33 / 70
33.前進の魔女
しおりを挟む
人に聞かれては困る話なので、昼食はロッティの家で取ることになった。
帰り道で目に付いたパン屋に入り、おかず系から甘いおやつ系までどんどん籠に放り込んでいく。大量購入に唖然とする周囲には、フィルが必殺の笑みを向けて有耶無耶にしてしまった。
ありがとうございました、とぽうっとなった店員に見送られ、フィルは上機嫌で温かな紙袋を揺らした。
「もし余ったら、明日の朝食にしてくださいね?」
「…………。そう、ですね。余れば、まあ……」
ロッティは苦笑を返すしかない。
多分きっと、パンくずたりとも残らないはずだ。
街外れの自宅に到着し、ロッティは大急ぎで机の上を片付けた。お茶はフィルが淹れてくれたので、ほどなくして遅めの昼食の準備が整う。
机に山盛りのパンを、フィルがにこやかに見回した。
「さ、お好きなものをどうぞ。一口ずつでも構いませんよ? 僕が片付けますからね」
「う……っ。ま、またそんな誘惑を……!」
恨めしげに睨むが、フィルは堪えたふうもなく澄ましている。
しばし口を尖らせていたロッティも、ややあって噴き出してしまった。遠慮なくパンに手を伸ばすことにする。
それから二人で熱心に感想を言い合いながら、とりどりのパンを堪能した。すっかり満腹になったロッティは、膨らんだ胃の上を満足気に撫でさする。
「お腹いっぱい! やっぱり綺麗になくなっちゃいましたね?」
「おかしいですよねぇ。あれほど沢山あったのに」
「…………」
他人事のようなフィルの台詞に、ロッティは笑い出しそうになるのを必死で堪えた。うっかり笑ったら逆流しそうだったのだ。
(……不思議だなぁ。フィルさんが一緒だと……)
ついついつられて食べすぎてしまう。
フィルが大食漢なせいもあるが――純粋に楽しいせいでもある。会話が弾んで、食事がいつもの何倍も美味しくなるのだ。
はにかみながらフィルを窺うと、彼も優しい眼差しをロッティに向けていた。びくっと肩を跳ねさせて、大急ぎで下を向く。
どきどきとうるさい心臓を、服の上からきつく押さえた。……頬が、熱い。
「ロッティ」
低い声にはっとして、すぐさま俯けていた顔を上げる。
フィルはひどく真剣な表情をしていた。彼も何か、察するところがあったのかもしれない。
小さく息を吐いたロッティは、迷いながらも口を開く。
「……フィルさん。実は、今日クリスさんと話してみたんですけど――」
たどたどしくも懸命に、今日彼と交わした会話をなるへく忠実に再現した。フィルは短い相槌を打つだけで、ほとんど口を挟まずに聞き入った。
やっと話し終えたロッティは、緊張を解いて頬をゆるめる。
「私……、クリスさんの意志を尊重してあげたい、って思ってるんです。クリスさんが絶対に、魔石に頼りたくないって言うのなら……」
「待ってください、ロッティ。クリスは、正確にはこう言ったんですよね?――ずるはごめんだ、と」
ロッティの言葉を遮って、フィルは早口で確認した。
「は、はい。そうです」
目を白黒させながら肯定するロッティを、フィルは無言で見つめる。
沈黙に居心地悪く身じろぎした頃、やっとフィルが再び口を開いた。
「――おかしく、ありませんか?」
「……え?」
戸惑うロッティに、フィルは水の魔石の瞳を向ける。彼の青い瞳は、水面にさざ波が立つように揺らいでいた。
「例えば水の魔石ならば、治癒力が高まるのでしたね? 怪我の治りが早まるからといって、それが『ずる』に当たりますか?」
「……あ……」
確かに。
それを言うならば、地の魔石だって同じだろう。
地の魔石は『頑健な体』――つまり、病気予防に効果があるのだ。
ロッティは考え考え、己の違和感を言葉にする。
「……怪我が早く治るとか、風邪を引きにくくなるとか。むしろ、女優のクリスさんにとっては良い事尽くしですよね? もちろん魔石があるからといって、怪我に気を付けなくていいとか、健康管理しなくていいって話じゃないですけど……」
魔石は決して万能じゃない。
だからこそ、地や水の魔石が『ずる』とは言えない気がする。
自信なく呟くと、フィルは目を伏せて聞き入っていた。唇を噛んで考え込み、ややあってきっぱりと顔を上げる。
「となると。クリスの中には、明確に思い描いている魔石があったのかもしれないですね。おそらく、風か火――……」
