異世界もふもふ死にかけライフ☆異世界転移して毛玉な呪いにかけられたら、凶相騎士団長様に拾われました。

和島逆

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4.毛玉に見えて人間なんです

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 モテ男さんがいかにも疑わしそうな顔をする。

「……ね、ヴィクター。この子さあ、もしかしてオレのいうこと理解してない?」

 長いお耳がピンッと伸びた。
 そう、実はそうなのっ! こう見えて私ってば人間なの!

 勢いよく頷くより先に、一刀両断男が「気のせいだろう」と冷たく切り捨てる。

「単に首を上下に動かしただけだ」

(ちがうっ、私は本当に頷いたのっ)

 無造作に手のひらの上に落とされたので、ブラシしっぽを武器にして男の手をぺしぺし叩く。めっさ怖い顔で睨まれた。ひえぇっ!

「ぱぺっ、ぱぺぺぺぺぺぺぺぺぺ」

「うわあ、すっごい高速で震えてる。……うぅん、聖獣にとってもヴィクターの顔ってやっぱ恐ろしいのかな」

 モテ男さんは小さく首をひねると、一刀両断男の手から私を救出してくれた。指先で顎の下をくすぐり、ふわふわと逆毛を立てる。

「あのね、聖獣ちゃん。ヴィクターって緋色の瞳をしてるだろ? 古い言い伝えではあるんだけど、実はこれってめちゃくちゃ縁起の悪いことでさ」

 ……へえ?

 興味深く耳を傾ける私を見て、一刀両断男が眉間にしわを寄せた。あきれたような視線をモテ男さんに向ける。

「こんな毛玉に理解できるはずがなかろう。酔狂も大概にしておけ」

「まま、ものは試しっていうだろ? ほら、実際わかったような顔して頷いてる」

 や、全然わかってませんけど?

 珍しくてすごく綺麗な瞳なのに、どうして縁起が悪いのやら。この世界の常識なんて、もちろん私が知るはずもなく。

(……うん。きっとここは日本じゃない、よね)

 熊モドキの一件だけじゃなく、一刀両断男とモテ男さんの服装や武器を見ても、ここが私にとって未知の世界なのは明らかだ。

 ――つまりは、異世界。

 どっと疲れを覚えて、私はモテ男さんの手の上に崩れ落ちる。

 ぷぷぅと絶望のため息を漏らせば、一刀両断男が「ほら見ろ」と言わんばかりに鼻を鳴らした。

「時間の無駄だ。こいつは今すぐ『帰らずの森』へ――」

「ぱえええぇーーーっ」

 どうかそれだけはご勘弁をーーーっ!!

 とっさに大ジャンプをかまし、モテ男さんの手から一刀両断男の胸へと飛びついた。放しませぬ、放しませぬぞ~!

 すぐに引き剥がされるかと思ったが、意外にも一刀両断男は動かない。姿勢正しく固まってしまった。

 モテ男さんが怪訝そうに男の顔を覗き込み、ぷっと噴き出す。

「ははっ、お前なんでそんな目ぇ吊り上げてんの! 可愛い子に抱き着かれて嬉しいだろ? ほらほら、認めちゃったら楽になるぞ~?」

「うるさいっ」

 荒々しく私を引っつかみ、一刀両断男は私を胸ポケットに押し込んでしまった。ああっ、しっぽがキツキツなんですけどもっ。

 短い手足で一生懸命にもがき、なんとか顔だけは外に出すことに成功する。ポケットの縁をつかんで安堵の息を吐いたところで、一刀両断男がくるりと踵を返した。

「ヴィクター?」

「……月の聖堂に行く」

 ぶっきらぼうな一言に、ああ、とモテ男さんが手を打った。

「そうだな、それがいい。……聖獣ちゃん。今から君のご主人様――月の女神ルーナを祀る聖堂に連れて行ってあげるからね? 月の女神信仰は我が国の国教だから、きっと神官たちがありがたがって君を保護してくれるよ」

「ぱえっ!?」

 そ、それは正直助かるっ!
 森に戻されるより断然マシだし!

 どうやら私はいつの間にか、月の女神ルーナさんとやらの手下になっていたらしい。ならご主人様の義務として、ルーナさんにはきっちり私を助けてもらいましょうか!

(さあさあレッツゴー!)

「ぽえっぽえええ~ぃっ!」

 威勢よく雄叫びを上げると、またしてもモテ男さんが胡乱な視線を私に向けた。

「ね、ヴィクター。やっぱこの子、オレらの会話を理解してるよね?」

「気のせいだ」

 かたくなに認めないなー、一刀両断男。

 けれど今はそんなことは置いといて。
 神様というからには、ルーナさんはきっとすごい力を持っているに違いない。私を人間に戻し、日本に帰してくれるかも!

 ようやっと希望の光が見えてきて、私は上機嫌でぱえぱえ歌い出した。

「すっごい喜んでるな~……。あ、そうだ聖獣ちゃん。自己紹介が遅くなったけど、オレはカイル・マクレイ。年は二十六で、こう見えて第三騎士団の副団長をやってるよ。そんで、こっちが――」

 水を向けられるが、一刀両断男は完全に黙殺する。
 モテ男さん改めカイルさんが、諦めたように苦笑した。

「ヴィクター・グレイディ。我らが第三騎士団の団長様にして、ここグレイグ王国の王子殿下だよ」

「ぱええ」

 あんま王子っぽくないけどね。
 カイルさんも思いっきりタメ口使ってるし。

 まるで私の心を読んだかのように、カイルさんが肩をすくめる。

「オレとヴィクターは乳兄弟なんだ。ああ、言っとくけどヴィクターは末の第十一王子だから、王位を継ぐ可能性は皆無だからね?」

 だいじゅういちっ!?

 ……随分と子沢山な王様らしい。
 聞けば大変な艶福家で、お妃様は八人、王女も五人いるんだとか。うん、女の敵だね!

 それまで黙っていた一刀両断男が、「愛人と隠し子もいるはずだ」とボソッと付け足した。なんと。

 私はぐうの音……ではなく、ぱえの音すら出なくなってしまう。
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