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1章 謎の聖女は最強です!
聖女、決意する!
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部屋に帰ったエミは、いつも通りの夜を過ごした。
お気に入りの部屋着に着替えた後、メイドたちと他愛のないお喋りをしながら夕食をたいらげ、しばらく雑談をしてから、お気に入りの香油を一滴だけたらした風呂に入る。
いつも通りの穏やかな夜だ。
ただ一つ変わったことといえば、エミの表情だった。にこやかではあるものの、時々何かを思い悩んでいるような暗い表情がよぎる。
メイドたちはしきりに心配したものの、エミは「疲れてるのかなあ」と笑ってごまかした。
「ねえねえ、メアちん。ハクシャクって、夜遅くに出発するって言ってたよね?」
ベッドを整えていたメアリーに、エミが尋ねたのは、メイドたちが部屋に下がってしばらく経ってからだった。部屋に残っていたのはメイド長のメアリーだけだ。
エミは長い爪にド派手なピンク色のマニキュアを塗り終わって、手をひらひらさせている。その表情は、いつもよりも暗い。
質問の意図はつかめなかったものの、メアリーはとりあえず頷いた。
「ええ、伯爵様はそのようにおっしゃっていましたね。しかし、見送りは不要とのことでしたから、エミ様はお休みになってくださいな」
「うーん……。なんか眠気がどっかいっちゃった。ハクシャク、大丈夫かなあ……。ドラゴンって、パねえ強さなんでしょ? だって伝説のドラゴンってハクシャク言ってたじゃん」
「確かに、この地方に伝わる伝承があります。なんでも、初代の聖女様がドラゴンを封印したのだとかなんとか」
「聖女」という単語を聞き、エミの目線がさまよう。エミの動揺に気づいたメアリーは、慌てて言葉をつないだ。
「大丈夫ですよ! うちの伯爵様はああ見えて優秀な方ですから。エミ様は、ここで伯爵様のお帰りを待てばよいのです」
「でも、あたしは聖女だから……」
「エミ様は確かに聖女様であられますでしょう。でも、私はエミ様に危険な目に遭ってほしくありませんわ。さあさあ、この話はおしまいです! もう寝る時間ですわ。ベッドの準備ができましたよ」
あまり気乗りのしない様子のエミを、メアリーは無理やりふかふかのベッドに連れていく。
「よく寝られるようにホットミルクはいかがでしょうか? それとも……」
「ねえ、メアちん。ちょっとだけ質問なんだけど……」
「はいはい、なんでしょうか? 私が答えられる質問であれば、よろこんで答えましょう」
メアリーはエミの隣に腰かける。エミは少し悩んだあと、おそるおそる口を開いた。
「あたしがもしけっこうヤバめな秘密を隠してたら、ハクシャクってイヤかな? その秘密を知ったら、多分ハクシャクがあたしをキラいになるかも系の秘密……」
エミはベッドの上で膝を抱え、不安そうに俯いた。
「もちろん、あたし的にはハクシャクに絶対キラわれたくないけど、秘密をバラしちゃったほうがみんなのために良い気がしてて……。どうしよう……、的な……」
エミの眼に涙が溜まっていく。メアリーは目を見開いた。「秘密」が具体的になにを指すかは分からない。しかし、エミが真剣に思い悩んでいるらしいことくらい容易に察しがつく。
メアリーはエミのほっそりとした肩をぎゅっと抱く。
「まあまあ、なんていじらしいんでしょう。私も、遠い昔にそのようなことで悩んだことがありましたわ。あの時は、私も純真無垢な乙女でしたねえ……」
「メアちんも、悩んでた?」
「ええ。人は誰しも一つや二つくらい、誰にも知られたくない秘密を持っているものです」
「そういうもんなの?」
「そういうものなのですよ。……でもね、取り繕っても、秘密なんて遅かれ早かれ隠し通せなくなります。夫婦になるなら、なおさら」
「確かに、隠し通す自信がまったくないかも……」
根が正直者のエミは、考えていることがすぐに顔にでてしまうため、嘘をついたり人を欺いたりすることが苦手だった。彼女自身、それをよく心得ているらしい。
メアリーはここぞとばかりにビシっと人差し指を立てる。
「人生の大先輩として僭越ながらアドバイスさせていただきますが、良い夫婦は隠し事はしないものなのですよ。エミ様も伯爵様に隠し事をされたらおいやでしょう?」
「イヤ、かも……」
「それと同じで、エミ様がなにか重大な隠し事をされていると知ったら、伯爵様はきっと傷つくと思いますよ」
「それはヤダ!」
エミは慌ててぶんぶんと首をふる。その素直な反応に、メアリーは目を細めた。