「で、でもっ」
ロッティがわたわたと手を振った拍子に、ティーカップに当たってしまった。倒れてしまったカップを拾い上げようと手を伸ばすと、同時に伸びてきたフィルの手と重なった。
「……っ」
「――ああ、失礼。こぼれてはいないようですね?」
空っぽで良かった、とフィルが微笑む。
ロッティは真っ赤になって、大慌てで手を引っ込めた。熱くなった手の甲を、包み込むようにして押さえる。
フィルは面白がるみたいに目を細めていた。悔しくなったロッティは、精いっぱい怒った振りをしてフィルを睨めつける。
「で、でもっ。クリスさんは足が速いですっ。そ、それに演技に対する情熱だって凄いし……!」
「そうですね……」
一転して真剣な顔に戻ると、フィルは「一体あいつは何を考えているんだ……」と呻いた。
その隙に呼吸を整え、ロッティも大急ぎで考えをまとめる。頭を抱えこんでいるフィルを、つんつんとつついた。
「私……私が、調べてみます」
「ロッティ?」
驚いたように目を瞬かせるフィルに、はにかみながら頷きかける。
「フィルさんと違って、私の仕事は時間に融通がききますから。クリスさんも稽古を見に来てほしいって言ってたし、まめに通えば、何かわかることがあるかもしれません……!」
頬を上気させて言い募ると、フィルはあんぐりと口を開けた。信じられないというようにせわしなく立ち上がる。
「い、いやロッティ……! 劇団の稽古場ですよ? 知らない人間が沢山いるんですよ?」
「うっ……!」
そう、確かにそれは怖い。
きっとフィルやクリスのように、きらきらと輝きを放つ人達でいっぱいに違いないから。
(……でも……!)
それでも。
ロッティはこぶしを握り締めて立ち上がる。
テーブルを回ってフィルの前に立ち、挑むように彼を見上げた。
「フィルさんとクリスさんは、私のお友達です。大事なお友達の力になれるなら、苦手だなんて言い訳して逃げてられない。私だって、二人のために頑張りたいんです……!」
じんわりと浮かびそうになる涙を堪え、ロッティはしゃんと背筋を伸ばして宣言する。
目を丸くしたフィルは、はっと息を吸って笑い出した。笑いながら手を伸ばし、ロッティを引き寄せる。
「……へっ?」
あっと思った時にはフィルの腕の中だった。
息をするのも忘れて固まるロッティを、フィルはきつく抱き締める。
「――ありがとう。ロッティ」
耳元から熱を孕んだ囁き声が吹き込まれ、ロッティの膝から力が抜けていった。ぐにゃりと床に崩れ落ちた彼女を、フィルが大慌てで覗き込む。
「ロ、ロッティ!? 大丈夫ですかっ!?」
「…………」
ちっとも大丈夫じゃない。
大噴火を起こしている顔を隠しつつ、ロッティはごろごろと床を転がった。
帰り道で目に付いたパン屋に入り、おかず系から甘いおやつ系までどんどん籠に放り込んでいく。大量購入に唖然とする周囲には、フィルが必殺の笑みを向けて有耶無耶にしてしまった。
ありがとうございました、とぽうっとなった店員に見送られ、フィルは上機嫌で温かな紙袋を揺らした。
「もし余ったら、明日の朝食にしてくださいね?」
「…………。そう、ですね。余れば、まあ……」
ロッティは苦笑を返すしかない。
多分きっと、パンくずたりとも残らないはずだ。
街外れの自宅に到着し、ロッティは大急ぎで机の上を片付けた。お茶はフィルが淹れてくれたので、ほどなくして遅めの昼食の準備が整う。
机に山盛りのパンを、フィルがにこやかに見回した。
「さ、お好きなものをどうぞ。一口ずつでも構いませんよ? 僕が片付けますからね」
「う……っ。ま、またそんな誘惑を……!」
恨めしげに睨むが、フィルは堪えたふうもなく澄ましている。
しばし口を尖らせていたロッティも、ややあって噴き出してしまった。遠慮なくパンに手を伸ばすことにする。
それから二人で熱心に感想を言い合いながら、とりどりのパンを堪能した。すっかり満腹になったロッティは、膨らんだ胃の上を満足気に撫でさする。
「お腹いっぱい! やっぱり綺麗になくなっちゃいましたね?」
「おかしいですよねぇ。あれほど沢山あったのに」
「…………」
他人事のようなフィルの台詞に、ロッティは笑い出しそうになるのを必死で堪えた。うっかり笑ったら逆流しそうだったのだ。
