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1章 謎の聖女は最強です!
伯爵、睨む!
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ディルは最後の騎士が去っていったのを見送り、嘆息した。
「ここまでやれば、私の力添えがなくともなんとかなるだろう。――ということで、私と私の婚約者はこれにて失敬させてもらう」
ディルはふわりとエミの肩を抱くと、さっさと踵を返してもと来た道を戻りはじめた。別れの挨拶もひどく適当だ。
エミはびっくりした顔をしてディルを見上げる。
「は、ハクシャク……」
「ここにこれ以上いる必要はない。ガシュバイフェンへ帰るぞ」
「でも、ハクシャクはここにとどまったほうが、良いんじゃ……」
「そうかもしれないな。しかし、これ以上ここにいると、首都の滞在期間が長くなる。それだけはごめんだ。国王に見つかる前にさっさと去るぞ」
ディルはあっさり答え、さらに歩みを速めた。エミはとりあえずディルと一緒に進むしかない。ディルのゴツゴツした大きな手が、エミの小さな手をぎゅっと握りしめているため、従わざるをえないのだ。
城の長い廊下にさしかかったころ、後から追ってきたエリックが呼び止める。
「おい、待て! 止まれよ、止まれったら! 勝手に帰るなんて許さないからな! 今回の件の処罰が決まるまで、お前たちは監獄にとじこめ、へぶっ」
長い廊下のど真ん中で急に立ち止まったディルの広い背中に、エリックは派手に激突して尻もちをついた。ベタン、と情けない音が廊下に響く。
ディルはため息をついて振り返り、エミを守るように仁王立ちすると、大理石の床にへたりこむ第一王子を睥睨した。
「ドラゴンの討伐は成功したはず。そんな我々を、どんな罪で監獄にいれるのいうのです?」
「……そ、それは」
「不当な理由で投獄することは、例え王族でも許されないはず。もう一度聞きますが、どういった罪で、我々を監獄にいれると?」
ディルの目がエリックを射抜く。冴え渡る冬の空のような色の瞳は、どこまでも鋭く、見るものを震え上がらせる威圧感があった。
「これ以上、私の婚約者を侮辱することは許さない」
いつもは表情の読めない顔をしているディルだが、エリックを睨みつける彼の目には静かな憤怒が揺らめいていた。エリックは情けなく口をパクパクさせる。
ディルは冷たい一瞥をくれると、今度こそエミを連れだって去っていく。やがて転移魔法の詠唱が白亜の城に響き渡り、ガシュバイフェンの領主ディル・K・ソーオンと、聖女エミは来たときと同じくらい唐突に首都を去っていった。
エリックは悪態をつきながら床を叩く。
「こ、こんなの、俺は想定してないぞ……っ」
彼が元婚約者の聖女エミをディル・K・ソーオンに押し付けたのは、ただの思い付きだった。
首都から遠い領地に彼女を追いやれるのであれば、元婚約者を押し付ける相手なんて誰でも良かったのだ。最近立て続けに婚約破棄された男、という噂を聞いて、エリックはあえてディルを選んだ。「冷血伯爵」などというあだ名も良かった。冷血などと称される男が、聖女を大事にするわけがないのだから。
そう、聖女エミがエリックとの婚約破棄を後悔するような酷い男であればあるほど、エリックにとって都合が良かった。
「あの生意気な聖女が俺に『もう一度婚約してください』と泣きながらすがってくれば、妾にでもしてやる予定だったのに、クソ、ディル・K・ソーオンめっ! 絶対に、絶対に俺を敵に回したこと、後悔させてやるんだからなっ……」
誰もいない白亜の城の廊下で、エリックはディルに一泡吹かせてやろうと強く心に決めたのだった。
それと時を同じくして、城壁の上で、同じように強い決意をした人物がいた。聖女サクラである。
彼女はしばらく黒い髪をなびかせて、サンクトハノーシュ王国を見下ろしていた。彼女の胸の中には、親友をまたも守り切れなかった後悔と自責の念が胸の中に渦巻いていた。
