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本編
翌朝のこと (2)
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(ああ、やっぱり私はイライアスのことが好きなんだ……)
一旦自分の気持ちに気付いてしまうと、抑えきれなくなりそうだ。
ジェシカの胸中は複雑な感情で埋め尽くされた。喜びと苦しみが交互に襲いかかり、胸が締め付けられるような痛みを訴える。
イライアスは、おもむろにジェシカの髪をひと房すくいあげそっとキスをした。優しい仕草だ。
「少しだけ、ケアをさせてくれないだろうか?」
「……少しなら」
「いい子」
そう言われた瞬間、身体中の力がふわりと抜ける。
イライアスの大きな手が、ジェシカの頭を優しく撫でた。いつものプレイと同じ、優しく愛のある眼差しに、身体の奥底から満たされていく。この人がほしいと、身体が疼く。そんな自分が汚らしく、恥ずかしい存在に思えてしかたない。
「“俺の膝にのって”」
ぽんぽん、と太腿を叩かれて、ジェシカはコマンド通りにイライアスの太腿の上に腰をおろした。イライアスは「ありがとう」と言いながら優しくジェシカを抱き寄せ、すっぽりと腕の中に収める。イライアスの腕の中は温かい。
Domに庇護されているという感覚に、ジェシカはほう、とため息をつく。身体に揺蕩っていた疲労も、少しずつ楽になっていく。
イライアスは、優しくジェシカの頭を撫でた。その指先も、心地よい。
こうしてイライアスに寄りかかって頭を撫でられていると、何もかもが満たされる。けれど、その満足感と共に、胸の痛みも募っていく。
(これ以上、イライアスに惹かれちゃダメ)
恋愛経験が少ない自分が恨めしい。少し異性に優しくされれば、すぐに勘違いしてしまいそうになってしまうのだから。
もしイライアスが長年片思いしてるという相手と結ばれて、結婚でもしてしまったら、きっとジェシカは立ち直れなくなってしまうだろう。イライアスは一見とっつきにくい人物に見えるが、実は優くて誠実だ。そんなイライアスに愛の告白をされて断るような女性はまずいない。
そうなれば、ジェシカは耐えられる気がしなかった。
「“イーライ”」
気がつくと、ジェシカはセーフワードを口にしていた。
イライアスはジェシカに触れていた手をパッと放す。ジェシカはイライアスの腕から逃げるように距離を置いた。
「……やっぱり今日はこれで終わりにして」
「――ッ。力が強かったか?」
「違うの。やっぱり、怖くなっちゃって」
怖い、と言ったのはイライアスのプレイで恐怖心が胸に芽生えたわけではない。このままイライアスにケアをされていると、自分の気持ちが再び抑えられなくなってしまいそうで、怖くなっただけだ。
しかし、イライアスはすぐにケアをやめ、行きどころのなくなった手をぎゅっと握った。
「すまなかった。俺はジェシカに最低なことをして、傷つけてしまった。許してもらおうなんて思ってはいない。しばらく距離を置いて、プレイはしないようにしよう」
「えっ、そんなことできるの?」
思わぬ提案に、ジェシカは驚いた。イライアスは頷く。
「ジェシカが望むなら、もちろん」
ジェシカはほっと胸を撫で下ろす。
犬猿の仲の幼なじみがずっと一緒にいること自体、異常事態だったのだ。距離を取ることで少しはジェシカも冷静になれるだろう。
「わかった。じゃあ、しばらくプレイはなしで」
「その代わり、ケアが必要なら言ってくれ。ジェシカのパートナーは俺だから」
イライアスの眼差しはどこまでも優しい。いっそ冷たくしてくれれば、吹っ切れたのに。
胸の奥の引き攣れるような痛みを無視して、ジェシカは深く頷いた。
一旦自分の気持ちに気付いてしまうと、抑えきれなくなりそうだ。
ジェシカの胸中は複雑な感情で埋め尽くされた。喜びと苦しみが交互に襲いかかり、胸が締め付けられるような痛みを訴える。
イライアスは、おもむろにジェシカの髪をひと房すくいあげそっとキスをした。優しい仕草だ。
「少しだけ、ケアをさせてくれないだろうか?」
「……少しなら」
「いい子」
そう言われた瞬間、身体中の力がふわりと抜ける。
イライアスの大きな手が、ジェシカの頭を優しく撫でた。いつものプレイと同じ、優しく愛のある眼差しに、身体の奥底から満たされていく。この人がほしいと、身体が疼く。そんな自分が汚らしく、恥ずかしい存在に思えてしかたない。
「“俺の膝にのって”」
ぽんぽん、と太腿を叩かれて、ジェシカはコマンド通りにイライアスの太腿の上に腰をおろした。イライアスは「ありがとう」と言いながら優しくジェシカを抱き寄せ、すっぽりと腕の中に収める。イライアスの腕の中は温かい。
Domに庇護されているという感覚に、ジェシカはほう、とため息をつく。身体に揺蕩っていた疲労も、少しずつ楽になっていく。
イライアスは、優しくジェシカの頭を撫でた。その指先も、心地よい。
こうしてイライアスに寄りかかって頭を撫でられていると、何もかもが満たされる。けれど、その満足感と共に、胸の痛みも募っていく。
(これ以上、イライアスに惹かれちゃダメ)
恋愛経験が少ない自分が恨めしい。少し異性に優しくされれば、すぐに勘違いしてしまいそうになってしまうのだから。
もしイライアスが長年片思いしてるという相手と結ばれて、結婚でもしてしまったら、きっとジェシカは立ち直れなくなってしまうだろう。イライアスは一見とっつきにくい人物に見えるが、実は優くて誠実だ。そんなイライアスに愛の告白をされて断るような女性はまずいない。
そうなれば、ジェシカは耐えられる気がしなかった。
「“イーライ”」
気がつくと、ジェシカはセーフワードを口にしていた。
イライアスはジェシカに触れていた手をパッと放す。ジェシカはイライアスの腕から逃げるように距離を置いた。
「……やっぱり今日はこれで終わりにして」
「――ッ。力が強かったか?」
「違うの。やっぱり、怖くなっちゃって」
怖い、と言ったのはイライアスのプレイで恐怖心が胸に芽生えたわけではない。このままイライアスにケアをされていると、自分の気持ちが再び抑えられなくなってしまいそうで、怖くなっただけだ。
しかし、イライアスはすぐにケアをやめ、行きどころのなくなった手をぎゅっと握った。
「すまなかった。俺はジェシカに最低なことをして、傷つけてしまった。許してもらおうなんて思ってはいない。しばらく距離を置いて、プレイはしないようにしよう」
「えっ、そんなことできるの?」
思わぬ提案に、ジェシカは驚いた。イライアスは頷く。
「ジェシカが望むなら、もちろん」
ジェシカはほっと胸を撫で下ろす。
犬猿の仲の幼なじみがずっと一緒にいること自体、異常事態だったのだ。距離を取ることで少しはジェシカも冷静になれるだろう。
「わかった。じゃあ、しばらくプレイはなしで」
「その代わり、ケアが必要なら言ってくれ。ジェシカのパートナーは俺だから」
イライアスの眼差しはどこまでも優しい。いっそ冷たくしてくれれば、吹っ切れたのに。
胸の奥の引き攣れるような痛みを無視して、ジェシカは深く頷いた。
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