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13.何かが違う?
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「それでですね、勇者エーリクさん。お次の恋愛イベントに関してなのですが」
『アリサ、なんと今シンちゃんが空中宙返りを披露している。お前に見せられないのが残念だ』
「ええい、あからさまに話を逸らすでないっ!」
今日もエーリクは真面目に話を聞いてくれない。
私はいつも通り怒った振りをしながらも、内心ではもうあきらめ始めていた。
最近になってようやく、私があまりに恋愛イベントを勧めるのは逆効果かもしれないと気づいたのだ。何せエーリクもお年頃、異性の幼馴染と恋愛話をするのは照れくさいのかもしれない。
「はあ、じゃあもう言わないけど……せめて攻略本の恋愛部分は、ちゃんと読んでくれてる?」
『ああ。おおいに役立てている。というのも、つい先日――』
シールズ村と同じように、境界が揺らいで魔族に襲われた町があったのだという。
勇者パーティとたまたま別行動していたマリアが魔族と遭遇し、背後の子どもをかばって結界を張った。けれども彼女の結界はあっさり破られ、危うく全員が魔族の手にかかるところだった――……
「それ、覚えてる! でもギリギリでエーリクたちが助けに入るんだよね? 誰も怪我人は出てないよね?」
『ああ。だがマリアは己の力不足に落ち込んで、その夜全員が寝静まってから一人で宿屋を抜け出したんだ』
エーリクの言葉に、私は大きく頷いた。
そう、それはマリアとのイベントとしてちゃんと攻略本に書いておいた。
マリアが出ていく気配に目を覚ましたエーリクは、眠るレグロとブランカを残してマリアの後を追う。
マリアは一人きりで橋の上にたたずんでいた。
悔しさと無力感に涙する彼女に、エーリクは迷いながらも声を掛ける。口下手なエーリクなりの精いっぱいの励ましに、マリアは次第に元気を取り戻し、次は絶対に負けないと宣言するのだ。
私の大好きなイベントのうちの一つ。
このイベントだけはエーリクも達成してくれたらしい。
「ちゃんとマリアを追ったのね?」
『そうだ。眠るレグロとブランカの毛布を引っ剥がして叩き起こし、起きないシンちゃんは首に巻きつけて、全員でマリアを追いかけた。そして夜中の橋で三人でわあわあと、いかに普段からマリアに助けられてるかと熱弁したんだ。マリアはたまらず泣き出して、ブランカの胸に飛び込んでいたな』
「…………」
いや、とても感動的だとは思うけど。
イベント内容が、微妙に変わってしまっているような……?
『マリアはすっかり元気を取り戻した。お前のお陰だな。ありがとうアリサ』
「あ、どういたしまして?」
そこでタイミングよく通話が切れた。
う~ん、でもそっかぁ……。まあマリアが元気になったなら、よかったってことだよね?
どこか釈然としないまま、机に向かって攻略本を開く。
私の記憶が正しければ、今回のマリアの事件はゲームのちょうど中盤ぐらいにあたるはずだ。エーリクが旅立ってまだ二月ほど、かなり驚異的なスピードでストーリーを進めていると言える。
「ここからさらに敵が強くなっていくんだよね~……。仲間はちゃんと増やしてるのかな。本当だったらもう一人、今ごろ弓使いが仲間になってるはずなんだけど」
いや、絶対なってないな。
何も言ってなかったし。さてはあの男、恋愛どころか必須イベントまでスッ飛ばしてるな……。
「まあね、言っても勇者パーティは最大四人までだから。五人以上いたところで余った仲間は強制お留守番だし、初期メンバーの四人は戦闘バランスも申し分ないから、いいっちゃいいんだけど」
それでも願わくば、もう一人だけ仲間にしてほしい。
『エンド・オブ・ファンタジアⅥ』での私の最推しキャラ。すなわち黒衣に身を包み、決して素顔を見せない【孤高の盗賊】ヤン。
「クールで謎に満ちてて、めちゃくちゃ強いんだよね……! 実はマリアの生き別れのお兄さんで、王子様説もあったけど、どうなんだろ?」
それはわからないけれど、彼はゲーム内では隠しキャラなのだ。つまりは仲間にしてもしなくても、ゲームをクリアするのに支障はないということ。
それでもヤンは多彩な技を持つ強キャラで、私は絶対にパーティに入れていた。ちなみにその分外したのはレグロです。
「よしっ、明日はエーリクにこれを話さないと! ヤンだけは絶対に仲間にしてもらわなきゃね!」
そして翌日。
私はエーリクに身振り手振りで熱く語った。
いかにヤンが格好よく、クールで大人で頼りがいのある仲間かということを。攻守のバランスに優れ、戦闘面でも申し分ないということを。
エーリクは一切口を挟まず聞いてくれた。
私は攻略本を開きながら、ヤンを仲間にするタイミングを確認する。
「えぇとね、名前は覚えてないんだけど、エーリクたちはこれからすごく大きな港町に行くはずだから。そこで成金のお金持ちさんから依頼を引き受けてね、それで……」
夜が更けて屋敷に忍び込んでくるヤンを迎え撃ち、戦闘開始。一定時間経過したらヤンは逃走するので、追いかけて町外れで捕獲する。
「そこで彼を仲間に誘うの! その力、世界のために役立ててくれないか?ってね! わかった、エーリク?」
『……ああ、アリサ。任せろ』
エーリクがふっと微笑んだ気配がした。
わくわくと答えを待つ私に、ややあって彼は再び口を開く。
『俺は絶対に。そいつだけは何があろうと、仲間にしない』
きっぱりと宣言するなり、プツッと一方的に通話が切れた。
「…………」
なんで?
