【R18】ギャルは聖女で世界を救う! -王子に婚約破棄されたけど、天才伯爵に溺愛されて幸せなのでおけまるです!-

沖果南

文字の大きさ
上 下
20 / 61
1章 謎の聖女は最強です!

聖女、決意する!

しおりを挟む
 部屋に帰ったエミは、いつも通りの夜を過ごした。

 お気に入りの部屋着に着替えた後、メイドたちと他愛のないお喋りをしながら夕食をたいらげ、しばらく雑談をしてから、お気に入りの香油を一滴だけたらした風呂に入る。

 いつも通りの穏やかな夜だ。

 ただ一つ変わったことといえば、エミの表情だった。にこやかではあるものの、時々何かを思い悩んでいるような暗い表情がよぎる。
 メイドたちはしきりに心配したものの、エミは「疲れてるのかなあ」と笑ってごまかした。

「ねえねえ、メアちん。ハクシャクって、夜遅くに出発するって言ってたよね?」

 ベッドを整えていたメアリーに、エミが尋ねたのは、メイドたちが部屋に下がってしばらく経ってからだった。部屋に残っていたのはメイド長のメアリーだけだ。
 エミは長い爪にド派手なピンク色のマニキュアを塗り終わって、手をひらひらさせている。その表情は、いつもよりも暗い。

 質問の意図はつかめなかったものの、メアリーはとりあえず頷いた。

「ええ、伯爵様はそのようにおっしゃっていましたね。しかし、見送りは不要とのことでしたから、エミ様はお休みになってくださいな」
「うーん……。なんか眠気がどっかいっちゃった。ハクシャク、大丈夫かなあ……。ドラゴンって、パねえ強さなんでしょ? だって伝説のドラゴンってハクシャク言ってたじゃん」
「確かに、この地方に伝わる伝承があります。なんでも、初代の聖女様がドラゴンを封印したのだとかなんとか」

 「聖女」という単語を聞き、エミの目線がさまよう。エミの動揺に気づいたメアリーは、慌てて言葉をつないだ。

「大丈夫ですよ! うちの伯爵様はああ見えて優秀な方ですから。エミ様は、ここで伯爵様のお帰りを待てばよいのです」
「でも、あたしは聖女だから……」
「エミ様は確かに聖女様であられますでしょう。でも、私はエミ様に危険な目に遭ってほしくありませんわ。さあさあ、この話はおしまいです! もう寝る時間ですわ。ベッドの準備ができましたよ」

 あまり気乗りのしない様子のエミを、メアリーは無理やりふかふかのベッドに連れていく。

「よく寝られるようにホットミルクはいかがでしょうか? それとも……」
「ねえ、メアちん。ちょっとだけ質問なんだけど……」
「はいはい、なんでしょうか? 私が答えられる質問であれば、よろこんで答えましょう」

 メアリーはエミの隣に腰かける。エミは少し悩んだあと、おそるおそる口を開いた。

「あたしがもしけっこうヤバめな秘密を隠してたら、ハクシャクってイヤかな? その秘密を知ったら、多分ハクシャクがあたしをキラいになるかも系の秘密……」

 エミはベッドの上で膝を抱え、不安そうに俯いた。

「もちろん、あたし的にはハクシャクに絶対キラわれたくないけど、秘密をバラしちゃったほうがみんなのために良い気がしてて……。どうしよう……、的な……」

 エミの眼に涙が溜まっていく。メアリーは目を見開いた。「秘密」が具体的になにを指すかは分からない。しかし、エミが真剣に思い悩んでいるらしいことくらい容易に察しがつく。

 メアリーはエミのほっそりとした肩をぎゅっと抱く。

「まあまあ、なんていじらしいんでしょう。私も、遠い昔にそのようなことで悩んだことがありましたわ。あの時は、私も純真無垢な乙女でしたねえ……」
「メアちんも、悩んでた?」
「ええ。人は誰しも一つや二つくらい、誰にも知られたくない秘密を持っているものです」
「そういうもんなの?」
「そういうものなのですよ。……でもね、取り繕っても、秘密なんて遅かれ早かれ隠し通せなくなります。夫婦になるなら、なおさら」
「確かに、隠し通す自信がまったくないかも……」

