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22.頼みますよ女神さま!
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ぱええ~
(……なに?)
ぱぇあ~
ぱぇっぱぁ~
(うるさい、なぁ……)
ぽえぁ~っ
ぽえっぽえぇ~っ
「……ああ、もうっ! もう少しだけ寝かせてよ!!」
「ぽっ?」
「ぱうぅっ?」
叫びながら腕を振り上げた瞬間、私の上から何かがぽふんぽふんと転がり落ちた。……んん?
寝ぼけ眼をこすりつつ、体を起こして一つ拾い上げてみる。長いお耳がぴこぴこ動いて、うさぎっぽい。これぞまさしく、なんとも愛らしいぬいぐるみ――じゃなくって。
「……シーナちゃん?」
目をまんまるにしたシーナちゃんだった。
慌てて周囲を見渡せば、側にたくさんのシーナちゃんが転がっている。みんなぽけっと口を開け、ややあってぱえぱえと一斉に抗議の鳴き声を上げ始めた。
「ご、ごめんっ。痛かった? 怪我してない?」
「ぷぅっ」
今度はぷんっと顔を背けてしまう。ごめんってば~!
むくれるシーナちゃんたちに手を合わせつつ、すばやく周囲の様子を見て取った。目に眩しいほどの緑に、咲き誇る色とりどりの花々。この場所には覚えがある。
(ここは……、天上世界?)
ってことは。
はっとして後ろを振り向くのと、「シーナぁ~」という間延びした声が聞こえたのは同時だった。
遠くからでもはっきりと輝く金色の髪をなびかせて、月の女神ルーナさんがにこにこと駆け寄ってくる。
「ルーナさんっ」
「うふふ~、また会えて嬉しいわぁ。シーナ」
がしっと抱き合う私たち。
小さく鼻をすすり、私は彼女の背中に腕を回してしがみついた。
なんだか異様に泣けてくる。だってこの世界で私がまともに会話できるのって、ルーナさんしかいないから。
「うっうっ、ルーナさんっ……。月が出てたから、ちょっとだけ人間に戻ってみたんですけど……っ。危うくヴィクターが怖すぎて死ぬところでっ」
えぐえぐ泣きながら訴える私に、ルーナさんは「そうよねぇ」とため息交じりに頷いた。……そうよねぇ?
瞬きして長身のルーナさんを見上げれば、ルーナさんは私の頭をよしよしと撫でてくれた。小首を傾げ、困ったように眉を下げる。
「シーナの魂がねぇ、体から抜けて旅立とうとしてたのよ。それで慌てて天上世界に引っ張りこんだんだけど、今回も危機一髪だったわぁ。もしかして、シーナってば死にかけるのがご趣味なの?」
「…………」
そんなご趣味があってたまるもんかい。
涙はすっかり引っ込んで、私はジト目でルーナさんを睨みつける。
(って、いうか)
まさかそこまでヤバい状況だったとは。
アンビリーバボー。
今日もまた奇跡の生還よ。もはや私ってば死にかけのプロじゃなかろうか?
遠い目をする私をよそに、ルーナさんはおっとりと微笑んだ。
「緋の王子の放つ魔素に当てられちゃったのね。……シーナったら駄目じゃない。ちゃんと忠告してあげたでしょう? 緋の王子は高濃度の魔素を宿す人間なのだから、あなたにとっては猛毒も同義だってこと」
「……いや、初耳なんですけど」
低い声で否定すると、ルーナさんは「あら?」と目を丸くした。
「そうだったかしら?」
「そうだったんですよ」
「ホントにホント?」
「ホントにホント」
「…………」
ルーナさんはしばし考え込み、ややあって「てへっ」と舌を出した。可愛こぶっても駄目だからね?
