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羞恥心を捨てて
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カレンは相変わらず、にこやかにウォーレンの頭を撫でている。
「もしアナタに飼い主が見つからなければ、この城で飼ってあげたいけれど……。陛下は、ワンちゃんはお嫌いかしら。あの方は、いつもしかめ面で動物すべてに興味がなさそうだけど……」
――そ、そんなことはないぞ! 犬は好きだ!
ウォーレンは反論しようと思ったが、やはり口から出るのは「くーん!」という可愛らしい鳴き声だけだ。どこまでも無力である。
「あらあら、なにかしら? なにか言いたいの?」
カレンはウォーレンに目線をあわせた。犬の姿になったウォーレンを見る美しい瞳は、どこまでも優しい。本当に犬が好きなのだろう。
カレンがこんなにも犬好きだと、ウォーレンは知らなかった。
結婚して三年も経つというのに、お互い知らないことが多すぎる。年上である自分が歩みよるべきだと分かっていたのに、忙しさを言い訳にして、ウォーレンはカレンから眼を背け続けた。
――こうやってふたりで時間を過ごすことすら、この二年まともにできなかった。改めて向き合うと、カレンはさらに美しく成長したな。いや、昔から抜きん出て美しい娘だったが……。
ウォーレンがじっとカレンを見つめると、カレンは「なにかしら」と、眼を細めて小首をかしげた。よく手入れされたプラチナブロンドの髪が、肩口からさらさらと落ちる。ウォーレンはソワソワと落ち着かない気分になった。
――美しいカレンを前にすると、いつもの俺はどうしても素直に話ができない。しかし、犬の姿であれば、それも若干マシ……。このウォーレン三世、せっかくのチャンスを無駄にはしないッ!
無駄にキリッとした顔をしたウォーレンは、ふいにもたらされたひとときをとりあえずは存分に楽しむことにした。たとえ偽りの姿であっても、カレンが自分に向けている笑顔は本物なのだから。
ウォーレンは意を決して地面にごろりと寝転がると、カレンに腹を見せた。皇帝としての尊厳はゼロである。人間の姿なら絶対にできないが、この際カレンの笑顔が優先だ。
ウォーレンの見込み通り、カレンは目を輝かせた。
「まあ! これは俗に言う、ヘソ天というやつですわよね? ワンちゃんがこの上ないリラックスモードのときに見せるという……っ!」
後光さえ見えるほどの極上の笑顔で、カレンはウォーレンの腹を撫ではじめる。
――よしよし、カレンは喜んでいるな? 騙しているようで良心は痛むが、こうやってカレンの色々な表情を見られるのは、好ましいことだ。
ウォーレンの複雑な胸中はいざ知らず、カレンは夢中で犬の姿のウォーレンを愛でつづける。
「白くてフワフワで、とってもかわいいワンちゃんでちゅね。いいこ、いいこ……」
カレンの長い指がピンとたった耳の根元をクシュクシュと撫でると、ウォーレンの身体になにやらえもいわれぬ快感が体中に広がる。眼がトロンとしてきたウォーレンはブルブルと頭を振った。
――ああっ、なんだなんだこの気持ちは……! 動けぬぅ……!
このままだとぐっすり寝てしまいそうだ。
「あら、ワンちゃんはおねむなのかしら? ほら、お膝の上においで」
そう言って、カレンは優しく白いモフモフたるウォーレンの頭を膝の上にのせると、首に手を回してぎゅっと抱きしめる。
――ウワーッ、カレンに抱きしめられた!
驚いたウォーレンは、すっかり可愛らしくなってしまった前脚をパタパタとうごかす。眠気は一気に吹き飛んだ。
カレンは首あたりのふわふわの毛に顔をうずめ、クスクスと笑う。
「なぜか、懐かしい匂いがするわ。すごく大好きで、とっても落ち着く匂い。アナタはイヤかもしれないけど、このまましばらく抱っこさせてちょうだいな」
うららかな日差しのもとで、カレンはウォーレンをより一層強く抱きしめる。
「もしアナタに飼い主が見つからなければ、この城で飼ってあげたいけれど……。陛下は、ワンちゃんはお嫌いかしら。あの方は、いつもしかめ面で動物すべてに興味がなさそうだけど……」
――そ、そんなことはないぞ! 犬は好きだ!
