とても芯がしっかりしているので」

 颯天が透子を褒めた時点でもまだ、難色を示した透子。

(あれっ、透子さん、さっきまでの意気込みが感じられなくなっている……どうしたんだろう? もしかして……あの話だろうか?)

「でも……宇佐田君も、聞いたのよね? 記憶を消されてしまう話……」

 その件については、颯天と同様、透子にとっても強烈過ぎるほどネックになっていた。
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