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本編
オリヴェルの依頼 (2)
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「いえ、食べ方がきれいだなと思って……。ジェシカ嬢が真の貴族である証拠ですね。着飾ったら、きっと社交界の華だろうに」
「そんなことないですよ。貴族令嬢の皆さんはちゃんとスキンケアに気をつかってるらしいですが、私なんていつも青あざと傷だらけですから!」
「謙遜しないでください。ジェシカ嬢は美しく、素晴らしい人です」
掛け値なしの称賛に、ジェシカは顔を赤らめた。
「ありがとうございます。うれしいです。……あの、オリヴェル様のほうが年上なんですから、ジェシカ嬢なんて呼び方しなくてもいいですよ。気軽にジェシカと呼んでください」
「では、そうさせてもらいますよ。……ジェシカ」
小首をかしげてオリヴェルはジェシカの名前を呼ぶ。恋人を呼ぶような優しい響きに、思わずジェシカはドキリとした。オリヴェルのような美形の優男にこうして名前を呼ばれるだけで、くらっとしてしまう。
「うっ、なんか、オリヴェル様ってモテそうですよね。Domだし、かっこいいし、こんなオシャレなお店知ってるし」
「そうですかね? そんなこと言うのは、ジェシカだけかもしれません」
「ほら、そうやって誤魔化す感じとか、絶対女の子の扱いに慣れてる! 社交界じゃさぞかしチヤホヤされてるでしょう」
「そこらへんのNormalやSubの女たちなんて、ゴミと同じです。どうでもいいですよ」
さらりと発せられた言葉の冷たさに、ジェシカはゾワリとする。
(ご、ゴミと同じって……)
特に訂正もせず、冗談だとも言わないため、本気で言っているらしい。
優しいオリヴェルの意外な一面にジェシカが戸惑っていると、オリヴェルが目を細めた。
「ジェシカは本当に良いSubですね。健やかで、明るくて、一緒にいるとこの世界が美しくて良いものであるとさえ思ってしまう」
「あ、ありがとうございます……」
オリヴェルの言葉に、心が揺さぶられる。褒められて、Subとしての本能が歓喜していた。一週間プレイをしなくても平気だとは思っていたものの、心のどこかではSubの本能が満たされたいと願っていたようだ。心の奥にふわりと熱が灯り、ジェシカは一瞬陶然としてしまう。
そんなジェシカに、オリヴェルは少しだけ眉を下げた。
「しかし、残念な点が一つだけあります」
そう言われた瞬間、温かかった心の温度が急に下がる。心臓が嫌な音をたてた。
「ざ、残念な点ですか……? 人として、未熟なところがあるとは思いますが」
「人としての話ではなく、Subとしての問題の話です。ジェシカはSubとして、Domに完全に服従する喜びを知らないのが、実にもったいない。ちゃんとジェシカは、Subとして上手に躾けてあげればもっと魅力的になるでしょう」
「完全に服従する、喜び……? それは、どんなSubだって嫌だと思いますけど」
いくらSubでも、各々に意思がある。Domがどんなに完璧であっても、完全に服従するのは無理だ。
しかし、オリヴェルは首を振った。
「いいえ、そんなはずはない。Domの力の前にひれ伏すことこそが、Subの喜びなんです。どんなに強いSubも、結局はDomに屈服することで幸せを感じる」
「そ、そんなことはないと思いますけど……」
「おや、イライアス・ローデとはお遊びのようなプレイしかやったことがないみたいだ」
からかうような表情をした後、オリヴェルの視線が急に粘着質なものになる。
「支配してあげたい。純真なあなたの、全てを」
Subとしての本能なのか、Domであるオリヴェルから、ジェシカは目が離せない。
「ああ、いい子ですね」
伸ばされた手が頭に触れたその瞬間、ジェシカは身体を震わせた。イライアスに褒められた時とまるで違う。冷たい手で心臓を触られたような感覚になる。
気付いた時には、ジェシカは弾かれたように立ち上がっていた。
「い、行きましょうか!」
「……ええ、そうですね」
オリヴェルは頷き、相変わらず腹の底が見えない優しい微笑みを浮かべたまま、立ち上がる。