(……不思議だなぁ。フィルさんが一緒だと……)
ついついつられて食べすぎてしまう。
フィルが大食漢なせいもあるが――純粋に楽しいせいでもある。会話が弾んで、食事がいつもの何倍も美味しくなるのだ。
はにかみながらフィルを窺うと、彼も優しい眼差しをロッティに向けていた。びくっと肩を跳ねさせて、大急ぎで下を向く。
どきどきとうるさい心臓を、服の上からきつく押さえた。……頬が、熱い。
「ロッティ」
低い声にはっとして、すぐさま俯けていた顔を上げる。
フィルはひどく真剣な表情をしていた。彼も何か、察するところがあったのかもしれない。
小さく息を吐いたロッティは、迷いながらも口を開く。
「……フィルさん。実は、今日クリスさんと話してみたんですけど――」
たどたどしくも懸命に、今日彼と交わした会話をなるへく忠実に再現した。フィルは短い相槌を打つだけで、ほとんど口を挟まずに聞き入った。
やっと話し終えたロッティは、緊張を解いて頬をゆるめる。
「私……、クリスさんの意志を尊重してあげたい、って思ってるんです。クリスさんが絶対に、魔石に頼りたくないって言うのなら……」
「待ってください、ロッティ。クリスは、正確にはこう言ったんですよね?――ずるはごめんだ、と」
ロッティの言葉を遮って、フィルは早口で確認した。
「は、はい。そうです」
目を白黒させながら肯定するロッティを、フィルは無言で見つめる。
沈黙に居心地悪く身じろぎした頃、やっとフィルが再び口を開いた。
「――おかしく、ありませんか?」
「……え?」
戸惑うロッティに、フィルは水の魔石の瞳を向ける。彼の青い瞳は、水面にさざ波が立つように揺らいでいた。
「例えば水の魔石ならば、治癒力が高まるのでしたね? 怪我の治りが早まるからといって、それが『ずる』に当たりますか?」
「……あ……」
確かに。
それを言うならば、地の魔石だって同じだろう。
地の魔石は『頑健な体』――つまり、病気予防に効果があるのだ。
ロッティは考え考え、己の違和感を言葉にする。
「……怪我が早く治るとか、風邪を引きにくくなるとか。むしろ、女優のクリスさんにとっては良い事尽くしですよね? もちろん魔石があるからといって、怪我に気を付けなくていいとか、健康管理しなくていいって話じゃないですけど……」
魔石は決して万能じゃない。
だからこそ、地や水の魔石が『ずる』とは言えない気がする。
自信なく呟くと、フィルは目を伏せて聞き入っていた。唇を噛んで考え込み、ややあってきっぱりと顔を上げる。
「となると。クリスの中には、明確に思い描いている魔石があったのかもしれないですね。おそらく、風か火――……」
「で、でもっ」
ロッティがわたわたと手を振った拍子に、ティーカップに当たってしまった。倒れてしまったカップを拾い上げようと手を伸ばすと、同時に伸びてきたフィルの手と重なった。
「……っ」
「――ああ、失礼。こぼれてはいないようですね?」
空っぽで良かった、とフィルが微笑む。
ロッティは真っ赤になって、大慌てで手を引っ込めた。熱くなった手の甲を、包み込むようにして押さえる。
フィルは面白がるみたいに目を細めていた。悔しくなったロッティは、精いっぱい怒った振りをしてフィルを睨めつける。
「で、でもっ。クリスさんは足が速いですっ。そ、それに演技に対する情熱だって凄いし……!」
「そうですね……」
一転して真剣な顔に戻ると、フィルは「一体あいつは何を考えているんだ……」と呻いた。
その隙に呼吸を整え、ロッティも大急ぎで考えをまとめる。頭を抱えこんでいるフィルを、つんつんとつついた。
「私……私が、調べてみます」
「ロッティ?」
驚いたように目を瞬かせるフィルに、はにかみながら頷きかける。
「フィルさんと違って、私の仕事は時間に融通がききますから。クリスさんも稽古を見に来てほしいって言ってたし、まめに通えば、何かわかることがあるかもしれません……!」
頬を上気させて言い募ると、フィルはあんぐりと口を開けた。信じられないというようにせわしなく立ち上がる。
「い、いやロッティ……! 劇団の稽古場ですよ? 知らない人間が沢山いるんですよ?」
「うっ……!」
そう、確かにそれは怖い。
きっとフィルやクリスのように、きらきらと輝きを放つ人達でいっぱいに違いないから。
(……でも……!)
