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本編

最低な初めて R(1)

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 イライアスに連れてこられた二階の部屋は、薄暗い部屋にソファとベッドがあるだけのひどく簡易的な部屋だった。燭台の上の蝋燭がチリチリと燃えていて、部屋の光源は抑えてある。いかにもプレイをするための部屋、という場所だ。
 ジェシカは身体を捻ってイライアスの手を解いた。強く握られていたせいか、手首がじんじんと痛む。

「イライアス、どうして……?」
「たまたまダンから聞いた。お前にこの酒場を教えたが、途中で見失ったと」

 どうやら、ジェシカが食堂を出てすぐダンはジェシカを追いかけたらしい。しかし、ジェシカは着替えに一旦宿舎に戻ったため、入れ違いになってしまった。
 そして、肩を落として街を歩くダンと貴族の会合が終わったイライアスがたまたま街角で出会い、イライアスはジェシカが金猫亭にいるかもしれないと知ったのだという。
 
「よりにもよってどうしてこの酒場を選んだんだ。確かにこの酒場は一見普通の酒場に見えるし、平民を相手にする程度であれば問題ないだろう。しかし、裏ではたちの悪い貴族の男たちが結託して、Subに違法薬物の入った酒を飲ませていると噂がある店なんだぞ!」
「違法薬物……?」
「ダイナミクスの欲求を強制的に引き出す促進剤で、媚薬と呼ばれている。最近はユークリスト産のものが多く出回っているが、副作用が強すぎて禁止薬物に指定されている」

 ユークリスト産、と聞いて、ジェシカはハッとする。

(オリヴェルさんが薦めてくれたリンゴ酒も、たしかユークリスト産だった。もしかして、あのお酒は媚薬だったってこと?)

 ジェシカはそのまで考えて、「まさか」と考えを打ち消す。親身になって話を聞いてくれたオリヴェルを悪者だと決めつけたくはない。

「私はオリヴェルさんが、そんな卑怯なことするとはとても思えない。親身になって話も聞いてくれたし、すごくいい人なのよ。それに、パートナーになってほしいって……」
「オリヴェル・フロイトルの言うことを真に受けるな。あの男は、最近きな臭い動きをしているという噂がある」
「オリヴェルさんを悪く言わないで! イライアスに何がわかるっていうの?」
 
 ジェシカはキッとイライアスを睨んだ。
 みぞおちあたりがムカムカした。誰のせいで酒場に来たと思っているのだろう。これ以上イライアスの迷惑になりたくない一心でパートナーを必死で探そうとしはじめた矢先に、当の本人が邪魔をしてくるのだからたまったものではない。

「この酒場が怪しいことだってことはわかったわ。次は別の酒場に行く。だから、もうこれ以上私に構わないで! 放っておいてよ!」
「放っておけるはずがない! ジェシカは俺のパートナーだ」
「でも、パートナーの関係は一時的なものだって約束だったじゃない。私が他の人を探せば、パートナーとしての関係は解消するって……」
「だからってこんな場末の酒場で探すことはないだろ。俺以外のヤツだったら、誰でもいいってことか? そんなに、ジェシカは俺が嫌いなのか!?」
 
 イライアスはグシャグシャと前髪を掻いた。明らかに苛立っている。イライアスの怒りと呼応するように、空気がピリピリと震えた。かなり強いグレアのような空気の揺れに晒されて、ジェシカはたじろぐ。

(イライアスが、怒ってる……)
 
 ジェシカの身体が意思と関係なく震えだす。
 Domの怒りは、Subを本能的に委縮させる。ジェシカは思わず後ずさりした。とん、と背中が壁にぶつかる。
 イライアスはゆっくりと近づいてきて、ジェシカの顔の横の壁に手を突いた。
 整った顔が近づいてくる。長い指がジェシカの顎を掬い上げ、視線を合わせた。蝋燭の炎でふたり分の影が揺れている。
 
「これまでは、ジェシカのことを考えて、我慢してきた。……でも、他の男をパートナーにしようとしていると知った以上、もう限界だ」
 
 イライアスは断りもなくジェシカの唇を荒々しく奪った。長い舌で無理やり唇をこじ開けられ、驚いて引っ込めた舌はいとも容易く絡め取られ、容赦なく蹂躙される。口腔内を激しく犯されて、ジェシカは呼吸の仕方を忘れそうになった。頭がくらくらして、身体に力が入らない。

(やだやだ……っ! こんなキスされたら、なにも考えられなくなる……っ!)
 
 離れようとイライアスの胸を押すが、びくともしない。むしろもっと強く抱きこまれてしまい、逃げ場を失った。
 焦点が定まらず、霞んでいく視界の中、イライアスの瞳がじっとこちらを見ているのだけはわかった。獰猛な瞳に射すくめられて、ぞわりとした感覚が身体中に広がっていく。
 全てを奪うようなキスは、始まりと同じくらい唐突に終わった。
 肩で息をするジェシカを、イライアスが見下ろしている。整いすぎた顔貌からは、うまく感情が読み取れない。群青色の瞳の奥だけが爛々と輝いていた。

「ジェシカは、ちゃんと分からせないとダメなんだな」
「分からせる……? イライアス、どういうこと?」
「“跪け”」
「ひゃ……んっ♡」

 身体から力が抜け、気が抜けた声をあげたジェシカは壁に背中をつけたままズルズルとイライアスの足元に座り込んだ。身体がふわりと熱を持つ。イライアスが何をしたのか、理解するまでに数秒かかった。

「あ……、ぇ……、コマンド……?」
「セーフワードは“イーライ”だ。いいな?」

 高圧的な言葉に、ジェシカは圧倒されたまま頷いた。目の前のDomに逆らえないと本能が告げている。
 いつものように探るようなじれったいやり取りは一切なかった。労りの言葉すらない。
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