「もーっ、他に言い忘れはありませんよね!? というか、ヴィクターが猛毒って何なんですかっ。呪いを解くためにはヴィクターが必要なんでしょう!?」
「……ああ。だから、それはね……」
ほえほえ笑っていたルーナさんが、初めて難しい顔をする。うぅんとうなり、うわの空な様子で花畑に横座りした。
「……この世界の人間はね、みんな魔素に耐性を持っているけれど、稀に魔素そのものを体に宿して生まれてくる子もいるの。大抵は問題となるほどの量じゃないんだけど……あ、シーナも座って?」
ぽんと隣を叩かれて、突っ立って聞き入っていた私も大人しく座り込む。機嫌を直したらしいシーナちゃんたちが、我先にと私の膝に登ってきた。指先でふわふわと彼らをくすぐる。
「緋の王子の場合は、問題おおありよ。宿す魔素が強すぎて、目に見えるかたちで影響が表れてる」
「ルーナさん。それって……」
――あの綺麗な緋色の瞳?
恐る恐る確かめると、ルーナさんは唇を引き結んで首肯した。
「神であるわたくしですら気が遠くなるほどの昔、彼と同じぐらい魔素の強い人間がいたのだけれどね。その人間もまた、鮮やかな緋の色を持っていたわ」
「へえぇ……。じゃあ私、人間のときはヴィクターに近寄らない方がいいってことですか?」
あれ? でも……。
口に出した瞬間、自分で自分の言葉に首を傾げる。
おかしいな。私は他でもないルーナさんから、呪いを解くためヴィクターから片時も離れないよう言われたのに。
ぐるぐると混乱する私に、ルーナさんが苦笑する。
「呪いを解くこと自体は簡単なのよ。わたくしがかけた呪いなんだもの、その気になれば今すぐにだって解呪できるわ。だけど、それじゃあ」
「私が死んじゃう?」
ルーナさんの台詞を引き取ると、ルーナさんは得たりとばかりに頷いた。
「そうそ。だからシーナに必要なのは、魔素への耐性を身につけること。魔素の塊である、緋の王子の側にいればそれが叶うわ。――きっとあなたはそのために、シーナ・ルーの姿を選んだのでしょうね」
(……なに?)
ぱぇあ~
ぱぇっぱぁ~
(うるさい、なぁ……)
ぽえぁ~っ
ぽえっぽえぇ~っ
「……ああ、もうっ! もう少しだけ寝かせてよ!!」
「ぽっ?」
「ぱうぅっ?」
叫びながら腕を振り上げた瞬間、私の上から何かがぽふんぽふんと転がり落ちた。……んん?
寝ぼけ眼をこすりつつ、体を起こして一つ拾い上げてみる。長いお耳がぴこぴこ動いて、うさぎっぽい。これぞまさしく、なんとも愛らしいぬいぐるみ――じゃなくって。
「……シーナちゃん?」
目をまんまるにしたシーナちゃんだった。
慌てて周囲を見渡せば、側にたくさんのシーナちゃんが転がっている。みんなぽけっと口を開け、ややあってぱえぱえと一斉に抗議の鳴き声を上げ始めた。
「ご、ごめんっ。痛かった? 怪我してない?」
「ぷぅっ」
今度はぷんっと顔を背けてしまう。ごめんってば~!
むくれるシーナちゃんたちに手を合わせつつ、すばやく周囲の様子を見て取った。目に眩しいほどの緑に、咲き誇る色とりどりの花々。この場所には覚えがある。
(ここは……、天上世界?)
ってことは。
はっとして後ろを振り向くのと、「シーナぁ~」という間延びした声が聞こえたのは同時だった。
遠くからでもはっきりと輝く金色の髪をなびかせて、月の女神ルーナさんがにこにこと駆け寄ってくる。
「ルーナさんっ」
「うふふ~、また会えて嬉しいわぁ。シーナ」
がしっと抱き合う私たち。
小さく鼻をすすり、私は彼女の背中に腕を回してしがみついた。
なんだか異様に泣けてくる。だってこの世界で私がまともに会話できるのって、ルーナさんしかいないから。
「うっうっ、ルーナさんっ……。月が出てたから、ちょっとだけ人間に戻ってみたんですけど……っ。危うくヴィクターが怖すぎて死ぬところでっ」
えぐえぐ泣きながら訴える私に、ルーナさんは「そうよねぇ」とため息交じりに頷いた。……そうよねぇ?
