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変えてしまいたい苗字
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澪が、その男子の苗字が土田という事と、土田の学年やクラスを知るまで、さほど時間を要しなかった。
有り難くも、担任がホームルームの時間に、澪が欲していた情報をタイミング良くお膳立てしてくれたからだ。
「この前の気象予報士試験の件だが、我が校からは、なんとお前らと同じ2年生で、A組の土田空が合格した! 2年生での合格者は、我が校で初めての快挙だ! お前らも土田を見習って、勉学に励んで後に続くようにな!」
前回の気象予報士試験は、澪の記憶では南光中学校から10名以上受けていたはずだった。
担任が話した人物が、澪の想い人であるという保証などは無かったが、澪は直感的に彼に違いないと確信する事が出来た。
登校中は、事あるごと、A組の付近を遠回りしてでも何往復も通るうちに、やっと好都合な状態でA組の男子が
「土田!」
......と、呼ぶ瞬間を捉えた澪。
咄嗟に、その呼ばれた方を注視した。
その名前で、振り返った男子は、紛れも無く、あの時、澪の頭に絡まっていたアシナガグモと蜘蛛の巣を振り払ってくれていた本人だった。
(ああ、やっぱり! 担任から聞いただけで、直感的に分かってしまっていたって事は、私、きっと土田君とかなりご縁が深いに違いない! ずっと、そんな気がしていてたけど、絶対に、これは運命なの!)
取って付けたように強引なこじつけだったが、既に、そう信じて疑わない澪だった。
土田と同じ土俵に立つべく、気象予報士試験を受ける事を何度か試みようとはしたものの、理系が苦手な澪は、志半ばにて断念。
それよりは、同じクラスになる可能性が有る一番の近道と思えている同じ高校を目指す方を優先した。
優秀な土田の事だから、1番の進学校である皆成高校を受験するに違いないと睨んだ澪は、それ以降は女友達との付き合いもほどほどにして1人で先に切り上げ、帰宅後は躍起になって勉強しまくった。
澪の予想通り、土田は余裕で皆成高校へ進み、澪も辛うじて底辺の辺りで合格する事が出来た。
同じ高校に合格は出来たものの、残念ながら、土田とは同じクラスでの高校生活をスタートさせられなかったが。
それまでは、土田に憧れ、接近する事を夢見つつ漠然と過ごしていたが、高校に入ってしばらく経過したある日、澪には、絶対に早目に果たしたい人生設計が出来た。
それは、出来るだけ早く結婚し、『園内』という苗字から離脱する事。
中学時代までは、自分の苗字に関して、特にこれといった嫌悪感を抱く事など無く過ごして来た。
高校に入学して間もない頃、教室で1人寂しく過ごしていた昼休み時間に、その後ずっと、苗字に対するトラウマとなった苦い出来事が起こった。
それは、窓際後方席でクラスメイトの一軍女子達3人が話している時だった。
彼女達は、華やかで人目を惹き、澪とは別世界の住人達のようだった。
「そのうちね~」
……と一軍女子達の1人が言ったのがたまたま澪の耳に入り、自分の苗字を呼ばれたと勘違いしてしまい、思わず振り返ってしまった。
即座に、振り返った事を後悔したが、後悔したところで、振り返って見たという事実は消せなかった。
「うわっ、何? なんかこっち見てたんだけど、キモっ!」
「自分呼ばれた思ったんとちゃう? マジうける~!」
「ボッチ呼ぶかよ~!」
言われた相手の気持ちなど、全く考慮する事の無い罵声を一方的に浴びせられ、深く傷付いた澪。
(私の苗字って、少し珍しいみたいで、漢字を説明するの面倒だったけど……園内なんて、苗字じゃなかったら、私は、今、振り返る事は無かった! ただ、ちょっと振り返っただけなのに、そんな事くらいで、こんなに罵られるなんて、なんかもうイヤだな……このクラスで、これからも友達出来る気が全くしない……でも、まあいっか)
友達が出来たところで、一緒に遊び出したら最後、もう学業など手に付かなくなり、赤点地獄に陥ってしまうのが目に見えている澪。
この高校生活で仲良しの女友達を作って放課後や休日に遊ぶなどという望みは、入学時からとうに捨てていた。
澪にとって、最優先なのは、土田と接近する為に猛勉強する事なのだから。
(今の私が目指すのは、土田澪! 園内なんて苗字より、ずっと似合ってる~! 早く土田澪になりたい!)
その響きに、1人で大満足している澪。
暇さえあれば、頭の中で何度も、土田と接近するシチュエーションを予行練習していた。
場所は、大抵は校内を想定している事が多く、階段や廊下や体育館や売店など、色んな場所で遭遇する事を妄想しては、ついニタニタする事も多かった。
万一、それをクラスメートに見られた場合、苗字の件を抜きにしても、かなり引かれて当然だろう。
土田との接近以外の事に関し、高校生活で重きを置いてない澪にしてみれば、クラスメート女子の罵声は、トラウマになったにせよ、土田と早期結婚への意思を一層固めるのに一役買ってくれた。
(早く土田澪になりたいけど……高校卒業したら、土田君はモチロン、一流大学行くから、学生結婚は現実的じゃないし、あと7年は無理かな? まだまだ先は長い~! でも、7年有るなら、焦らず、土田君に一歩ずつ近付ける! 案外、私には、そのペースの方が向いているかも!)
