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本編

最低な初めて R(2)

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 ぼんやりするジェシカの前で、イライアスはさっと上着とシャツを脱いだ。無駄な肉のついていない引き締まった身体が、蝋燭の頼りない炎に照らされて艶めかしく浮かび上がる。隆起した筋肉や浮き出た骨、そしてところどころに走る傷痕さえも匂い立つほどの色気が漂う。どこもかしこも完璧な雄の身体つきだ。
 思わず見惚れるジェシカに、イライアスは意地悪く目を細める。
 
「なにをボーっとしている? ジェシカも脱ぐんだ」
「えっ!? で、でも……」
「ああ、コマンドのほうが良かったか。“脱げよ”」

 ぞんざいに命じられたコマンドに、ジェシカは羞恥で顔を真っ赤にした。そんなことできない、と頭では思っているのに、震える手は胸元のボタンに手をかける。息が上がり、体温が上昇していく。
 ジェシカは羞恥心と戦いながら、時間をかけてボタンを外した。
 イライアスは何も言わずにジェシカを凝視していた。まるで視線で嬲られているようだ。着ていたワンピースがぱさりと床に落ちる。ゆっくりと下着まで脱ぎ、一糸まとわぬ姿になったころには、ジェシカの肌はしっとりと濡れていた。
 イライアスは、ジェシカの肢体を舐めるように見回して、ほうと感嘆の息を吐く。

「……きれいだな、ジェシカ」

 思いがけられず褒められて、身体の芯に熱が灯る。こんなに恥ずかしいことを命じられているのに、褒められると喜んでしまうからどうしようもない。

(私の身体がきれいなわけ、ないのに……)
 
 騎士らしく筋肉がしっかりとついた身体はしなやかだが、あちこち傷や痣だらけだ。胸や尻も、そこまで大きいわけでもない。こんな身体を見てきれいだなんて口にする男は、少なくともイライアス以外にいないだろう。
 身を焦がすほどの羞恥心が燃え上がり、ジェシカは自分の身体をぎゅっと抱きしめて俯いた。イライアスは小さく息をつく。

「ジェシカ、教えてやる。そういうことをしても、男の嗜虐心をあおるだけだ」
 
 そう言うやいなや、イライアスはジェシカを突然横抱きにして簡易的なベッドに横たえ、そのまま覆いかぶさってくる。イライアスの部屋にあるものに比べると、いくぶんか小さいベッドがギッ、と音を立てた。
 イライアスの鍛え上げられた肉体が真上に迫り、ジェシカは完全に組み敷かれてしまった。見下ろしてくる深い群青色の瞳を見ていると、抵抗する力が弱くなる。イライアスに見つめられると、どうしようもなく身体が熱くなり、従いたくなってしまう。

「“キスして”」

 遠慮ないコマンドが、頭上から降ってくる。
 ジェシカは頷くと、イライアスの首に手をまわし、引き結ばれた冷たい唇に、唇を押し付ける。Domの命令を聞いたという満足感で微かな高揚感が胸の中に生まれた。ジェシカはいつも通りの褒め言葉を期待して、イライアスをちらりと見る。
 イライアスは眉を寄せ、感情を隠した瞳でこちらを見下ろしていた。

「これだけか?」
「あ……」
「どうしたら俺が喜ぶかわかるだろ」

 投げかけられた冷たい言葉に、ジェシカの身体が震える。目の前のDomを失望させたという本能的な悲しみが、小波のようにジェシカの身体を襲う。指先がひんやりと冷たくなる。

(イライアスに、嫌われたくない……。捨てられたくない……)

 イライアスとパートナー解消するために、新たなパートナーを探そうとしたのは確かだ。しかし、今はイライアスに捨てられたくないと強く思っている。不安でたまらない。Domに認められないSubなんて、存在する価値すらないとすら思ってしまう。
 ジェシカは必死でイライアスに縋りつき、もう一度キスをする。今度は深いキスだ。どう動かしていいかもわからない拙い舌を少し開いた口の間にねじ込み、精一杯肉厚な舌を愛撫する。イライアスは目を瞑るでもなくじっとこちらを見つめているため、ジェシカをより一層不安にさせた。
 ようやく唇を離すと、イライアスはペロリと唇を舐める。どこか肉食動物を思わせる仕草だ。

「……及第点だな」

 そう言って、頭を撫でられると、ようやくジェシカの身体を支配していた緊張感がほぐれていく。
 安堵したのもつかの間、ジェシカはイライアスが自分の身体をくまなく見ていることに気が付いた。肩口や二の腕、脇腹にある傷痕を、辿るように視線が這っていく。
 
「イライアス、見ないで……」

 ジェシカは自分の手で身体を隠しながら、消え入りそうな声で言う。目の前の完璧な肉体を持つイライアスに比べ、自分の身体はあまりにもみすぼらしい気がした。
 イライアスはゆっくりと自分の背中にジェシカの手を回させると、耳元に唇を寄せる。
 
「“隠すな”」
 
 びくりと震える身体を抑えつつ、ジェシカは恐る恐る手を下ろす。恥ずかしさでおかしくなってしまいそうなのに、目の前のDomの前に恥ずかしい場所をさらけ出す倒錯的な悦びが、ジェシカの中にじわじわと広がっていく。

(こんなの、絶対おかしいのに……)
 
 羞恥で顔を赤くするジェシカに、イライアスを訊ねる。
 
「ジェシカ、俺に止めてほしい時は、なんと言えばいいんだ?」
「んっ、あっ……」
 
 普段から剣を扱うゴツゴツした大きな手が、ジェシカの余計な肉のついていない肢体を撫でた。脇腹をくすぐり、腰に触れ、余計な肉がほとんどついていない下腹を愛撫する。
 その手つきは優しいような乱暴なような微妙な力加減で、くすぐったさと、不思議な心地よさがない交ぜになったような感触に、思わず鼻にかかったような吐息が漏れてしまう。撫でられるたびに、身体が震えるのを止められない。

「ふぅん、感じやすいんだな……」

 耳元で囁かれると、ジェシカの身体はますます敏感になる。逃げようと身体をよじろうにも、イライアスのぶ厚い身体がジェシカにのしかかってそれを阻んだ。せめて身体を手で隠そうとしても、イライアスの手がそれを許さない。
 圧倒的に強い存在に支配されているとようで、身体の奥から何かがじゅわりと溶け出すような感覚に陥る。
 それを見透かしたように、イライアスの膝が股の間にぐっと押し込まれ、割りいられる。秘すべき部分が、夜気に晒されて、ジェシカはひくりと喉を鳴らす。
 
「な、なに……、ふぁぁんっ♡」

 動揺している最中に、イライアスの手が下半身に伸び、誰にも触られたことのない秘部に触れる。驚いたジェシカはしなやかな背を震わせた。とっさに身をよじろうとしたが、がっしりとしたイライアスの足がそれを許さない。
 節くれたった指が、ぬち、と音をたてて秘裂の襞をなぞった。そして、ゆっくりと上下に指が動きはじめる。今まで味わったことのない未知の悦楽が、一気に脳へと駆け上がってくる。

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