サクラは静かに何かを考えたあと、おもむろに朝日に向かって宣言した。
「……あの馬鹿王子、なにがなんでもぶっ潰す」
サクラを見守っていたロイが、肩をすくめてふっと微笑んだ。
「ここまでやれば、私の力添えがなくともなんとかなるだろう。――ということで、私と私の婚約者はこれにて失敬させてもらう」
ディルはふわりとエミの肩を抱くと、さっさと踵を返してもと来た道を戻りはじめた。別れの挨拶もひどく適当だ。
エミはびっくりした顔をしてディルを見上げる。
「は、ハクシャク……」
「ここにこれ以上いる必要はない。ガシュバイフェンへ帰るぞ」
「でも、ハクシャクはここにとどまったほうが、良いんじゃ……」
「そうかもしれないな。しかし、これ以上ここにいると、首都の滞在期間が長くなる。それだけはごめんだ。国王に見つかる前にさっさと去るぞ」
ディルはあっさり答え、さらに歩みを速めた。エミはとりあえずディルと一緒に進むしかない。ディルのゴツゴツした大きな手が、エミの小さな手をぎゅっと握りしめているため、従わざるをえないのだ。
城の長い廊下にさしかかったころ、後から追ってきたエリックが呼び止める。
「おい、待て! 止まれよ、止まれったら! 勝手に帰るなんて許さないからな! 今回の件の処罰が決まるまで、お前たちは監獄にとじこめ、へぶっ」
長い廊下のど真ん中で急に立ち止まったディルの広い背中に、エリックは派手に激突して尻もちをついた。ベタン、と情けない音が廊下に響く。
ディルはため息をついて振り返り、エミを守るように仁王立ちすると、大理石の床にへたりこむ第一王子を睥睨した。
「ドラゴンの討伐は成功したはず。そんな我々を、どんな罪で監獄にいれるのいうのです?」
「……そ、それは」
「不当な理由で投獄することは、例え王族でも許されないはず。もう一度聞きますが、どういった罪で、我々を監獄にいれると?」
ディルの目がエリックを射抜く。冴え渡る冬の空のような色の瞳は、どこまでも鋭く、見るものを震え上がらせる威圧感があった。
「これ以上、私の婚約者を侮辱することは許さない」
いつもは表情の読めない顔をしているディルだが、エリックを睨みつける彼の目には静かな憤怒が揺らめいていた。エリックは情けなく口をパクパクさせる。
ディルは冷たい一瞥をくれると、今度こそエミを連れだって去っていく。やがて転移魔法の詠唱が白亜の城に響き渡り、ガシュバイフェンの領主ディル・K・ソーオンと、聖女エミは来たときと同じくらい唐突に首都を去っていった。
エリックは悪態をつきながら床を叩く。
「こ、こんなの、俺は想定してないぞ……っ」
彼が元婚約者の聖女エミをディル・K・ソーオンに押し付けたのは、ただの思い付きだった。
首都から遠い領地に彼女を追いやれるのであれば、元婚約者を押し付ける相手なんて誰でも良かったのだ。最近立て続けに婚約破棄された男、という噂を聞いて、エリックはあえてディルを選んだ。「冷血伯爵」などというあだ名も良かった。冷血などと称される男が、聖女を大事にするわけがないのだから。
そう、聖女エミがエリックとの婚約破棄を後悔するような酷い男であればあるほど、エリックにとって都合が良かった。
「あの生意気な聖女が俺に『もう一度婚約してください』と泣きながらすがってくれば、妾にでもしてやる予定だったのに、クソ、ディル・K・ソーオンめっ! 絶対に、絶対に俺を敵に回したこと、後悔させてやるんだからなっ……」
誰もいない白亜の城の廊下で、エリックはディルに一泡吹かせてやろうと強く心に決めたのだった。
それと時を同じくして、城壁の上で、同じように強い決意をした人物がいた。聖女サクラである。
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サクラは静かに何かを考えたあと、おもむろに朝日に向かって宣言した。
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