【R18】ギャルは聖女で世界を救う! -王子に婚約破棄されたけど、天才伯爵に溺愛されて幸せなのでおけまるです!-

沖果南

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2章 二人の前途は多難です!

悪女、来る!

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 エリックがエミに意味深な言葉を残して去っていってから数日後のある日の昼下がりのこと、白亜の城の広大な庭園で、ティーパーティーがひらかれた。非公式の会とはいえ、参加している人々はそれなりに着飾っている。それもそのはず、主催者は第二王子の婚約者である聖女サクラだ。
 次期国王の婚約者であるサクラに、今のうちからなんとか気に入られようと、招待された客たちは虎視眈々と目を光らせていた。一見きらびやかな社交界は、水面下でドロドロとした醜い争いが繰り広げられているのだ。
 そんな思惑飛び交うパーティーを尻目に、もう一人の聖女であるエミは庭園の隅っこのベンチでぐったりしていた。

「あー……。疲れた……」

 魂が抜けたようなふにゃふにゃな声で、エミは呟く。
 今日のエミは、いつものエミらしくない格好だった。淡い桃色のドレスに、髪はすっきりと真珠がついたバレッタでまとめている。
 その上、今日は付けまつげも、派手なマニキュアも派手なメイクもしていない。サクラとサクラ専属のメイドたちがエミのメイクを無理やり剥ぎ取り、これまた無理やり一般的なメイク――、エミ流にいえば「ほぼスッピン風メイク」をほどこしたのだ。
 今日のエミは、渋谷にいそうなギャルではなく、サンクトハノーシュ王国によくいるような、楚々とした貴族令嬢然としている。
 それが功を奏したのか、今日のエミはパーティー会場を一歩進むたびに貴族のご令息たちに話しかけられるような状態だった。話しかけてくるご令息たちはみな、エミに好意的で人当たりも申し分ないのだが、いかんせん数が多すぎる。

「話しかけてもらえるのは嬉しいけどさぁ、やっぱ限度があるってゆーか……」
「エミたそ、どうしたの?」

 エミの独り言に、凜とした声が割りこんでくる。エミが振り向くと、心配そうな顔をしたサクラが立っていた。どうやら、エミを心配して駆けつけたらしい。

「サクぴってば、パーティーの主役が抜けちゃっていいの?」
「これくらい平気よ。パーティーで人脈作ることも大事だけど、私にとってはエミたそのほうがもっと大事なの。それより、大丈夫? 体調悪い?」
「ちょっと疲れちゃったから、チルってただけだよぉ♡」

 少しだけぐったりしたエミに、サクラは自慢げに微笑んだ。

「あー、今日のエミたそは注目の的だもんね。やっぱりエミたそのドレスはピンク色にして大正解だったわ。エミたその可憐でかわいらしい感じが引き立ってるもの。アクセサリーもメイクも完璧だし、私ったらプロデューサーとしての才能が芽生えたのかも。このままファッション系の事業にも手を出しちゃおうかしら。また儲かっちゃって困るわぁ!」

 あらたなビジネスチャンスを思いついたらしいサクラは怪しい笑みを浮かべた。エミは苦笑する。

「みんな、本当はサクぴにお近づきになりたくてあたしに接近してる感じじゃん? あたし、そんくらいは気づくよぉ!」
「一部はそうかもしれないけど、そうじゃない人もいるよ。誰か気になった人がいたら、喜んで紹介するからね。今からでもあの冷血伯爵との婚約破棄くらい、私がなんとかしてあげる!」
「あたしはハクシャクにベタ惚れだから間に合ってま~す♡」
「えー、せっかくそこそこの家門のご令息たちを集めたのに! あそこの茶髪の貴公子とかどうかしら? サミュエル様っていうんだけど、首都ですごく人気がある方なの。気さくだし、何より金持ちよ!」

 サクラはにこやかに何人かの貴族のご令息たちをごり押しする。どうやら、このお茶会の本当の目的は、エミの新たな婚約者探しだったらしい。もちろん、エミはディル以外を選ぶ気は毛頭ないのだが。
 サクラのマシンガントークがあらかたおわったところで、エミは話題を変えた。

「サクぴ、そういえばね、魔法の授業のことで相談があるんだぁ。オルコせんせぇから、違う人に変えてもいい?」

 突然のエミからのお願いに、サクラはぎょっとする。
 魔法を学びたいと言うエミに、サクラが魔道士を紹介したのはつい二週間前のことだ。

「えっ、どうしたの? なにか問題があった? 嫌なことでも言われた?」
「ううん、違う違う! 実はね、この前の授業で、オルコせんせぇから『貴女様にはなにも教えることはございません』って言われちゃって。だから、新しい講師の先生を紹介してもらうんだぁ」
「ええーっ! すごい! オルコ・フィラルコ様はこの国で一番の魔道士なのに!」

 二、三回の講義だけで、エミはオルコの魔法を凌駕してしまった。
 そもそも、エミに与えられた魔力の量は段違い。ポテンシャルが高すぎたのだ。「ちょい見てて~」と、エミが鼻歌交じりに無詠唱で高度魔法を展開したとき、オルコは興奮のあまり失神しかけた。
 サクラは嬉しそうに手を叩いた。

「やっぱりエミたそってすごかったのね! サンクトハノーシュ王国内でオルコ様を超える魔道士はいないのよ。そんな人に認められるなんて!」
「へぇ、オルコせんせぇってすごい人なんだね~!」
「当たり前よ! 老オルコの個人レッスンを受けているなんて聞いたら、魔道士たちがみんな嫉妬するわ。とにかく、私だってエミたそにもっとふさわしい新しい先生を探すわ。せっかくだし国外から講師を招こうかしら。北のラウネーン王国とか、意外と魔法研究が進んでるってロイが言ってたわ」
「そういえば、ロイっぺは今日はパーティーに来てないの?」

 エミの一言に、サクラは一瞬苦い顔をした。

「……ちょっとね、城内で怪しい動きがあるみたい。最近はそっちの調査でかかりきりなのよ」
「えー、マジでロイっぺもサクぴも大変なんだねえ。うちのハクシャクもなんか忙しそうだし。あたしもなにか手伝えることがあるといいんだけど……」
「エミたそは存在してくれるだけでいいんだよ! もうこれ以上、エミたそに悲しい思いは絶対させない」

 サクラがそう力強く言い切ったその時、ふいにパーティー会場がざわめいた。サクラとエミが顔をあげると、ド派手なドレスを着た肉感的な美女が、人ごみをかきわけてまっすぐこちらに来ている。

「「……げ」」

 サクラとエミはそろって顔を見合わせた。
 パーティー会場に姿を現したのは、豪奢な服装で着飾った第一王子の婚約者アレキセーヌだった。
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