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本編

不慣れなパーティー (4)

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(こういう時って、私もご挨拶に行った方がいいのかしら? イライアスにちゃんと王宮でのパーティーのマナーを聞いておけばよかったわ……)
 
 どうしようかとソワソワしていると、ふいに隣に立つオリヴェルがジェシカの手をぎゅっと握った。ジェシカは驚いてオリヴェルを見上げる。

「えっ、なに……」
「ジェシカ、今日の装いはとても美しい。貴女は磨けば光る人だと思っていましたが、予想以上だ。このドレスは、貴女の凛とした美しさをよく引き立てていますね。騎士であるジェシカも素敵ですが、この格好も魅力的です」
「やだ、褒め過ぎですよ!」
「そんなことはありません。どんな言葉でも、貴方の美しさを全て現すことはできない。初めに会った時からずっと、貴女は神話に出てくる戦いの女神イダルシアのように美しい人だと思っていました」
「女神だなんて……」
「正式に申し込みますが、私のパートナーになっていただけませんか。美しい貴女のすべてがほしい」

 ジェシカは驚いて手を口に当てた。金猫亭でパートナーになってほしいと言われたのは覚えていたものの、こんなに短期間で再び告白されるとは全く思っていなかった。
 それだけ真剣に考えてくれているのだと伝わってきて光栄に思ったものの、やはりここは頷くわけにはいかない。 

「すみません。私にはパートナーのイライアスがいますので……」
「何故? 彼とは次のパートナーを見つけるまでの仮初の関係だったはず」
「確かに、前はそうでした。でも、色々あって今は両想いになったんです」

 ジェシカはさりげなく握られたオリヴェルの手を解き、ニコリと微笑む。
 
「オリヴェルさんにはたくさん話を聞いてもらって、本当に助かりました。また、何かあれば相談に乗ってもらえると――」
「……それ以上は、聞く必要はなさそうですね」

 その瞬間、空気が強く揺れた。ジェシカの身体がビクリと震える。グレアだ。しかも、オリヴェルから放たれたものらしい。

「えっ……」

 ジェシカの身体が小刻みに震えだす。イライアスのグレアほど強いものではないのに、足がすくんで動けない。目の前の優しそうな笑みを浮かべていた相手が、急に怖くなった。いつも穏やかな笑みを浮かべているオリヴェルが、今ばかりは違う人間のようだ。
 オリヴェルがゆっくりと近づいてくる。その目に宿る光が恐ろしい。なんとか後退りしたものの、すぐに背中が壁に当たってしまう。
 Subとしての本能が今すぐにでも目の前の屈服して、縋りつきたいと叫んでいる。その反面、ジェシカの誇り高い騎士としての気概が、オリヴェルに従わされるのを拒んでいた。
 ジェシカは小刻みに震えている手を胸の前で握りしめた。何とか自分を保とうと、必死に奥歯を食いしばる。
 そんなジェシカを、オリヴェルは腹の底の見えない微笑みを浮かべたまま、じっと見つめた。

「まったく、私は貴女を自分のモノにすると決めているんです。勝手に他のDomを選ぶなんて、困りますよ」
「い、いや……っ」
「Subの貴女に拒否権があるとでも? ジェシカ、“私の言うことを聞きなさい”」

 その瞬間、ジェシカの頭の中が真っ白になった。オリヴェルのコマンドで、身体中がピリピリと痺れ、足元がふらついた。明らかにおかしいと思っていても、手足がいうことを聞かない。冷たい水が流し込まれたかのように、身体じゅうが重くて冷たくて、気持ち悪い。
 いいようもない不快感が、ジェシカの心を蝕んだ。怖くてたまらない。
 オリヴェルはわざとらしく驚いた顔をして、ふらついたジェシカを支える。その瞬間、耳元でまたコマンドが囁かれた。

「“歩きなさい”」

 オリヴェルのコマンドで、勝手に身体が動く。ジェシカはオリヴェルに連れられてよろよろとパーティー会場を出る。傍目から見れば、体調の悪いジェシカをオリヴェルが助けているように見えるだろう。

(卑怯だわ。抵抗したいのに、セーフワードを決めてないから拒み切れない……っ)

 エントランスにすでに停めてあった馬車に無理やりジェシカを乗せ、オリヴェルは優しく命令した。

「“眠りなさい”」
「……ッ!」

 その瞬間、視界がどんどんと狭まり、何も見えなくなっていく。強烈な眠気に、ジェシカは必死で抗った。しかし、オリヴェルのコマンドは強固にジェシカを縛る。
 助けを呼ぼうにも、もう遅い。
 ジェシカはついに意識を手放し、オリヴェルの腕の中に倒れこんだ。
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