それでも。
ロッティはこぶしを握り締めて立ち上がる。
テーブルを回ってフィルの前に立ち、挑むように彼を見上げた。
「フィルさんとクリスさんは、私のお友達です。大事なお友達の力になれるなら、苦手だなんて言い訳して逃げてられない。私だって、二人のために頑張りたいんです……!」
じんわりと浮かびそうになる涙を堪え、ロッティはしゃんと背筋を伸ばして宣言する。
目を丸くしたフィルは、はっと息を吸って笑い出した。笑いながら手を伸ばし、ロッティを引き寄せる。
「……へっ?」
あっと思った時にはフィルの腕の中だった。
息をするのも忘れて固まるロッティを、フィルはきつく抱き締める。
「――ありがとう。ロッティ」
耳元から熱を孕んだ囁き声が吹き込まれ、ロッティの膝から力が抜けていった。ぐにゃりと床に崩れ落ちた彼女を、フィルが大慌てで覗き込む。
「ロ、ロッティ!? 大丈夫ですかっ!?」
「…………」
ちっとも大丈夫じゃない。
大噴火を起こしている顔を隠しつつ、ロッティはごろごろと床を転がった。
10
お気に入りに追加
264
あなたにおすすめの小説

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定

【完結】白い結婚はあなたへの導き
白雨 音
恋愛
妹ルイーズに縁談が来たが、それは妹の望みでは無かった。
彼女は姉アリスの婚約者、フィリップと想い合っていると告白する。
何も知らずにいたアリスは酷くショックを受ける。
先方が承諾した事で、アリスの気持ちは置き去りに、婚約者を入れ換えられる事になってしまった。
悲しみに沈むアリスに、夫となる伯爵は告げた、「これは白い結婚だ」と。
運命は回り始めた、アリスが辿り着く先とは… ◇異世界:短編16話《完結しました》

訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果
柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。
彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。
しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。
「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」
逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。
あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。
しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。
気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……?
虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。
※小説家になろうに重複投稿しています。


「白い結婚の終幕:冷たい約束と偽りの愛」
ゆる
恋愛
「白い結婚――それは幸福ではなく、冷たく縛られた契約だった。」
美しい名門貴族リュミエール家の娘アスカは、公爵家の若き当主レイヴンと政略結婚することになる。しかし、それは夫婦の絆など存在しない“白い結婚”だった。
夫のレイヴンは冷たく、長く屋敷を不在にし、アスカは孤独の中で公爵家の実態を知る――それは、先代から続く莫大な負債と、怪しい商会との闇契約によって破綻寸前に追い込まれた家だったのだ。
さらに、公爵家には謎めいた愛人セシリアが入り込み、家中の権力を掌握しようと暗躍している。使用人たちの不安、アーヴィング商会の差し押さえ圧力、そして消えた夫レイヴンの意図……。次々と押し寄せる困難の中、アスカはただの「飾りの夫人」として終わる人生を拒絶し、自ら未来を切り拓こうと動き始める。
政略結婚の檻の中で、彼女は周囲の陰謀に立ち向かい、少しずつ真実を掴んでいく。そして冷たく突き放していた夫レイヴンとの関係も、思わぬ形で変化していき――。
「私はもう誰の人形にもならない。自分の意志で、この家も未来も守り抜いてみせる!」
果たしてアスカは“白い結婚”という名の冷たい鎖を断ち切り、全てをざまあと思わせる大逆転を成し遂げられるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる