【R18】女騎士は冷徹幼馴染の溺愛コマンドに屈しない! -Dom/Subユニバース-

沖果南

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本編

臆病な騎士は誰? (2)

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「やっぱり検診は三日に一回にするわ」
「うそ、なんで!?」
「そういうことは早く言いなさいよ! DomもSubもダイナミクスは定期的に発散しなさいって言ったでしょ! プレイをしない約束をしたってどういうこと!?」

 ハンナに気迫に気圧され、ジェシカはしどろもどろに一から事情を説明する。ジェシカが話を進めるごとに、ハンナの眉間の皺が深くなっていった。
 すべてを聞き終わったハンナは、大きなため息をつく。

「なるほどね。ジェシカはイライアス様をこれ以上好きになりたくなくて、距離を置いたんだ」

 ジェシカは顔を真っ赤にした。イライアスへの想いは、ぼかして伝えたはずなのに、全て見抜かれている。黙っていると、ハンナは「そうでしょ?」と首を傾げてジェシカを見た。親友であるハンナの賢そうな瞳に見つめられると、自分の考えが全て読まれているような気分になるから不思議だ。
 一瞬取り繕おうかとも考えたが、ジェシカはついに観念して、煤けた靴先を見ながら頷いた。

「……これ以上、イライアスの負担にはなりたくなかったの。イライアスは私が幼なじみだからパートナーになってくれただけなのに、私が好きだって言われたら、きっと困っちゃうと思う」
「そんなことないわよ!」
「ううん、絶対そう。貴族にとって、結婚とダイナミクスのパートナーは違うっていうのも、分かってる。でも、私は無理。イライアスが私以外の誰かと結婚したら、きっと嫉妬しちゃって、イライアスの幸せを祈れなくなっちゃう。そんなの、絶対ダメ」

 好きならば、どんな時だって相手の幸せを祈るべきだ。それなのに、イライアスが他の人と恋に落ちたらと想像すると、ジェシカは彼の幸せを願う自分が想像できない。自分にこんな醜悪な一面があると思っていなかった。

(本当に、私ったらどうしちゃったの……?)

 Subになり、イライアスとパートナーになってから、自分の中の何かがどんどん変わって変わっていくようで怖かった。きっかけを与えたのは、全部イライアスだ。今まで見て見ぬふりをしてきた自分の弱さを拾い上げ、それでもいいと褒めてくれた。コンプレックスに思っていた傷だらけの身体も、まるごと愛してくれた。
 イライアスの一挙一動に、心がざわめき、一緒にいたいと願ってしまう。理性が蕩け、身体が勝手に彼を求める。あの優しい笑顔が、ずっと自分だけに向けられればいいのにと思ってしまう。
 
「イライアスには、ずっと片思いしている人がいるらしいの」

 ジェシカの言葉に、ハンナは目を瞬かせた。
 
「イライアス様の、片思いの人……?」
「そう。イライアスは、その人のことをずっと好きだったって。きっと、素敵な人なんだと思う……。相手は誰なのかは、教えてもらってないけど」

 ジェシカは自嘲気味に笑う。
 幼なじみのくせに、ジェシカはイライアスのことを何にも知らない。口にするとその事実を改めて突きつけられた気がして、無性に泣きたくなる。
 ジェシカが黙って俯いていると、ハンナは盛大にため息をつく。それは先ほどとは違う種類のため息だった。
 さすがに呆れられているのかと思ったが、顔を上げた瞬間、ハンナが母親のような優しい笑顔を浮かべていることにジェシカは気づいた。
 
「どうして笑うの?」
「私の大事な親友がこんなに悩んでいるのに、こういうことを言うのは不謹慎かもしれないけど、ジェシカってやっぱり可愛いなって思ったのよ。ジェシカは本当にいい子だけど、肝心なところで鈍感なのよね。そういうところが放っておけないんだけど」

 そういうと、ハンナはジェシカに思いっきり抱きしめる。ジェシカは困惑の表情を浮かべた。親友がなにを言っているのか、さっぱりわからない。
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