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1章 謎の聖女は最強です!
聖女、来る!
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「ディル様、くれぐれも粗相のないようにお願いしますよ」
お節介とわかりつつも、セバスチャンはおどおどしながらディルに声をかけた。ディルはやはり1ページたりとも進まない本から目を離さず、「わかっている」とそっけなく返事をした。
「急に第一王子から『婚約者として聖女を推薦する』と連絡がきた時は驚いたが、こちらにとっても花嫁を下賜されるのは都合がいい。邪険には扱わぬつもりだ」
「都合がいい、というあたりはなかなかに最低な発言ですが、大まかにはその心意気です!」
「……………」
「……オッホン。しかしまあ、おかしな話ですな。聖女エミ様は第一王子の婚約者になると発表されたのはつい最近だった気がするのですが……。それが急に辺境伯であるディル様に嫁げと命令が下り、王都からこんな辺境の土地に送られるなんて……。これではまるで島流しのような扱い……」
迂闊なことを口にしたと気づいたセバスチャンはハッとした顔をして口をつぐんだ。しかし、ディルは特にそれを咎めることをせず、鷹揚に頷いた。
「第一王子の元婚約者がこちらに送られてくる理由は分からない。しかし、どうせくだらない理由だ。王族(アイツら)とは、ことごとくどうしようもない馬鹿ばかりだからな」
「主様、おっしゃっていることがあまりに不敬にございますよ! もし誰かが聞いていたら……」
「フン。いっそ不敬罪で爵位を剥奪してくれれば助かるのだがな。そうすれば、私は日々迫りくる業務とやたらと面倒な慣習とやらに煩わされることはなく、思いっきり自分の研究に専念できるのだが……」
ことあるごとに爵位を返還し、引きこもりたいと口にする変わり者の主人を前に、セバスチャンは困った顔をすることしかできなかった。
(まったく、今回はいったいどうなることやら。屋敷で働く者たちも、あまり気が進んでいる様子ではないし……)
主人の婚約者を迎えるにしては、この屋敷の空気はずいぶん寒々しいものだった。
この屋敷の召使いたちの間では、すでに「聖女エミが何日目に婚約破棄したいと言いだすか」という話題で持ちきりだ。国を救った聖女だか何だか知らないが、彼女だってどうせすぐに冷血伯爵に愛想を尽かして出て行ってしまうのだろうと、召使全員が高を括っている。
かわいそうなことに、聖女エミは今のところ誰にも積極的に歓迎されていない。
(いや、せめてこのセバスチャンだけでも、聖女様には誠心誠意お仕えしよう……)
セバスチャンはうっすら胃が痛くなってきたのを無視して、チラリと懐中時計を見た。タイミングよく、時計の針はそろそろ約束の時間に近づいていることを告げている。
「主様、聖女エミ様が転移魔法でこちらに来られるお時間の30分前となります。裏の森の広場に到着する予定ですから、お出迎えに行きませんと。もしかしたら、早めにお着きになるかもしれませんし……」
「……そうだな」
硬い顔をしたディルが立ち上がった、その時――……
「チチチーッス!」
ノックもなく、バーンと勢いよく重厚なドアが開いた。
「だ、誰だ! ノックもなく私の部屋に入ってきたのは!」
ディルの整った眉毛が神経質に跳ね上がり、セバスチャンの顔が一瞬で凍りつく。
しかし、二人の反応にまったく臆することなくディルの静かな書斎にズカズカと入ってきたのは、健康的と評するには若干こんがりとやきすぎた肌の、やたらと派手な女だった。
目立つ金色の髪はツインテールにされ、モリモリと盛ったつけまつ毛に縁どられた目はキラキラと輝いている。凶器になりそうなほどに長いつけ爪は、オーロラ色に光っていた。教会から支給されたのであろうシスター服を纏った身体は健康的に引き締まっていて、改造したらしい短いスカートからのぞく足はすらりとしている。
「どうも、聖女で~す! ギャルだよ~~! あたしのことは、エミたそって呼んでね、ダーリン♥ よろよろ~~♡」
聖女エミは、満面の笑みを浮かべて、ビシっとピースを決める。
