【R18】女騎士は冷徹幼馴染の溺愛コマンドに屈しない! -Dom/Subユニバース-

沖果南

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本編

よそよそしい二人

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 雲一つない晴天の下で今日もいつも通りの王都の一日が始まった。
 いつも通り出勤したジェシカが同僚たちと騎士団本部の廊下を歩いていると、目の前から見慣れた黒髪の男が前から歩いてきているのに気が付く。

(あっ、イライアス……)
 
 上背のイライアスはどこにいても目立つ。ジェシカは視線を下げ、気がつかないふりをしてそのままスタスタ歩き続けようとするが、やはり無駄だった。
 
「ジェシカ、ちょっといいか」
 
 すれ違いざまに呼び止められる。ちらりと見上げると、ポーカーフェイスのイライアスがこちらを見下ろしていた。同僚の騎士たちが「ごゆっくり」と揶揄い混じりにニヤニヤと笑い、その場を去っていく。これから二人が恒例の喧嘩を始めるとでも思っているのだろう。
 ジェシカはため息をついて、イライアスと向き合う。
 プレイをしないと二人で決めて、すでに一週間が経過していた。夕食も断っているため、こうしてイライアスに向き合うのはハンナの診療所で別れた時以来だ。
 騎士団で会うイライアスはいつも通りぶっきらぼうで冷たい顔をしているため、ジェシカの態度も必然的にそっけなく、どこかよそよそしいものになる。

「……なんの用?」
「体調は大丈夫か、聞いておきたかっただけだ」
「全然平気よ。っていうか、絶好調。毎日プレイなんてしなくても良かったのね」
 
 ジェシカは唇を尖らせて、わざと皮肉っぽく言う。だがイライアスは表情を変えずに「そうか」と静かに答えるだけだ。

(もうっ、全然何考えてるかわかんない!)

 ジェシカは内心腹が立ってくるが、ここで喧嘩をしてまた同僚たちに囃し立てられるのも癪だ。
 一週間プレイをしなくても、ジェシカは今のところ全く問題なく生活できている。時々、「支配してほしい」という欲求が身体の奥で疼く時もあるが、剣を振り回していればそのうち治まるため、特に問題ない。
 パートナーになってから、イライアスとはほぼ毎日のようにプレイをしていたため気付かなかったものの、ジェシカは元来そこまでダイナミクスの欲求があるタイプではないようだ。
 念のため、かかりつけ医であるハンナには一週間に一度診察してもらっているが、元気そのものだと太鼓判を押してもらっている。
 黙っていると、イライアスは小さく息を吐いた。それが、苛立ちのため息なのか、安堵のため息なのかは、冷たい表情から判別できない。

「ケアが必要になれば言ってくれ」
「わかった」

 どうやら話というのはこれだけだったらしく、話はぷつんと途切れた。不自然な沈黙が二人の間に流れる。
 この前まで、あれほど傍にいたはずなのに、距離を置いた今、交わす言葉も不自然なほどに短い。まるでパートナーになる前に戻ったようだ。こうもあっさり元のよそよそしい仲になってしまうと、なんだか寂しい気もする。しかし、今までが異常だったのだ。
 ジェシカは当たり障りのない言葉を返す。
 
「イライアスこそ、顔色悪いじゃない。目の下のクマとか本当にひどいわよ。ちゃんと休めてる?」
「……ああ」
「それは良かった。じゃあ、私行くから」
「ジェシカ」
 
 通り過ぎようとした瞬間、不意に腕を掴まれた。驚いて顔を上げると、無表情のイライアスがこちらを見下ろしていた。まるで観察でもしているように、冷たい瞳がジェシカの全身を眺めまわす。

「ジェシカ、本当に無理をしてはないか? この前みたいに、変に我慢をしてるんじゃないのか」
「本当に大丈夫だってば。心配しないで」
「……それなら、いいんだ」

 イライアスは安心したように表情を和らげる。ようやく見せたイライアス優しい表情に、ジェシカの胸がどくんと高鳴り、彼の足元に跪きたいと衝動的に思う。

(ちょっと、なに考えてるのよ私! 距離を置こうとしてるのに、ダメじゃない!)
 
 自分の気持ちに必死に蓋をしようとするジェシカの顔を、イライアスは覗きこんだ。

「やっぱり顔が赤い気がする。一度、軽くでもケアをしたほうがいいんじゃないか」
「ちょっと、顔が近……っ」

 その時、こちらに向かってくる足音が聞こえた。それに気付いたジェシカは、これ幸いとばかりにイライアスから距離を取る。
 廊下の曲がり角から現れたのは、騎士団長だった。ひどく慌てた顔をしている。

「おお、ちょうどよかった! お前を指名した緊急依頼が来たため、呼びに行こうと思っていたんだ。今すぐに出発だそうだが、行けるか?」
「あら、またイライアスに貴族令嬢からご指名だわ。人気者は大変ね。ほら、行きなさいよ」
 
 騎士団長が慌てているということは、依頼人がかなり高位の貴族である可能性が高い。そうなると、たいていはイライアス目当てのご令嬢だ。ジェシカはそれが分かっているので、苦笑まじりにイライアスを肘で小突く。
 だが、騎士団長はそれを否定した。
 
「指名はイライアスではない。ジェシカだ」
「えっ、私!? 誰がそんな……」
「フロイトル卿だ」
「ええっ、オリヴェル様!?」

 意外な人物の名に、ジェシカは目を見開いた。
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