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2章 二人の前途は多難です!
聖女、快諾する!
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「なになになに、どういうこと!? えっ、どうしちゃったの!?」
急なことに驚いたエミは手足をじたばたさせた。喜んでいるというより、むしろパニックに陥っている。
予想外のエミの反応に、ディルは大いに戸惑った。
「どういうこともなにも、私は今しがた、お前にプロポーズをしたのだが」
「そうだね、プロポーズだね!? わあ、これマジの指輪だぁ……」
エミはしげしげと小箱の中にはいった指輪を見つめ、それからディルを見つめ、その動作を三回繰り返した。明らかに困惑している。
ディルはおそるおそる口を開いた。
「……その、セバスチャンのアドバイス通りのプロポーズをしたのだが、なにか間違っていただろうか? セバスチャンからは、秘密裏に指輪を用意し、ふたりきりのドキドキするするシチュエーションでプロポーズをするよう指導を受けたのだが……」
「へー、このサプライズ、セバスちプロデュースなんだぁ……」
「この指輪も、私自ら夜な夜な首都中のアクセサリーショップを巡り、名匠と名高い銀細工師を抱える宝飾店で何度も打ち合わせを重ね、特注した一品だ。先ほど受け取ったばかりでタイミングも良かった」
「ええーっ!」
その瞬間、エミの頭の中ですべてが繋がった。つまり、首都でなかなか会えなかったのは、ディルが浮気をしていたわけではなく、エミのためにとっておきの指輪を用意していただけだったのだ。そして、ヴィンセント宝飾店にディルが入っていったのは、エミへ贈る指輪を受け取るためだったらしい。
一瞬の沈黙のあと、妙にすっきりした顔のエミが唐突に声を上げて笑いはじめる。
「ヤバーい! あたし、エリックに言われたこと素直に信じちゃったせいで、超勘違いしてたー!」
「……むっ、第一王子が、私のことについてお前になにか吹きこんだのか?」
一瞬でディルの顔が険しくなる。エミは「あ、ヤベッ」と慌てて口をおさえたものの、もう遅い。
エミは言いにくそうに口をもごもごさせた。
「……怒らないでね?」
「回答によるが、聞こう」
「……実はこの前エリックから、ハクシャクが毎晩どこかに行ってるって教えてもらったの。ハクシャクが浮気してるに決まってるって……。それで、最初は信じてなかったけど、ぜんぜんハクシャクも会いにきてくれないし、だんだん不安になっちゃった」
「私が、浮気!? お前という婚約者がいるのに、そのような馬鹿な真似をするわけがないだろうが! そもそも、他の女にうつつを抜かすほど、私は暇ではない!」
「やっぱり、おこぷんになっちゃった?」
「おこぷんだ! さらに言うならば、激おこぷんぷん丸だ!」
「やーん、激おこぷんぷん丸きちゃー。でも、ハクシャクってイケメンだから絶対モテモテじゃん! 不安にもなっちゃうもん!」
「お前という魅力的な婚約者に夢中なのだ。ほかの女のことなんて、眼中にない!」
思わぬ一言に、エミはぽかんとする。ディルは一気にまくし立てた。
「正直に話すが、ここ最近はずっとお前に会いたくてたまらなかった。仕事中もお前のことを考えてしまい、なかなか集中できなかったほどだ。……愛している人に会えないとは、こんなにも辛いことなのだと、しみじみ実感したのだ。プロポーズが終わったいま、もう我慢することはなにもない。これからは毎日会いに行くから、覚悟しておけ!」
「……~~っ!」
突然の告白に、エミの顔が真っ赤になる。ディルの顔も赤い。らしくもない台詞を吐いてしまった自覚があるらしい。
しばらくぎこちない沈黙が流れたあと、ディルはわざとらしい大きな咳払いをした。
「とにかく、これでわかっただろう! 私はお前のことを、こんなにも愛している。お前が不安になる必要はない。……だから、私のことをもう少し信頼してほしい」
珍しく拗ねたような口調だった。どうやら、浮気を疑われたことがよほど心外だったようだ。エミは勢いよく抱きついた。
「浮気なんて疑ってごめんね。ちゃんと考えれば、ハクシャクがそんなことするわけないってわかるのに……。本当にごめん。イヤな思いしたよね」
「……いや、こちらこそすまなかった。お前が不安になっていると、早いうちに気づくべきだった」
「ぜんぜん! あたしが勝手に不安になっただけだもん!」
「いやしかしだな……」
ふたりはしばらく押し問答したが、やがて同時に吹きだした。
「こら、笑うな。こっちは真面目に言っているのだ」
「ハクシャクだって笑ってるじゃん。あー、マジでウケる。一生忘れられないプロポーズになりそう」
「……我が婚約者よ、せっかくだから指輪をはめてもいいか?」
「うん……♡」
改めて向かい合うと、エミは恥ずかしそうに左手を差し出した。ディルは壊れ物を触るような手つきでエミの華奢な薬指に指輪を通す。指輪のサイズはぴったりだった。
「きゃーっ、この指輪おきゃわすぎる! キラキラしてる! それにしても、なんでこんなにサイズがぴったりなの?」
「先日お前が寝ている間に、こっそり計らせてもらった」
「うそぉ!? ぜんぜん気づかなかった!」
目の前は瓦礫の山で、いまだに焼け焦げた臭いが鼻につく。ディルの服はボロボロで浮浪者同然だし、エミはメイクが崩れて顔面が大変なことになっている。
そんなロマンチックとはほど遠い、どちらかといえば残念なシチュエーションのプロポーズになってしまったものの、ディルもエミも気にしてなどいない。そもそも、ふたりはずっと両思い。シチュエーションがどうであれ、結末はひとつだけである。