ダーリンと呼ばれたディルのまとう空気の温度が速やかに急降下するのを感じたセバスチャンは、すうっと気が遠くなるのを感じた。誠心誠意仕えるのは、少し難しいかもしれない。
お節介とわかりつつも、セバスチャンはおどおどしながらディルに声をかけた。ディルはやはり1ページたりとも進まない本から目を離さず、「わかっている」とそっけなく返事をした。
「急に第一王子から『婚約者として聖女を推薦する』と連絡がきた時は驚いたが、こちらにとっても花嫁を下賜されるのは都合がいい。邪険には扱わぬつもりだ」
「都合がいい、というあたりはなかなかに最低な発言ですが、大まかにはその心意気です!」
「……………」
「……オッホン。しかしまあ、おかしな話ですな。聖女エミ様は第一王子の婚約者になると発表されたのはつい最近だった気がするのですが……。それが急に辺境伯であるディル様に嫁げと命令が下り、王都からこんな辺境の土地に送られるなんて……。これではまるで島流しのような扱い……」
迂闊なことを口にしたと気づいたセバスチャンはハッとした顔をして口をつぐんだ。しかし、ディルは特にそれを咎めることをせず、鷹揚に頷いた。
「第一王子の元婚約者がこちらに送られてくる理由は分からない。しかし、どうせくだらない理由だ。王族(アイツら)とは、ことごとくどうしようもない馬鹿ばかりだからな」
「主様、おっしゃっていることがあまりに不敬にございますよ! もし誰かが聞いていたら……」
「フン。いっそ不敬罪で爵位を剥奪してくれれば助かるのだがな。そうすれば、私は日々迫りくる業務とやたらと面倒な慣習とやらに煩わされることはなく、思いっきり自分の研究に専念できるのだが……」
ことあるごとに爵位を返還し、引きこもりたいと口にする変わり者の主人を前に、セバスチャンは困った顔をすることしかできなかった。
(まったく、今回はいったいどうなることやら。屋敷で働く者たちも、あまり気が進んでいる様子ではないし……)
主人の婚約者を迎えるにしては、この屋敷の空気はずいぶん寒々しいものだった。
この屋敷の召使いたちの間では、すでに「聖女エミが何日目に婚約破棄したいと言いだすか」という話題で持ちきりだ。国を救った聖女だか何だか知らないが、彼女だってどうせすぐに冷血伯爵に愛想を尽かして出て行ってしまうのだろうと、召使全員が高を括っている。
かわいそうなことに、聖女エミは今のところ誰にも積極的に歓迎されていない。
(いや、せめてこのセバスチャンだけでも、聖女様には誠心誠意お仕えしよう……)
セバスチャンはうっすら胃が痛くなってきたのを無視して、チラリと懐中時計を見た。タイミングよく、時計の針はそろそろ約束の時間に近づいていることを告げている。
「主様、聖女エミ様が転移魔法でこちらに来られるお時間の30分前となります。裏の森の広場に到着する予定ですから、お出迎えに行きませんと。もしかしたら、早めにお着きになるかもしれませんし……」
「……そうだな」
硬い顔をしたディルが立ち上がった、その時――……
「チチチーッス!」
ノックもなく、バーンと勢いよく重厚なドアが開いた。
「だ、誰だ! ノックもなく私の部屋に入ってきたのは!」
ディルの整った眉毛が神経質に跳ね上がり、セバスチャンの顔が一瞬で凍りつく。
しかし、二人の反応にまったく臆することなくディルの静かな書斎にズカズカと入ってきたのは、健康的と評するには若干こんがりとやきすぎた肌の、やたらと派手な女だった。
目立つ金色の髪はツインテールにされ、モリモリと盛ったつけまつ毛に縁どられた目はキラキラと輝いている。凶器になりそうなほどに長いつけ爪は、オーロラ色に光っていた。教会から支給されたのであろうシスター服を纏った身体は健康的に引き締まっていて、改造したらしい短いスカートからのぞく足はすらりとしている。
「どうも、聖女で~す! ギャルだよ~~! あたしのことは、エミたそって呼んでね、ダーリン♥ よろよろ~~♡」
聖女エミは、満面の笑みを浮かべて、ビシっとピースを決める。
ダーリンと呼ばれたディルのまとう空気の温度が速やかに急降下するのを感じたセバスチャンは、すうっと気が遠くなるのを感じた。誠心誠意仕えるのは、少し難しいかもしれない。
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