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11.久しぶりに聞く声
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家に戻り、夕食を大急ぎで作って平らげる。
ごちそうさま、と目を白黒させて胸を叩けば、お母さんが笑いながら私の背中を押してくれた。
「後片付けはいいから、もうお部屋に行きなさいな、アリサちゃん。ごゆっくり~」
エーリク君とシンちゃんによろしくねぇ~、なんて揶揄されて、私はまたちょっぴり赤くなってしまう。もう、お母さんってば面白がりすぎ!
ドキドキしながら部屋に戻って扉を閉める。
やわらかな羽を引き出しから取り出して、ベッドに腰を下ろした。
(ええと、まずは羽を三回振る……)
ふわ、ふわ、ふわ。
「対の羽を持つ者よ。我が呼び掛けに応えよ……」
ささやくように告げた瞬間、羽が金色に光り輝く。ふるふると手の中で震え出し、やがて手から飛び出して宙に浮いた。
『……アリサ、か?』
「エーリク……!!」
一月ぶりに聞く幼馴染の声。
なぜだかひどく懐かしく感じて、涙がこぼれそうになった。声もなくうずくまっていると、エーリクがふっと笑う気配がした。
『アリサ? 泣いているのか?』
「べっ、別に泣いてないし……!」
ぐすっと鼻をすすって強がる。
エーリクにはきっと、バレちゃってるんだろうけど。
「エーリク、今どこにいるの? 電話……じゃないや、えぇと、何て言えばいいかな。羽通信、しても大丈夫だった?」
『構わない。いつでも何時でも毎日でも、と手紙に書いたろ』
どうやらエーリクは今宿屋にいるらしい。
パーティ全員が同室だが、肌身はなさず持っていた羽が急に震え出したため、急いで廊下に出てきたとのことだった。
『待ってくれ、誰にも邪魔されない場所に移動する。……うん、宿屋の屋根でいいか』
「落ちないでね!?」
エーリクは相変わらずエーリクだった。
しばしごそごそと音がして、やがて『よし』と再びエーリクの声がする。
『シンちゃんは部屋に残った、久しぶりだからと気を遣ってくれたらしい。アリアリによろしくと言っていた』
「ふふっ、ありがとうって伝えておいてね」
宙に浮かんだ羽に向かって、私はにこにことしゃべり続ける。
羽通信は一日一回、最大で十分間しか話せない。
エーリクの旅の話を聞こうとしたら、先に私や村のことを教えてくれと言われた。離れていても気にしてくれるのが嬉しくて、私は身振り手振りで近況を報告した。
「……そんなわけで、おばさんもとっても元気だから安心して! 私は相変わらず体調を崩したり治ったりの繰り返しだけど、調子のいいときはおばさんの薬師の仕事を手伝ったりもしてるんだよ」
『そうか、だがあまり無理はするなよ』
「うん!……あっ」
羽の輝きが、少しずつ弱くなっている。
どうやらそろそろタイムリミットみたいだ。
「明日も同じぐらいの時間で構わない?」
『ああ。気にせずいつでも繋げてくれ』
どうやらこの羽通信は一方からしか掛けられないらしく、エーリクの持っている羽からは私を呼び出せない。
本当は家にいる私より、旅先のエーリクが私のほうの羽を持つべきだったと思うんだけど。優しいエーリクはきっと、私の都合を優先してくれたのだろう。
「……お休みなさい、エーリク」
『お休みアリサ。良い夢を』
ぷつん、と会話が途切れる。
羽は完全に光を失い、ふわりと私の手の中に舞い落ちた。
「…………」
どうしてだろう。
声が聞けてあんなに嬉しかったはずなのに……、今は通信をする前よりずっとずっと、寂しい。
羽を胸に抱き締めたまま、ベッドに倒れ込む。十分なんかじゃ全然足りない。エーリクの声を、もっと聞きたかった。
(また、明日……)
次は冒険の話を聞かせてもらおう。
マリア姫との恋愛イベントは進んでるんだろうか。旅の仲間は、予定通りなら今ごろエーリクを含めて四人になっているはずだ。
ため息をつき、起き上がる。
テーブルの引き出しから取り出したのは、エーリクに渡したのと同じ攻略本だ。エーリクには清書したものをあげたので、こちらはあくまで私の覚え書き用。
(散々迷った末、魔術師コリーの正体については書かなかったんだよね……)
というのも、コリーの助言にはゲーム序盤からたびたび助けられるから。
不用意に彼の正体を明かして、エーリクたちがコリーを警戒しすぎては冒険に差し障る。それに、正体がバレているとコリーに悟られたら大変だと思ったのだ。
魔術師コリー……すなわち魔族の宰相ヴァールがエーリクたちに立ちふさがるのは、ラストダンジョンである魔王城に到達した後だ。
まだまだひよっこ冒険者である勇者一行が、現時点で戦って勝てる相手じゃない。
(うん、でも想定外にこんな素敵アイテムをもらっちゃったし。ラストダンジョン突入前に、ちゃんとエーリクとシンちゃんに伝えないとね……!)