「……それで、プロポーズの返事を聞いていないのだが?」
「もちろん、おけまるです♡」
ふたりは微笑みあい、お互い引き寄せられるように口づけを交わした。
急なことに驚いたエミは手足をじたばたさせた。喜んでいるというより、むしろパニックに陥っている。
予想外のエミの反応に、ディルは大いに戸惑った。
「どういうこともなにも、私は今しがた、お前にプロポーズをしたのだが」
「そうだね、プロポーズだね!? わあ、これマジの指輪だぁ……」
エミはしげしげと小箱の中にはいった指輪を見つめ、それからディルを見つめ、その動作を三回繰り返した。明らかに困惑している。
ディルはおそるおそる口を開いた。
「……その、セバスチャンのアドバイス通りのプロポーズをしたのだが、なにか間違っていただろうか? セバスチャンからは、秘密裏に指輪を用意し、ふたりきりのドキドキするするシチュエーションでプロポーズをするよう指導を受けたのだが……」
「へー、このサプライズ、セバスちプロデュースなんだぁ……」
「この指輪も、私自ら夜な夜な首都中のアクセサリーショップを巡り、名匠と名高い銀細工師を抱える宝飾店で何度も打ち合わせを重ね、特注した一品だ。先ほど受け取ったばかりでタイミングも良かった」
「ええーっ!」
その瞬間、エミの頭の中ですべてが繋がった。つまり、首都でなかなか会えなかったのは、ディルが浮気をしていたわけではなく、エミのためにとっておきの指輪を用意していただけだったのだ。そして、ヴィンセント宝飾店にディルが入っていったのは、エミへ贈る指輪を受け取るためだったらしい。
一瞬の沈黙のあと、妙にすっきりした顔のエミが唐突に声を上げて笑いはじめる。
「ヤバーい! あたし、エリックに言われたこと素直に信じちゃったせいで、超勘違いしてたー!」
「……むっ、第一王子が、私のことについてお前になにか吹きこんだのか?」
一瞬でディルの顔が険しくなる。エミは「あ、ヤベッ」と慌てて口をおさえたものの、もう遅い。
エミは言いにくそうに口をもごもごさせた。
「……怒らないでね?」
「回答によるが、聞こう」
「……実はこの前エリックから、ハクシャクが毎晩どこかに行ってるって教えてもらったの。ハクシャクが浮気してるに決まってるって……。それで、最初は信じてなかったけど、ぜんぜんハクシャクも会いにきてくれないし、だんだん不安になっちゃった」
「私が、浮気!? お前という婚約者がいるのに、そのような馬鹿な真似をするわけがないだろうが! そもそも、他の女にうつつを抜かすほど、私は暇ではない!」
「やっぱり、おこぷんになっちゃった?」
「おこぷんだ! さらに言うならば、激おこぷんぷん丸だ!」
「やーん、激おこぷんぷん丸きちゃー。でも、ハクシャクってイケメンだから絶対モテモテじゃん! 不安にもなっちゃうもん!」
「お前という魅力的な婚約者に夢中なのだ。ほかの女のことなんて、眼中にない!」
思わぬ一言に、エミはぽかんとする。ディルは一気にまくし立てた。
「正直に話すが、ここ最近はずっとお前に会いたくてたまらなかった。仕事中もお前のことを考えてしまい、なかなか集中できなかったほどだ。……愛している人に会えないとは、こんなにも辛いことなのだと、しみじみ実感したのだ。プロポーズが終わったいま、もう我慢することはなにもない。これからは毎日会いに行くから、覚悟しておけ!」
「……~~っ!」
突然の告白に、エミの顔が真っ赤になる。ディルの顔も赤い。らしくもない台詞を吐いてしまった自覚があるらしい。
しばらくぎこちない沈黙が流れたあと、ディルはわざとらしい大きな咳払いをした。
「とにかく、これでわかっただろう! 私はお前のことを、こんなにも愛している。お前が不安になる必要はない。……だから、私のことをもう少し信頼してほしい」
珍しく拗ねたような口調だった。どうやら、浮気を疑われたことがよほど心外だったようだ。エミは勢いよく抱きついた。
「浮気なんて疑ってごめんね。ちゃんと考えれば、ハクシャクがそんなことするわけないってわかるのに……。本当にごめん。イヤな思いしたよね」
「……いや、こちらこそすまなかった。お前が不安になっていると、早いうちに気づくべきだった」
「ぜんぜん! あたしが勝手に不安になっただけだもん!」
「いやしかしだな……」
ふたりはしばらく押し問答したが、やがて同時に吹きだした。
「こら、笑うな。こっちは真面目に言っているのだ」
「ハクシャクだって笑ってるじゃん。あー、マジでウケる。一生忘れられないプロポーズになりそう」
「……我が婚約者よ、せっかくだから指輪をはめてもいいか?」
「うん……♡」
改めて向かい合うと、エミは恥ずかしそうに左手を差し出した。ディルは壊れ物を触るような手つきでエミの華奢な薬指に指輪を通す。指輪のサイズはぴったりだった。
「きゃーっ、この指輪おきゃわすぎる! キラキラしてる! それにしても、なんでこんなにサイズがぴったりなの?」
「先日お前が寝ている間に、こっそり計らせてもらった」
「うそぉ!? ぜんぜん気づかなかった!」
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「……それで、プロポーズの返事を聞いていないのだが?」
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ふたりは微笑みあい、お互い引き寄せられるように口づけを交わした。
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