燃えよ、想いを乗せ

ゆりえる

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古典の授業

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「はぁ~」

 口を手で押さえ、声を出さないように、欠伸をした 颯天はやて
 現場研修2日目は、実技訓練と思っていたが、予想外に古典という、颯天にとっては全く馴染みの無い教科だった。

 一見アラビア語のようにも見えてしまうような、見慣れない龍体文字が、教科書のどのページを開いても所狭しと綴られている。

(こんな授業が、まさか現場研修中に有るなんて思わなかった。学生時代だって、龍体文字なんて習わないのに。どうして、こんな事が実践で必要なのか、よく分からないな……)

  運動神経がsup遺伝子覚醒者に及ばないものの、身体を動かす事自体は嫌いではない颯天にとって、ただ座っているだけの語学や古典は苦痛だった。
 現場研修中、古典の授業はまだ何度か有るが、睡魔との戦いのように思えて来る颯天。

「この古典の中で、最も大事な所をこれから教えてあげよう」

 70歳はとうに越していると思われる古典担当の男性教員、芹田太郎が、しわがれ声に似合わないほどのきらめくような瞳をしながら話し始めた。

 最も大事な所という声で、睡魔に負けて頭を揺らしていた颯天が、ビクッとして目覚めた。

「ほお~っ、目が覚めたようだな、宇佐田君。2ページの文語訳を冒頭から読んでみたまえ」

 起きた途端、自分が指名されるとは思わず、一瞬周りを見回したが、やはり、指名されたのは自分だったのだと認識させられた颯天。
 まだぼんやりしている頭ながら、教科書の2ページを開き、コホンと小さく咳払いして声の調子を確認してから颯天が読み上げた。

「遠き昔、黒が奮闘し、あまたの青補佐せり。
 その間長く続けどその後、緑うちいで、黒の座を緑引き継ぐ事となりき。
 それよりとばかりの間、緑の統率する世となりき。
 やがて、赤のうちいづるがひまとなり、白や黒のうちいづる事となる。
 白と黒は対に、その力は一足す一を遥かに凌駕す。
 緑ばかりに統率せる世は終はり告げ、圧倒的なる白と黒と、次に赤、かくて緑、青にうつろひ行く」

 読み上げながら、意味不明な様子を隠せず、イントネーションがおかしくなる颯天。

「訓練生諸君の中で、この文語訳の意味が分かる者はいるかね?」

 すると、ポスト輪野田わのだ季代きよとも呼ばれている、sup遺伝子能力も学力的にも、雅人を除いた今は抜きん出た実力を持つ、浅谷あさたに千加子ちかこが挙手した。

「沢山いる青に補佐されながら、黒が奮闘している時代が続いた。その時代は長く続いたが、その後、緑が現れ、黒の偉業を引き継いだ。それからしばらくの間は、緑が統べる時代が続いた。やがて、赤が現れ、それがきっかけとなり、白や黒が現れる事となる。白と黒は対で、その力は1足す1を遥かに凌駕する。緑だけで統率していた時代は終わりを告げ、圧倒的な白と黒と、次に赤、そして緑、青に変わり行く」

 千加子が現代語に訳しても、何の事だかさっぱりと理解出来ない様子の颯天。

「お見事! 浅谷君、君は、なかなか優秀な訓練生だな~」

 芹田に褒められ、鼻高々にしたような表情で、周囲を見渡してから着席した千加子。

(さすが、文武両道とは噂には聞いていたけど、スゴイな~、浅谷さん! 雅人はもっと凄かったような気がするけど、雅人が抜けた今は、完全に浅谷さんの右に出る者はいない感じだ! なるほど、ポスト輪野田さんと呼ばれても頷ける。でも、なんかな~、他の訓練生の事を見下した空気感が、僕は苦手なんだよな~)

 千加子の威圧的な態度は、颯天だけに限らず、sup遺伝子能力覚醒済みの研修生達にとっても、かなり鼻に付いていた。
 
「先ほど、浅谷君が口語訳をしてくれたように、直訳としては、その意味で正しいのだが、その内容自体を理解した者は、果たしているかのう?」

(浅谷さんがあれほど完璧な訳をしたというのに、まだ何か足りないのか? そもそも、文語体はおろか、口語訳されても意味がチンプンカンプンだし。大体、黒とか青とか、緑とか、赤とか白とか、オリンピックの色ってわけでも無いし、色の三原色とか、光の三原色ってわけでもないよな……これ分かる人って、訓練生の中にいるのか?)

 芹田の問いかけに、挙手して発言する者はいなかった。

「おや、誰もいないのか? 憶測で構わんが、それでもいないかのう?」

 訓練生を見回し、顔の表情を確かめた芹田。

「浅谷君はどうかね? さっきの直訳をもう少し、自分の中で応用させてみようと出来るかな?」

「いえ……」

 得意気に発言した先刻とは打って変わっての悔しそうな表情で、口籠っていた千加子。

「まあ、安心せい! それが正解じゃよ! こんなもんは、テキストを見た段階で把握できとったら、わしら教員は用済みじゃからな。分からん状態でいいんだ! この意味は、おいおい分かって来るだろうからな! はっはっは!」

 シーンとしていた教室内で、芹田の笑い声だけが響き渡っていた。

(一体、何なんだ、この芹田って教員は……? そんな分かるはずもない質問をわざわざ僕らに投げかけておいて、珍しく、浅谷さんが言葉に詰まった途端、急に手の平返したかのように、分からなくて当然とかって……地球防衛隊の棟の人々は、こんなクセの有る人達ばかりなんだろうか? 僕は、行間を読むのが苦手どころか、書かれている事すら理解出来ないから、これから先、授業に付いて行けるかな?)
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