そう決めたらほっとして、私は攻略本と羽を大事に引き出しにしまい込む。
階下の両親にお休みなさいの挨拶をして、わくわくと高揚した気分のまま眠りについた。
明日から毎日、エーリクと話せるのだ――……
ごちそうさま、と目を白黒させて胸を叩けば、お母さんが笑いながら私の背中を押してくれた。
「後片付けはいいから、もうお部屋に行きなさいな、アリサちゃん。ごゆっくり~」
エーリク君とシンちゃんによろしくねぇ~、なんて揶揄されて、私はまたちょっぴり赤くなってしまう。もう、お母さんってば面白がりすぎ!
ドキドキしながら部屋に戻って扉を閉める。
やわらかな羽を引き出しから取り出して、ベッドに腰を下ろした。
(ええと、まずは羽を三回振る……)
ふわ、ふわ、ふわ。
「対の羽を持つ者よ。我が呼び掛けに応えよ……」
ささやくように告げた瞬間、羽が金色に光り輝く。ふるふると手の中で震え出し、やがて手から飛び出して宙に浮いた。
『……アリサ、か?』
「エーリク……!!」
一月ぶりに聞く幼馴染の声。
なぜだかひどく懐かしく感じて、涙がこぼれそうになった。声もなくうずくまっていると、エーリクがふっと笑う気配がした。
『アリサ? 泣いているのか?』
「べっ、別に泣いてないし……!」
ぐすっと鼻をすすって強がる。
エーリクにはきっと、バレちゃってるんだろうけど。
「エーリク、今どこにいるの? 電話……じゃないや、えぇと、何て言えばいいかな。羽通信、しても大丈夫だった?」
『構わない。いつでも何時でも毎日でも、と手紙に書いたろ』
どうやらエーリクは今宿屋にいるらしい。
パーティ全員が同室だが、肌身はなさず持っていた羽が急に震え出したため、急いで廊下に出てきたとのことだった。
『待ってくれ、誰にも邪魔されない場所に移動する。……うん、宿屋の屋根でいいか』
「落ちないでね!?」
エーリクは相変わらずエーリクだった。
しばしごそごそと音がして、やがて『よし』と再びエーリクの声がする。
『シンちゃんは部屋に残った、久しぶりだからと気を遣ってくれたらしい。アリアリによろしくと言っていた』
「ふふっ、ありがとうって伝えておいてね」
宙に浮かんだ羽に向かって、私はにこにことしゃべり続ける。
羽通信は一日一回、最大で十分間しか話せない。
エーリクの旅の話を聞こうとしたら、先に私や村のことを教えてくれと言われた。離れていても気にしてくれるのが嬉しくて、私は身振り手振りで近況を報告した。
「……そんなわけで、おばさんもとっても元気だから安心して! 私は相変わらず体調を崩したり治ったりの繰り返しだけど、調子のいいときはおばさんの薬師の仕事を手伝ったりもしてるんだよ」
『そうか、だがあまり無理はするなよ』
「うん!……あっ」
羽の輝きが、少しずつ弱くなっている。
どうやらそろそろタイムリミットみたいだ。
「明日も同じぐらいの時間で構わない?」
『ああ。気にせずいつでも繋げてくれ』
どうやらこの羽通信は一方からしか掛けられないらしく、エーリクの持っている羽からは私を呼び出せない。
本当は家にいる私より、旅先のエーリクが私のほうの羽を持つべきだったと思うんだけど。優しいエーリクはきっと、私の都合を優先してくれたのだろう。
「……お休みなさい、エーリク」
『お休みアリサ。良い夢を』
ぷつん、と会話が途切れる。
羽は完全に光を失い、ふわりと私の手の中に舞い落ちた。
「…………」
どうしてだろう。
声が聞けてあんなに嬉しかったはずなのに……、今は通信をする前よりずっとずっと、寂しい。
羽を胸に抱き締めたまま、ベッドに倒れ込む。十分なんかじゃ全然足りない。エーリクの声を、もっと聞きたかった。
(また、明日……)
次は冒険の話を聞かせてもらおう。
マリア姫との恋愛イベントは進んでるんだろうか。旅の仲間は、予定通りなら今ごろエーリクを含めて四人になっているはずだ。
ため息をつき、起き上がる。
テーブルの引き出しから取り出したのは、エーリクに渡したのと同じ攻略本だ。エーリクには清書したものをあげたので、こちらはあくまで私の覚え書き用。
(散々迷った末、魔術師コリーの正体については書かなかったんだよね……)
というのも、コリーの助言にはゲーム序盤からたびたび助けられるから。
不用意に彼の正体を明かして、エーリクたちがコリーを警戒しすぎては冒険に差し障る。それに、正体がバレているとコリーに悟られたら大変だと思ったのだ。
魔術師コリー……すなわち魔族の宰相ヴァールがエーリクたちに立ちふさがるのは、ラストダンジョンである魔王城に到達した後だ。
まだまだひよっこ冒険者である勇者一行が、現時点で戦って勝てる相手じゃない。
(うん、でも想定外にこんな素敵アイテムをもらっちゃったし。ラストダンジョン突入前に、ちゃんとエーリクとシンちゃんに伝えないとね……!)
そう決めたらほっとして、私は攻略本と羽を大事に引き出しにしまい込む。
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