 根が正直者のエミは、考えていることがすぐに顔にでてしまうため、嘘をついたり人を欺いたりすることが苦手だった。彼女自身、それをよく心得ているらしい。

 メアリーはここぞとばかりにビシっと人差し指を立てる。

「人生の大先輩として僭越ながらアドバイスさせていただきますが、良い夫婦は隠し事はしないものなのですよ。エミ様も伯爵様に隠し事をされたらおいやでしょう?」
「イヤ、かも……」
「それと同じで、エミ様がなにか重大な隠し事をされていると知ったら、伯爵様はきっと傷つくと思いますよ」
「それはヤダ!」

 エミは慌ててぶんぶんと首をふる。その素直な反応に、メアリーは目を細めた。

「それならば、秘密を打ち明けてしまってもよろしいのではないでしょうか。断言しますが、どんな秘密を打ち明けても伯爵様は絶対に受け入れてくださいますよ。こんなに素直で愛らしいエミ様を嫌いになるはずがありません!」
「や~~ん、マジで言ってる? 照れるぅ……」

 エミは恥ずかしそうに両手を頬にあてて、ベッドに寝転がった。メアリーは「もちろんですよ」と頷きながら、エミにブランケットをかけた。

「よっしゃ、なんかイケる気がしてきた。メアちんに悩みを聞いてもらってよかった! 神アドバイスありがと♡」
「それはようございました。さあ、そろそろお休みくださいませ」
「はぁい、おやすみンゴ!」
「はい、良い夢を」

 メアリーは折り目正しく頭を下げて、ランプの灯を消すと、にこやかに退出する。
 この時のメアリーは知るよしもない。このアドバイスが、エミの突拍子もない行動の引き金になってしまうことを。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉。祝、サレ妻コミカライズ化
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

5分前契約した没落令嬢は、辺境伯の花嫁暮らしを楽しむうちに大国の皇帝の妻になる

西野歌夏
恋愛
 ロザーラ・アリーシャ・エヴルーは、美しい顔と妖艶な体を誇る没落令嬢であった。お家の窮状は深刻だ。そこに半年前に陛下から連絡があってー  私の本当の人生は大陸を横断して、辺境の伯爵家に嫁ぐところから始まる。ただ、その前に最初の契約について語らなければならない。没落令嬢のロザーラには、秘密があった。陛下との契約の背景には、秘密の契約が存在した。やがて、ロザーラは花嫁となりながらも、大国ジークベインリードハルトの皇帝選抜に巻き込まれ、陰謀と暗号にまみれた旅路を駆け抜けることになる。

猫被り令嬢の恋愛結婚

玉響
恋愛
侯爵家の令嬢であるリリアーナ・グロッシは、婚約者であるブラマーニ公爵家の嫡男ジュストが大嫌いで仕方がなかった。 紳士的で穏やかな仮面を被りながら、陰でリリアーナを貶め、罵倒し、支配しようとする最低な男。 ジュストと婚約してからというもの、リリアーナは婚約解消を目標に、何とかジュストの仕打ちに耐えていた。 そんなリリアーナの密かな楽しみは、巷で人気の恋物語を読む事。 現実とは違う、心がときめくような恋物語はリリアーナの心を慰めてくれる癒やしだった。 特にお気に入りの物語のヒロインによく似た国王の婚約者である女侯爵と、とあるきっかけから仲良くなるが、その出会いがリリアーナの運命を大きく変えていくことになり………。 ※『冷遇側妃の幸せな結婚』のスピンオフ作品となっていますが、本作単品でもお楽しみ頂けると思います。 ※サイコパスが登場しますので、苦手な方はご注意下さい。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...