楽観的に考えながら、土田と同じ高校の合格、Twitterの相互フォローと、徐々に目標に近付いているつもりでいた澪。
有り難くも、担任がホームルームの時間に、澪が欲していた情報をタイミング良くお膳立てしてくれたからだ。
「この前の気象予報士試験の件だが、我が校からは、なんとお前らと同じ2年生で、A組の土田空が合格した! 2年生での合格者は、我が校で初めての快挙だ! お前らも土田を見習って、勉学に励んで後に続くようにな!」
前回の気象予報士試験は、澪の記憶では南光中学校から10名以上受けていたはずだった。
担任が話した人物が、澪の想い人であるという保証などは無かったが、澪は直感的に彼に違いないと確信する事が出来た。
登校中は、事あるごと、A組の付近を遠回りしてでも何往復も通るうちに、やっと好都合な状態でA組の男子が
「土田!」
......と、呼ぶ瞬間を捉えた澪。
咄嗟に、その呼ばれた方を注視した。
その名前で、振り返った男子は、紛れも無く、あの時、澪の頭に絡まっていたアシナガグモと蜘蛛の巣を振り払ってくれていた本人だった。
(ああ、やっぱり! 担任から聞いただけで、直感的に分かってしまっていたって事は、私、きっと土田君とかなりご縁が深いに違いない! ずっと、そんな気がしていてたけど、絶対に、これは運命なの!)
取って付けたように強引なこじつけだったが、既に、そう信じて疑わない澪だった。
土田と同じ土俵に立つべく、気象予報士試験を受ける事を何度か試みようとはしたものの、理系が苦手な澪は、志半ばにて断念。
それよりは、同じクラスになる可能性が有る一番の近道と思えている同じ高校を目指す方を優先した。
優秀な土田の事だから、1番の進学校である皆成高校を受験するに違いないと睨んだ澪は、それ以降は女友達との付き合いもほどほどにして1人で先に切り上げ、帰宅後は躍起になって勉強しまくった。
澪の予想通り、土田は余裕で皆成高校へ進み、澪も辛うじて底辺の辺りで合格する事が出来た。
同じ高校に合格は出来たものの、残念ながら、土田とは同じクラスでの高校生活をスタートさせられなかったが。
それまでは、土田に憧れ、接近する事を夢見つつ漠然と過ごしていたが、高校に入ってしばらく経過したある日、澪には、絶対に早目に果たしたい人生設計が出来た。
それは、出来るだけ早く結婚し、『園内』という苗字から離脱する事。
中学時代までは、自分の苗字に関して、特にこれといった嫌悪感を抱く事など無く過ごして来た。
高校に入学して間もない頃、教室で1人寂しく過ごしていた昼休み時間に、その後ずっと、苗字に対するトラウマとなった苦い出来事が起こった。
それは、窓際後方席でクラスメイトの一軍女子達3人が話している時だった。
彼女達は、華やかで人目を惹き、澪とは別世界の住人達のようだった。
「そのうちね~」
……と一軍女子達の1人が言ったのがたまたま澪の耳に入り、自分の苗字を呼ばれたと勘違いしてしまい、思わず振り返ってしまった。
即座に、振り返った事を後悔したが、後悔したところで、振り返って見たという事実は消せなかった。
「うわっ、何? なんかこっち見てたんだけど、キモっ!」
「自分呼ばれた思ったんとちゃう? マジうける~!」
「ボッチ呼ぶかよ~!」
言われた相手の気持ちなど、全く考慮する事の無い罵声を一方的に浴びせられ、深く傷付いた澪。
(私の苗字って、少し珍しいみたいで、漢字を説明するの面倒だったけど……園内なんて、苗字じゃなかったら、私は、今、振り返る事は無かった! ただ、ちょっと振り返っただけなのに、そんな事くらいで、こんなに罵られるなんて、なんかもうイヤだな……このクラスで、これからも友達出来る気が全くしない……でも、まあいっか)
友達が出来たところで、一緒に遊び出したら最後、もう学業など手に付かなくなり、赤点地獄に陥ってしまうのが目に見えている澪。
この高校生活で仲良しの女友達を作って放課後や休日に遊ぶなどという望みは、入学時からとうに捨てていた。
澪にとって、最優先なのは、土田と接近する為に猛勉強する事なのだから。
(今の私が目指すのは、土田澪! 園内なんて苗字より、ずっと似合ってる~! 早く土田澪になりたい!)
その響きに、1人で大満足している澪。
暇さえあれば、頭の中で何度も、土田と接近するシチュエーションを予行練習していた。
場所は、大抵は校内を想定している事が多く、階段や廊下や体育館や売店など、色んな場所で遭遇する事を妄想しては、ついニタニタする事も多かった。
万一、それをクラスメートに見られた場合、苗字の件を抜きにしても、かなり引かれて当然だろう。
土田との接近以外の事に関し、高校生活で重きを置いてない澪にしてみれば、クラスメート女子の罵声は、トラウマになったにせよ、土田と早期結婚への意思を一層固めるのに一役買ってくれた。
(早く土田澪になりたいけど……高校卒業したら、土田君はモチロン、一流大学行くから、学生結婚は現実的じゃないし、あと7年は無理かな? まだまだ先は長い~! でも、7年有るなら、焦らず、土田君に一歩ずつ近付ける! 案外、私には、そのペースの方が向いているかも!)
楽観的に考えながら、土田と同じ高校の合格、Twitterの相互フォローと、徐々に目標に近付いているつもりでいた澪。
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