【R18】ギャルは聖女で世界を救う! -王子に婚約破棄されたけど、天才伯爵に溺愛されて幸せなのでおけまるです!-

沖果南

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2章 二人の前途は多難です!

伯爵、寝る!

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 ディルの地を這うような低い声に、先ほどまで威丈高に振る舞っていたエリックがおびえたように二、三歩後じさりした。相変わらずディルはポーカーフェイスを保っているものの、まとう雰囲気は凍てつく氷のように冷たい。
 エミはエリックの手から開放され、安堵の声を漏らした。そのとたん、全身の力がふわりと抜ける。ふらついたエミを、ディルの手が包み込むようにがっしりとつかんだ。

「ハクシャク、来てくれた……」
「当たり前だ」

 短く答えるディルの額には、大量の玉の汗がにじんでいる。ここまで走って来たらしい。
 急に現れたディルを威嚇するように、エリックは精一杯肩を怒らせた。

「なんでお前がここにいるんだ? 出かけていたはずでは……」
「ロイ王子から殿下が怪しげな動きをしているとの連絡を受けましたため、駆けつけました。まったくドラゴン討伐後にあれほど警告したのに、まだ懲りていなかったのですか」
「……ええい、うるさい、……うるさいッ! お父様に気に入られているからといって、偉そうに振る舞いやがって! 俺が国王になったあかつきには、お前なんて国外追放してやるんだからなっ!」
「どうぞご勝手に。こちらとしても、馬鹿げた雑務に追われずにゆっくりと研究ができるのであれば、よろこんで国外にでもどこにでも行きましょう」

 涼しい顔で答えるディルに、エリックは悔しそうに手足をバタバタさせた。ディルはそれを無視してエミを支えるように腰を回す。
 エリックが激高した。

「お、お前、その女は俺の……」
「貴方のものではない。聖女エミは私の婚約者です。それではこれにて失礼します」

 元婚約者はひっこんでいろ、といわんばかりの態度だ。エリックが怒りで顔を真っ赤にする。

「おい、俺の話はまだ終わってない!」
「私の婚約者と話がどうしてもしたいのであれば、今後は私を通すように」
「おい、エミ! さっきも言ったが、俺にはとっておきの秘策があるんだ。この男の手を取るのであれば、そのチャンスはないと……」
「聖女よ、このような戯れ言、聞く必要はない」

 厳格な口調でそう言って、ディルはエミの部屋のドアを開けた。そして、エミと自身の身体をドアの隙間に滑り込ませると、目にもとまらぬ早さでガチャンと扉を閉める。そして、最後に鍵までかけた。
 不意打ちのようなかたちで締め出されてしまったエリックが、何度か乱暴に扉が叩いた。ディルはそれを完全に無視する。しばらくエリックは扉の前で何か叫んでいたが、しばらく放っておくと、足音荒く去って行った。
 エミはおろおろとディルを見上げる。

「あのね、ハクシャク、一応さっき話してたヒトはこの国の王子様なんだけど……」
「そんなもの、知らん」

 あっさりそれだけ言うと、ディルは大きなため息をついて、それからエミの細い身体を抱きしめた。エミが驚いて目を見開く。

「ふぁっ……!?」
「すまない、しばらくこのままでいさせてくれ。ここまで走って来て汗臭いかもしれないが」
「ええっ、いいよ! 汗臭いとか思わないし、どんどん抱きしめてほしいっ♡」
「私の婚約者が可愛すぎる……。はあ、間に合ってよかった。あの男に触られたのだけは、どうも許しがたいが」
「あっ、えっと……ごめんなさい?」
「謝るな。お前がなにも悪くないのは知っている」

 ディルは愛おしそうにエミの金髪に頬を寄せる。

「……理由はわからないのだが、こうしてお前を抱きしめていると、胸の中がふわっとする」
「えーっと、ふわっと?」
「そうだ。なんだか、これまで感じたことのない気分になるのだ。それでいて、胸の中がそわそわする感じもする……。心拍数も無駄に上がる。いや、別に不快ではないのだが」

 ディルはエミの耳元で、大きくため息をついた。エミはくすぐったそうに身をよじる。さきほど頬にエリックの吐息を感じたときは、とにかく不快だったはずなのに。

「……ハクシャク、助けてくれてありがとう」
「うむ」

 部屋は静かで、ふたり分の鼓動だけが部屋に響いている錯覚すら覚えるほどだった。
 しばらくされるがままだったエミは、意を決したように広い背中に手を回すと、頭をぐりぐりとディルの胸に押しつけた。

「ハクシャクの腕の中って安心する~。やっぱりハクシャクが世界でいちばん好きピだよ♡」
「……そうか」
「うんっ♡ 本当に会いたかったんだよ。会いに来てくれてうれしいな」

 エミがはしゃいだ声でそう告げると、抱きしめたときと同じくらい唐突に、ディルは身体を離した。エミはポカン、とした顔をする。

「あれ、おしまい? どうしたの?」
「……お前が魅力的すぎて、困る。これ以上はダメだ。我慢ができなくなる」
「なんの我慢~? あたしとしては、べつにハクシャクになら、なにされてもおけまるなんですけどぉ?」
「また、そういうことを言う……っ」

 刹那、エミの視点が反転した。エミは驚いて目をぱちくりさせる。一拍おいて、どうやらディルにベッドに押し倒されたらしいと気づいた。ワンテンポ遅れてエミはと顔を赤くする。

「あっ、そーゆー我慢……」
「それ以外なにがある」

 エミに覆い被さったディルは短く答えると、頬や鼻先に触れるだけの口づけを落とす。ディルの手が、優しくエミの頬をなでた。宝物をそっと触るような大きな手に、エミは頬を寄せる。
 どちらからともなく唇を重ね、ふたりは角度を変えながら何度もキスをした。エミが口を少しだけ開けると、それを待っていたようにディルの長い舌がぬるりと潜りこんでくる。

「ふあっ……」

 舌の先をなぞられ、水音をたてて吸い上げられる。エミの背中にゾクゾクとした甘やかな電流が走り、無意識に腰がびくりと跳ねた。先ほどまで頬をなでていた手は、いつの間にか背中に回され、エミを捉えて逃がさない。
 ディルの舌は器用にエミの腔内を探り、濡れた音をたてながら内側から揺さぶった。身体の奥から、じわじわとじれったい熱が広がる。
 どちらのものかわからない唾液が、エミの口の端からとろりと垂れた。それを、ディルはベロリと舐めあげる。

「ん……、ハクシャク……」

 とろんとした目でエミがディルを見つめたその瞬間、ディルは急にへたりと倒れ込んだ。ディルの身体の下敷きになったエミが悲鳴をあげる。

「うわーっ、ハクシャク!? どうしたの!?」
「すまない……。眠い……」
「ええーっ!」

 よりにもよってこのタイミングである。

「五分だけで……いい……」
「わー、いくらでも寝てもいいから、ちょっと寝るのタンマ! まって、重いよーっ!」

 鍛えていない割にはそこそこ筋肉もあり、平均より身長が高いディルは、かなり重いのだ。全体重をかけてのしかかられては、小柄なエミはひとたまりもない。
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