ウォーレンは反論しようと思ったが、やはり口から出るのは「くーん!」という可愛らしい鳴き声だけだ。どこまでも無力である。
「あらあら、なにかしら? なにか言いたいの?」
カレンはウォーレンに目線をあわせた。犬の姿になったウォーレンを見る美しい瞳は、どこまでも優しい。本当に犬が好きなのだろう。
カレンがこんなにも犬好きだと、ウォーレンは知らなかった。
結婚して三年も経つというのに、お互い知らないことが多すぎる。年上である自分が歩みよるべきだと分かっていたのに、忙しさを言い訳にして、ウォーレンはカレンから眼を背け続けた。
――こうやってふたりで時間を過ごすことすら、この二年まともにできなかった。改めて向き合うと、カレンはさらに美しく成長したな。いや、昔から抜きん出て美しい娘だったが……。
ウォーレンがじっとカレンを見つめると、カレンは「なにかしら」と、眼を細めて小首をかしげた。よく手入れされたプラチナブロンドの髪が、肩口からさらさらと落ちる。ウォーレンはソワソワと落ち着かない気分になった。
――美しいカレンを前にすると、いつもの俺はどうしても素直に話ができない。しかし、犬の姿であれば、それも若干マシ……。このウォーレン三世、せっかくのチャンスを無駄にはしないッ!
無駄にキリッとした顔をしたウォーレンは、ふいにもたらされたひとときをとりあえずは存分に楽しむことにした。たとえ偽りの姿であっても、カレンが自分に向けている笑顔は本物なのだから。
ウォーレンは意を決して地面にごろりと寝転がると、カレンに腹を見せた。皇帝としての尊厳はゼロである。人間の姿なら絶対にできないが、この際カレンの笑顔が優先だ。
ウォーレンの見込み通り、カレンは目を輝かせた。
「まあ! これは俗に言う、ヘソ天というやつですわよね? ワンちゃんがこの上ないリラックスモードのときに見せるという……っ!」
後光さえ見えるほどの極上の笑顔で、カレンはウォーレンの腹を撫ではじめる。
――よしよし、カレンは喜んでいるな? 騙しているようで良心は痛むが、こうやってカレンの色々な表情を見られるのは、好ましいことだ。
ウォーレンの複雑な胸中はいざ知らず、カレンは夢中で犬の姿のウォーレンを愛でつづける。
「白くてフワフワで、とってもかわいいワンちゃんでちゅね。いいこ、いいこ……」
カレンの長い指がピンとたった耳の根元をクシュクシュと撫でると、ウォーレンの身体になにやらえもいわれぬ快感が体中に広がる。眼がトロンとしてきたウォーレンはブルブルと頭を振った。
――ああっ、なんだなんだこの気持ちは……! 動けぬぅ……!
このままだとぐっすり寝てしまいそうだ。
「あら、ワンちゃんはおねむなのかしら? ほら、お膝の上においで」
そう言って、カレンは優しく白いモフモフたるウォーレンの頭を膝の上にのせると、首に手を回してぎゅっと抱きしめる。
――ウワーッ、カレンに抱きしめられた!
驚いたウォーレンは、すっかり可愛らしくなってしまった前脚をパタパタとうごかす。眠気は一気に吹き飛んだ。
カレンは首あたりのふわふわの毛に顔をうずめ、クスクスと笑う。
「なぜか、懐かしい匂いがするわ。すごく大好きで、とっても落ち着く匂い。アナタはイヤかもしれないけど、このまましばらく抱っこさせてちょうだいな」
うららかな日差しのもとで、カレンはウォーレンをより一層強く抱きしめる。
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