瞬きして長身のルーナさんを見上げれば、ルーナさんは私の頭をよしよしと撫でてくれた。小首を傾げ、困ったように眉を下げる。
「シーナの魂がねぇ、体から抜けて旅立とうとしてたのよ。それで慌てて天上世界に引っ張りこんだんだけど、今回も危機一髪だったわぁ。もしかして、シーナってば死にかけるのがご趣味なの?」
「…………」
そんなご趣味があってたまるもんかい。
涙はすっかり引っ込んで、私はジト目でルーナさんを睨みつける。
(って、いうか)
まさかそこまでヤバい状況だったとは。
アンビリーバボー。
今日もまた奇跡の生還よ。もはや私ってば死にかけのプロじゃなかろうか?
遠い目をする私をよそに、ルーナさんはおっとりと微笑んだ。
「緋の王子の放つ魔素に当てられちゃったのね。……シーナったら駄目じゃない。ちゃんと忠告してあげたでしょう? 緋の王子は高濃度の魔素を宿す人間なのだから、あなたにとっては猛毒も同義だってこと」
「……いや、初耳なんですけど」
低い声で否定すると、ルーナさんは「あら?」と目を丸くした。
「そうだったかしら?」
「そうだったんですよ」
「ホントにホント?」
「ホントにホント」
「…………」
ルーナさんはしばし考え込み、ややあって「てへっ」と舌を出した。可愛こぶっても駄目だからね?
「もーっ、他に言い忘れはありませんよね!? というか、ヴィクターが猛毒って何なんですかっ。呪いを解くためにはヴィクターが必要なんでしょう!?」
「……ああ。だから、それはね……」
ほえほえ笑っていたルーナさんが、初めて難しい顔をする。うぅんとうなり、うわの空な様子で花畑に横座りした。
「……この世界の人間はね、みんな魔素に耐性を持っているけれど、稀に魔素そのものを体に宿して生まれてくる子もいるの。大抵は問題となるほどの量じゃないんだけど……あ、シーナも座って?」
ぽんと隣を叩かれて、突っ立って聞き入っていた私も大人しく座り込む。機嫌を直したらしいシーナちゃんたちが、我先にと私の膝に登ってきた。指先でふわふわと彼らをくすぐる。
「緋の王子の場合は、問題おおありよ。宿す魔素が強すぎて、目に見えるかたちで影響が表れてる」
「ルーナさん。それって……」
――あの綺麗な緋色の瞳?
恐る恐る確かめると、ルーナさんは唇を引き結んで首肯した。
「神であるわたくしですら気が遠くなるほどの昔、彼と同じぐらい魔素の強い人間がいたのだけれどね。その人間もまた、鮮やかな緋の色を持っていたわ」
「へえぇ……。じゃあ私、人間のときはヴィクターに近寄らない方がいいってことですか?」
あれ? でも……。
口に出した瞬間、自分で自分の言葉に首を傾げる。
おかしいな。私は他でもないルーナさんから、呪いを解くためヴィクターから片時も離れないよう言われたのに。
ぐるぐると混乱する私に、ルーナさんが苦笑する。
「呪いを解くこと自体は簡単なのよ。わたくしがかけた呪いなんだもの、その気になれば今すぐにだって解呪できるわ。だけど、それじゃあ」
「私が死んじゃう?」
ルーナさんの台詞を引き取ると、ルーナさんは得たりとばかりに頷いた。
「そうそ。だからシーナに必要なのは、魔素への耐性を身につけること。魔素の塊である、緋の王子の側にいればそれが叶うわ。――きっとあなたはそのために、シーナ・ルーの姿を選んだのでしょうね」
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