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本編

潤む身体を満たして R (2)

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(えっ、なに!?)

 おかしいと思った時には、加速度的に身体の熱が上がっていた。心臓がありえない速さで拍動しはじめ、指の先までじんじんと痺れていく。イライアスが触れたところが蕩けるように熱く、少し身じろぎするだけでも声が漏れそうになった。明らかにおかしい。
 ドレスの裾をぎゅっと握りかけたものの、変に皺を作ってしまいそうで、ジェシカは両手を彷徨わせる。

「イライアス、ダメ。……そうやったら、皺ができちゃう、から」
「それは、脱がせてほしいということか?」
「違っ……」
 
 次は首筋を吸われて、ちりりとした痛みを伴った快感が全身を走る。思わず身をすくめると、ドレスの背中のファスナーを下ろされた。露わになった背中を指の腹で撫でられれば、肌が粟立つ。どこもかしこも触れられているだけなのに、頭の奥が痺れるほどに感じてしまう。

「ん……、あっ……」
「今日はやけに反応がいいな。」
「やぁ……んっ」
 
 イライアスの唇が首筋から鎖骨までをゆっくりと辿ると、自然と腰が浮いてしまう。
 身体の奥で熾火のように燻っていた欲が、再び燃え上がりつつあることに、ジェシカは気づいた。やはり、明らかにおかしい。心当たりは一つしかない。

「これ……っ、媚薬を飲まされたから……っ」

 潤んだ瞳で息も絶え絶えにそう訴えたジェシカに、イライアスは眉を顰めた。
 
「媚薬を? どういうことだ」
「オリヴェルさんに渡されたリンゴ酒を飲んだら、急に身体が熱くなって……。あれはユークリスト産のダイナミクスの欲を促進する薬だったって……」

 おそらく、この部屋に来るまでは気が張っていたため、媚薬の効果も身体がだるいと感じる程度で何とか抑えられていたのだろう。しかし、イライアスからのコマンドで気が緩んでしまい、媚薬の効果が一気に噴出したようだ。
 イライアスの顔が強張り、その目が怒りで燃え盛った。
 
「だからジェシカはあの卑劣なDomのコマンドに従っていたのか。クソ、迂闊だった!」

 怒りを露わにしたイライアスは、舌打ちしながら抱いていたジェシカをベッドの上に降ろし、立ち上がる。
 
「イライアス、どこいくの?」
「ちょっと待ってろ。解毒剤を買ってくる。確か、腕の良い薬師が近くにいたはずだから、煎じてもらって――」
「待って!」
 
 シャツの裾をぎゅっと掴んだジェシカに、イライアスは眉根を寄せる。
 
「どうした、早くしないとジェシカは苦しいだろう」
「もうほとんど、効果が切れてると思う。だから、いかないで」
「しかし……」
「イライアス、お願い」

 ジェシカは欲に濡れた瞳で、イライアスを見上げる。
 一度火照りだした身体は、なかなか冷めない。緊迫した状況で無理やり抑えつけられていた分、反動が大きかった。一人でここに残されると思うと、どういうわけか不安で仕方なくなる。
 それに、今すぐにイライアスの熱を身体に埋めてほしかった。そうでもしなければ、心細さに溺れてしまいそうだ。
 ジェシカの訴えに、イライアスは小さく喉を鳴らし、言葉に詰まったような顔をする。そして、逡巡の後、ゆっくりとベッドの縁に座った。

「媚薬の効果は、ある程度欲を発散すればすれば消えると聞く」
「そう、なの?」
「ああ。だが、俺が優しくしてやれる自信がない」
 
 こちらをじっと見るイライアスの目は、欲望を湛えて濡れていた。
 イライアスの手が、ジェシカの頬を撫で上げる。その感覚に、背筋がぞくぞくと震えた。もっと撫でてほしい。頬だけではなく、もっとたくさん。
 ジェシカはイライアスの胸の中に飛び込んだ。

「イライアスなら、何でも大丈夫、だから……」
「そうやって、Domを煽りすぎると、いつか酷い目に遭うからな!」

 何かを堪えるような顔でイライアスは言うが、ジェシカを触る手は限りなく優しい。
 イライアスは意を決した顔をして、ジェシカに命令した。

「“キスして”」

 ジェシカは、膝立ちになって命じられた通りおずおずとイライアスの唇にキスをする。ジェシカの触れるようなキスを眼を閉じて味わったイライアスは、その小さな唇を割り開いて、熱い舌を忍び込ませた。
 
「ん……っ」
 
 舌を絡めて吸われ、歯列をなぞられる。あまりの悦楽に、ジェシカの腰が砕けそうになる。
 
「ふ、ん……っ、ぅ、んぁ……っ」

 ジェシカはイライアスの首に腕を回した。支えるように腰に手が回り、もっと密着するように抱き寄せられる。ジェシカの腰がぴくんと震えた。キスだけで、これほどまでに快感に溺れてしまう。
 いつの間にかイライアスによって肩紐が落とされ、胸元が露わになっていた。背中に回った手が器用にドレスの留め具を外したところで、イライアスはようやくジェシカの唇を解放する。ジェシカの息は上がり、頬は薔薇色に紅潮していた。
 そんなジェシカを、イライアスもまた頬を赤くしてじっと見ている。幼い頃から好きだった、群青色の瞳。今、その双眸は狂おしいほどの熱を孕んで自分を見つめている。

「“脱いで”」
「……っ」
 
 ジェシカは溢れてくる唾をコクリと飲んだ。イライアスがボタンやコルセットの紐を全て外してくれていたため、簡単に脱ぐことができる。
 ジェシカは羞恥で震える手で、ゆっくりとドレスとコルセットを脱いだ。
 お互いのすべてはすでに曝け出しているはずなのに、未だに傷だらけの身体を見られるのは気が引けてしまう。それでもイライアスに素肌を見せられるのは、彼がジェシカの身体を見ても、失望したり馬鹿にしたりすることなく、ただただ綺麗だと讃えてくれたからだ。
 下着まではらりと床に落とすと、ジェシカはようやく小さな息をついた。イライアスはジェシカをいたわるように抱きしめる。

「よくできました。……すごく、綺麗だ。本当に。夢の中でジェシカを何度も抱いたが、あの時の俺にジェシカは想像した以上に美しいと知らせてやりたい」
「イライアスも、脱いで……」
「そうだな。ジェシカだけ脱ぐのは、フェアじゃない」
 
 そう言ってシャツのボタンを外したイライアスは、誰もが見惚れてしまうほどに美しく鍛えられた身体を露わにした。その下半身にはとっくに熱が籠っており、ジェシカは思わず目を逸らしてしまう。
 そんな初心うぶなジェシカの反応を見たイライアスは、喉の奥で笑う。

「目を逸らすな。何度か見ただろう」
「だって……。前より、おっきい……」
「当たり前だ。恋人になって、毎日でも抱く気でいたのに、仕事のせいで何日も君を抱けなかったんだ。だから今は、早くジェシカのナカに入りたくて仕方ない」

 あけすけに願望を吐露しながら、イライアスはそっとジェシカの控えめだが形の良い双丘に手を伸ばした。胸の稜線をまろやかに撫でられると、ジェシカの身体がぴくりと跳ねる。

「あっ、あ……」
 
 媚薬に冒された身体は、いとも簡単に快感を拾ってくる。ジェシカの胸の頂も、勝手にぷっくらと色づき、膨らみはじめていた。胸を触られているのに、不思議と腰の奥に快感が溜まっていく。
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