午後からオリヴェルの仕事にジェシカはついて回った。グラセスはのんびりとした街で、治安もいい。護衛の仕事でこの街に来ているのに、観光しているようだ。忍びない気持ちになりながらも、グラセスでの時間はあっという間に過ぎた。
「そんなことないですよ。貴族令嬢の皆さんはちゃんとスキンケアに気をつかってるらしいですが、私なんていつも青あざと傷だらけですから!」
「謙遜しないでください。ジェシカ嬢は美しく、素晴らしい人です」
掛け値なしの称賛に、ジェシカは顔を赤らめた。
「ありがとうございます。うれしいです。……あの、オリヴェル様のほうが年上なんですから、ジェシカ嬢なんて呼び方しなくてもいいですよ。気軽にジェシカと呼んでください」
「では、そうさせてもらいますよ。……ジェシカ」
小首をかしげてオリヴェルはジェシカの名前を呼ぶ。恋人を呼ぶような優しい響きに、思わずジェシカはドキリとした。オリヴェルのような美形の優男にこうして名前を呼ばれるだけで、くらっとしてしまう。
「うっ、なんか、オリヴェル様ってモテそうですよね。Domだし、かっこいいし、こんなオシャレなお店知ってるし」
「そうですかね? そんなこと言うのは、ジェシカだけかもしれません」
「ほら、そうやって誤魔化す感じとか、絶対女の子の扱いに慣れてる! 社交界じゃさぞかしチヤホヤされてるでしょう」
「そこらへんのNormalやSubの女たちなんて、ゴミと同じです。どうでもいいですよ」
さらりと発せられた言葉の冷たさに、ジェシカはゾワリとする。
(ご、ゴミと同じって……)
特に訂正もせず、冗談だとも言わないため、本気で言っているらしい。
優しいオリヴェルの意外な一面にジェシカが戸惑っていると、オリヴェルが目を細めた。
「ジェシカは本当に良いSubですね。健やかで、明るくて、一緒にいるとこの世界が美しくて良いものであるとさえ思ってしまう」
「あ、ありがとうございます……」
オリヴェルの言葉に、心が揺さぶられる。褒められて、Subとしての本能が歓喜していた。一週間プレイをしなくても平気だとは思っていたものの、心のどこかではSubの本能が満たされたいと願っていたようだ。心の奥にふわりと熱が灯り、ジェシカは一瞬陶然としてしまう。
そんなジェシカに、オリヴェルは少しだけ眉を下げた。
「しかし、残念な点が一つだけあります」
そう言われた瞬間、温かかった心の温度が急に下がる。心臓が嫌な音をたてた。
「ざ、残念な点ですか……? 人として、未熟なところがあるとは思いますが」
「人としての話ではなく、Subとしての問題の話です。ジェシカはSubとして、Domに完全に服従する喜びを知らないのが、実にもったいない。ちゃんとジェシカは、Subとして上手に躾けてあげればもっと魅力的になるでしょう」
「完全に服従する、喜び……? それは、どんなSubだって嫌だと思いますけど」
いくらSubでも、各々に意思がある。Domがどんなに完璧であっても、完全に服従するのは無理だ。
しかし、オリヴェルは首を振った。
「いいえ、そんなはずはない。Domの力の前にひれ伏すことこそが、Subの喜びなんです。どんなに強いSubも、結局はDomに屈服することで幸せを感じる」
「そ、そんなことはないと思いますけど……」
「おや、イライアス・ローデとはお遊びのようなプレイしかやったことがないみたいだ」
からかうような表情をした後、オリヴェルの視線が急に粘着質なものになる。
「支配してあげたい。純真なあなたの、全てを」
Subとしての本能なのか、Domであるオリヴェルから、ジェシカは目が離せない。
「ああ、いい子ですね」
伸ばされた手が頭に触れたその瞬間、ジェシカは身体を震わせた。イライアスに褒められた時とまるで違う。冷たい手で心臓を触られたような感覚になる。
気付いた時には、ジェシカは弾かれたように立ち上がっていた。
「い、行きましょうか!」
「……ええ、そうですね」
オリヴェルは頷き、相変わらず腹の底が見えない優しい微笑みを浮かべたまま、立ち上がる。
午後からオリヴェルの仕事にジェシカはついて回った。グラセスはのんびりとした街で、治安もいい。護衛の仕事でこの街に来ているのに、観光しているようだ。忍びない気持ちになりながらも、グラセスでの時間はあっという間に過ぎた。
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