「それならば、秘密を打ち明けてしまってもよろしいのではないでしょうか。断言しますが、どんな秘密を打ち明けても伯爵様は絶対に受け入れてくださいますよ。こんなに素直で愛らしいエミ様を嫌いになるはずがありません!」
「や~~ん、マジで言ってる? 照れるぅ……」
エミは恥ずかしそうに両手を頬にあてて、ベッドに寝転がった。メアリーは「もちろんですよ」と頷きながら、エミにブランケットをかけた。
「よっしゃ、なんかイケる気がしてきた。メアちんに悩みを聞いてもらってよかった! 神アドバイスありがと♡」
「それはようございました。さあ、そろそろお休みくださいませ」
「はぁい、おやすみンゴ!」
「はい、良い夢を」
メアリーは折り目正しく頭を下げて、ランプの灯を消すと、にこやかに退出する。
この時のメアリーは知るよしもない。このアドバイスが、エミの突拍子もない行動の引き金になってしまうことを。
お気に入りの部屋着に着替えた後、メイドたちと他愛のないお喋りをしながら夕食をたいらげ、しばらく雑談をしてから、お気に入りの香油を一滴だけたらした風呂に入る。
いつも通りの穏やかな夜だ。
ただ一つ変わったことといえば、エミの表情だった。にこやかではあるものの、時々何かを思い悩んでいるような暗い表情がよぎる。
メイドたちはしきりに心配したものの、エミは「疲れてるのかなあ」と笑ってごまかした。
「ねえねえ、メアちん。ハクシャクって、夜遅くに出発するって言ってたよね?」
ベッドを整えていたメアリーに、エミが尋ねたのは、メイドたちが部屋に下がってしばらく経ってからだった。部屋に残っていたのはメイド長のメアリーだけだ。
エミは長い爪にド派手なピンク色のマニキュアを塗り終わって、手をひらひらさせている。その表情は、いつもよりも暗い。
質問の意図はつかめなかったものの、メアリーはとりあえず頷いた。
「ええ、伯爵様はそのようにおっしゃっていましたね。しかし、見送りは不要とのことでしたから、エミ様はお休みになってくださいな」
「うーん……。なんか眠気がどっかいっちゃった。ハクシャク、大丈夫かなあ……。ドラゴンって、パねえ強さなんでしょ? だって伝説のドラゴンってハクシャク言ってたじゃん」
「確かに、この地方に伝わる伝承があります。なんでも、初代の聖女様がドラゴンを封印したのだとかなんとか」
「聖女」という単語を聞き、エミの目線がさまよう。エミの動揺に気づいたメアリーは、慌てて言葉をつないだ。
「大丈夫ですよ! うちの伯爵様はああ見えて優秀な方ですから。エミ様は、ここで伯爵様のお帰りを待てばよいのです」
「でも、あたしは聖女だから……」
「エミ様は確かに聖女様であられますでしょう。でも、私はエミ様に危険な目に遭ってほしくありませんわ。さあさあ、この話はおしまいです! もう寝る時間ですわ。ベッドの準備ができましたよ」
あまり気乗りのしない様子のエミを、メアリーは無理やりふかふかのベッドに連れていく。
「よく寝られるようにホットミルクはいかがでしょうか? それとも……」
「ねえ、メアちん。ちょっとだけ質問なんだけど……」
「はいはい、なんでしょうか? 私が答えられる質問であれば、よろこんで答えましょう」
メアリーはエミの隣に腰かける。エミは少し悩んだあと、おそるおそる口を開いた。
「あたしがもしけっこうヤバめな秘密を隠してたら、ハクシャクってイヤかな? その秘密を知ったら、多分ハクシャクがあたしをキラいになるかも系の秘密……」
エミはベッドの上で膝を抱え、不安そうに俯いた。
「もちろん、あたし的にはハクシャクに絶対キラわれたくないけど、秘密をバラしちゃったほうがみんなのために良い気がしてて……。どうしよう……、的な……」
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「まあまあ、なんていじらしいんでしょう。私も、遠い昔にそのようなことで悩んだことがありましたわ。あの時は、私も純真無垢な乙女でしたねえ……」
「メアちんも、悩んでた?」
「ええ。人は誰しも一つや二つくらい、誰にも知られたくない秘密を持っているものです」
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「そういうものなのですよ。……でもね、取り繕っても、秘密なんて遅かれ早かれ隠し通せなくなります。夫婦になるなら、なおさら」
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「それはヤダ!」
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