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番外編

恋とはどういうものかしら ※レオナルド視点 (1)

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 爽やかな風が吹く王宮の広い庭には、キラヤ王国の国花である薔薇が咲き乱れていた。時はまさに、社交シーズン。国じゅうの貴族が王都に集まり、夜会やお茶会、ダンスパーティーがあちらこちらで開催される、華やかで忙しない季節だ。
 今日もまた、王宮では王族主催のお茶会が春の庭を望む広間で開かれている。白いクロスのかかったテーブルには、軽食とスイーツが並び、貴族たちがそれを囲むように談笑していた。
 国王夫妻も参加する会ということもあり、貴族たちは美しく着飾っており、デビュタントしたての初々しい令嬢たちの姿もちらほらと見える。
 そんな煌びやかな雰囲気から少し離れた広間の一角のテーブルに、ひときわ人目をひく二人組の男がいた。二人は天鵞絨張りのソファに座り、向かい合って優雅に紅茶を飲んでいる。

「まあ、見て! 第二王子のレオナルド様と、ローデ家のイライアス様よ!」
「お二人が並ぶと、太陽と月のよう。なんて素敵なのかしら!」

 令嬢たちは、遠巻きに二人を眺めながら、うっとりとした表情でささやき合う。
 その視線の先にいるのは、この国の第二王子レオナルドと、ローデ伯爵家の嫡男のイライアス・ローデだった。
 二人は、それぞれタイプの異なる美形だ。輝くプラチナブロンドの髪と甘いヘーゼル色の瞳のレオナルドは、華やかな印象を与える。それに対して、イライアスはつややかな黒髪に、群青色の瞳をした、冷たい印象を与える男だ。
 二人はともに15歳で、婚約者もいない。こうなると、若い令嬢たちの注目も自然と集まるというものだ。
 うっとりとした表情で噂する令嬢たちの視線に気づいたのか、レオナルドがちらりとそちらを見て、ふっと微笑んだ。
 
「きゃあっ!? レオナルド様がこっちを見てくださったわ!?」
 
 令嬢たちは、黄色い声をあげる。そんな令嬢たちに、レオナルドは軽く手を振る。第二王子たるもの、多少のファンサービスはお手の物だ。
 そんな様子を眺めていたイライアスは、呆れたようにため息をついた。
 
「……相変わらずだな」
「王子として、これくらいはしないとな。お前も多少は愛想を振りまいておけよ。今日集まっている貴族たちは、それなりに各所に影響力がある。あまり無愛想だとローデ伯爵家の品格を疑われるぞ」
「面倒なことになるから、遠慮しておく」
 
 レオナルドに忠告されたイライアスは、心底どうでもよさそうに答えた。確かに、普段は無表情なイライアスが笑顔一つでも向けてやろうもんなら、勘違いしてしまう令嬢が続出するに違いない。
 彼が纏うすっきりとした濃紺のタキシードは、15歳にしてはやけに大人びた顔立ちのイライアスによく似合っていた。さすが、社交界きっての美男子と噂される男だ。同性のレオナルドですら、感心してしまう。彼自身も、若い頃は絶世の美女として名を馳せた母の血を色濃くひく、華やかな顔立ちをしていると自負しているが、イライアスには到底敵わない。
 しかしながら、今はのんきに美形の友人を観察している場合ではない。
 レオナルドは身を乗り出して、かねてから気になっていたことを訊ねた。

「おい、イライアス。風の噂で聞いた話によると、お前というやつは書記官の内定を蹴ったらしいじゃないか」

 イライアスが内定を辞退したらしい王宮の書記官というポジションは、いわばこの国の出世コースの第一歩。書記官の内定を蹴ったということは、つまり貴族としての出世をあきらめたということと同義だ。
 まさかそんな馬鹿なことはしていないだろうとレオナルドは半ば疑いつつも問うたのだが、予想に反してイライアスはあっさり首肯した。
 
「ああ、事実だ」
「はぁ!? お前、正気か?」
「第一騎士団の入団テストを受けるつもりだ。父からの了承も得ている」

 第一騎士団は、キラヤ王国の騎士団の中でもとりわけエリートたちが集う騎士団だ。老若男女問わず、腕が立つ者だけが、その門戸をたたくことを許される。しかし、そうは言っても騎士になるのは貴族の次男や三男、もしくは貧乏貴族がつく職業だと相場が決まっている。
 イライアスは建国以来キラヤ王国の要職を担ってきた名門ローデ家の嫡男であり、ゆくゆくはローデ伯爵となり、この国の要職に就くことが生まれながらに決まっているような男だ。当然、騎士団に入るような立場ではない。
 レオナルドは恨みがましい目でじとりとイライアスを見つめた。
 
「お前の父親の了承なんて、信用できるか。ローデ伯は田舎の療養病棟に入ってからほとんど意識がないらしいじゃないか」
「ノーコメントだ」
「親不孝者め。お前の父親のローデ伯は、将来的に第二王子である俺を補佐できるように、俺の遊び相手にとイライアスを推薦したんだぞ。俺だって、お前はいつか役に立つと思ってそばにおいてやったのに!」
「俺が騎士団に行けば、いつか必ずお前の役に立つと誓う」
「その『いつか』っていつだよ! クソ、事前に相談してくれれば、あらゆる手を使って全力で止めたのに」

 第二王子という立場はとにかく面倒くさい。あまりに有能であれば次期国王である第一王子に危険人物とみなされて殺される可能性がある。しかし、王族の一員である以上、無能であることは許されない。
 そんな微妙な立場であるレオナルドを、イライアスはよく支えてくれた。無口で、ぺらぺらしゃべらないのもいい。イライアスの父であるローデ伯爵はあらゆる手を使って権力を意のままにした抜け目のない男だったが、イライアスは真逆で、権力への執着も薄く、人を出し抜こうとする狡猾さなどもかけらも持ち合わせていない。
 イライアスは第二王子であるレオナルドの右腕としてこれ以上ない駒だ。
 その上、イライアスは異常に剣の腕が立った。幼少期のイライアスは、第一騎士団にいた伝説の騎士ウォグホーン子爵に剣の指導を受けていたらしい。その才は、成長とともに開花し、今ではイライアスとの剣の手合わせで勝てる貴族令息は一人もいない。

(ん、待てよ。ウォグホーン子爵家と言えば、俺たちとおない年の娘がいたような……。たしか、イライアスの幼なじみとかいう……)
 
 そこまで考えたところで、レオナルドは急にピンとくる。

「ははーん、お前が騎士団に入りたい理由は、例のジェシカ嬢か。伝説の騎士、ジェイス・ウォグホーンの娘だ。そういえば、彼女は俺たちと同じ15歳で、第一騎士団の入団資格もあるもんな」
「……ッ」
 
 その瞬間、イライアスのすました顔が真っ赤になった。
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