『アリサ、なんと今シンちゃんが空中宙返りを披露している。お前に見せられないのが残念だ』
「ええい、あからさまに話を逸らすでないっ!」
今日もエーリクは真面目に話を聞いてくれない。
私はいつも通り怒った振りをしながらも、内心ではもうあきらめ始めていた。
最近になってようやく、私があまりに恋愛イベントを勧めるのは逆効果かもしれないと気づいたのだ。何せエーリクもお年頃、異性の幼馴染と恋愛話をするのは照れくさいのかもしれない。
「はあ、じゃあもう言わないけど……せめて攻略本の恋愛部分は、ちゃんと読んでくれてる?」
『ああ。おおいに役立てている。というのも、つい先日――』
シールズ村と同じように、境界が揺らいで魔族に襲われた町があったのだという。
勇者パーティとたまたま別行動していたマリアが魔族と遭遇し、背後の子どもをかばって結界を張った。けれども彼女の結界はあっさり破られ、危うく全員が魔族の手にかかるところだった――……
「それ、覚えてる! でもギリギリでエーリクたちが助けに入るんだよね? 誰も怪我人は出てないよね?」
『ああ。だがマリアは己の力不足に落ち込んで、その夜全員が寝静まってから一人で宿屋を抜け出したんだ』
エーリクの言葉に、私は大きく頷いた。
そう、それはマリアとのイベントとしてちゃんと攻略本に書いておいた。
マリアが出ていく気配に目を覚ましたエーリクは、眠るレグロとブランカを残してマリアの後を追う。
マリアは一人きりで橋の上にたたずんでいた。
悔しさと無力感に涙する彼女に、エーリクは迷いながらも声を掛ける。口下手なエーリクなりの精いっぱいの励ましに、マリアは次第に元気を取り戻し、次は絶対に負けないと宣言するのだ。
私の大好きなイベントのうちの一つ。
このイベントだけはエーリクも達成してくれたらしい。
「ちゃんとマリアを追ったのね?」
『そうだ。眠るレグロとブランカの毛布を引っ剥がして叩き起こし、起きないシンちゃんは首に巻きつけて、全員でマリアを追いかけた。そして夜中の橋で三人でわあわあと、いかに普段からマリアに助けられてるかと熱弁したんだ。マリアはたまらず泣き出して、ブランカの胸に飛び込んでいたな』
「…………」
いや、とても感動的だとは思うけど。
イベント内容が、微妙に変わってしまっているような……?
『マリアはすっかり元気を取り戻した。お前のお陰だな。ありがとうアリサ』
「あ、どういたしまして?」
そこでタイミングよく通話が切れた。
う~ん、でもそっかぁ……。まあマリアが元気になったなら、よかったってことだよね?
どこか釈然としないまま、机に向かって攻略本を開く。
私の記憶が正しければ、今回のマリアの事件はゲームのちょうど中盤ぐらいにあたるはずだ。エーリクが旅立ってまだ二月ほど、かなり驚異的なスピードでストーリーを進めていると言える。
「ここからさらに敵が強くなっていくんだよね~……。仲間はちゃんと増やしてるのかな。本当だったらもう一人、今ごろ弓使いが仲間になってるはずなんだけど」
いや、絶対なってないな。
何も言ってなかったし。さてはあの男、恋愛どころか必須イベントまでスッ飛ばしてるな……。
「まあね、言っても勇者パーティは最大四人までだから。五人以上いたところで余った仲間は強制お留守番だし、初期メンバーの四人は戦闘バランスも申し分ないから、いいっちゃいいんだけど」
それでも願わくば、もう一人だけ仲間にしてほしい。
『エンド・オブ・ファンタジアⅥ』での私の最推しキャラ。すなわち黒衣に身を包み、決して素顔を見せない【孤高の盗賊】ヤン。
「クールで謎に満ちてて、めちゃくちゃ強いんだよね……! 実はマリアの生き別れのお兄さんで、王子様説もあったけど、どうなんだろ?」
それはわからないけれど、彼はゲーム内では隠しキャラなのだ。つまりは仲間にしてもしなくても、ゲームをクリアするのに支障はないということ。
それでもヤンは多彩な技を持つ強キャラで、私は絶対にパーティに入れていた。ちなみにその分外したのはレグロです。
「よしっ、明日はエーリクにこれを話さないと! ヤンだけは絶対に仲間にしてもらわなきゃね!」
そして翌日。
私はエーリクに身振り手振りで熱く語った。
いかにヤンが格好よく、クールで大人で頼りがいのある仲間かということを。攻守のバランスに優れ、戦闘面でも申し分ないということを。
エーリクは一切口を挟まず聞いてくれた。
私は攻略本を開きながら、ヤンを仲間にするタイミングを確認する。
「えぇとね、名前は覚えてないんだけど、エーリクたちはこれからすごく大きな港町に行くはずだから。そこで成金のお金持ちさんから依頼を引き受けてね、それで……」
夜が更けて屋敷に忍び込んでくるヤンを迎え撃ち、戦闘開始。一定時間経過したらヤンは逃走するので、追いかけて町外れで捕獲する。
「そこで彼を仲間に誘うの! その力、世界のために役立ててくれないか?ってね! わかった、エーリク?」
『……ああ、アリサ。任せろ』
エーリクがふっと微笑んだ気配がした。
わくわくと答えを待つ私に、ややあって彼は再び口を開く。
『俺は絶対に。そいつだけは何があろうと、仲間にしない』
きっぱりと宣言するなり、プツッと一方的に通話が切れた。
「…………」
なんで?
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