転生モブ少女は勇者の恋を応援したいのに!(なぜか勇者がラブイベントをスッ飛ばす)

和島逆

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14.冒険は順調、なんだけど

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 エーリク一行の快進撃は続いていく。
 物語を最短距離で突き進み、気づけばもうラストダンジョン突入直前になっていた。

 日々羽通信で冒険の進捗状況を聞きながら、だんだん私は不安を募らせていった。
 エーリクってば一体、何をこんなに急いでいるの?
 それで魔王に勝てるならいいけれど、レベルが追いつかず敗れてしまったら大変だ。ここはゲームではなく私たちにとっては現実で、死んでしまえば二度とやり直しはきかないのだから。

(エーリクに、何かあったらどうしよう……)

 想像しただけで、背筋がぞっと粟立った。
 冷たくなった腕をさすり、私は自室にこもって引き出しの羽を取り出した。幸いまだラストダンジョンは出現していないはず。どうにかしてエーリクを引き留めなければ。

『もしもし、アリサ?』

「あ、エーリク! よかった出てくれて……!」

 元気そうな声にほっとして、私はすぐに懸命に主張した。
 ラストダンジョンの前にパーティ全員を鍛え直し、スッ飛ばしたサブイベントも有益なものに関しては戻ってクリアして、装備品や新しい技を会得すべきだということを。

「それと、対ラスボス戦のためのキーアイテムはちゃんと手に入れた? 攻略本にも書いておいたけど、あれがないと確実に敗けてしまうからね?」

『ああ、任せろ。それに関しては確実に確保済みだ』

(よかった……)

 キーアイテム――その名も【神竜王の息吹】という。
 これは実は、普通に必須イベントをこなしているだけでは手に入らない。ストーリーに散りばめられた情報を集め、かつ終盤で手に入る特殊な乗り物を使って初めて、【神竜王の息吹】の眠る隠しダンジョンに挑戦できるのだ。

(隠しダンジョンのアイテムのクセして、それなしでラスボス戦に挑んだら確実にパーティ全滅する、っていう鬼畜仕様なんだよね……)

 というのも、最後の最後でラスボスがゲーム最強の必殺技を繰り出してきて、それを無効化できるのが唯一【神竜王の息吹】だけなのだ。

 初めて私が『ファンタジアⅥ』をプレイしたときも、【GAME OVER】の悲しい文字が画面に躍り、『そういえば、こんな話が……』とキーアイテム入手のためのヒントが語られたっけ。おじいちゃんの攻略本がなければ確実に詰んでいた。

「じゃあ、あと他には」

『待て、アリサ。先に一つだけ確認させてくれ。――ラストダンジョンが出現しても、?』

 不意に、エーリクが厳しい声音で尋ねてくる。
 私は慌てて背筋を伸ばし、大きく頷いた。

「うん、それに関しては心配しないで。ラストダンジョン出現からクリアまで、首都の人たちの時は止まったみたいになっているだけ。ちゃんと勝てば元に戻るから」

 明るく告げれば、エーリクが張り詰めていた息をふっと吐く。

『……それが聞けてよかった。マリアも安心することだろう』

「マリアも……。そうだね。お城には、マリアのお父さんである王様だっているもんね」

 それでなくても、お城はマリアの生まれ育った家なのだ。
 首都の住人たちだってそう。国民思いのマリアのこと、ラストダンジョンが出現したらどれほど胸を痛めることだろう。

『アリサ、俺たちはしばらく修行してレベルアップを図るつもりだ。物々交換イベントもいよいよ佳境で、例のアイテムも手に入ることだしな。陛下から最後の一つ手前の品を受け取ったから、最後ぐらいは俺の手で交換してくるつもりだ』

「わあ、おめでとう! 最後の一個前って、確か『すやすや安眠まくら』だったよね?」

 物々交換イベントは途中経過はすっかり忘れてしまったが、幸い最初と最後だけは覚えていた。
 確か最後は、偏屈な不眠症の学者さんだったはず。今までクリアしたダンジョンの内どれか一つにランダムで現れるので、面倒だが世界中を巡って探さなくてはならない。

「だけどダンジョンにまた入る必要はないかね? 入口だけ確認して、いなければすぐ次に行って大丈夫だよ」

 エーリクは笑って了解すると、『それじゃあまた明日な』と通話を切った。

(……あ~、よかった!)

 私は思いっきりベッドにダイブする。
 私が心配するまでもなく、エーリクはちゃんと考えてくれていた。
 物々交換イベントで最後に手に入るのは、その名も【倍速の腕輪】。装備者にのみ経験値が二倍入るという、レベルアップに最適なアクセサリーなのだ。

「あとはしっかり準備をしてから、ラストダンジョンに挑めばいいよね。【神竜王の息吹】が手に入ったってことは、もう魔空挺も自由に使えるんだろうし、修行場所にも事欠かないか」

 魔空挺、というのはゲームの最終盤に手に入る空飛ぶ船である。羽通信の羽と同じく古代魔術の遺物で、これまで行けなかった離れ小島なんかも訪れられるようになる。

(そう、ラストダンジョン――……)

 寝転がったまま手をまっすぐに伸ばし、ぼんやりと天井を眺めた。

 最後の決戦は、魔界の魔王城で行われる。
 といってもエーリクたちが魔界に突撃するわけではなく、のだ。

 境界の揺らぎが限界を迎え、もうじき王国の首都と魔王城とがぴったりと重なり合う。
 たくさんの人々が住んでいたはずの首都には魔物や魔族があふれ、突入するエーリクたちの行く手を阻む。本物の首都の住民たちや王様は、時空を超えた境界の狭間で意識を失い眠りにつくのだ。

「……だけど、ラスボスを倒しさえすれば魔界は再び封印されるから! 首都もお城もそこに住む人たちも、みんな元通りになるから大丈夫!」

 ――エーリク、あなたならきっとできる。

 跳ねるように起き上がって窓を大きく開け放ち、旅の空の幼馴染へと想いを馳せる。
 流れ星がきらりと光り、私は目を閉じて一心に祈りを捧げた。
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