転生モブ少女は勇者の恋を応援したいのに!(なぜか勇者がラブイベントをスッ飛ばす)

和島逆

文字の大きさ
上 下
14 / 38

13.何かが違う?

しおりを挟む
「それでですね、勇者エーリクさん。お次の恋愛イベントに関してなのですが」

『アリサ、なんと今シンちゃんが空中宙返りを披露している。お前に見せられないのが残念だ』

「ええい、あからさまに話を逸らすでないっ!」

 今日もエーリクは真面目に話を聞いてくれない。

 私はいつも通り怒った振りをしながらも、内心ではもうあきらめ始めていた。
 最近になってようやく、私があまりに恋愛イベントを勧めるのは逆効果かもしれないと気づいたのだ。何せエーリクもお年頃、異性の幼馴染と恋愛話をするのは照れくさいのかもしれない。

「はあ、じゃあもう言わないけど……せめて攻略本の恋愛部分は、ちゃんと読んでくれてる?」

『ああ。おおいに役立てている。というのも、つい先日――』

 シールズ村と同じように、境界が揺らいで魔族に襲われた町があったのだという。
 勇者パーティとたまたま別行動していたマリアが魔族と遭遇し、背後の子どもをかばって結界を張った。けれども彼女の結界はあっさり破られ、危うく全員が魔族の手にかかるところだった――……

「それ、覚えてる! でもギリギリでエーリクたちが助けに入るんだよね? 誰も怪我人は出てないよね?」

『ああ。だがマリアは己の力不足に落ち込んで、その夜全員が寝静まってから一人で宿屋を抜け出したんだ』

 エーリクの言葉に、私は大きく頷いた。
 そう、それはマリアとのイベントとしてちゃんと攻略本に書いておいた。

 マリアが出ていく気配に目を覚ましたエーリクは、眠るレグロとブランカを残してマリアの後を追う。
 マリアは一人きりで橋の上にたたずんでいた。
 悔しさと無力感に涙する彼女に、エーリクは迷いながらも声を掛ける。口下手なエーリクなりの精いっぱいの励ましに、マリアは次第に元気を取り戻し、次は絶対に負けないと宣言するのだ。

 私の大好きなイベントのうちの一つ。
 このイベントだけはエーリクも達成してくれたらしい。

「ちゃんとマリアを追ったのね?」

『そうだ。眠るレグロとブランカの毛布を引っ剥がして叩き起こし、起きないシンちゃんは首に巻きつけて、全員でマリアを追いかけた。そして夜中の橋で三人でわあわあと、いかに普段からマリアに助けられてるかと熱弁したんだ。マリアはたまらず泣き出して、ブランカの胸に飛び込んでいたな』

「…………」

 いや、とても感動的だとは思うけど。
 イベント内容が、微妙に変わってしまっているような……?

『マリアはすっかり元気を取り戻した。お前のお陰だな。ありがとうアリサ』

「あ、どういたしまして?」

 そこでタイミングよく通話が切れた。
 う~ん、でもそっかぁ……。まあマリアが元気になったなら、よかったってことだよね?

 どこか釈然としないまま、机に向かって攻略本を開く。
 私の記憶が正しければ、今回のマリアの事件はゲームのちょうど中盤ぐらいにあたるはずだ。エーリクが旅立ってまだ二月ほど、かなり驚異的なスピードでストーリーを進めていると言える。

「ここからさらに敵が強くなっていくんだよね~……。仲間はちゃんと増やしてるのかな。本当だったらもう一人、今ごろ弓使いが仲間になってるはずなんだけど」

 いや、絶対なってないな。
 何も言ってなかったし。さてはあの男、恋愛どころか必須イベントまでスッ飛ばしてるな……。

「まあね、言っても勇者パーティは最大四人までだから。五人以上いたところで余った仲間は強制お留守番だし、初期メンバーの四人は戦闘バランスも申し分ないから、いいっちゃいいんだけど」

 それでも願わくば、もう一人だけ仲間にしてほしい。

 『エンド・オブ・ファンタジアⅥ』での私の最推しキャラ。すなわち黒衣に身を包み、決して素顔を見せない【孤高の盗賊】ヤン。

「クールで謎に満ちてて、めちゃくちゃ強いんだよね……! 実はマリアの生き別れのお兄さんで、王子様説もあったけど、どうなんだろ?」

 それはわからないけれど、彼はゲーム内では隠しキャラなのだ。つまりは仲間にしてもしなくても、ゲームをクリアするのに支障はないということ。
 それでもヤンは多彩な技を持つ強キャラで、私は絶対にパーティに入れていた。ちなみにその分外したのはレグロです。

「よしっ、明日はエーリクにこれを話さないと! ヤンだけは絶対に仲間にしてもらわなきゃね!」


 そして翌日。

 私はエーリクに身振り手振りで熱く語った。
 いかにヤンが格好よく、クールで大人で頼りがいのある仲間かということを。攻守のバランスに優れ、戦闘面でも申し分ないということを。
 エーリクは一切口を挟まず聞いてくれた。

 私は攻略本を開きながら、ヤンを仲間にするタイミングを確認する。

「えぇとね、名前は覚えてないんだけど、エーリクたちはこれからすごく大きな港町に行くはずだから。そこで成金のお金持ちさんから依頼を引き受けてね、それで……」

 夜が更けて屋敷に忍び込んでくるヤンを迎え撃ち、戦闘開始。一定時間経過したらヤンは逃走するので、追いかけて町外れで捕獲する。

「そこで彼を仲間に誘うの! その力、世界のために役立ててくれないか?ってね! わかった、エーリク?」

『……ああ、アリサ。任せろ』

 エーリクがふっと微笑んだ気配がした。
 わくわくと答えを待つ私に、ややあって彼は再び口を開く。

『俺は絶対に。そいつだけは何があろうと、

 きっぱりと宣言するなり、プツッと一方的に通話が切れた。

「…………」

 なんで?
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

悪役令嬢、第四王子と結婚します!

水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします! 小説家になろう様にも、書き起こしております。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

処理中です...